★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ゲド戦記

 あまりにも偉大な父を持ってしまった宮崎吾朗監督の、これがアニメーション初監督となる長編作品。原作は「指輪物語」「ナルニア国物語」と並んで世界三大ファンタジーの一つに数えられる傑作小説。初監督にしては意欲的な内容に、まずは安心させられました。

 何しろ素人らしい演出が見ていて辛い。あまりの拙さに観賞中はハラハラしましたが、そのせいか監督の主張がストレートに伝わっててきて、後半なんかはかえって楽しめました。近年のジブリ映画と完全に決別した作画も凄い。クオリティにこだわりすぎて硬直化してしまったスタジオに対する、強烈なアンチテーゼでしょう。子供だましなら誰にでも出来る、それより大の大人が楽しめるエンタテイメントを、という監督の主張が感じられます。経験不足がつくづく悔やまれますが、次回作以降でのさらなる発展が期待できる良作だと感じました。
 技術的な面では、クロード・ロランそのままの背景美術が最高。描き込みすぎでクドくなりがちだった近年のジブリ作品の中では出色です。アニメーション部分が粗雑なのは惜しいところですが、部分部分で引き込まれるような演出が見られるあたりは、さすがジブリ。声の演技も相変わらず渋くまとまっていて、媚び媚びのアニメ声でないのは何よりでした。

 原作既読者としては、あの世界観を説明しきれていないのは悔しいところ。ただ、そもそもこの深遠な世界を、二時間という制限の中でエンタテイメント的に消化することの方が不可能なわけで。原作の良さを仄めかしつつ、分かり易い内容に徹するというのは正解でしょう。テーマを重視しすぎるあまりエンタテイメント性を失いつつあった近年のジブリ作品に対して、内部告発とも言える論陣を張ったことだけでも評価できると思います。

 ここまで堂々とラブコールされれば、お父さんも悪い気はしないのでは。父にしろ息子にしろ、次に期待、です。

監督:宮崎吾朗
原作:アーシュラ・K・ル=グウィン
声の出演:岡田准一、手嶌葵、菅原文太、田中裕子、小林薫、香川照之、風吹ジュン
公式サイト
20061003 | レビュー(評価別) > ★ | - | -
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