★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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8人の女たち

 フランス映画界の俊英、フランソワ・オゾン監督によるミュージカル。女性同士の憎しみや企みなどを巧みに盛り込んだシナリオを、様々なジャンルの音楽で飾った内容は豪奢そのものでした。
 女優一人ごとにメインになる曲があり、それを順番に歌っているうちに話も進むというトリッキーな展開。女性のしたたかさが存分に描かれた脚本もなかなか見物です。しかし何と言っても、この映画の一番の見所は出演している女優の豪華さでしょう。映画ファンなら唸ってしまう名優ばかりで、一つの画面に収まっているだけでも圧巻なのに、そんな彼女達が歌って踊っていがみ合うというこの企画自体に絶対的な魅力があります。犯人探しなどそっちのけで、女性たちの駆け引きを楽しんでしまいました。”女性の醜さ”を描くのに美女ばかりを配し、取っ組み合いまでさせたあげくコメディに仕立ててしまうオゾン監督のセンスは凄いなあ、と。

 ドヌーヴとアルダンの演技合戦は必見。エマニュエル・ベアールも久々に良かった。とにかく分かりやすくて楽しい映画でした。フランス映画をあまり知らない方でも、ぜひ。

監督:フランソワ・オゾン
原作:ロベール・トーマ
出演:ヴィルジニー・ルドワイヤン、リュディヴィーヌ・サニエ、カトリーヌ・ドヌーヴ、エマニュエル・ベアール、ダニエル・ダリュー、イザベル・ユペール、ファニー・アルダン、フィルミーヌ・リシャール
20060310 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

スクール・オブ・ロック

 常にひと癖ある映画を撮り続けるリチャード・リンクレイター監督による、コテコテスポ根風味のロック映画。ファミリー向け映画のふりをして、実はロック好きの精神が詰まった佳作です。

 ジャック・ブラック演じるニセ教師のキャラクター自体はスポ根にありがちなものの、教えるのが”ロック”というのが斬新でした。ロックの歴史を知らなくてもそれなりに笑えますが、知っている人には堪らない濃さの授業は一見の価値あり。観れば誰もが「ロックの杯を掲げ」たくなります。演奏される音楽や使っているギターなんかもいちいち気が利いていて、その上ジャック・ブラックの大げさすぎる演技に爆笑させられてしまいました。
 とにかくこのジャック・ブラックの破天荒な教師ぶりは必見です。もともと、脚本家で映画に出演もしたマイク・ホワイトが、無名時代からの盟友であるジャック・ブラックのために書いた脚本だそうで、ハマらないはずがありません。子供たちの配役も絶妙で、中には既にプロとして活躍している人もいるという懲りよう。非常に大ざっぱな脚本ですが、彼らの勢いに感情移入してしまって、最後は涙してしまいました。

 そういえば、僕も小学校の頃こういう先生に教わったことがありました。校内放送で校長から怒られても雪合戦を止めなかった山田先生は最高の恩師ですが、今ではそういう先生は少ないのかも。そんな現代に対する”反抗”という意味でも、”ロック”は分かりやすいヒーローなのでしょう。ご都合主義大歓迎な方はぜひ!

監督:リチャード・リンクレイター
出演:ジャック・ブラック、マイク・ホワイト、ミランダ・コスグローヴ、ジョーイ・ゲイドス・Jr、サラ・シルヴァーマン 、ジョーン・キューザック
公式サイト
20060307 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

奇人たちの晩餐会

 フランシス・ヴェベール監督による軽妙なコメディ。舞台劇のように一つの部屋で繰り広げられるドタバタ劇で、練り込まれたシナリオが秀逸な佳作です。
 「メルシィ!人生」のときにも感じたことですが、大きな波はないもののひたすら笑えるシナリオが凄い。バカを笑いものにする晩餐会というアイデアも皮肉タップリなうえ、その晩餐会に否応なく参加させたくなるほどのバカをきちんと表現出来ています。さるげなくホロリとさせるシーンや、気持ちの良い大オチまであるのには感服しました。コメディの基本が出来ています。スケールの大きい話ではないので劇場向けかというと疑問ですが、これだけのシナリオを見せられると文句は言えないですね。

 俳優ではジャック・ヴィルレ(ピニョン役)とダニエル・プレヴォー(査察官役)の二人が見事なコメディアンぶりを発揮していて、セザール賞の受賞も納得。それにティエリー・レルミットがまた格好いいんですが、今回は翻弄されっぱなしでオイシイ役回りでした。この人見たさに観た映画でもあったので、大満足です。

監督:フランシス・ヴェベール
出演:ジャック・ヴィルレ、ティエリー・レルミット、アレクサンドラ・ヴァンダヌート、カトリーヌ・フロ、ダニエル・プレヴォー、フランシス・ユステール
20060302 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

12人の優しい日本人

 シドニー・ルメット監督の「十二人の怒れる男」をモチーフにした東京サンシャインボーイズの舞台劇を、中原俊監督で映画化。登場人物の日本人らしい葛藤に、腹がよじれるほど笑える傑作コメディです。
 ”もしも日本に陪審員制度制度があったら”というアイデア自体が秀逸ですが、それをここまで論理的に組み上げた三谷幸喜の脚本センスは凄い。役者の演技も際立っていて、116分という上映時間の中に無駄な間が全く無いことに驚かされます。しかも、繰り広げられる議論がことごとく日本人的で、自分の意見がなかったり結論を先延ばしにしたりと、法廷劇の常識をことごとく覆すトリッキーさは爆笑もの。落語のようにきっちり落とすラストといい、非の打ち所のない内容です。

 俳優では、誰を差し置いても相島一之のしつこい演技が印象的でした。当時まだ無名だった豊川悦司の飄々とした佇まいも必見。でも、それ以外の役者も全員が個性的で、”日本人”の博覧会のような趣の映画でした。地味な映画ですが、コメディ好きにはお薦めの一本。

監督:中原俊
出演:相島一之、塩見三省、上田耕一、二瓶鮫一、中村まり子、大河内浩、梶原善、山下容莉枝、村松克己、林美智子、加藤善博、豊川悦司
20060228 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

Shall We ダンス?

 周防正行監督による HOW TO もの映画第三弾にして、日本国内に社交ダンスブームを起こしたほどの大ヒット作品。相変わらずゆったりとしたテンポでそこはかとなく笑える映画のムードは最高なんですが、ちょっと豪華になりすぎてしまった感じでした。
 ”ズブの素人が慣れない環境で奮闘しつつ、地道な努力で着実に上達する”というスポ根の基本を丁寧に描写しつつ、その端々でほのぼのとした笑いを誘うところは相変わらず見事。ロマンチックな演出や深みを増したドラマのおかげで、前二作から一気に30分以上も延びた上映時間が気にならないほどでした。ただ、”感動”に比重が置かれてしまった物語は、ちょっと重くていまいち乗り切れません。いくら映画とはいえ、ラストダンスの展開もちょっと辛い。もしかしたら、それまで映画ひと筋だった周防監督が、草刈民代というダンサーに”浮気”した顛末を描いた作品なのかなあ、と邪推をしてしまいました。

 それでも純粋に笑えて感情移入できる立派なコメディなのは確か。何より役所広司の名演と、草刈民代の才能が見事に結実した、大人向けのラブコメに仕上がっているのは万人の認めるところでしょう。竹中直人、渡辺えり子、徳井優といった脇のキャラクターも秀逸。周防監督は、この作品以降沈黙を続けているんですが、ハリウッド版も無事に公開されたことだし、そろそろ新作の話題を聞きたいところです。

監督:周防正行
出演:役所広司、草刈民代、竹中直人、渡辺えり子、徳井優、田口浩正、草村礼子、宮坂ひろし、原日出子、柄本明、本木雅弘
20060227 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

シコふんじゃった。

 「ファンシイダンス」で見事なコメディセンスを発揮した周防正行監督の、メジャー第二弾作品。前作と構造的にも俳優的にもほとんど一緒なんですが、それでもいい!と思えてしまう面白さに脱帽。
 HOW TO ものという題材の類似に始まり、主人公・秋平ちゃんの動機、竹中直人や田口浩正や宝井誠明の役柄、モノローグの入れ方などなど、前作を観た人には既視感たっぷりの要素が連続します。でも、そんな予定調和ぶりすら堂に入っているあたり、小津マニアの周防監督らしいというか。映画のテンポは非常に緩やかなんですが、慣れない環境に四苦八苦する主人公たちの姿を素直に描いていて、気持ちよく笑えました。学生相撲という聞き慣れないジャンルに戸惑いつつ、次第にハマっていく主人公の心情を巧みにとらえたシナリオは絶妙。見ているうちに自然と主人公に同調してしまって、映画の最後には一緒にシコを踏みたくなってしまうこと請け合いです。

 俳優では、まわし一丁が似合いすぎの本木雅弘がアイドル出身とは思えない名演。もちろん竹中直人の怪演も見物なんですが、モッくんには惚れました。きっちり笑えて最後はちょっと感動もできる、コメディ映画の名作です。必見。

監督:周防正行
出演:本木雅弘、清水美砂、竹中直人、宝井誠明、田口浩正、水島かおり、宮坂ひろし、柄本明
20060226 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ファンシイダンス

 小津映画をパクりまくった異色のピンク映画「変態家族 兄貴の嫁さん」で一部の話題をさらった周防正行監督のメジャーデビュー作品。日本映画ならではの緩やかな演出と、トボけた笑いがたまらない秀作コメディです。
 それまで馬鹿にしていた”お坊さんライフ”に、典型的なパンクロッカーだったはずの主人公が着々とハマっていく様は、それだけで笑えます。と同時に、一挙手一投足が洗練されていくのを見せつけられると、観ている者まで”お坊さんってカッコイイかも…”と思えてくるあたりが侮れません。また主演の本木雅弘のなりきりっぷりも最高で、小津の影響がそこら中から香る周防監督の演出との相性も抜群。竹中直人の中途半端な破戒僧ぶりなど、登場する他の僧もそれぞれに個性があって印象的でした。

 挿入歌「若者たち」の使い方も絶妙。あっさりした演出の中に、さりげなく青春の香りを漂わせるあたりも周防監督の好ましい点ですね。映画文法自体は古い日本映画のそれなので、よりテンポの良い姉妹作「シコふんじゃった。」を先に観てからの方が楽しめるかと。ともあれ、邦画コメディと言われて真っ先に思い浮かぶのがこの映画なので、未見の方は是非。

監督:周防正行
原作:岡野玲子
出演:本木雅弘、鈴木保奈美、大沢健、田口浩正、竹中直人、甲田益也子、彦摩呂、宮坂ひろし、宮琢磨
20060225 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

カタクリ家の幸福

  韓国のホラー映画「クワイエット・ファミリー」を三池崇史監督が大胆に翻案したブラック・コメディ。分かってやっているとは思うんですが、とてもそうは思えない頭の悪さが最高です。

 舞台を日本に変えただけならともかく、明らかに勘違いぶり爆発の”ミュージカル化”だというから、さすがは三池監督。目の付け所がかなりあさってです。しかも昭和臭がプンプンする豪華なキャストまでついて、これを21世紀になってしまった今になってやるというのは明らかに自殺行為。実際、映画館はガラガラだったんですが、映画自体はとんでもない掘り出し物でした。
 で、物語はあってないようなもの。とにかくバンバン人が死に、明らかに怪しいムードが映画に漂いますが、一番シリアスにならなければいけないところで突然ミュージカルになるのです。最悪の状況では笑うしかない、という心境の強烈な比喩でしょうか。さりげなく家族愛というテーマを組み込んでいますが、それも荒唐無稽な展開とか、脇役として登場する忌野清志郎や竹中直人のおかげでぶち壊し。終盤、暴走しすぎで観客がついていけなさそうな場面もあるんですが、綺麗に完結しているところが、やはり監督の手腕のなせる技なのでしょう。

 とにかく映画全編を通して館内に笑いがこだまする、粋なミュージカル・ホラーでした。三池監督のキツい演出は観る人を選びそうですが、それだけに映画としてのエネルギーは十分すぎるほど。近年の日本映画は理屈ばかりで面白くない、突き抜けたバカが見たい、という人は必見。数々の”迷曲”が一生頭から離れなくなることは保証します。

監督:三池崇史
出演:沢田研二、松坂慶子、武田真治、西田尚美、宮崎瑶希、忌野清志郎、竹中直人、丹波哲郎
20060214 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

逆噴射家族

 小林よしのり原案、石井聰亙監督によるバイオレンス・コメディ。日本人的な笑いと石井聰亙の演出という、あまりにミスマッチな組み合わせが何もかも打ち砕く、非常にパワフルな秀作です。
 小林克也を家長とする見るからに平均的な家庭が、あっという間に崩壊していく様がとにかく気持ち悪くて楽しい。ナンセンス・コメディとしてはある意味スタンダードな脚本なんですが、そこを極端にデフォルメし、過剰すぎるほどの演出で印象づける石井聰亙監督の手腕は流石。それに俳優陣も良い演技をしています。日常生活と、ストレスが表面化した後の壊れっぷりとの対比が出来ているので、それぞれに鬼気迫るものがありました。

 それにしても小林克也のお父さんは、ハマり過で黙っていても笑えますね。現代の家族問題を皮肉った作品とも取れますが、そんな小難しいことは考えずとも楽しめる、良質のブラック・コメディでした。

監督:石井聰亙
原案:小林よしのり
出演:小林克也、倍賞美津子、植木等、工藤夕貴、有薗芳記
20060211 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

シモーヌ

 「ガタカ」のアンドリュー・ニコル監督によるSF作品。ヴァーチャルアイドルに対する真摯な考察かと思いきや、実際はハリウッド楽屋オチ的な皮肉に満ちたコメディ作品でした。

 前作で見せたSF的イマジネーションそのままに、実在する”夢の都”ハリウッドを描き出す着眼点は流石。倉庫が建ち並ぶ撮影所の風景すらメリハリをつけて描ける映像センスもあって、最後まできっちり惹きつけられる物語に仕上がっています。ただ、どこか物足りなさが残るのはイマイチ暴走できていない脚本のせいでしょうか。パチーノがPCを操って”微調整”するシーンなんか最高なんですが、誰かを傷つけてまで笑おうという思い切りが無いために、”お上品”から一歩踏み出せていない印象でした。
 SF的なツッッコミどころは多々ありますが、それを犠牲にしても一般人に分かりやすい展開にしているのには好感が持てます。SFが苦手な方のほうが楽しめるかもしれません。何より、パチーノが冒頭でぶちあげる”映画論”が最高なので、日頃からハリウッド映画に不満を募らせている方は是非。

監督:アンドリュー・ニコル
出演:アル・パチーノ、レイチェル・ロバーツ、ウィノナ・ライダー、キャサリン・キーナー
20060125 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -