★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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テルマ&ルイーズ

 リドリー・スコット監督による、女性二人が主役のロードムービー。まんまアメリカン・ニューシネマな脚本は、アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞共に脚本賞を受賞しています。

 主役二人の暴走ぶりは開き直りが感じられて良いのですが、痛快と言い切れないシナリオなのが腑に落ちませんでした。リアリティなのかもしれませんが、だとするとこの展開は悲しすぎます。良くも悪くもアメリカらしい、焦燥感溢れる映画でした。
 主演のスーザン・サランドン、ジーナ・デイヴィスに加え、ハーヴェイ・カイテル、マイケル・マドセン、ブラッド・ピットなど、スター性の高い俳優を揃えていて、まず見応えがあります。それでいて、映画全体の世界観を見失わないあたりはさすがスコット監督と言うべきでしょう。撮影も、相変わらず90年代初頭の作品とは思えないほど美しく仕上がっています。

 128分とちょっと長めなのが気になりますが、それを我慢して観るのもまた一興かと。個人的にはこの映画でマイケル・マドセンに惚れました。ブラッド・ピットのヤンキーぶりも必見。

監督:リドリー・スコット
出演:スーザン・サランドン、ジーナ・デイヴィス、ハーヴェイ・カイテル、マイケル・マドセン、ブラッド・ピット
20051019 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ニック・オブ・タイム

 ジョン・バダム監督、ジョニー・デップ主演によるサスペンス・アクションの小品。小気味良い展開と、ほぼ現実の時間通りに進行する駆け引きが巧妙で楽しめました。

 全体に地味なのが好みです。要所要所での都合のいい展開とか、最後の終わり方はイマイチ納得がいかないものの、良くできた娯楽作だと思いました。何より主人公がどんどん追いつめられていく様が克明に描かれるので、感情移入できればかなりの緊張感が楽しめます。
 眼鏡をかけたジョニー・デップがやけに「お父さん」らしくて妙。クリストファー・ウォーケンも、いつもの迫力に欠けるような。でも他の映画では見せない表情なので、ファンなら要チェックです。気楽に見ることが出来れば、充分面白い映画なのでは。

監督:ジョン・バダム
出演:ジョニー・デップ、クリストファー・ウォーケン
20051011 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ユージュアル・サスペクツ

 ブライアン・シンガー監督、クリストファー・マッカリー脚本による、抜群の構成力が魅力のサスペンス・ミステリ。どうせつまらないだろうとタカをくくっていたら、まんまとやられました。

 非常にしっかりした構成の映画なので、きちんとシナリオを追っていかないと面白さは半減するかも知れません。ただ穿った見方をすればトリックはすぐに分かってしまうので、推理力は控えめで観ると良いのでは。騙される楽しさでは、これほどの映画は少ないのでは、と思いました。
 逆に言えば騙すことに全てをかけている映画なので、話にテーマらしいものはありません。そのせいか鬼気迫るものが無く、最後まで予想の範囲内の盛り上がりに終始します。映像も平凡ですし、サービス旺盛な演出は大仰と感じるところも多々ありました。賛否分かれるのは、多分こういう点が原因なのではないかなあ、と。僕もこの辺が気になって好きになれないのです。

 純粋にミステリ的なカタルシスが好きな人は、一度観てみては。でも、映画を何百本と観ている人には向かないかも知れません。

監督:ブライアン・シンガー
出演:ガブリエル・バーン、スティーヴン・ボールドウィン、チャズ・パルミンテリ、ケヴィン・ポラック、ケヴィン・スペイシー、ベニチオ・デル・トロ
20051010 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

激流

 カーティス・ハンソン監督によるアクション映画の秀作。これはケヴィン・ベーコンのための映画。とにかく彼の名演の光る一編に仕上がっていて、メリル・ストリープですらいつもの存在感が霞んでいます。

 もちろん基本はアクション映画で、激流をボートで下る映像の迫力や、クリフ・ハンガーばりのアクションシーンも見事なんですが、その間を巧みにつなげた登場人物たちのドラマもなかなかのものでした。誰が主役になってもおかしくないほど俳優の演技も見事。地味な人が揃っているとも言えるんですが、それが妙にリアルで、かえって引き込まれてしまいました。悪い点を挙げるならば、ラストのアクションが一番地味でさすがに不完全燃焼だったのと、邦題のセンスのなさぐらいなのでは。

 パンチ力不足の感は否めませんが、サスペンスが得意な監督がアクション映画を撮ると、ドラマも気にしてくれるので良いですね。こういう地味でも良い作品が増えてほしいところですが、現状のハリウッドでは難しいでしょうか……。

監督:カーティス・ハンソン
出演:メリル・ストリープ、ケヴィン・ベーコン、デヴィッド・ストラザーン
20051006 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

マウス・ハント

 「ザ・リング」「パイレーツ・オブ・カリビアン」など最近はヒット作を量産しているゴア・ヴァービンスキー監督のデビュー作。なかなか器用な作風が売りの人ですが、このころから既に芸達者ぶりを発揮しています。ただ、全体に中途半端な印象でした。

 クリストファー・ウォーケンの「掃除屋」は流石に笑わされましたが、それ以外はどれも微妙。ビジュアルや設定からブラックコメディを期待していたんですが、映画自体はファミリー向けだったので物足りなく感じたのかもしれません。まったりとしたテンポなのも一因です。アクションシーンの演出自体は目が覚めるほど良いのに、ドラマとの接続が強引と感じるところもありました。
 したたかなネズミの行動自体は、観ていてついつい応援したくなるほど。映画自体のアイデアは良いし、決してつまらない映画ではないだけに、もう少しテンポが良ければ、と惜しい感じです。

監督:ゴア・ヴァービンスキー
出演:ネイサン・レイン、リー・エヴァンス、ヴィッキー・ルイス、クリストファー・ウォーケン
20051005 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

愛のエチュード

 ウラジミール・ナボコフによる原作小説を「ダロウェイ夫人」のマルレーン・ゴリス監督で映画化。主演のジョン・タトゥーロとエミリー・ワトソンが、どちらも強い個性を発揮していて見応えがありますが、何か物足りない印象でした。
 おそらくは、演技力のある主演二人の演技が映像にいまいち反映されていないからでしょう。「いいお話」で終わってしまって、心に深く響くという感じではありません。映像は綺麗。ただ、同じようなシーンが続く割にカメラワークが一辺倒だったので、ストーリーに応じてメリハリがあればなあ、と思ってしまいました。

 ジョン・タトゥーロは、こういう役をやらせると栄えますね。饒舌な彼も好きですが、今回は天才と狂気の狭間を揺れ動く人物の危うさを巧みに演じていました。

監督:マルレーン・ゴリス
出演:ジョン・タトゥーロ、エミリー・ワトソン
20051005 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

SURVIVE STYLE 5+

 広告業界で活躍する多田琢が、満を持して映画業界に殴り込みをかけたブラックな長編映画。特徴のあるキャラクターは笑えますし、映像のセンスは今までの日本映画界にない素晴らしいモノでしたが、微妙に不満点が…。

 俳優の使い方は良い。浅野と橋本の不条理な闘争は映画のテンポを良くしているし、良々クンとヴィニー・ジョーンズのコンビは出てくるだけで笑えて、岸辺一徳でオチをつけるやり方も上手い。他の登場人物もなかなか存在感があります。でも、それらが上手くかみ合っているかというと微妙。どれも一発ネタであって、物語としては魅力を感じません。
 美術や衣装や撮影といった、見てくれを構成する要素は最高でした。ここまで映像に力のある日本映画は少ないでしょう。カメラワークも優秀で、撮り方一つで真面目なシーンと笑えるシーンを明確に分けているあたりにプロの技を感じます。

 こういう映画がもっと沢山作られるようになって、画作りの方から日本映画を改革していって欲しいところ。その点では非常に意味のある作品だと思います。あと、★一つじゃないのは、多分ピエール瀧とか三浦友和のおかげだと思います。

監督:関口現
企画・原案・脚本:多田琢
出演:浅野忠信、橋本麗香、小泉今日子、阿部寛、岸部一徳、神木隆之介、荒川良々、ヴィニー・ジョーンズ、三浦友和、千葉真一
公式サイト

20051002 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

CUBE

 カナダの新鋭、ヴィンチェンゾ・ナタリ監督によるSF話題作。センスも良いし、映像感覚も良いし、何より低予算であることを逆手に取ったこの設定には驚きました。ただ、後半の展開には不満です。

 役者の演技が全体的にくさいのと、状況説明に終始するだけの台詞が辛いのでは。台詞中心で追いつめていくような心理戦は、余程自然に見せない限りぼくは嫌悪感を抱いてしまうのです。設定が飲み込めてしまうと予想できてしまう割に、細部にこだわって理屈っぽい謎解きもダメでした。そして何より嫌なのは終わり方。ああいうのは物語として大嫌いです。不条理は好きだけど、人間の辛いところを意地悪にナイフでえぐるような展開は嫌だなあ。
 聞いた感じ好きなタイプだったので、いつも厳しい評価がさらに厳しくなってしまいました。奇抜なアイデアを得意とする監督のようなので、他の作品をチェックしてみたいところではあります。

監督:ヴィンチェンゾ・ナタリ
出演:モーリス・ディーン・ウィン、デヴィッド・ヒューレット、ニコール・デボア
20050927 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

バッドサンタ

 テリー・ツワイゴフ監督によるブラック・コメディ映画。冒頭からサンタらしからぬ言動でトばしまくるビリー・ボブ・ソーントンを楽しんでいれば90分はあっという間に過ぎますが、終わってみると案外いい話だったなあと振り返ることの出来る気持ち良い映画でした。子供に見せるわけにはいかないと思いますが…。

 映画自体の構造は普通のファミリー映画と同じなのに、出てくる人々が全員ズレているだけでここまで印象が変わるというのが驚きでした。ツワイゴフ監督の持ち味である「リアルなのにどこか異世界感のある風景」がそれを引き立てていて、異色なクリスマス映画として見事に成立しています。でもやっぱり見所はソーントンのバッドサンタっぷり。酒に溺れてグデングデンになっているのが妙に可愛らしいあたりはこの人ならでは。
 特に感動する話でもないし、全体に悪趣味な映画ではありますが、ソーントンの色気を堪能したい人にはお勧めです。ちなみに、制作はジョエル&イーサン・コーエン兄弟。そういえばどことなくコーエン映画の雰囲気もありました。

監督:テリー・ツワイゴフ
出演:ビリー・ボブ・ソーントン、トニー・コックス、バーニー・マック、ローレン・グレアム、ジョン・リッター
公式サイト
20050921 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

バッド・エデュケーション

 ペドロ・アルモドバル監督による自伝的ドラマ。相変わらずの欲望と倒錯の世界が、この映画でも展開されています。ガエルを観に行ったつもりが、フェレ・マルティネスの色気にすっかりやられてしまいました。

 物語自体はサスペンスとして良くできているんですが、肝心の主人公二人の境遇に切実さが感じられず、観ていてイマイチ入り込めませんでした。構成もあまり効果的じゃなかったような。サスペンス部分をわざと盛り上げようとして、肩すかしを食った感じです。せめてイグナシオの動機付けが、もう少し早い段階で説明されていたら納得できたかも知れないんですが……過去の神学校でのエピソードとか、惹きつけられる部分も多いだけに残念。
 監督の、やりたいことをやった! という勢いは感じられました。レトロでポップなアヴァン・タイトルや、これでもかというぐらい濃いセックスシーンも好きです。

監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、フェレ・マルティネス
公式サイト
20050918 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -