★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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スリーパーズ

 ハリウッドの大御所、バリー・レヴィンソンによるメガヒット作品。ブラッド・ピットやロバート・デ・ニーロ、ダスティン・ホフマンと豪華キャストを配しつつ、いかにもアメリカらしい年代記に仕上げています。
 冒頭から雰囲気のある映像で引っ張りつつ、4人の男の少年時代からジワジワと進行していくストーリーは見応えがありました。ノン・フィクション小説を原作としている割にはエンタテイメントな展開ですが、「血よりも濃い友情」を感じさせるには分かりやすくて良いのかも。アメリカ裏社会の雰囲気を垣間見られるのが個人的に好みです。とはいっても、「それ以上の何か」が無いのは如何ともしがたいところ。豪華な出演陣と、ケレンのあるストーリーを楽しんだら、あとのことは余り深く考えないというのが一番でしょう。

 良くも悪くもハリウッドらしい作品でした。初共演のロバート・デ・ニーロとダスティン・ホフマンも注目ですが、やっぱり見どころはケヴィン・ベーコンの憎まれ役っぷり。主演陣も豪華ですが、脇役も豪華ですよ。

監督:バリー・レヴィンソン
出演:ジェイソン・パトリック、ブラッド・ピット、ミニー・ドライヴァー、ロバート・デ・ニーロ、ダスティン・ホフマン、ケヴィン・ベーコン
20051022 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

シャドウ・オブ・ヴァンパイア

 F・W・ムルナウによる名作ホラー「吸血鬼ノスフェラトゥ」を豪快にパロディ化したナンセンス映画。あの映画の吸血鬼役の俳優が、実は本当に吸血鬼だったら……というアイデアと配役が良いので期待したんですが、期待したほどには楽しめませんでした。

 シリアスになりたいのか、コメディにしたいのかハッキリしない脚本が最大の不満点です。笑わせすぎで低俗になるのを恐れたのか、シナリオで笑いを取ろうとしている部分が数カ所しかありません。あとはオリジナルとその付近の人物たちに捧げたオマージュ(というか皮肉?)ばかりで、オリジナルに思い入れのない身としては引いてしまいました。
 ただ、ウィレム・デフォーの吸血鬼っぷりが良いので、それだけで笑えるのが救い。画面に出てくるだけで笑えるというのは、なかなか凄い業です。これで映画が面白かったら、と残念しきりの一本。

監督:E・エリアス・マーヒッジ
出演:ウィレム・デフォー、ジョン・マルコヴィッチ、ウド・キアー、キャサリン・マコーマック
公式サイト
20051009 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

スリー・キングス

 ハリウッドの方程式から逸脱した作りが見事な異色戦争ドラマ。金塊を巡るブラックコメディかと思って観ていると、中盤から戦争映画としての本性を現し始めます。現地人を無視するアメリカ人の薄情さとか、正規軍とゲリラの入り乱れる戦況がさりげなく描かれていて、シュールな中にも説得力がありました。

 湾岸戦争当時の混沌とした状況を半ばデフォルメして描いているのが新鮮。現地人の困惑や窮状を巧みに物語に組み込みながら、それを前面に出さずに物語に徹しているところに好感を持ちました。
 最初はコントラストが強すぎると思った画面も、時間が経つにつれて、それが砂漠を撮影する上で最適だと思えるようになるから不思議。割と渋めながら人気のあるジョージ・クルーニーとマーク・ウォルバーグを主演に据え、脇にアイス・キューブとスパイク・ジョーンズを持って来るという、堅実なのか賭けに出てるのか分からない配役も、画面で見れば上手くはまっていました。

 デヴィッド・O・ラッセル監督は脚本もこなす人物で、この作品も一人で脚本を書いています。中途半端な政治メッセージがうるさい、という方もいると思いますが、僕はその「お粗末な政治の存在」が介入者としてのアメリカの立ち位置を上手く皮肉っている、と感じました。

監督:デヴィッド・O・ラッセル
出演:ジョージ・クルーニー、マーク・ウォルバーグ、アイス・キューブ、スパイク・ジョーンズ
20051005 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ザ・ロイヤル・テネンバウムズ

 ウェス・アンダーソン監督による、おかしな家族の寓話的作品。うーん、微妙。確かに独自の世界を構築していて興味深いし、演出力もあるし俳優の演技もいいし、シックで良くできた映画だと思うんですが、描かれる世界が何一つ心に響いてきませんでした。
 一つ思い当たるのは、すごくデフォルメされたキャラを配しておきながら、物語は一般性の範囲内で動いてしまうこと。おかげで、観ていても一歩引いた視点になってしまいます。かといってそこに深い考察や示唆があるわけでもなく、結果として淡々と映画が進行するだけ。監督はそれを狙った感じがありますが、じゃあどうしてそういう演出にしたのか、は不明。要するに世間の人々は幸せだったり不幸せだったりするけど、本質はこんなところじゃないの、という問題提起なんでしょうか。それともこういう絵本的な演出が好きなだけで、ストーリーとの関連性はないのか…。

 これまでのホームドラマから大きくかけ離れたキャラクタを主要人物にしたという点では目を引きます。ただ、その凝ったキャラクタに感情移入できないので、映画を楽しめなかったのかな、と。消化不良。

監督:ウェス・アンダーソン
出演:ジーン・ハックマン、アンジェリカ・ヒューストン、ベン・スティラー、グウィネス・パルトロー、ルーク・ウィルソン、オーウェン・ウィルソン、ビル・マーレイ
公式サイト
20051002 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

SURVIVE STYLE 5+

 広告業界で活躍する多田琢が、満を持して映画業界に殴り込みをかけたブラックな長編映画。特徴のあるキャラクターは笑えますし、映像のセンスは今までの日本映画界にない素晴らしいモノでしたが、微妙に不満点が…。

 俳優の使い方は良い。浅野と橋本の不条理な闘争は映画のテンポを良くしているし、良々クンとヴィニー・ジョーンズのコンビは出てくるだけで笑えて、岸辺一徳でオチをつけるやり方も上手い。他の登場人物もなかなか存在感があります。でも、それらが上手くかみ合っているかというと微妙。どれも一発ネタであって、物語としては魅力を感じません。
 美術や衣装や撮影といった、見てくれを構成する要素は最高でした。ここまで映像に力のある日本映画は少ないでしょう。カメラワークも優秀で、撮り方一つで真面目なシーンと笑えるシーンを明確に分けているあたりにプロの技を感じます。

 こういう映画がもっと沢山作られるようになって、画作りの方から日本映画を改革していって欲しいところ。その点では非常に意味のある作品だと思います。あと、★一つじゃないのは、多分ピエール瀧とか三浦友和のおかげだと思います。

監督:関口現
企画・原案・脚本:多田琢
出演:浅野忠信、橋本麗香、小泉今日子、阿部寛、岸部一徳、神木隆之介、荒川良々、ヴィニー・ジョーンズ、三浦友和、千葉真一
公式サイト

20051002 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

シャロウ・グレイブ

 アンドリュー・マクドナルド制作、ダニー・ボイル監督、ユアン・マクレガー主演というトリオの記念すべき第一作。監督にとってはこれがデビュー作ですが、非常によく作り込まれたサスペンス映画でした。
 とにかく、イギリス映画ならではのナンセンスさが最高! 最低限の登場人物(メインはたった3人!)で進む密室劇は、確かに強引な部分も多々ありますが、その後の展開が面白いので気になりません。「金の行方」という物理的な牽引力で映画を引っ張りつつ、そこに「人間の狂気」というエッセンスをサイケデリックな演出とともに加味しているあたりにセンスを感じます。何よりオチの気持ちの良さと、思い切ったカメラワークには驚かされました。

 本国イギリスでは記録的なヒットを飛ばしたというのに、日本公開は「トレインスポッティング」の直前だったとか。とてもそうは思えないほどスタイリッシュな映像センスも一見の価値ありですが、そんなことより「映画の楽しさ」を堪能できるのがこの映画最大の魅力でしょう。必見。

監督:ダニー・ボイル
出演:ユアン・マクレガー、ケリー・フォックス、キース・アレン、クリストファー・エクルストン
20050929 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ソウ

 オーストラリア出身の監督は、どこかアメリカ映画とは毛色の違う映画を撮るのでけっこう好きなのですが、そのオーストラリアから新たな若手監督&脚本コンビが登場。ショッキングな映像が目を引くサイコスリラーですが、見所のミステリ部分がお約束すぎました。

 このオチは、推理小説を読む人なら予告編を見た時点で最初に想定するものだと思います。息の詰まるような密室劇を楽しめるかと思ったらそれも最初だけで、あとは別の方向に話が…。でも、それ以降をB級ホラー映画として観ると、なかなか楽しめるのかも。適度にスプラッタですし、犯人が演出過剰なところとか、ビジュアル重視で中身のないカメラワークとかも良く出来ています。落ち着きがないので観ていて疲れますが、僕がホラー映画が苦手なせいもあるかと。
 というわけで★一つ足そうかと思ったんですが、そもそもこの映画のやりたいことはB級ホラーじゃないと思うので、やっぱり足さないでおきます。純粋ミステリ系の映画は期待しない方が良いですね…。

監督:ジェームズ・ワン
脚本:リー・ワネル
出演:ケイリー・エルウィズ、リー・ワネル、ダニー・グローヴァー、モニカ・ポッター
公式サイト
20050923 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ジャッカス・ザ・ムービー 日本特別版

 番組中のアクションを一般人が真似て大怪我をするなど色々と物議を醸した、MTVの人気番組の映画化。日本公開は絶望視していたんですが、なんとか実現したので狂喜乱舞して観てきました。

 もう、とにかく「頭悪いなあ」という感想しかありません。映画になってもやっている事はテレビ版と殆ど同じで、ただスケールが若干大きくなっているだけ。「レンタカーで激突レース」「スポーツ用品店でボクシング」「大雨の街中でサーフィン」「どこでも棒高跳び」のように、意味がない、やる前から結果が分かっているからこそ誰もやらない痛いアクションをひたすら繰り返すわけです。あと平気で嘔吐脱糞したり、わざと怪我して笑うネタがあるので、覚悟してから観てください。
 洗練された笑いではないんですが、モーニングスターで釘を打つような豪快さがたまりません。これぞアメリカ。テレビ版の総集編的なDVDが出てるので、そちらも併せてどうぞ。

監督:ジェフ・トレメイン
出演:ジョニー・ノックスヴィル、スティーヴォー、バム・マージェラ、クリス・ポンティアス、ライアン・ダン、デイヴ・イングランド
公式サイト
20050920 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

スーパーサイズ・ミー

 CFやTV番組制作などで活躍し、その着想のセンスで人気のモーガン・スパーロック監督によるドキュメンタリー作品。「3食×30日間全てマクドナルドだけで食事したらどうなるか」という人体実験を監督本人が実践し、ジャンクフードが蔓延するアメリカの食品産業に鋭く問題提起しています。

 とにかく着眼点が秀逸。マイケル・ムーアのような強烈なユーモアはないものの、実験自体のインパクトと、ところどころに挿入される「食文化を巡るアメリカ資本主義社会の状況」がカルチャーショックでした。劇場を出る頃には以前より健康的な食生活をしようという気分になりますね。もともとファーストフードは年に数回しか利用しませんが…。
 ドキュメンタリー映画が社会に与える影響が強くなっている昨今、この映画に限らず、これらが必ずしも事実とは限らないという前提だけはしっかり意識するべきでしょう。でも、問題提起と、それにまつわる議論は重要。出来ればテレビ等で大々的に流してほしいんですが、やはり難しいんでしょうか。

監督:モーガン・スパーロック
出演:モーガン・スパーロック
公式サイト
20050919 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

サイドウェイ

 ワイナリー巡りをしながら、図らずも人生を見つめ直すことになってしまった二人の男のロードムービー。なかなかの秀作で、特に丁寧なストーリー運びに共感が持てました。主演の二人も、良い味を出しています。

 難を言えば、後半の展開が実はありきたりで、特にオチには僕は納得できません。男性二人がきちんと描かれているせいか、女性陣の行動理由に説得力がなく、どうしても男性中心の展開に感じられるというか。語られているテーマも全く心に響きません。
 ロードムービーとしては充分面白いと思います。大笑いさせられるシーンもちらほらありました。カリフォルニア・ワインに対する興味も沸いたし。でもそれ以上の何かが足りないなあ、と感じた作品。惜しい。

監督:アレクサンダー・ペイン
出演:ポール・ジアマッティ、トーマス・ヘイデン・チャーチ
公式サイト
20050914 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -