★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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パニック・ルーム

 現代ハリウッドのカリスマとなったデヴィッド・フィンチャー監督による、ヒッチコック映画を模したようなシチュエーション・スリラー。あまりにもオーソドックスな内容には拍子抜けしました。かといって駄作かというと、実はなかなか侮れない作品なんですが。
 過去に見せた実験的な映像センスが今回は少し落ち着いて、過剰にならない程度に物語を演出しています。しかし、このニュアンスが絶妙。今までのカルト的な要素をすべて取り払ったおかげで、むしろフィンチャー監督の確実な演出力が際だった作品となりました。テーマ性こそ薄いものの、最後まで緊張感の持続する、良質のスリラーに仕上がっています。ラストも色々捻ってあり、謎も多く残るのですが、そこに一応の答えが用意されているような気がするところも、仕掛け人フィンチャーの手腕なのでしょう。

 これまで一癖ある映画を撮り続けていたフィンチャー監督の、ちょっとした息抜きのようなシンプルな映画でした。ただ、やっぱりフィンチャー監督には、その実力を生かしたテーマ性の強い映画を撮って欲しいというのが本音なんですが。

監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:ジョディ・フォスター、フォレスト・ウィテカー、ジャレッド・レト、クリステン・スチュワート、ドワイト・ヨアカム
20060206 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ハイランダー/悪魔の戦士

 ラッセル・マルケイ監督、クリストファー・ランバート主演によるB級アクションの金字塔。唐突さと安っぽさが何とも言えない魅力を醸し出す名作です。
 とにかく必然性のないアクションが繰り広げられ、申し訳程度の迂遠な説明を踏まえつつ怒濤のラストへと続く展開が最高。さらに日本刀を使った殺陣が尋常じゃなく格好良い。何故日本刀なのかは不明ですが、その意味不明さと日本の時代劇顔負けの殺陣が、この映画を他の平凡なアクション映画と隔てています。これだけでもアクション映画ファンなら見ておくべきでしょう。そしてラストは……この拍子抜け具合は凄いので、期待してください。映画としては無茶苦茶で、怒り出す人もいそうな粗悪な出来ですが、非常に印象に残る作品なのは確かです。

 クリストファー・ランバートの若き戦士がやたら格好良かった。大御所コネリー卿が何故か出演しているのも見どころの一つ。とにかく美学を感じさせる一本でした。

監督:ラッセル・マルケイ
原作:グレゴリー・ワイデン
出演:クリストファー・ランバート、 ショーン・コネリー、クランシー・ブラウン
20060128 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ブラッドシンプル ザ・スリラー

 ジョエル&イーサン・コーエン兄弟の監督デビュー作を、本人達が再編集したもの。初監督作品とは思えないほど練り込まれたシナリオに思わず唸らされる、サスペンス映画の傑作です。

 コーエン兄弟の作品といえば”勘違いで運命が狂っていく人々の滑稽なほどの悲劇”を常にテーマにしていますが、第一作目にあたるこの作品の時点で、その特徴は遺憾なく発揮されているのに驚かされました。シナリオ自体はシンプルなハードボイルド・ミステリなのに、”すれ違い”によって次々と事態が悪化する様はかつてないほど絶妙。画面の端々まで張り巡らされたドラマが、ラストに近づくにつれて収束していく様には思わず息を呑みました。何となく観るとただの三文小説のような物語なんですが、それをここまで面白く出来るのは、この兄弟監督にしか出来ない芸当でしょう。
 オリジナル版は未見ですが、冒頭の解説以外はそれほど変わっていない様子。しかしその解説が妙な味を出しています。この本気だか冗談だか分からないあたりも、コーエン作品らしくて興味をそそられました。

 M・エメット・ウォルシュが、探偵役を不気味に演じていて印象的。撮影監督バリー・ソネンフェルドによる映像も秀逸で、”何かが潜んでいそうな闇”を巧みに描き出していました。ハードボイルド小説に少しでも魅力を感じるなら、ぜひ一度観て欲しい映画です。

監督:ジョエル・コーエン
出演:フランシス・マクドーマンド、ジョン・ゲッツ、ダン・ヘダヤ、M・エメット・ウォルシュ
20060120 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ブレイド2

 ウェズリー・スナイプス主演の大ヒット作の続編が、「ミミック」のギレルモ・デル・トロ監督だと聞いたときはかなり期待したのですが、出来た映画はそこそこ、という印象でした。

 前作のトンデモ世界観はそのままに、さらに王道を行く第三勢力「リーパーズ」を加えて物語も深みを増すはずなのに、結果として人間世界と全くかけ離れた現実感のない話に終始するので、観ている内にどうでもよくなってしまいます。スカッド役のノーマン・リーダスも頑張ってるんですが、あまり報われていない感じでした。
 しかしこの映画の真骨頂はシナリオより美学にあります。わざわざ装着するサングラス、前作以上に動き回るカメラ、よりグロテスクになった造形など秀逸な要素も多く、こういう映画だと割り切ってしまえば楽しめる内容になっています。相変わらずツッコミどころは満載、さらに畳みかけるようなアクションは前作以上のボリュームなので、映画館で観る意味はあったかなー、と。

 ただ、次回作があるのなら、イメージチェンジのためにも脚本家は他の人にお願いしたいなあ……と思っていたら3作目では脚本家が監督まで担当してしまったので、一気にどうでも良くなってしまいました。残念。

監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:ウェズリー・スナイプス、クリス・クリストファーソン、ロン・パールマン、ノーマン・リーダス、ドニー・イェン
20060111 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ブレイド

 氾濫するアメコミ映画化モノの中では、地味ながらも成功したアクション作品。公開当時は迷って結局見に行かず、続編が公開されてから急いでDVDで観たんですが、これは劇場に行かなかったことを後悔しました。
 とにかく単純ヒーロー映画としては盛りだくさん、つっこみどころ満載の脚本もテンポは良く、大味ながらも魅せるアクションシーンで間を締めるという定番路線が突き詰められていて、それにカッコつけすぎの主演二人が見事にハマっているのです。映像やCGも粗が目立つものの、大胆なカメラワークは思わず息を呑むほどで、なかなか見応えがあります。何よりジワジワと盛り上がって、最後まで息切れしない物語が秀逸。アメコミらしくデフォルメされた世界観ですが、あまり深く考えずに楽しむことの出来るB級娯楽作品でした。

 ウェズリー・スナイプスとスティーヴン・ドーフは、どちらもダーク・ヒーローになりきっていて見応えがあります。スナイプス演じるブレイドというヴァンパイア・ハーフが黒人なのが、不思議と説得力がありました。ひたすらカッコイイ映画を期待する方にはオススメです。

監督:スティーヴン・ノリントン
原作:マーヴ・ウォルフマン、ジーン・コーラン
出演:ウェズリー・スナイプス、スティーヴン・ドーフ、クリス・クリストファーソン、ウド・キアー
20060110 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

不思議惑星キン・ザ・ザ

 グルジア共和国出身のゲオルギー・ダネリア監督が撮った、シュールなSFファンタジー。一見するとただ冗長でくだらない内容ですが、その不思議な世界観がツボにはまると最高に楽しめます。

 まず絶対に飛びそうにない飛行物体に始まって、マッチが高級品だったり、変な挨拶や不思議な人種間差別が横行などなど、ツッコミどころ満載の設定が続出で笑えます。B級映画の雰囲気を漂わせつつ、しっかり独自の世界観を実現しているところも凄い。宇宙船や地下都市などのデザインも欧米の映画とはまた違った方向性で目を惹きました。ちょっとした風刺やSF映画としての後味の良さもあって、ただのチープなSF映画と捨て置くことのできない、実に奇妙な映画です。
 上映時間134分というのが最初は長く感じたのですが、二度目に観たときはあっという間に終わってしまって驚きました。退屈と思っていましたが、実はちょっとスローテンポなだけで無駄なシーンは一つもありません。シナリオ的なカタルシスは真面目なSF映画も顔負けの出来。何より物語から感じられる世界の広がりが、文字通り宇宙的規模の作り込みで圧倒されてしまいました。

 良くも悪くも、一度観たら忘れられない映画であることは確実。このセンスを面白いと思うかどうかで評価が一変すると思います。ミニシアター系映画を好き人なら必見。

監督:ゲオルギー・ダネリア
出演:スタニスラフ・リュブシン、エフゲニー・レオーノフ
20060101 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

バンカー・パレス・ホテル

 ヨーロッパで最も高い評価を得ているコミック作家エンキ・ビラルの映画監督デビュー作。高い映像性と退廃的なムードが秀逸で、カルト映画と呼ばれるのも納得です。

 頭で考えて論理的に理解するというよりは、見たままを感じる映画だと思いました。映画全編を通して出てくる自由な発想のモチーフが面白い。白い雨、機関車、出口のないホテル、旧式のアンドロイド、姿を見せない大統領、といった全てが、見たことがあるようなのに新鮮な印象で驚かされました。
 物語は一見荒唐無稽に見えて、実は根底に流れるテーマは一貫しています。戦争に対する半ば諦めにも似た感情と、未来への希望が同居する不思議な物語は、まさにエンキ・ビラルらしい物語といえるでしょう。このSFは政治批判と取ることも出来るでしょうが、それよりももっと根元的なものへの問いかけであるようにも思えました。

 ジャン=ルイ・トランティニャンが不気味な印象を残す政府高官を好演。ビラルの世界をそのまま映像化したような、青錆のような色味の映像は必見です。

監督:エンキ・ビラル
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、キャロル・ブーケ、ハンス・メイヤー、マリア・シュナイダー、ヤン・コレット
20051231 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ブレードランナー

 リドリー・スコットの名声を確実なものにした、SFサスペンスの傑作。80年代SF映画の最高峰のひとつで、荒廃した世界観とハードボイルド的な物語の組み合わせが見事です。

 冒頭から、もの凄く広がりのある近未来空間に目を奪われました。空を飛ぶスピナーや広告塔のイメージは、これまでのどんなSF映画よりも説得力がありますし、廃墟のようなビルと酸性雨は「未来は光に満ちている」という妄想が終焉を迎えたことを端的に表現しています。この斬新なイメージが当時のSF映画に与えた影響は絶大で、以降の作品は全てこの映画を踏まえていると言っても過言ではないほどです。
 物語も、ハードSFらしく哲学的なテーマが強く存在していて、それを雄弁に語る主人公のモノローグが印象的でした。レプリカントを演じたルトガー・ハウアーの不気味さは必見。あくまで一つの目標に向かって突き進んでいるレプリカントに対して、追いかける主人公が悩み続けているという構図はそのまんまハードボイルドの定番ですが、そこにSF的な見せ場を絡めてくるところが秀逸でした。

 今観ると古い映画だと感じてしまうところも多々ありますが、記念碑的作品としてSF映画好きなら一度は見ておいて欲しい作品。ちなみに「公開版」、「完全版」、「最終版」と様々なバージョンがある映画ですが、個人的にはモノローグのある公開版が一番好みです。

監督:リドリー・スコット
原作:フィリップ・K・ディック
出演:ハリソン・フォード、ルトガー・ハウアー、ショーン・ヤング、ダリル・ハンナ
20051222 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち

 ゴア・ヴァービンスキー監督の名前をヒットメーカーとして印象付けた海賊モノのアクション大作。オリジナルは、ディズニーランドで人気のあのアトラクション。ディズニーなので平凡な作品になるかと思いきや、ジョニー・デップ扮するスパロウ船長のおかげで、ひとクセある内容に仕上がっています。

 ジョニー・デップという(すっかりハリウッドの第一線から退いた感のある)俳優をビッグ・バジェット映画に連れ戻したというのが、この映画の第一の功績でしょう。ジェフリー・ラッシュの真っ当な名演が霞むほどの存在感は流石。オーランド・ブルームやキーラ・ナイトレイのような若手は鼻先であしらって、143分という長い上映時間のほとんど全てでその魅力を振りまいています。あまりにデップの前評判が良かったので、観た直後は正直「こんなもんか」と思いましたが、それでも他の俳優には真似の出来ない名演でした。
 演出や編集はヴァービンスキー監督らしくソツのない出来。海賊たちの設定が狙いすぎで辛いところですが、映像的な見栄えは抜群でした。マンガのような紋切り型の展開もディズニー映画ならと諦められるレベルで、とにかく深く考えずスケールの大きいアクションを楽しむのが正解ですね。

 海賊アクション映画というのは不毛なジャンルでしたが、これは万人向けでアクションも悪くない出来でした。デップのファンにはもちろんオススメ。彼がいる限りこのシリーズは安泰でしょう。

監督:ゴア・ヴァービンスキー
出演:ジョニー・デップ、オーランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイ、ジェフリー・ラッシュ、ジョナサン・プライス
20051219 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

フロム・ヘル

 アメリカでヒットしたグラフィック・ノベルを、新鋭ヒューズ兄弟の監督で映画化。”切り裂きジャック”に関する推論を網羅したような物語は興味深いんですが、映画としては中途半端な印象。

 魅力的な主人公を作り上げておきながら彼の内面に迫ることはせず、ロンドンの暗いセットや事件自体は重厚に再現しつつもカメラワークは派手で……結果、フィクションにもノン・フィクションにもなりきれていません。娼婦達には切実さが欠けていて、階級制度や貧富の差などの社会情勢も真に迫って来ません。犯人もすぐ分かってしまうし……。元がグラフィック・ノベルなのでこの軽さは仕方がないのかもしれませんが、サイコホラーにもヒーローものにもなることのできた題材だけに残念。
 でも、一番残念だったのは”切り裂きジャック”の正体かも。いや、期待しちゃいけない方向なのは分かってるんですが…。

 はっとするような画面効果が所々に使われていて、そこは目を惹きました。願わくば、映画全体に同じレベルで気を利かせて欲しかった。残酷描写に対する積極性も好感が持てます。それに、ジョニー・デップが魅力的でした。こんな映画でも彼を観ていれば楽しめるというのは強みでしょう。

監督:アルバート・ヒューズ、アレン・ヒューズ
原作:アラン・ムーア、エディ・キャンベル
出演:ジョニー・デップ、ヘザー・グレアム、ロビー・コルトレーン、ジェイソン・フレミング、イアン・ホルム
20051217 | レビュー(評価別) > ★ | - | -