★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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 デヴィッド・フィンチャー監督が、ヒット作「セブン」に続いて手がけたサスペンス・スリラー。この映画に関しては、何を書いてもネタバレになりそうなのであまり書きません。まあ面白いと思います。こういうのもアリかなー。

 フィンチャー監督らしく、映像の作り込みは最高。脚本も、ちょっと予定調和的なものの、印象的な台詞も多々ありました。マイケル・ダグラスの、見事なほどのオロオロっぷりも手伝って、ラストまで仕掛けが満載で気が抜けない展開になっています。そこまでの流れが良かっただけに、最後のエピソードはちょっと余計かなあ、とは思いましたが。
 騙されないようにと緊張しながら観るより、次々と展開されるトリックを面白がって観るのが正解でしょう。

監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:マイケル・ダグラス、デボラ・カーラ・アンガー、ショーン・ペン
20060205 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ガレージ・デイズ

 アレックス・プロヤス監督が、馴染みのあるオーストラリアで制作した青春映画。あるバンドに集まった若者たちの悲喜交々を丁寧に描いていて好感が持てます。

 バンドにまつわるトラブルが女性関係メインだったり、有名音楽プロデューサーとコネを作ろうと躍起になったりするイタい内容を、さらに本人達の目線で描いているので恥ずかしいぐらいですが、こういうのも初々しくて良いかも。相変わらず映像と音楽に対する作り込みは一級品で、かつ音楽映画という題材にマッチしています。主人公達のファッションも説得力がありました。主人公のオレ語りと、青春映画らしく他愛もないことで怒鳴りすぎるのには流石に辟易しましたが、どこかトボケた感じのキャラクターで救われているのでは。
 非常に他愛のない話で、最後にまとめすぎてしまった感もありますが、ハリウッド映画にはない色彩に溢れた青春映画でした。バンド経験者なら赤面してしまうぐらいの赤裸々さなので、そっち方面で思い出したくない過去がある人が観たら効果てきめんなのでは。あと、エンドロールが楽しいことになっているので、是非そちらもお楽しみに。

監督:アレックス・プロヤス
出演:キック・ガリー、マヤ・スタンジ、ピア・ミランダ、ブレット・スティラー、ラッセル・ダイクストラ、アンディ・アンダーソン、マートン・ソーカス
20060123 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

殺し屋1

 山本英夫によるカルト・コミックを、多作で知られる三池崇史監督で映画化。とにかく映画全体に溢れるエネルギーが凄い。残酷描写が多いのに、それらをギリギリのところで制御しつつ笑いに変えているので、気持ち悪いとは感じませんでした。

 まず俳優の演技に唸らされます。主演の二人ももちろん素晴らしいんですが、それ以外の俳優のハマりっぷりも最高で、突飛な話に絶妙なリアリティを与えていました。ヤクザ映画出身の三池監督ならではの人選もニヤリとさせられます。それに原作と異なりつつも、映画的なインパクトと寂寥感に溢れたラストが圧巻。原作に対する三池監督なりの解釈の仕方なのでしょうか。原作にあるような切実なドラマはこの映画からは端折られていますが、このラストがあることで、また違った深みを物語から感じることが出来ました。
 実は映画を観てから原作を読んだんですが、これはどっちが先でもイメージを崩されることはなさそう。映画のアレンジの仕方が上手いのでしょう。ここまで原作のイメージを尊重した映画化作品というのは、初めて見たように思います。

 浅野忠信のキレっぷりは流石。 北村道子の衣装も必見です。それと、原作者と撮影監督は同姓同名の別人だとか。珍しいこともあるものです。ともあれ、原作ファンだけでなく、バイオレンス映画ファンには必見の一作です。

監督:三池崇史
原作:山本英夫
出演:大森南朋、浅野忠信、エイリアン・サン、SABU、松尾スズキ、塚本晋也、KEE、國村隼、寺島進
20060118 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊

 押井守監督が士郎正宗の同名コミックを映画化し、世界中で話題となったSFアニメ作品。監督の世界観が存分に発揮された結果、哲学的で軍事要素の強い原作の雰囲気と同じベクトルながら、よりスリム化された毛色の違う作品に仕上がっています。

 原作の重厚な世界観をあえて大幅に手直しし、押井流にクリンナップされた映像やシナリオには原作ファンの間では賛否両論ありそうです。シナリオは原作のダイジェストに過ぎない内容で、台詞は殆ど原作ママですし。ただ、原作第1巻のラストにあたる部分に重点を置いたドラマ構成は、映像で観る価値はあると思わせる深みと説得力がありました。
 作り込みが激しい一方で、SFや兵器が苦手な人が混乱しそうなほど専門用語を連発したりと、明らかに観客を限定している作り。それでも初めてデジタルを本格的に取り入れた映像表現や、設定の緻密さ、そのストーリー上での昇華方法は見事。ハードSFが好きな人は必見です。

 ちなみに、この映画以降「ジャパニメーション」という言葉が日本国内で流行りましたが、あれは日本製アニメを蔑視して呼んだもので、あくまで誤用なので止めてほしいなあ、と。この作品のせいではないんですが。

監督:押井守
原作:士郎正宗
声の出演:田中敦子、大塚明夫、山寺宏一、大木民夫、千葉繁、家弓家正
20060105 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

機動警察パトレイバー2 The Movie

 カルト的な人気を誇るロボットアニメの劇場版第2弾。前作よりもアクションやギャグを極力削り、研ぎ澄まされた画面から描写される”消極的な平和”という現代日本に対する提言がショックでした。アニメ云々より、戦争映画として稀に見る傑作です。

 正直、観た当初はこの”消極的な平和”というテーマに実感が持てなかったんですが、公開2年後に映画を模倣したかのようなテロ事件が東京で起きたため、一気にそれがリアルなものとして感じられるようになりました。冒頭のベイブリッジ爆破は、9.11をも想起させます。この映画で描かれる”戦争状態”が、あえて殆どレイバー(ロボットの呼称)を用いずに作り上げられるのは、それが現実にすぐ起こりうるということを示唆したかったためでしょう。9.11の10年も前に、それを映画として世に出した制作陣の着眼点は、ただただ凄いとしか評しようがありません。
 前作とは打って変わって、昔の日本映画のような落ち着いたカメラワークと風景描写が印象的。登場人物も、今回はオヤジばかりが活躍するので渋すぎるぐらいですが、それだけに非常に重みのあるドラマになっています。その中で、ときに破壊的なギャグが炸裂するのもファンにとっては嬉しいところ。

 前作も今作も、直後の世相を見事に予言したかのようなシナリオで、その現実における再現率は怖くなるほど。アニメは子供向けだと軽視している人に、是非観て欲しい作品です。

監督:押井守
原作:ヘッドギア
出演:冨永みーな、古川登志夫、大森隆之介、池水通洋、二又一成、郷里大輔、榊原良子、千葉繁、阪脩、竹中直人、根津甚八
20060105 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

機動警察パトレイバー THE MOVIE

 まだOSという言葉すらマイナーだった時代に制作された、ハイテク犯罪映画の傑作。もともとは”サンマの香りがするロボットアニメ”をテーマに、漫画家ゆうきまさみや押井守、伊藤和典などによって企画・制作されたビデオアニメの映画化作品だったんですが、これが嬉しい誤算でした。

 今や世界的な名声を得たアニメ監督押井守と、後に日本アカデミー脚本賞を受賞する伊藤和典による、Windows時代を予言したかのような設定と周到な犯罪劇は、とても80年代のシナリオとは思えないほどリアルで今観ても唸ってしまうほど。同時に、これだけの秀逸なネタをコメディ仕立てのロボットアニメで消費しなければいけない日本映画の現状がつくづく悔やまれます。
 シリーズものですが、原作となったアニメや漫画の主人公達は脇役同然に描かれているので、オリジナルを知らない人でも楽しめます。もちろん、東京下町の民家を怪獣映画のように踏みつぶして歩くレイバー(ロボットの呼称)などアクション面でもツボを心得た出来ですし、コメディ部分でも大笑いさせられる、ファンにとっても十二分に楽しめる映画でした。

 ロボットアニメと侮る無かれ、当時はSFに過ぎなかったものが、今では現実的な犯罪映画として実感を持って観ることのできる見事な作品です。映画の前に制作されたビデオシリーズやコミック、後のTVシリーズにもシュールでリアルな世界観は健在ですので、気に入った方はそちらもぜひ。

監督:押井守
原作:ヘッドギア
声の出演:冨永みーな、古川登志夫、大森隆之介、池水通洋、二又一成、郷里大輔、榊原良子、千葉繁、阪脩、井上瑶
20060105 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ギャラクシー・クエスト

 ドリーム・ワークスの設立初期に制作されたSFナンセンスコメディ。公開当時はあまりの地味さにノーマークでしたが、観てみたらかなり凄い、というか観ていなかったことを後悔しました。

 とにかく笑いのセンスが濃すぎなくて、そのくせ常にチクチクと細かいところを攻められるような気の利いた脚本がたまりません。登場人物全員が分かりやすいジレンマを抱えていて、それを観客に端的に伝えたあとは、あまり執着せずに人物の魅力と小ネタで畳み掛けているのが良かった。プロット自体はありきたりな正統派ドラマなんですが、そういった作りこみの良さと小ネタの楽しさで、ついつい感情移入してしまいました。
 役者では、何と言ってもアラン・リックマンの演じるドクター・ラザラスが最高! コメディも出来る人だとは知っていましたが、まさかここまで開き直るとは。ミッシー・パイル演じる女性エイリアンの不気味な笑顔も記憶に残ること請け合いです。

 惜しむらくは、この映画のパクり元である「スター・トレック」を僕が全く知らないこと。知らなくても十分楽しめる映画だとは思いますが、知っていればもっと楽しめたかなと。ともあれSF映画ファンなら必見の一本です。

監督:ディーン・パリソット
出演:ティム・アレン、シガニー・ウィーバー、アラン・リックマン、トニー・シャローブ、ダリル・ミッチェル
20060102 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ガタカ

 脚本家としても活躍するアンドリュー・ニコルの監督デビュー作にして、SF映画史に残る傑作と誰もが口を揃える名作中の名作。遺伝子工学というSF的なフィーチャーを物語に巧みに盛り込みつつ、あくまで感動的なドラマに仕上げています。

 ここまでSFっぽいSF作品は映画界では珍しいほどなのに、ある青年の友情を描いた青春映画という爽やかさまで兼ね備えた物語が最高。映像や音楽も綺麗ですが、それすらこの映画を構成する要素の一つに過ぎない、と思えるほど。脚本が良く、そして演出も落ち着いていて物語をじっくり楽しめる、というだけで十分です。事実だけをさりげなく画面の一部に覗かせて、観客に推理させる画面作りにはただ驚嘆させられました。デザイン面でも、アルマーニの衣装やバルセロナチェアといった有名どころを採用しつつ、全体にモダンな雰囲気でまとめられていて好感が持てます。
 ちなみに、宇宙センターのロケ現場となった建築は建築家フランク・ロイド・ライトの作品 "Marine County Civic Center" です。流線型が印象的な吹き抜けから見える宇宙船の船影が、どんな台詞よりもこの物語の本質を上手く表現していると思いました。

 イーサン・ホークやジュード・ロウといったインディーズ系の人気俳優が主演なので敬遠しがちですが、騙されたと思ってまずは観て下さい。もちろん二人のファンには絶対にお薦めの作品です。

監督:アンドリュー・ニコル
出演:イーサン・ホーク、ユマ・サーマン、ジュード・ロウ、アラン・アーキン、アーネスト・ボーグナイン
20051229 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

コンタクト

 90年代のハリウッドSF映画の中では出色といえる、ロバート・ゼメキス監督のSF映画。原作は、NASA出身のカール・セーガンによるベストセラー小説。真摯なドラマが感動的で、現代SF映画のお手本のような作品です。

 自由自在に動き回るカメラや、情緒溢れるSFX描写もなかなかの見所ですが、むしろ”宇宙人”からのコンタクトに対する”地球人”の反応がリアルで怖いほどでした。ジョディ・フォスター演じる主人公の天文学者と、彼女の功績を横取りしようとする人々、政府機関の対応など、現実的な展開があるから終盤の展開にも重みが出てくるのだと思います。数々の名台詞や宇宙人からのメッセージの”らしさ”もSFとしての説得力を高めていました。
 役者としては、準主役を演じたマシュー・マコノヒーが性別を越えた魅力を発揮していたことと、主人公の父親役のデヴィッド・モースがこれまた包容力のある父親役をうまく演じていたのが良かった。特にマコノヒーは他の映画での役どころが陳腐なだけに、その変わりように驚かされました。フォスターと並んだときの絵面も良いですし。

 科学的なアプローチもさることながら、人間の描写にも長けた良質のSFでした。この明日にでも現実に起こりそうな設定を、軽くなりすぎない程度にドラマティックに演出したゼメキス監督の実力のほどが窺い知れます。原作者のカール・セーガン氏は完成を待つことなく亡くなってしまいましたが、代わりにこの作品が、新たなSFファンを多く生み出すことでしょう。

監督:ロバート・ゼメキス
監督:カール・セーガン
出演:ジョディ・フォスター、マシュー・マコノヒー、デヴィッド・モース、ジョン・ハート、ジェームズ・ウッズ
20051228 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

キカ

 変態映画を撮らせたら右に出るものはいないペドロ・アルモドバル監督による、何でも有りの恋愛群像劇。サスペンスの要素もありますが、そんな物語の細部なんか吹っ飛ばすセンスの良さが最大の魅力です。

 とにかく平凡な人間が一人も登場せず、人間関係も最悪に複雑になる一方なので、物語中盤まではぐちゃぐちゃぶりを楽しむ映画かと思いましたが、それを終盤で見事に収束させたうえ、とんでもないところに着地させる構成に唸らされます。悲壮なシーンで笑わせながら、きちんと緊張させる場面もあるし、粗いながらもメリハリがしっかりしている映画という印象でした。
 主役のキカにあえてオバサン俳優を配していて、これがいやに色っぽかった。スペイン映画らしい極彩色の内装や、J=P・ゴルチエによる衣装も見どころの一つ。特にヴィクトリア・アブリルの着る過激なファッションは一見の価値有りです。

 ともあれ、理屈でどうこう言うより感じて楽しむ映画かと。それほどネチネチした描写もありませんし、後味も明るい、健全な変態博覧会という感じ。深夜にワインを飲みながら観ましたが、そのノリにぴったりの映画でした。

監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ヴェロニカ・フォルケ、ピーター・コヨーテ、アレックス・カサノヴァス、ヴィクトリア・アブリル
20051211 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -