★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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エイリアン2

 大成功を収めたSF・ホラー映画の続編。ただし前作とは映画のジャンル自体が変わって、派手なアクションと大味なシナリオの大作映画に仕上がっています。
 当時まだ無名だったジェームズ・キャメロン(契約時の監督作品は「殺人魚フライングキラー」だけ)が監督を務めていますが、既に彼の大作志向がこの作品からも伺えます。好きな人はけっこういるみたいですけど、僕は苦手。前作が優秀なホラー映画だっただけに、なんでこう安直なスケールアップをしてしまうのかと残念でした。脅威であるはずのエイリアンも次々と登場してはバタバタ倒されて有り難みがありませんし、最後の展開も突飛すぎで笑ってしまいました。これではB級スプラッタ・ホラーと大差ないのでは。冒頭のエイリアン登場シーンはけっこう怖かったし、銃器を使ったアクションとしては凄いのでしょうが、ちょっと納得がいきませんでした。

 ランス・ヘンリクセン演じるビショップは、この映画の唯一の救いでしょう。キャメロンはこういう脚本のセンスはあるんですが、でもB級っぽさを消しきれないのが最大の欠点。確かに前作を忘れて観れば面白いかも知れないけど、それって続編でやる必要ないのでは?

監督:ジェームズ・キャメロン
出演:シガニー・ウィーヴァー、キャリー・ヘン、マイケル・ビーン、ランス・ヘンリクセン
20060203 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

エイリアン

 リドリー・スコット監督によるSFホラー映画。宇宙船という密閉された空間設定と、エイリアンというクリーチャーの組み合わせが絶妙な傑作です。
 ”登場しないことで危機感を煽る”という演出を、これほど忠実に見せたのはこの映画が初めてなのでは。それまでのチープなクリーチャーホラーと一線を画すアイデアは、”エイリアンもの”と呼ばれるジャンルを作り出すほど画期的でした。監督を務めたリドリー・スコットは、デビュー作の「デュエリスト」でもそうでしたが、シンプルすぎるほどのストーリーを緊張感たっぷりに演出する技量は流石です。H・R・ギーガーによるエイリアンのデザインを始め、世紀末感溢れる美術設定も秀逸。

 後に無数の模倣作を生み出した作品ですが、オリジナル故のシンプルさと力強さは、これ以上のクリーチャー映画はもう出ないだろうと思わせるほど。昔の作品だと高をくくって観ていない人は、とりあえず速攻で観ましょう。

監督:リドリー・スコット
出演:トム・スケリット、シガニー・ウィーヴァー、ジョン・ハート、イアン・ホルム
20060202 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

アモーレス・ペロス

 メキシコ発のオムニバス風バイオレンス・ドラマ。三つの異なるドラマが一つの事故で交錯する構成は秀逸ですが、淡々とした演出は返って逆効果だったかも。

 ハンディカメラによる撮影で観客に傍観者であることを意識させたり、登場人物を全て脇役として扱うなど、その達観した演出からは新人監督らしからぬ哲学性が感じられます。ただ、その”距離”を感じさせる演出のために、最後まで物語に感情移入出ません。激しいドラマに反して、TVニュースを見ているような淡々とした印象を受けました。これを良いという人もいるかもしれませんが、僕の好みとは違うな、と。
 三つのドラマの中では、最後のエル・チーボの話がやはり良いですね。終わらせ方も気が利いています。俳優では、これが長編デビューとなるガエル・ガルシア・ベルナルの魅力が凄い。人気が出るワケです。

監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、エミリオ・エチェバリア、ゴヤ・トレド、アルバロ・ゲレロ、バネッサ・バウチェ
20060131 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

狼たちの午後

 1972年に起きた銀行強盗事件を下敷きに、シドニー・ルメット監督が制作したサスペンス映画。うだるような夏の暑さが、70年代の持つ熱狂した空気を感じさせる傑作です。

 単純な銀行強盗事件に留まらず、民衆を扇動しFBIすら登場させる犯人達のカリスマ性が良い。どこまで実話に基づいているのかは不明ですが、この映画によって描かれた当時のアメリカ社会に内在する問題には戦慄すら覚えました。回想シーンやモノローグを一切使用しない演出も、物語の重厚さを引き立てています。あくまで銀行強盗の顛末を時系列に沿って描くことで、混乱した現場の空気がひしひしと伝わってきました。
 まだ若々しいアル・パチーノが、銀行強盗役を鬼気迫る見事な演技でこなしています。相棒役のジョン・カザールや、出番は少ないんですがクリス・サランドンなど、出演陣も見物。

 劇中で何度も叫ばれる「アティカ!」は、事件直前の'71年に起き、多数の犠牲者を出したアティカ刑務所の暴動事件を指しているそうです。この言葉に野次馬が増長する場面など、忘れがたいシーンが多々ありました。70年代を代表する作品の一つでしょう。

監督:シドニー・ルメット
原作:P・F・クルージ、トマス・ムーア
出演:アル・パチーノ、ジョン・カザール、チャールズ・ダーニング、ジェームズ・ブロデリック、クリス・サランドン
20060126 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

イノセンス

 押井守による「攻殻機動隊」の劇場版第2弾。重厚な映像と哲学的な対話は相変わらずながら、前作とは全く異なる雰囲気の、不思議な映画でした。

 今回は脚本が伊藤和典から押井監督本人に替わったせいか、厭世的で難解なロジックを多用したシナリオが印象的でした。ただ、台詞の殆どは何らかの書物の引用で、それほど深い意味はありません。ドラマの基本は主人公バトーのハードボイルド的な苦悩であり、台詞はそれに対する”格好いい言い訳”に過ぎないと感じました。
 3DCGを多用した映像は豪華ながら、過去の押井映画の雰囲気も充分に残しています。最初は、その映像や言葉の意味するものを探そうとしたんですが、おそらくその行為はナンセンスでしょう。贅をこらした映像や、複雑な台詞を無数に重ねることで、情報社会が持つ空虚さを浮き彫りにすることこそ、この映画のもう一つの目的なのかもしれません。

 色々考察してみましたが、置き去りにされた”男”が”女”の幻影を探し求める、というセンチメンタリズムの極致のようなお話がこの映画の基本ではないかと。ちょっとおふざけが過ぎますが、監督の表現力が成熟してきた証でしょう。といってもハードSFですし、前作を知らない人にはなおさら理解しにくい設定なので、見る際には注意が必要です。

監督:押井守
原作:士郎正宗
声の出演:大塚明夫、田中敦子、山寺宏一、大木民夫、竹中直人
20060105 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

A.I.

 スタンリー・キューブリックが生前に温めていた企画を、スティーヴン・スピルバーグ監督が満を持して映画化したという話題作。あまり期待していかなかったので落胆はしませんでしたが、それにしても予想以上の破綻ぶりでした。

 話の内容は確かに濃いのです。ロボットに愛は存在するのか、人間はロボットを愛せるのか、といったタイムリーなテーマを見事に消化していて、特にラストの展開は唐突ながら示唆に富んでいるとは思います。しかし、大きく3つに分かれるパートが全く違う雰囲気で、テーマもすれ違いを起こしていて混乱してしまいました。スピルバーグ映画らしく愛は語っても毒を語らない脚本も、映画のシリアスなムードを上っ面だけのものに感じさせます。単純なエンタテイメントにするなら良いんですが、ここまで哲学的なテーマを語っておいて基本はお涙頂戴、という展開自体がおかしいのでは。
 ハーレイ・ジョエル・オスメントとジュード・ロウのロボットぶりは流石でした。テディを初めとする多種多様なロボット群、及び次々と登場する大規模な未来都市のVSFXも凄い。まさに現代のハリウッドでなければ実現できなかった映像です。そのためにドラマ不在がより引き立ってしまったのが、返す返す残念。

監督:スティーヴン・スピルバーグ
原作:ブライアン・オールディス
出演:ハーレイ・ジョエル・オスメント、ジュード・ロウ、フランシス・オコナー、ウィリアム・ハート
20060103 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

1984

 ジョージ・オーウェルによって1949年に書かれたSF小説を、表題の1984年に映画化したという作品。ビッグ・ブラザーというリーダーの下に統制の敷かれた未来像が衝撃的でした。原作のテーマは様々な映画で応用されていますし、この映画自体、多数のオマージュを生み出したSF映画の隠れた名作です。

 全体主義からの逃亡というのはSFにおける普遍的なテーマの一つですが、そのテーマが端的にまとめられていて、非常に骨太な印象でした。とことん暗く救いのない世界が綴られる中で、愛だけが唯一の救いとして描かれているのが感動的。都市の荒廃ぶりや支配者の絶対性を、説明的な描写を用いずに映像の端橋から感じさせる演出も、映画の格を引き上げています。小説を読んだ方がテーマをより理解できるのでしょうが、映画だけでもその趣旨は充分表現できている、と感じました。
 全体に暗澹としていて退屈な映画ですが、ハードSFが好きな人ならその重厚さを楽しめるはず。ビデオもDVDも国内では絶版なのが残念です。レンタル店では稀に見かけるので、気になる方は是非。

監督:マイケル・ラドフォード
原作:ジョージ・オーウェル
出演:ジョン・ハート、リチャード・バートン、スザンナ・ハミルトン、シリル・キューザック
20051224 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

イディオッツ

 ラース・フォン・トリアー監督による「黄金の心」三部作のうちの一つ。強烈な映画体験が出来るという意味では、非常にトリアー監督らしい実験作でした。

 トリアー監督の作品には「視点を変える」という共通するテーゼを感じるのですが、この映画では特にそれを意識させられました。障害者のふりをすることで、現実の不条理を見いだしつつ、見いだしてしまったがために現実に戻れない人々の”馬鹿騒ぎ”には、泣きたくなるほどの無力感があります。 ドグマ95にほぼ準じる形式で制作されたため、そのテーマが更に現実味を帯びて、現実に起こっている事件のような切実さが伝わってきました。
 ただ、やはり完成度が低いのが問題の一つ。ドラマに焦点を絞ったのだから映像の完成度は二の次と言えばそれまでですが、あくまで”次の傑作”へ向けた”実験”の役割の方が強い映画だと思いました。

監督:ラース・フォン・トリアー
出演:ボディル・ヨルゲンセン、イェンス・アルビヌス、アンヌ・ルイーセ・ハシング、トレルス・リュビュー
20051221 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

アリゾナ・ドリーム

 サラエボ出身のエミール・クストリッツァ監督による、奇妙な味わいのドラマ作品。演出などに独特の空気感がありますが、いまいち入り込めませんでした。
 監督の後の作品に見られる、白昼夢を見ているような映像感覚はこの映画でも健在です。普通のドラマの中に突如として挿入されるシュールレアリズム映画のような演出は、一度経験する価値はあります。そんな現実と非現実の境界が曖昧な世界で繰り広げられる、意外とシリアスな努力と挫折の物語に、この監督ならではの諦観のムードがありありと滲んでいました。しかし、それにしても脚本や編集のセンスが繊細すぎ。僕は夢を早々に諦めてしまった世代の人間なので、そこに感傷を覚えること自体が滑稽に思えてしまいます。

 ちなみに、制作国はフランスですが、劇中使われている言語は主に英語。ジョニー・デップとヴィンセント・ギャロが、どちらも得体の知れない可愛らしさを振りまいていて目を惹きます。この監督の作品を観たことがないか、もしくは他の作品にお気に入りがあるのなら、一度は観てみるのも良いかと。もちろん監督のファンなら必見でしょう。

監督:エミール・クストリッツァ
出演:ジョニー・デップ、ヴィンセント・ギャロ、ジェリー・ルイス、フェイ・ダナウェイ、リリ・テイラー
20051220 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

アタメ

 特殊な愛の形を描いた、ペドロ・アルモドバルらしいラブストーリー。アントニオ・バンデラスの一途な変態ぶりが楽しめる異色作です。
 ストーカーに監禁された女性が、いつしかそのストーカーに心を寄せてしまう……という筋書きはありがちですが、それを細やかな心理描写で綴るのではなく、突飛な登場人物とユーモラスな映像感覚でねじ伏せていて、不思議と説得力がありました。まだ20代後半のバンデラスも、暴力的に描かれているものの、どこか子供っぽくて愛嬌すら感じるほど。エンニオ・モリコーネによる音楽もムーディーなんですが、逆に上品すぎたかもしれません。

 もっと刺激的な内容を想像していましたが、比較的落ち着いて観られるもので安心しました。強烈なインセンスの香りのような、まったりとした高揚感があります。ただのエロスではなく、突き抜けたエロスという感じ。このアクの強さがアルモドバル監督作品の魅力なのでしょう。

監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ヴィクトリア・アブリル、アントニオ・バンデラス、ロレス・レオン
20051214 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -