★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ハリー・ポッターと賢者の石

 世界中でベストセラーとなったファンタジー小説をクリス・コロンバス監督で映画化。映画化にあたっては全ての段階で、常に原作者の意向を反映するという異例の体制で制作されたとか。そのおかげもあってか、原作ファンならば感涙の出来でした。

 予め断っておきますが、僕もchako氏もこの原作の大ファンです。なので、原作の名シーンの数々がそのまま映像化されているだけでも感動モノでした。さすがに全シーンは無理ですが、代表的なところは網羅してありますし、特にクィディッチのシーンなんかは最高! キャストも全員がイメージ通りで、特にスネイプ先生役のアラン・リックマンと、ダンブルドア校長役のリチャード・ハリスは想像以上にハマリ役でした。物語としては前半ちょっと飛ばしすぎですが、上映時間を考えたら仕方がないかと。むしろ152分間が全然物足りなく感じるほどなので、この辺で満足するべきでしょう。
 逆に、原作を未読の人には辛いかもしれません。肝心の導入部のストーリーがおざなりで置いてきぼりを喰い、その後も何が起こってるのか分からない、という人もいるのでは。ただ、本国イギリスでは読んでない子供は居ないほどの原作なので、結果こういう映画になることは仕方ないことだと思います。

 ひとまず順調な滑り出しですが、今後7作目まできちんと続けてもらえるのか、ということが最も気になります。ファンの多い作品なので、映画のみのユーザのことはこの際見限ってでも、原作重視というスタンスを貫いて欲しいところです。

監督:クリス・コロンバス
原作:J・K・ローリング
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、リチャード・ハリス、マギー・スミス、アラン・リックマン、イアン・ハート、ロビー・コルトレーン
20051109 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

アメリ

 ジャン=ピエール・ジュネ監督の長編4作目。今回はマルク・キャロとのコンビを解消し、ひたすら自分の世界を追求しています。もう、こんな映画を待っていました、という気分。初めてジュネ作品を観たときから、いつかはこういった映画を撮ってくれるのではないかと期待していたのですが、これで夢が叶いました。

 一応恋愛映画なのですが、物語に占める恋愛の比重はひたすら低く、むしろアメリの無邪気な悪戯の方が強調されています。この悪戯が、またジュネ作品には恒例のバタフライ効果満載で笑えました。今回は更にギョーム・ローランによる知的な台詞も加わったおかげで、多弁でエスプリの効いたキャラクターが増え、画面は明るくなったのにブラックさは増しています。
 ジュネ監督にとって初めてのロケ撮影ですが、空をデジタルで描き替えたり、ポスターを全てオリジナルのものにしたりと、独特の世界観は損なわれていません(モンマルトルはこんなに美しくはない!)。また、ヤン・ティルセンによる音楽や、最後まで姿を現さないナレーターといった「新しい試み」も、まるで当然のように映画の中で市民権を得ています。何よりオドレイ・トトゥとマチュー・カソヴィッツのカップルが可愛らしくて、思わずにやけてしまいました。

 アメリの妄想を中心に話が進むので、その社会不適合者っぷりに拒絶反応を示す人も多いようですが、僕は気になりませんでした。むしろ、きちんとツッコミを入れながら力強く肯定しているのが嬉しいかったぐらい。そういう人にはそういう人なりの社会との付き方がある、という非常に前向きなメッセージです。ラストの小説家イポリト氏の態度に、そういった監督の姿勢が反映されている、と深読みしてみましたが、どうでしょう。
 でも、そんな事を考えずとも単純に楽しめるのがジュネ映画の良いところ。子供は無邪気に、大人はシニカルに楽しめる映画でした。

監督:ジャン=ピエール・ジュネ
出演:オドレイ・トトゥ、マチュー・カソヴィッツ、ドミニク・ピノン、イザベル・ナンティ、リュファス
20051108 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

エイリアン4

 J=P・ジュネ監督による、人気SFホラー(という呼称は本来不適切だけど)シリーズの第4作目。今回、盟友キャロは「繊細すぎるため」デザイン面のみの参加ということですが、相変わらずのダークでどこかユーモアのある世界観は健在。ただ「エイリアン」との食い合わせは微妙でした。

 ジョス・ウェドンによる脚本は、B級ホラーを好きな人なら大喜びな出来。過去のエイリアンシリーズを全て踏襲しつつ、違和感のない物語は見応えがありました。今までにないほど強烈なキャラクターを与えられたエイリアンは、ジュネ監督独自のカメラワークとダリウス・コンジによる明快な映像によって、絵画のように美しく、より人間的に描かれています。この映画にあるのはエイリアンというキャラクターに対する愛だけで、人間はそれを殺害しようとする敵に過ぎないのでしょう。ホラーでもサスペンスでもなく、エイリアン主役のスター映画。だから最後はスッキリしない感じですし、そもそもジュネ監督である必要も無いなあ、と。過去最高のグロテスクさには大満足なんですが。
 ウィノナ・ライダーの演じたコールが愛らしくて良かった。ロン・パールマンとドミニク・ピノンの二人がちゃっかり出演しちゃうのもファンとして嬉しいところ。それにしてもエイリアンシリーズは毎回全く違う作風で、そもそもシリーズにする必然性があるのか、という感じですね。

監督:ジャン=ピエール・ジュネ
出演:シガニー・ウィーヴァー、ウィノナ・ライダー、ダン・ヘダヤ、ロン・パールマン、ドミニク・ピノン、マイケル・ウィンコット
20051107 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ロスト・チルドレン

 ジュネ&キャロのコンビによる長編第二弾(マルク・キャロは美術監督として参加)。14億円という、フランス映画にしては莫大な予算をつぎ込み、巨大セットをいくつも建造して創り出したヨーロッパ世紀末的な世界観が凄い。僕もchako氏も、あらゆる映画の中でこの作品が一番好きです。

 前作「デリカテッセン」の完成度が高かったので、こんな大予算で、有名なスタッフを使って大丈夫なのかと心配したんですが、全くの杞憂でした。ダリウス・コンジの映像は色彩豊かなのに前作より焦点が定まって迫力がありますし、J=P・ゴルチエの衣装も、アンジェロ・バダラメンティの音楽も最高!
 しかし、やはり見どころはジュネ&キャロによる映像世界でしょう。登場人物に幅ができて華やかになったおかげで、絵本的でキッチュな世界観に磨きがかかっています。それだけでも楽しめるのに、ファンタジーとして最高級のシナリオがその世界観の中から自然に紡ぎ出される様は圧巻です。俳優も、特に主演のロン・パールマンとジュディット・ヴィッテの美女と野獣っぷりは必見。しかも前作で主役を演じたドミニク・ピノンが今回は6人のクローンで息の合った「共演」を繰り広げています。ジャン=ルイ・トランティニヤンが、脳味噌だけのクローン”イルヴィン”の声として出演しているのも良かった。

 あえて批判するなら脚本が雑多で、全体像がはっきりしないこと。また、感情移入する対象がいないのも問題かもしれません。暗めの映像を嫌う人もいるでしょう。でもその底知れない混沌こそ、この映画の最大の魅力なので仕方ありません。それこそ好きな人には最高に楽しめる、現代最高のお伽話です。ヨーロッパ映画の空気感と、メルヘンが好きな人はぜひ。

監督:ジャン=ピエール・ジュネ
出演:ジュディット・ヴィッテ、ロン・パールマン、ドミニク・ピノン、ダニエル・エミルフォルク、ジャン=ルイ・トランティニヤン
20051106 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

デリカテッセン

 ジャン=ピエール・ジュネとマルク・キャロのコンビによる、非常にブラックでユーモアに満ちた長編処女作。それまで映画に抱いていたイメージが、この作品によって根本から覆されました。それだけオリジナリティのある、希有な映画です。

 ここまで他の作品と共通点のない映画というものは初めて観ました。ファンタジーともSFともつかないダークな世界観に、メルヘンの味付けがされているのがツボ。ストーリー自体は平板なんですが、ラストには映画を見たという充実感が確実にあります。それに奇抜なキャラクターと会話のおかげで飽きることがありません。ダリウス・コンジによる、空気感を強調した撮影も新鮮です。
 あと、俳優陣も独創的。ドミニク・ピノンの顔は一度見たら忘れられませんが、この人を始め普通の面構えの人が一人も出ていません。しかも演技もジュネ監督の美学で統一されていて、本当に絵本のような魅力に溢れた映画でした。

 非常に良い映画なんですが、映像が暗すぎるのでテレビで観ると何が起きているのか分からないのが難と言えば難。なので、ぜひまたどこかで上映してくれないかなあ、と思っている作品です。コンビの次作である「ロスト・チルドレン」と一緒なら、それこそ毎日通ってしまいそう。

監督:ジャン=ピエール・ジュネ、マルク・キャロ
出演:ドミニク・ピノン、マリー=ロール・ドゥーニャ、ジャン=クロード・ドレフュス、ティッキー・オルガド
20051105 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

天使のくれた時間

 ニコラス・ケイジが久々にハートフルドラマに出演した、比較的地味な良作。こういうケイジが観たかったので大満足でした。凝りまくったアクション映画や芸術映画じゃなくても、きちんと作れば単純に観ていて楽しめる、ということを再確認させられた作品です。
 ニューヨーカーの抱いている不安を巧みに描きつつ、さりげなく「いい話」にしているところに好感が持てました。シチュエーションもテーマも使い古されたものながら、それを今のセンスで再現して、ちょっと現代風に面白おかしく味付けしています。そして、何よりこういう複雑な人物を演じて無理のこないニコラス・ケイジが最高。割り切ったおばさん役が妙にはまっていたティア・レオーニや、ふてぶてしい演技が似合うドン・チードルも印象的です。

 監督は「ラッシュ・アワー」で好評を博したブレット・ラトナー。ちょっとデフォルメされた世界を描くのが得意な人なので、こういうファンタジーを撮ると似合いますね。付き合いの長い恋人が居る人は、ぜひカップルで見ていただきたい作品です。

監督:ブレット・ラトナー
出演:ニコラス・ケイジ、ティア・レオーニ、ドン・チードル
20051104 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

バーバレラ

 ジャン=クロード・フォレストによるコミックを元に、1967に制作された不条理SFの傑作。映画としては破綻しまくっているんですが、ここまで凄いとかえって全てが許せてしまいます。

 他人から勧められて観たんですが、最初は勧めた理由が全く分かりませんでした。チープなのか芸術なのか判断の付きかねる美術、無駄なエロス描写、そもそもこれはSFなのかと疑いたくなる展開など、全てが過剰で意味不明。わけが分からず頭の中をシェイクされたような気分になりました。テンポもダルダルで欠伸が出ること必至ですが、そのサイケデリックな世界観は60年代という時代を如実に表しています。しかしバカだなあ…。
 セックス・マシーンの拷問シーンは必見。真面目に観るより、ちょっと下品な内装のカフェとかで流したらハマりそうな映画です。

監督:ロジェ・ヴァディム
出演:ジェーン・フォンダ、ジョン・フィリップ・ロー、マルセル・マルソー、ミロ・オーシャ、デヴィッド・ヘミングス
20051103 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

弾丸ランナー

 極道系OVに多数出演していた俳優サブの監督デビュー作。ひたすら走り続ける三人の主人公の姿を、日本映画らしい哀愁漂う視線で描いています。

 アイデアは面白いし、上映時間も82分しかありませんが、冗長だと感じました。田口トモロヲは流石に必死さが似合っていましたが、他の二人は意味不明で笑って良いのかどうかも分かりません。あまり語られていませんが、ストーリーがあまりに紋切り型なのも気になりました。
 サブ監督作品はこれ以降も何本か観ましたが、どれも同じような出来。「走り続ける」のがテーマなら、せめて肝心の走るシーンをもっとテンポ良く見せて欲しかったなあ、と。

監督:サブ
出演:田口トモロヲ、DIAMOND☆YUKAI、堤真一、麿赤兒、大杉漣

20051102 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

バッドボーイズ

 マイケル・ベイ監督の長編デビュー作。マーティン・ローレンス、ウィル・スミスが主演コンビを組んだのも話題ですが、全体に違和感を感じました。
 ハリウッドのコメディとはチャンネルが合わないと常々思っていましたが、特にこの映画でそれを実感しました。そういうのを楽しめる人には良いんでしょうが、ダメな人だと割と前半から喋りっぱなしのこの映画は辛いと思います。悪役のチェッキー・カリョとか、警部役のジョー・パントリアーノあたりは見どころですが、出番は少ないし。さすがに終盤付近でのアクションの連続は盛り上がりますが……。

 以降のベイ監督の作風を象徴するような内容で、なかなか興味深いかもしれません。観たあとにストーリーを忘れてしまうほどの軽い映画で、アクションシーンは良いけどストーリー無視の演出は辛い、という。

監督:マイケル・ベイ
出演:マーティン・ローレンス、ウィル・スミス、チェッキー・カリョ、ティア・レオーニ、ジョー・パントリアーノ
20051101 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ラン・ローラ・ラン

 ドイツのトム・ティクヴァ監督による、パラドクシカルで爽快なサスペンス。主人公の行動によって変化した3つの異なるラストを次々と見せるアイデア勝負の作品で、この手の話に期待する全てを成し遂げつつテンポ良く楽しめる秀作でした。
 俳優陣の演技や、軸となるストーリーに特筆すべき所はないんですが、分かりやすい展開や、飽きさせないカメラワークできちんとエンタテイメントになっていました。これは監督(脚本・音楽も兼ねる)のセンスが良いということでしょう。ローラが「存在したこと」で他の人々の未来もまた変わっていく部分の表現が秀逸。ただ、後半の展開が全体的に予想通りなのが残念。カメラワークなどに気を遣っているだけに、アイデアの練り込みにももう少し頑張って欲しかったかなと。

 「繰り返し」の手法をここまであからさまで、かつ効果的に見せた映画は珍しいのでは。カリスマ的な魅力はありませんが、このアイデアでエンタテイメントになっているという点は良かったと思います。

監督:トム・ティクヴァ
出演:フランカ・ポテンテ、モーリッツ・ブライブトロイ
20051031 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -