★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ハーフ・ア・チャンス

 パトリス・ルコント監督が、アラン・ドロンとジャン=ポール・ベルモンドというフランスの二大スターを主演に撮りあげた痛快アクション。ダンディな魅力満載で、笑いもアクションも楽しめる良作です。
 ドロンがクラシックカーで爆走すれば、ベルモンドは鍵開けに手腕を発揮し、二人揃って銃撃戦だってこなしちゃう、この60過ぎの大俳優たちがとにかく魅力的。間を取り持つヴァネッサ・パラディも、オヤジ二人を振り回すしたたかさで存在感がありました。この三人の掛け合いがとにかく楽しく、ハラハラさせるシーンもある意味安心して楽しめます。マフィアの抗争や警察の介入などシリアスなドラマが裏で進行しているのに、どこ吹く風の三人組がことごとく事態をブチ壊すヌルい展開には、ある意味カタルシスまで感じました。

 全編通して、フレンチB級アクションを彷彿とさせつつ、色気と笑いできっちり楽しませてくれる上質のエンタテイメントでした。回顧主義だといわれようが面白いものは面白いのです。ぜひ。

監督:パトリス・ルコント
出演:アラン・ドロン、ジャン=ポール・ベルモンド、ヴァネッサ・パラディ、エリック・デュフォス、ミシェル・オーモン
20060317 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

8人の女たち

 フランス映画界の俊英、フランソワ・オゾン監督によるミュージカル。女性同士の憎しみや企みなどを巧みに盛り込んだシナリオを、様々なジャンルの音楽で飾った内容は豪奢そのものでした。
 女優一人ごとにメインになる曲があり、それを順番に歌っているうちに話も進むというトリッキーな展開。女性のしたたかさが存分に描かれた脚本もなかなか見物です。しかし何と言っても、この映画の一番の見所は出演している女優の豪華さでしょう。映画ファンなら唸ってしまう名優ばかりで、一つの画面に収まっているだけでも圧巻なのに、そんな彼女達が歌って踊っていがみ合うというこの企画自体に絶対的な魅力があります。犯人探しなどそっちのけで、女性たちの駆け引きを楽しんでしまいました。”女性の醜さ”を描くのに美女ばかりを配し、取っ組み合いまでさせたあげくコメディに仕立ててしまうオゾン監督のセンスは凄いなあ、と。

 ドヌーヴとアルダンの演技合戦は必見。エマニュエル・ベアールも久々に良かった。とにかく分かりやすくて楽しい映画でした。フランス映画をあまり知らない方でも、ぜひ。

監督:フランソワ・オゾン
原作:ロベール・トーマ
出演:ヴィルジニー・ルドワイヤン、リュディヴィーヌ・サニエ、カトリーヌ・ドヌーヴ、エマニュエル・ベアール、ダニエル・ダリュー、イザベル・ユペール、ファニー・アルダン、フィルミーヌ・リシャール
20060310 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ

 ギタリストのライ・クーダーが、キューバ音楽に魅せられて製作した同名のアルバムをめぐるドキュメンタリー。キューバ音楽の、時を経ても色褪せない魅力がたっぷりと詰まった佳作です。
 僕はキューバ音楽に詳しいわけではないので、細かい解説は余所に譲ります。ただ、コンパイ・セグンドやエリアデス・オチョアといったキューバの老ミュージシャンたちの演奏は想像以上にパワフルで、しかも中には90を過ぎた人もいるのになおセクシーなのには驚かされました。音楽で人生を語れる彼らは純粋に魅力的ですし、その言葉の裏にはキューバの過酷な歴史が明確に存在しています。そういった厚みを観客に意識させた上で見せる、ラストのカーネギーでのコンサートは、これはもう反則。全てが美しくて、ただ惚れ惚れするばかりでした。

 もちろんアルバムも購入しました。どの曲も名曲ですね。もう随分聴き込んでいるので、今観ると多分映画の評価も上がってしまうだろうなあと思いつつ、一応初見の時の評価のままで。だって素材の良さが映像を上回ってるんだもの。

監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:ルベーン・ゴンザレス、イブライム・フェレール、ライ・クーダー、オマーラ・ポルトゥオンド、エリアデス・オチョア、コンパイ・セグンド、ヨアキム・クーダー
20060308 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ

 本国アメリカでは記録的な大ヒットとなった舞台劇を、舞台と同様ジョン・キャメロン・ミッチェルの監督・脚本・主演で映画化し、2001年度のインディペンデント映画界において最も話題をさらった作品。予告編のビジュアルからはトリッキーな印象を受けたんですが、実際観ると非常に普遍的な物語で驚かされました。
 アウトサイダーに対する偏見や差別を切り口にしつつ、描かれているテーマは非常にスタンダードで、観れば誰にでも判る明快な主張というのが面白い。主人公ヘドウィグは、外見こそ一般性から外れていますが、その感性はむしろ繊細で、赤裸々に綴られる彼の人生観はダイレクトに観客自身の理性を突き刺します。見方によっては陳腐にも思えるのでしょうが、それをロックに乗せて堂々と語りきっているところが潔く、その真摯な歌詞に思わず涙することもしばしば。映画の構成としては、巷間に溢れる”プロモーションビデオ映画”と何ら変わらないんですが、そこに強烈なテーマを介在させることで一気に映画的にするという手法も斬新でした。

 ジョン・キャメロン・ミッチェルのヘドウィグは、それだけで映画史に残せそうなぐらいのカリスマ性で魅せてくれます。彼の生き様がひたすら美しく、辿り着いた観念的なラストも良い。「自分の片割れ探し」という題材で、この結論に行き着くのは僕の理想。文句なしの傑作です。

監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル
出演:ジョン・キャメロン・ミッチェル、マイケル・ピット、ミリアム・ショア、スティーヴン・トラスク、アルバータ・ワトソン
20060306 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ベルベット・ゴールドマイン

 70年代のイギリス・グラムロックシーンを題材にした実話風ドラマ。俳優や映像は良いんですが、当時の事情を知らない人間にはピンと来ない内容でした。
 明らかにデヴィッド・ボウイをモチーフにしたブライアン・スレイドというキャラクターを中心に、当時の噂話を詰め込んだような物語、のようです。70年代当時の世相と、そこに生きた若者たちをあくまで本人たちの視点で描きつつ、ひたすら耽美な世界としてスクリーンに映し出したのは当時を知る人には感動モノなんでしょうが、何しろ僕はグラムロックなんて知らないし、「トレインスポッティング」で初めてイギー・ポップを意識したという完璧な門外漢なので、映画はそこそこ楽しめたという程度でした。ドラマのキモがどこにあるのか分からないので、スタイリッシュな映像がただ空回りしているという印象です。ただしユアンのイギー・ポップぶりは必見、特にお尻。

 ミュージッククリップもどきやライブシーンは充実していました。回顧主義的な排他性は否めませんが、当時を再現したファッションは純粋に格好良いし、映画自体、その耽美な世界観に浸らせるのが目的なので、思い入れがある人には楽しめるのでは。

監督:トッド・ヘインズ
出演:ユアン・マクレガー、ジョナサン・リス=マイヤーズ、クリスチャン・ベール、トニ・コレット
20060304 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ファンシイダンス

 小津映画をパクりまくった異色のピンク映画「変態家族 兄貴の嫁さん」で一部の話題をさらった周防正行監督のメジャーデビュー作品。日本映画ならではの緩やかな演出と、トボけた笑いがたまらない秀作コメディです。
 それまで馬鹿にしていた”お坊さんライフ”に、典型的なパンクロッカーだったはずの主人公が着々とハマっていく様は、それだけで笑えます。と同時に、一挙手一投足が洗練されていくのを見せつけられると、観ている者まで”お坊さんってカッコイイかも…”と思えてくるあたりが侮れません。また主演の本木雅弘のなりきりっぷりも最高で、小津の影響がそこら中から香る周防監督の演出との相性も抜群。竹中直人の中途半端な破戒僧ぶりなど、登場する他の僧もそれぞれに個性があって印象的でした。

 挿入歌「若者たち」の使い方も絶妙。あっさりした演出の中に、さりげなく青春の香りを漂わせるあたりも周防監督の好ましい点ですね。映画文法自体は古い日本映画のそれなので、よりテンポの良い姉妹作「シコふんじゃった。」を先に観てからの方が楽しめるかと。ともあれ、邦画コメディと言われて真っ先に思い浮かぶのがこの映画なので、未見の方は是非。

監督:周防正行
原作:岡野玲子
出演:本木雅弘、鈴木保奈美、大沢健、田口浩正、竹中直人、甲田益也子、彦摩呂、宮坂ひろし、宮琢磨
20060225 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ホワイトアウト

 大作映画のヒットに恵まれていなかった日本映画界に一石を投じるはずだったアクション大作。「踊る大ハード」という下馬評通りで既視感たっぷりなものの、それなりに楽しめる映画でした。

 原作はかなり良くできたサスペンスで、ドラマもアクションも盛りだくさんなんですが、この映画はそれを最大限に再現していて好感が持てました。親友の死とか犯人グループの確執など、分かり易いドラマではあるものの、定番だからこそ安心して楽しめます。原作はそこに様々なドラマが絡み合い、かつダムという認知度の低い空間を最大限に生かした展開が見物だったんですが、映画でそのスケール感が損なわれてしまったのだけは残念でした。特にセット撮影の場面が辛い。ロケ部分の映像が良くできているだけにもったいないなあ、と。
 俳優では吹越満が良かった。原作では彼の動機がきっちり描写されているので、映画で物足りないと思われた方はぜひ原作を。佐藤浩市も、映画らしく脚色されたキャラクターを思いっきりふてぶてしく演じていて見応えがありました。松嶋菜々子が全然出てこないのも良いですね。

 確かに所々で詰めの甘さが目立つ、あまり褒められた作品じゃないんですが、これをパクリなどと言って一概に非難するのは疑問。というか、それなら最近の日本製大作映画なんか全部パクリじゃないのかと。下手にクセがなく後味も悪くないだけ、この映画はまだ救いがあります。

監督:若松節朗
原作:真保裕一
出演:織田裕二、松嶋菜々子、佐藤浩市、石黒賢、吹越満、中村嘉葎雄、平田満
20060221 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

漂流街 THE HAZARD CITY

 馳星周のバイオレンス小説を、日本映画界で最もパワフルな作風を誇る三池崇史監督で映画化した問題作。ブッ飛んだアレンジは流石ですが、ちょっと暴走しすぎかも。
 まず、どうみても国内には見えない(おそらくテキサス州あたりの)荒野を「埼玉県与野市」と言い切る勢いの良さに冒頭から笑わされました。それが本気なのか冗談なのか判断するヒマもなく、その後もマトリックス風の闘鶏や殺人卓球と、およそ平凡とはかけ離れた、しかも原作にない要素を絡めまくり。というか原作と大枠で同じ話なのに、ここまで印象が違うというのに驚かされました。それでも新宿歌舞伎町を中心としたトーキョーの混沌っぷりを、誇張しつつも実感たっぷりに描写しているあたりは三池監督のセンスを感じずにはいられないんですが、でも映画としては破綻しすぎかなあ、と。少なくとも、原作のようにシリアスなバイオレンスを期待すると大変なことになります。

 俳優では、チャイニーズ・マフィアのボスを演じた及川光博がピカイチ。とても日本人には見えません。吉川晃司もさすがの色気でした。そのあたりの遊び心を楽しみつつ、とんでもない展開にゲラゲラ笑える骨の髄からの三池ファンなら、観る価値はあると思います。

監督:三池崇史
原作:馳星周
出演:THEA、ミッシェル・リー、及川光博、吉川晃司、柄本明、テレンス・イン、野村祐人、麿赤兒
20060220 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ヒルコ 妖怪ハンター

 諸星大二郎のカルト伝奇漫画「妖怪ハンター」を、当時まだ新進気鋭の塚本晋也監督が映画化したホラー作品。原作のイメージとはかなり乖離した内容ですが、これはこれで楽しめました。
 映画の内容は、同シリーズの単行本「海竜祭の夜」に収録された「黒い探究者」をメインにしつつ、そこに「赤い唇」が絡むといった感じです。ただ原作の持つおどろおどろしさは無く、非常に標準的なホラーといった印象。伝奇的なカタルシスは分かりやすく翻案されていますし、沢田研二も落ち着きが無くて稗田礼二郎という感じではありません。ただその沢田研二と、まさお少年役の工藤正貴の掛け合いがなかなか巧みで、”少年のひと夏の体験”といった爽やかさすら感じました。室田日出男の強面も、物語を引き締めるのに一役買っています。最後の演出は、さすがにどうかと思いましたが…。

 全体にちぐはぐな印象の映画ではあるんですが、パワフルな映像と俳優に助けられて、後味は悪くなかったような。でも、これは諸星大二郎原作である必要はないかもなあ、と。

監督:塚本晋也
原作:諸星大二郎
出演:沢田研二、工藤正貴、上野めぐみ、竹中直人、室田日出男
20060217 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ピンポン

 曽利文彦監督による、松本大洋の同名コミックの映画化作品。ストレートなスポ根もので、それだけに単純で楽しめる映画に仕上がっています。

 曽利監督はCG畑出身の方だそうですが、専門分野をあえて前面に出さない題材選びが大正解。もともと原作自体、松本大洋の芸術性をスポ根の隠れ蓑に包んでいたおかげで大衆性を獲得していたので、そういう意味では漫画も映画も同じ方向性と言えるのでは。ほぼ原作通りながら、ところどころ映画独自の演出をからめた脚本も効果的でした。
 窪塚洋介のキャスティングには半信半疑でしたが、観てみればそれほど違和感はありません。ARATAも、ちょっと格好良すぎるけどそれはそれで。中村獅童と大倉孝二は原作と互角。竹中直人と夏木マリはお遊びの観はありますが、原作のイメージはきっちり引き継いでいます。原作未読者にも希求できる明快なキャラクター分けと物語が健在なので、映画単体でも楽しめる、良質なエンタテイメントに仕上がったのでしょう。

 突き抜けた面白さではないんですが、このところ誰でも楽しめる日本映画が少ないので、分かりやすい映画は大歓迎。こういう嫌味のない日本映画がもっと増えてほしいなー、と。あとは、原作に頼らないオリジナルの企画がほしいところですね。映画にすると、どうしても原作の内容が薄まってしまうので…。

監督:曽利文彦
原作:松本大洋
出演:窪塚洋介、ARATA、中村獅童、サム・リー、大倉孝二、夏木マリ、竹中直人
20060212 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -