★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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激流

 カーティス・ハンソン監督によるアクション映画の秀作。これはケヴィン・ベーコンのための映画。とにかく彼の名演の光る一編に仕上がっていて、メリル・ストリープですらいつもの存在感が霞んでいます。

 もちろん基本はアクション映画で、激流をボートで下る映像の迫力や、クリフ・ハンガーばりのアクションシーンも見事なんですが、その間を巧みにつなげた登場人物たちのドラマもなかなかのものでした。誰が主役になってもおかしくないほど俳優の演技も見事。地味な人が揃っているとも言えるんですが、それが妙にリアルで、かえって引き込まれてしまいました。悪い点を挙げるならば、ラストのアクションが一番地味でさすがに不完全燃焼だったのと、邦題のセンスのなさぐらいなのでは。

 パンチ力不足の感は否めませんが、サスペンスが得意な監督がアクション映画を撮ると、ドラマも気にしてくれるので良いですね。こういう地味でも良い作品が増えてほしいところですが、現状のハリウッドでは難しいでしょうか……。

監督:カーティス・ハンソン
出演:メリル・ストリープ、ケヴィン・ベーコン、デヴィッド・ストラザーン
20051006 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

バッドデイズ

 ジャン=ピエール・メルヴィル監督の55年作品「賭博師ボブ」のリメイク。大御所ハーヴェイ・カイテルと、若手のスティーヴン・ドーフの共演ですが、それほど話題にはなりませんでした。確かに今ひとつ華に欠ける内容ではあるものの、アクション映画としての完成度は非常に高くて驚かされます。

 犯罪の手口や、暴力シーンなどの描き方に迫力があり、作品全体の説得力を高めています。最初誰が主人公か分からないので悩むところですが、一度ストーリーが回り始めればあとは手に汗握る展開の連続で飽きさせません。絵に描いたような復讐物語で、役者も良いし、編集も良いし、ラブシーンも殆どないし、とりあえずアクション映画を見たいというときには十分すぎるぐらいの一本でした。
 個人的にはスティーヴン・ドーフが格好良くてついつい見てしまいましたが、映画的にはむしろハーヴェイ・カイテルが見所でしょう。バイオレンス描写は比較的控えめですが、一部演出で濃いところがあるので、苦手な人は敬遠した方が良いかもしれません。

 監督は渋い映画が得意なジョン・アーヴィン。オリジナルもちょっと気になりました。機会があったら観てみたいです。

監督:ジョン・アーヴィン
出演:ハーヴェイ・カイテル、スティーヴン・ドーフ、ティモシー・ハットン、ファムケ・ヤンセン
20051004 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

シャロウ・グレイブ

 アンドリュー・マクドナルド制作、ダニー・ボイル監督、ユアン・マクレガー主演というトリオの記念すべき第一作。監督にとってはこれがデビュー作ですが、非常によく作り込まれたサスペンス映画でした。
 とにかく、イギリス映画ならではのナンセンスさが最高! 最低限の登場人物(メインはたった3人!)で進む密室劇は、確かに強引な部分も多々ありますが、その後の展開が面白いので気になりません。「金の行方」という物理的な牽引力で映画を引っ張りつつ、そこに「人間の狂気」というエッセンスをサイケデリックな演出とともに加味しているあたりにセンスを感じます。何よりオチの気持ちの良さと、思い切ったカメラワークには驚かされました。

 本国イギリスでは記録的なヒットを飛ばしたというのに、日本公開は「トレインスポッティング」の直前だったとか。とてもそうは思えないほどスタイリッシュな映像センスも一見の価値ありですが、そんなことより「映画の楽しさ」を堪能できるのがこの映画最大の魅力でしょう。必見。

監督:ダニー・ボイル
出演:ユアン・マクレガー、ケリー・フォックス、キース・アレン、クリストファー・エクルストン
20050929 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

記憶の扉

 イタリアの人気監督ジュゼッペ・トルナトーレによる、珍しく暗いムードのサスペンス・ドラマ。ポランスキーとドパルデューという配役の妙を楽しめます。
 暗い警察署の中でドパルデュー扮する謎の男が延々と尋問を受け続けるんですが、そのシチュエーション自体が事件の本質を上手く隠しています。最初はドパルデューとポランスキーの演技合戦にただ見とれていただけなのに、終わってみたら非常にトルナトーレ的な作品だったことに感動。小道具の使い方や、細かい台詞で伏線を張るいつもの方法論が、特にこの作品では効果的だったように思います。

 決して派手じゃないし、芸術的でもないんですが、大衆向けの「分かりやすい面白さ」がこの監督の魅力でしょう。ジャンルや先入観は頭から追いやってから観るのが正解です。

監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:ジェラール・ドパルデュー、ロマン・ポランスキー
20050927 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

CUBE

 カナダの新鋭、ヴィンチェンゾ・ナタリ監督によるSF話題作。センスも良いし、映像感覚も良いし、何より低予算であることを逆手に取ったこの設定には驚きました。ただ、後半の展開には不満です。

 役者の演技が全体的にくさいのと、状況説明に終始するだけの台詞が辛いのでは。台詞中心で追いつめていくような心理戦は、余程自然に見せない限りぼくは嫌悪感を抱いてしまうのです。設定が飲み込めてしまうと予想できてしまう割に、細部にこだわって理屈っぽい謎解きもダメでした。そして何より嫌なのは終わり方。ああいうのは物語として大嫌いです。不条理は好きだけど、人間の辛いところを意地悪にナイフでえぐるような展開は嫌だなあ。
 聞いた感じ好きなタイプだったので、いつも厳しい評価がさらに厳しくなってしまいました。奇抜なアイデアを得意とする監督のようなので、他の作品をチェックしてみたいところではあります。

監督:ヴィンチェンゾ・ナタリ
出演:モーリス・ディーン・ウィン、デヴィッド・ヒューレット、ニコール・デボア
20050927 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ソウ

 オーストラリア出身の監督は、どこかアメリカ映画とは毛色の違う映画を撮るのでけっこう好きなのですが、そのオーストラリアから新たな若手監督&脚本コンビが登場。ショッキングな映像が目を引くサイコスリラーですが、見所のミステリ部分がお約束すぎました。

 このオチは、推理小説を読む人なら予告編を見た時点で最初に想定するものだと思います。息の詰まるような密室劇を楽しめるかと思ったらそれも最初だけで、あとは別の方向に話が…。でも、それ以降をB級ホラー映画として観ると、なかなか楽しめるのかも。適度にスプラッタですし、犯人が演出過剰なところとか、ビジュアル重視で中身のないカメラワークとかも良く出来ています。落ち着きがないので観ていて疲れますが、僕がホラー映画が苦手なせいもあるかと。
 というわけで★一つ足そうかと思ったんですが、そもそもこの映画のやりたいことはB級ホラーじゃないと思うので、やっぱり足さないでおきます。純粋ミステリ系の映画は期待しない方が良いですね…。

監督:ジェームズ・ワン
脚本:リー・ワネル
出演:ケイリー・エルウィズ、リー・ワネル、ダニー・グローヴァー、モニカ・ポッター
公式サイト
20050923 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ミラーズ・クロッシング

 ジョエル&イーサン・コーエン兄弟による3作目の長編映画。過去のギャング映画を強く意識しながら、あくまでオリジナリティ溢れる作品にまとめ上げています。

 ギャング映画とハードボイルドのエッセンスを凝縮したかのような密度の濃いストーリーが、美しい映像美の中で展開される様は圧巻。ドライで印象的なキャラクターや、さまざまな出来事が折り重なって事態がどんどん悪化していく様など、後のコーエン作品に顕著な魅力が、既にこの映画で完成されているあたりは凄いと思いました。
 ガブリエル・バーンのダメ男っぷりが最高に格好いい。あとはアルバート・フィニーとかジョン・タトゥーロとかスティーヴ・ブシェミとか……俳優だけでも見どころは満載です。映像も、フィルム・ノワールのように思わせて、重要な見せ場を昼や朝に持ってきて美しくキメてしまうあたりは流石。ちなみに、撮影監督はあのバリー・ソネンフェルド。

 最初に観たときはこの映画の魅力が全く分からなかったんですが、その他のコーエン作品などを観た後にもう一度観たらハマりました。ギャング映画というお約束の中ですら滲み出てしまう、この兄弟監督の強烈な個性というのが最大の見どころ、ということでしょう。

監督:ジョエル・コーエン
脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
出演:ガブリエル・バーン、アルバート・フィニー、ジョン・タトゥーロ、マーシャ・ゲイ・ハーデン、スティーヴ・ブシェミ
20050922 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

オーシャンズ12

 スティーヴン・ソダーバーグ監督による、大ヒット映画の続編。前作が典型的なハリウッド映画のスタイルだったので今回もそれほど期待していなかったんですが、おかげで見事にハマってしまいました。ここ数年のハリウッド大作映画系ではベスト。

 何が面白かったのかと聞かれて明確にコレと答えられるものはないんですが、強いて言うなら映画全体が「良い雰囲気」だったことでしょうか。キャストだけならスター映画なのに、どう見てもインディーズ映画みたいなノリで、シナリオは適度にご都合主義でも決して浮き足立たず、テンポが駆け足でも喰らい付いていけば最後まで楽しめるという、全てのさじ加減が絶妙にブレンドされて、前作とは比較できないほど粋で笑えて痛快な映画になっています。そして何より、人も風景も全てが華やか! でも、楽屋ネタも前作への皮肉もたっぷりなので、そういうので「雰囲気が台無し!」と怒ってしまう人向きではないですね。
 前作から共通の俳優は言わずもがなですが、中でもマット・デイモンはオイシイ役どころでした。この人はオトボケ役が一番似合うと思います。初登場組では、やはりヴァンサン・カッセルの貴族っぷりが目を惹きます。サウンドトラックも秀逸で、単体の音楽CDとしても充分楽しめるほどでした。なお、今回も前作と同じ8500万ドルという、このキャストからしたら破格の低予算で撮り上げているのも注目すべき点でしょう。

 とにかく全体のユルさが最高でした。全力で映画史に残る傑作を作ろうとして空回りしている大作映画が多い中で、肩の力を抜いて観られる最高のエンタテインメントに仕上がっています。俳優の表情が他のどんな映画より生き生きしているのが、その何よりの証拠ですね。

監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、ジュリア・ロバーツ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、アンディ・ガルシア、マット・デイモン、ヴァンサン・カッセル、ドン・チードル
20050919 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

バッド・エデュケーション

 ペドロ・アルモドバル監督による自伝的ドラマ。相変わらずの欲望と倒錯の世界が、この映画でも展開されています。ガエルを観に行ったつもりが、フェレ・マルティネスの色気にすっかりやられてしまいました。

 物語自体はサスペンスとして良くできているんですが、肝心の主人公二人の境遇に切実さが感じられず、観ていてイマイチ入り込めませんでした。構成もあまり効果的じゃなかったような。サスペンス部分をわざと盛り上げようとして、肩すかしを食った感じです。せめてイグナシオの動機付けが、もう少し早い段階で説明されていたら納得できたかも知れないんですが……過去の神学校でのエピソードとか、惹きつけられる部分も多いだけに残念。
 監督の、やりたいことをやった! という勢いは感じられました。レトロでポップなアヴァン・タイトルや、これでもかというぐらい濃いセックスシーンも好きです。

監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、フェレ・マルティネス
公式サイト
20050918 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -