★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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テルミン

 デジタル音源の黎明期に発明され、ホラーやSFといった映画に使われた楽器「テルミン」と、その製作者レフ・セルゲイヴィッチ・テルミン博士を巡るドキュメンタリー。歴史の彼方に忘れ去られようとしていたテルミンを再発見した、貴重な作品です。
 テルミンの音楽性や技術的な話題に終始すると思っていたら、発明者であるテルミン博士の人生の足跡をたどるような内容でした。しかもその博士のたどった人生というのが実に奇妙。ハリウッドで人気を博したと思ったら、スターリンの粛正に巻き込まれ……といった事実を、資料と調査であぶりだしていく丁寧な手法は、ドキュメンタリーとして良くできています。何より半世紀以上の時を経て、再び見いだされた人々と楽器の”再開”には感動させられました。

 世界初の電子楽器テルミンについて、少しでも興味のある方は必見。自らが作り出した楽器と同様、非常に数奇な運命をたどったテルミン博士の人生は、それ自体がファンタジーで驚かされました。なお博士自身は、まるでこの映画が作られるのを待っていたかのように、映画の完成直後に亡くなられています。合掌。

監督:スティーヴン・M・マーティン
出演:レオン・テルミン、ブライアン・ウィルソン、トッド・ラングレン
公式サイト
20060309 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

鉄男 II BODY HAMMER

 塚本晋也監督の出世作である”鉄男”シリーズ第二弾。前作「鉄男 TETSUO」よりトーンダウンした観は否めませんが、相変わらずパワフルな映像は一見の価値あり。
 塚本監督は、今回も脚本・美術・撮影・編集をこなしたうえ、自らも出演するという力の入れよう。しかしカラーになり、映画としての体裁も整ってしまったためか、映像的な迫力ばかりが目について、映画本来のテーマが疎かになってしまったような。アクションシーンのスピード感は流石に見物ですが、前作のような”荒削りながらも強烈な映画体験”には、何かが足りない感じでした。

 前作に続いて主演を勤める田口トモロヲが、前作以上にバリバリのアクションをこなしているのは見所。映像や造形など、明らかに普通の日本映画とは一線を画す作品であることは確実です。

監督:塚本晋也
出演:田口トモロヲ、塚本晋也、叶岡伸、金守珍
20060218 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

鉄男 TETSUO

 映画作家・塚本晋也の名前を世界に知らしめた作品。監督・脚本・撮影・美術・編集・出演の六役をこなした塚本監督の、まだ荒削りながらも力強い、映像に対するアプローチが感じられる問題作です。
 塚本監督の共通するテーマである”肉体”への表現が、既にこの映画の時点で明確に志向されています。67分という短い上映時間ながらも、長編映画以上のボリュームを感じさせる濃密な映像が凄い。モノクロであるが故にかえって力強さが増幅され、叙情とか感傷といった生半可な表現は、ことごとく金属化した”肉体”の下に叩き伏せられるのみ。言葉やプロットでどうこう言うより、完全に感覚で捉える映画でした。

 明らかに商業映画ではないし、暴力描写が嫌いな人も絶対に観てはいけない部類のものですが、くだらない精神論をぶって悦に浸るような映画よりよほど実のある内容だと感じました。しかし、体力的に余裕がないときには遠慮した方が良いのは確実なので、観る前は体調に気を付けましょう…。

監督:塚本晋也
出演:田口トモロヲ、塚本晋也、藤原京、叶岡伸、石橋蓮司
20060216 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

太陽を盗んだ男

  長谷川和彦監督、沢田研二主演による、日本犯罪映画史上に輝く金字塔。まさにカルト映画と呼ぶにふさわしい、強烈なメッセージを含んだ傑作です。

 あまりの評判の良さに観たら落胆するのではと危惧していましたが、実際は感動ばかりで頭の中がぐるぐる回っていました。原爆を作ってしまうという突拍子もない展開も面白いんですが、”その後”の主人公の行動が、現代の日本人の心境を巧みに反映していて背筋が震えました。荒削りな演出もあってか、大作映画的な作りなのにテーマが全く薄れていないのにも驚かされます。
 沢田研二の無軌道っぷりは、まさに時代の主人公として様になっています。刑事役の菅原文太がちょっと濃ゆくて困ったのですが、それがあの後半は自然に消化されていたのには驚きました。コミカルな人物描写で、作品の雰囲気を深刻にし過ぎないバランス感覚が絶妙。アクションシーンなんかに昔っぽさをひしひしと感じてしまうのも、ここまで作品の出来が良いと気になりません。ビルを押すシーンとか、わけが分からないけど印象的なシーンの作り方も巧いですね。

 とにかく、日本映画が好きな人にも嫌いな人にもお薦めの作品。これだけパワーのある映画を昔の日本は撮れていたのだ、という事実に何より感心させられるのは確実です。

監督:長谷川和彦
出演:沢田研二、菅原文太、池上季実子、北村和夫、風間杜夫、伊藤雄之助
20060210 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ドグマ

 ハリウッドの問題児ケヴィン・スミス監督による、宗教を題材にしたブラック・コメディ。本国ではキリスト教徒による上映禁止運動が起こり、日本でも限定公開になった曰く付きの映画。完成度はそこそこですが、独特のまったりとしたテンポには中毒性がありました。

 ベン・アフレックとマット・デイモンの共演作とだけ聞いて観るとあまりに方向性が違うので驚かされますが、突飛な世界観はアメリカン・コメディのノリに忠実なのですんなり入り込むことが出来ました。ポンポン登場するキャラクターもいちいち特徴があって飽きさせません。多少説明的なきらいはありますが、いわゆる”免罪符騒動”をモチーフにしたような物語には、薄っぺらいシナリオとは一線を画す深みがありました。そして破壊的と言うほどではないですが、ジワジワと効いてくる独特のブラックでシュールな笑いは確かに凄い。カルトなファンがいるというのも納得です。
 同監督作の常連というジェイ&サイレント・ボブの浮きっぷりには笑わされました。アラン・リックマンがメタトロンというのも宗教マニア的にはツボでしょう。”神”役のキャスティングも洒落が効いていて良い。この監督の作品は初めてですが、他の作品も観てみたいと思いました。

監督:ケヴィン・スミス
出演:ベン・アフレック、マット・デイモン、リンダ・フィオレンティーノ、アラン・リックマン、ジェイソン・ミューズ、ケヴィン・スミス、サルマ・ハエック、ジェイソン・リー
20060121 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ドーベルマン

 日本アニメのファンというヤン・クーネン監督による、バイオレンス・アクションの秀作。あまりに過激なアクションは好き嫌いが別れそうですが、映像的に非常にレベルの高い作品でした。

 コミックをそのまま映像化したような単純バイオレンス・アクションで、ストーリーなんて存在しないも同然。過去の映画に比べると言葉足らずとも思えるほど状況説明を欠き、キャラクターの魅力だけでひっぱるシナリオは強烈すぎます。しかも繰り広げられるアクションは、知らずに観た人なら途中退場してもおかしくないほど冷酷無比。銀行強盗の主人公もかなりの悪人ですが、対する刑事が輪をかけて極悪なので、その容赦の無さにクラクラしてしまいました。
 ただ、そこから生み出される映像が見事。冒頭の銃に関する演出など、観終わってから思わず人に話したくなるような映像の連続でした。粗の目立つ映像ではあるんですが、ここまでコミカルで斬新なカメラワークも珍しいのでは。映像の力が強すぎるせいか、物語の弱さが強調されてしまうのが惜しいんですが、それでも何度も観たくなるような魅力のある映画です。

 主演は「アパートメント」など多数の共演作があるヴァンサン・カッセルとモニカ・ベルッチ。”神父”ドミニク・ベテンフェルドや、刑事役のチェッキー・カリョの怪演も見所の一つ。過激な映像に堪える自信のある方はぜひ。

監督:ヤン・クーネン
原作:ジョエル・ホーサン
出演:ヴァンサン・カッセル、モニカ・ベルッチ、チェッキー・カリョ、ドミニク・ベテンフェルド
20060115 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

チャーリーズ・エンジェル/フルスロットル

 McG監督による人気リメイクシリーズ第2段。基本的な要素は維持しつつもスピード感は前作以上で、続編として期待通りの出来でした。

 ストーリーの煩雑さと荒唐無稽さは相変わらず。今回はギャグにも磨きがかかっています。生身にこだわったアクションは、前作の無重力アクションに比べるとよりカンフーらしくなり、見応えがありました。個人的にお気に入りの”痩せ男”クリスピン・グローヴァーも再登場しますし、前作を楽しめた人なら十分満足出来る内容でしょう。
 しかし今回の見所はマニアックに車関係でした。俳優以上に懲りに凝ったラインナップは監督の趣味のようですが、本当にどこから集めてきたんだと思うようなものもあって、カーマニアは堪らないのでは。中でも見所はMcG監督が「一度でいいからやりたかった」というモトクロスのアクション。バイク映画に決して負けないスタントは必見です。

 こういうパワフルなお気楽アクション映画は、観ているだけで楽しくなってくるので大歓迎。実はビジュアルもお色気も女性向けの健全さなので、そっち方面を期待した男性諸氏は納得いかないかもしれませんが、個人的にはこのぐらいのバランスで突っ走ってもらえると最高です。

監督:McG
出演:キャメロン・ディアス、ドリュー・バリモア、ルーシー・リュー、デミ・ムーア、バーニー・マック、クリスピン・グローヴァー、ジョン・フォーサイス
20060114 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

チャーリーズ・エンジェル

 同名の人気TVシリーズを映画化して人気を博したアクション大作。監督は、GAPのCFなど映像業界で活躍するMcG(マックジー)。とにかくテンポのいいアクションが連続するお気楽っぷりが最高です。
 エンジェル達の健全なお色気も良いけれど、その敵役である”痩せ男”クリスピン・グローヴァーが格好良い。彼の活躍で映画全体が引き締まっているので、単純なアクション大作に留まっていません。ドラマとドラマの間にアクションを効率よくサンドイッチする構成は定番なんですが、それを逆手にとってこの映画ならではのリズムを生み出しています。どこかで見たようなスローモーション多用のアクションも、センスの良いカメラワークでカバー。重厚さのかけらもない演出なんですが、そのノリが映画のノーテンキな雰囲気に合っていました。

 総じて、「マトリックス」の登場を受けたハリウッド映画の、一つの回答のような映画だと感じました。CGやワイヤーアクションを多用しつつ、お笑いもお色気も適度に混ぜ込んで、誰もが楽しめる作品に仕上げています。例によって観たあとには何も残らないんですが、アクション映画でもちょっと見たいなあというときに最適な一本かと。

監督:McG
出演:キャメロン・ディアス、ドリュー・バリモア、ルーシー・リュー、ビル・マーレー、クリスピン・グローヴァー、ジョン・フォーサイス
20060113 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ダークシティ

 「クロウ/飛翔伝説」のアレックス・プロヤス監督によるSFスリラー。記憶喪失モノと管理社会モノのミックスという、いかにもB級映画なプロットですが、アレンジと世界観が不思議と魅力的でした。

 物語的にもビジュアル的にも、監督がやりたかったんだろうなーという要素がふんだんに盛り込まれていて、見応えは十分。デヴィッド・S・ゴイヤー脚本のコミック的な発想が不思議な世界観とマッチして、独特の魅力を放っていました。
 ただオーストラリア映画界出身の監督らしい大味な出来で(といっても監督はエジプト出身のギリシャ系ですが)、盛り込みすぎで全体感を失っていたり、セットの造りがひたすら薄っぺらかったり、なにより最後のサイキック合戦はどうなのよと色々ツッコみどころ満載。当たって砕けろ的なチャレンジ精神は評価できるものの、もうちょっと完成度が高ければと残念でした。役者では、心理学者役のキーファー・サザーランドの熱演は必見。ちょっと見ただけでは分からないほど、特殊な役になりきっていました。

 ともあれ、90年代のSF映画としては異色の一本。特に「ロスト・チルドレン」あたりの影響が如実ですが(台詞にも出てきますし)、そうと割り切って観るとなかなか楽しめます。SF的なトリックや説得力より、映像や雰囲気を楽しみたい方は、一度は観てみるのも良いのでは。

監督:アレックス・プロヤス
出演:ルーファス・シーウェル、キーファー・サザーランド、ジェニファー・コネリー、ウィリアム・ハート
20060109 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ティコ・ムーン

 バンド・デシネの代表者エンキ・ビラルの監督したSF映画。その独特の世界観は映画になっても健在ですが、単調な物語が残念。それでも麻薬的な魅力を秘めた作品でした。

 ビラルのコミックが持つ独特の”間”を感じられるところがあるものの、全般に台詞を楽しむのがメインで、ドラマに波が少ないのが辛かった。原作の時点でそうなんですが、真剣に見入るというよりは全体の雰囲気と映像を楽しむ感じです。でもそれだけビジュアルの力は強いので、原作を知っている人にはなかなか興味深いのでは。そうでない人に受け入れられる映画かというとちょっと微妙ですが。
 それにしてもキャストが豪華。敷居は高いながらも、何とも言えない雰囲気は楽しめます。前作より色彩も豊かで、エンキ・ビラル的な世界観を期待するなら最適な一本かと。

監督:エンキ・ビラル
出演:ジュリー・デルピー、ヨハン・レイセン、リシャール・ボーランジェ、ジャン=ルイ・トランティニャン
20051230 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -