★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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激流

 カーティス・ハンソン監督によるアクション映画の秀作。これはケヴィン・ベーコンのための映画。とにかく彼の名演の光る一編に仕上がっていて、メリル・ストリープですらいつもの存在感が霞んでいます。

 もちろん基本はアクション映画で、激流をボートで下る映像の迫力や、クリフ・ハンガーばりのアクションシーンも見事なんですが、その間を巧みにつなげた登場人物たちのドラマもなかなかのものでした。誰が主役になってもおかしくないほど俳優の演技も見事。地味な人が揃っているとも言えるんですが、それが妙にリアルで、かえって引き込まれてしまいました。悪い点を挙げるならば、ラストのアクションが一番地味でさすがに不完全燃焼だったのと、邦題のセンスのなさぐらいなのでは。

 パンチ力不足の感は否めませんが、サスペンスが得意な監督がアクション映画を撮ると、ドラマも気にしてくれるので良いですね。こういう地味でも良い作品が増えてほしいところですが、現状のハリウッドでは難しいでしょうか……。

監督:カーティス・ハンソン
出演:メリル・ストリープ、ケヴィン・ベーコン、デヴィッド・ストラザーン
20051006 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

スリー・キングス

 ハリウッドの方程式から逸脱した作りが見事な異色戦争ドラマ。金塊を巡るブラックコメディかと思って観ていると、中盤から戦争映画としての本性を現し始めます。現地人を無視するアメリカ人の薄情さとか、正規軍とゲリラの入り乱れる戦況がさりげなく描かれていて、シュールな中にも説得力がありました。

 湾岸戦争当時の混沌とした状況を半ばデフォルメして描いているのが新鮮。現地人の困惑や窮状を巧みに物語に組み込みながら、それを前面に出さずに物語に徹しているところに好感を持ちました。
 最初はコントラストが強すぎると思った画面も、時間が経つにつれて、それが砂漠を撮影する上で最適だと思えるようになるから不思議。割と渋めながら人気のあるジョージ・クルーニーとマーク・ウォルバーグを主演に据え、脇にアイス・キューブとスパイク・ジョーンズを持って来るという、堅実なのか賭けに出てるのか分からない配役も、画面で見れば上手くはまっていました。

 デヴィッド・O・ラッセル監督は脚本もこなす人物で、この作品も一人で脚本を書いています。中途半端な政治メッセージがうるさい、という方もいると思いますが、僕はその「お粗末な政治の存在」が介入者としてのアメリカの立ち位置を上手く皮肉っている、と感じました。

監督:デヴィッド・O・ラッセル
出演:ジョージ・クルーニー、マーク・ウォルバーグ、アイス・キューブ、スパイク・ジョーンズ
20051005 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ロビン・フッド

 ケヴィン・コスナー主演の大ヒットアクション映画。非常にそつのない作りで、絵に描いたようなハリウッド映画に仕上がっていますが、それがこの映画の質には非常にマッチしていました。

 アクションあり、ユーモアあり、憎たらしい敵役あり、ラブロマンスありの、ハリウッド映画のお手本のような作品。大味ながら迫力のあるアクションシーンが満載で最後まで一気に楽しめるだけでなく、ファミリー向け映画としても安心して観ることの出来る良質のエンタテイメントです。
 初めて観たのは中学生の頃でしたが、ケヴィン・コスナーを差し置いて、モーガン・フリーマンとアラン・リックマンの二人に一気に惚れ込んでしまいました。その二人が好きな方も、ぜひ。ラストのファンサービスも粋ですね。

監督:ケヴィン・レイノルズ
出演:ケヴィン・コスナー、モーガン・フリーマン、クリスチャン・スレイター、メアリー・エリザベス・マストラントニオ、マイケル・ウィンコット、アラン・リックマン
20051005 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

バッドデイズ

 ジャン=ピエール・メルヴィル監督の55年作品「賭博師ボブ」のリメイク。大御所ハーヴェイ・カイテルと、若手のスティーヴン・ドーフの共演ですが、それほど話題にはなりませんでした。確かに今ひとつ華に欠ける内容ではあるものの、アクション映画としての完成度は非常に高くて驚かされます。

 犯罪の手口や、暴力シーンなどの描き方に迫力があり、作品全体の説得力を高めています。最初誰が主人公か分からないので悩むところですが、一度ストーリーが回り始めればあとは手に汗握る展開の連続で飽きさせません。絵に描いたような復讐物語で、役者も良いし、編集も良いし、ラブシーンも殆どないし、とりあえずアクション映画を見たいというときには十分すぎるぐらいの一本でした。
 個人的にはスティーヴン・ドーフが格好良くてついつい見てしまいましたが、映画的にはむしろハーヴェイ・カイテルが見所でしょう。バイオレンス描写は比較的控えめですが、一部演出で濃いところがあるので、苦手な人は敬遠した方が良いかもしれません。

 監督は渋い映画が得意なジョン・アーヴィン。オリジナルもちょっと気になりました。機会があったら観てみたいです。

監督:ジョン・アーヴィン
出演:ハーヴェイ・カイテル、スティーヴン・ドーフ、ティモシー・ハットン、ファムケ・ヤンセン
20051004 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

プライベート・ソルジャー

 ジョン・アーヴィン監督による、渋い雰囲気の戦争映画。油断していましたが、よく出来たドラマに感動してしまいました。思い入れが強すぎて本質を見失ったり、プロパガンダと化している大作映画より現実的で、何より映画として楽しめます。

 戦争をただのシチュエーションに留め、その中でもがく普通の人々を描きながら嫌みがないのに好感が持てました。戦場描写や兵器描写は割と少ないんですが、確実にツボをついてきます。肝心の戦闘シーンも地味で、全体に物寂しい展開と、ビジュアル的に全く売りどころがありません。そもそも選んだ題材が二次大戦終了間際、ヒュルトゲンの森での第28歩兵師団の激戦、という時点でマニア向け。
 でもそういった知識がない人でも、充分楽しめるのではないかと。伏線の張り方と人物描写のさりげなさで、かなり感情移入してしまいました。確実な脚本と演出があれば、ここまで映画の質が上がるという良い見本。もちろん、知識がある人にはもっと楽しめる映画です。

 邦題は「プライベート・ライアン」にあやかったものでしょうが、これは全く性格の違う作品でした。こういう戦争映画もアリだなあ、と。他人に勧めたい佳作。

監督:ジョン・アーヴィン
出演:ロン・エルダード、ザック・オース、ティモシー・オリファント、フランク・ホエーリー
20051003 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

SURVIVE STYLE 5+

 広告業界で活躍する多田琢が、満を持して映画業界に殴り込みをかけたブラックな長編映画。特徴のあるキャラクターは笑えますし、映像のセンスは今までの日本映画界にない素晴らしいモノでしたが、微妙に不満点が…。

 俳優の使い方は良い。浅野と橋本の不条理な闘争は映画のテンポを良くしているし、良々クンとヴィニー・ジョーンズのコンビは出てくるだけで笑えて、岸辺一徳でオチをつけるやり方も上手い。他の登場人物もなかなか存在感があります。でも、それらが上手くかみ合っているかというと微妙。どれも一発ネタであって、物語としては魅力を感じません。
 美術や衣装や撮影といった、見てくれを構成する要素は最高でした。ここまで映像に力のある日本映画は少ないでしょう。カメラワークも優秀で、撮り方一つで真面目なシーンと笑えるシーンを明確に分けているあたりにプロの技を感じます。

 こういう映画がもっと沢山作られるようになって、画作りの方から日本映画を改革していって欲しいところ。その点では非常に意味のある作品だと思います。あと、★一つじゃないのは、多分ピエール瀧とか三浦友和のおかげだと思います。

監督:関口現
企画・原案・脚本:多田琢
出演:浅野忠信、橋本麗香、小泉今日子、阿部寛、岸部一徳、神木隆之介、荒川良々、ヴィニー・ジョーンズ、三浦友和、千葉真一
公式サイト

20051002 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

遊びの時間は終らない

 「12人の優しい日本人」のプロデューサによる、なんとも日本映画らしいサスペンス・コメディの秀作。あまりに実直すぎる警官が銀行強盗役になったせいで、予行演習が一転して大事件に発展する様を巧みに描いています。

 冒頭からラストまで素早い展開で畳みかけつつ、細かい笑い一つ一つに必然性を持ってくるシナリオがとても魅力的。主人公対警察という構図が、次第にスケールを広げつつ周囲を巻き込んでいくあたりは、コメディ映画なのに感動的ですらありました。ここまでシナリオが秀逸な犯罪ドラマは、90年代の日本映画には少ないのでは。さりげなく豪華なキャストも見所。
 しかし何と言っても、この映画は主演の本木雅弘のための映画です。おそらく彼の魅力が最も良く引き出された映画ではないでしょうか。未見の方は、騙されたと思って是非。

監督:萩庭貞明
原作:都井邦彦
出演:本木雅弘、石橋蓮司、萩原流行、原田大二郎
20050926 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

デュエリスト/決闘者

 コンラッドの小説「決闘」を原作にした、風変わりな騎士道映画。リドリー・スコット監督はこれがデビュー作ですが、既に映像に対するだわりが見て取れます。70年代の映画の中でも間違いなくトップクラスの映像は必見。モノトーンに沈みがちなイングランドの風景を、朝焼けなどの微妙な光を利用して色彩豊かに描き出しています。
 ストーリーは二人の騎士の人生を追い続け、しかもそのほとんどが決闘シーンというのが妙ですが不思議と飽きさせません。決闘でしか通じ合えない頑なな主人公達の関係が、ナポレオン戦争前後という激動の時代と対比されて、とても印象的でした。

 77年作品で、しかも低予算なので大作映画のような派手なアクションはありませんが、落ち着いた味わいのある”決闘映画”でした。最近のリドリー・スコット作品しか知らない人は、ぜひ。

監督:リドリー・スコット
出演:キース・キャラダイン、ハーヴェイ・カイテル
20050925 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

バットマン・ビギンズ

 往年の人気シリーズの続編を、新鋭クリストファー・ノーラン監督で映画化。といっても物語はバットマン誕生のエピソードを追った内容になっています。さらにティム・バートン版で創られたイメージを払拭して、より原作に近づけようという意図があるようです。が、それがどうしても効果的には思えませんでした。

 きちんと主人公のトラウマとか、敵の存在意義なんかをストーリーで追おうとしているのは分かるんですが、それが実感として伝わって来ないのです。どんなに台詞で説明しても、それが俳優の演技や映像に反映されないので臨場感がなく、むしろ喜々として演じているモーガン・フリーマンや、逆に平凡すぎるゲイリー・オールドマンといった脇役の方が魅力的で、そこに今後への期待を持つことは出来ますが、それだけでした。
 でも何より不満なのは悪役が釈然としないこと。ヒーロー映画の敵役なのに、これでは最近溢れかえっているテロ映画の犯人役と何も変わりません。まあアメリカの情勢がそうさせたのかもしれませんが…。アクションシーンも僕が嫌いな「短すぎるカットバック」で繋ぐシーンが多く、楽しめたのはカーチェイスぐらい。でも所々で挿入されるジョークはいちいち笑えて、助かりました。

 原作ファンはこちらの方がしっくり来るかもしれませんが、僕は原作をあまり読んでいないのでパス。俳優陣が豪華なので、そこに魅力を感じられる人が観ても良いかもしれません。特に前述した二人は可愛らしかったので、ファンの方は是非。

監督:クリストファー・ノーラン
出演:クリスチャン・ベール、マイケル・ケイン、リーアム・ニーソン、モーガン・フリーマン、ゲイリー・オールドマン
公式サイト
20050914 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

妖怪大戦争

 キワモノ映画に定評がある三池崇史監督による妖怪映画。リメイクと言うよりは、オリジナル新作のようです。監督の独特の映画文法は相変わらずで、そこに最近の作品では恒例になった豪華キャストが加わり、とても贅沢な映画に仕上がりました。

 映画の前半では、昔ながらの日本映画のような地味なドラマが展開されるのですが、中盤でその世界観は崩壊し、怒濤の展開でラストまで一気に突っ走ります。これだけ奔放でエネルギーのある映画は、この監督にしか撮れないでしょう。アクが強い映画が苦手な人には拒絶されそうですが……。
 CGI場面になっても違和感を感じさせない演出やカメラワークは見事。何より、主演の神木隆之介を始めとした俳優陣が魅力的で、それを堪能できるというだけでも、この映画を見る価値はあります。個人的には神木くんのサービスシーンと、全く演技をしようという意思が見られない清志郎のぬらりひょんがツボでした。

 三池監督のファンと子供には無条件でウケるのでは。忌野清志郎と井上陽水による主題歌も必聴。

監督:三池崇史
出演:神木隆之介、宮迫博之、菅原文太、忌野清志郎、栗山千明、豊川悦司
公式サイト
20050912 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -