★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ムーラン・ルージュ

 バズ・ラーマン監督の"レッド・カーテン三部作"の完結編となるミュージカル映画。期待をはるかに上回る内容に驚かされました。正統派ミュージカルのベクトルを現代的に発展させつつ、とことんまで極めたような印象です。
 まず何と言っても音楽が凄い。有名な曲ばかりなものの、それを映画の雰囲気に合わせてアレンジしてあって聴き応えがありました。そして、セットも衣装も豪華絢爛。そこにバズ・ラーマン監督の縦横無尽の演出が加わって、あまりの情報過多にクラクラしますが、それが観ているうちに不思議にトリップ感へと変わります。音楽シーンにこだわったためなのかシンプルすぎるほどの脚本も、それだけ純粋で分かり易く、かえって映画に骨太な印象を与えていました。

 俳優では、ユアン・マクレガーとニコール・キッドマンのカップルが、何より非常に画になっています。あとジョン・レグイザモがロートレックを演じているというのもツボ。現代ハリウッドらしい、映像も音楽も盛り沢山のミュージカル大作として、大満足の出来でした。DVDはもちろん、写真集もサウンドトラックも”買い”です。

監督:バズ・ラーマン
出演:ユアン・マクレガー、ニコール・キッドマン、ジョン・レグイザモ、ジム・ブロードベント、リチャード・ロクスバーグ
20060305 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ゴーストワールド

 ダニエル・クロウズの人気コミックを、「クラム」のテリー・ツワイゴフ監督で映画化。「ダメに生きる」というキャッチコピーからして僕のツボに響きまくりで、とても印象的な青春映画でした。

 主人公の、達観しているのかただの幼さなのか判別の付きにくい行動が、現代的でとても共感出来ます。登場人物の性格設定があまりにバラバラなのも妙にリアル。みんなどこかに実在していそうで、誰もが主役になりうるだけの重さがありました。しかし映画では、主人公イーニドの純粋で妥協しない性格に代表される”他人との距離”に絞ってエピソードが積み重ねられていて、そのさりげなさが絶妙でした。寓話的なラストも、作品のムードに合っています。
 とにかく、社会に出なきゃいけないのに、自分と社会との大きな溝を克服出来ずに悩んでしまう、その心境を痛々しいまでに描写していて、身につまされました。社会に溢れる「普通」という考え方を、子供の頃は嫌悪していたのに、どうしてそれに迎合してしまうんだろう、という問題提起があまりに切実。青いって良いなあ。

 主演のソーラ・バーチとスティーヴ・ブシェミの掛け合いが、楽しいのにもの悲しい。これぞまさにミニシアター系の醍醐味です。青春は美化されがちだけど、要するにアレはガキがはしゃいでるだけで、そのまま年だけ取るからバカな大人が増えるのよ(自分も含めて)、という映画です。そんなわけで、バカな大人必見。

監督:テリー・ツワイゴフ
原作:ダニエル・クロウズ
出演:ソーラ・バーチ、スカーレット・ヨハンセン、スティーヴ・ブシェミ、ブラッド・レンフロ
20060303 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

奇人たちの晩餐会

 フランシス・ヴェベール監督による軽妙なコメディ。舞台劇のように一つの部屋で繰り広げられるドタバタ劇で、練り込まれたシナリオが秀逸な佳作です。
 「メルシィ!人生」のときにも感じたことですが、大きな波はないもののひたすら笑えるシナリオが凄い。バカを笑いものにする晩餐会というアイデアも皮肉タップリなうえ、その晩餐会に否応なく参加させたくなるほどのバカをきちんと表現出来ています。さるげなくホロリとさせるシーンや、気持ちの良い大オチまであるのには感服しました。コメディの基本が出来ています。スケールの大きい話ではないので劇場向けかというと疑問ですが、これだけのシナリオを見せられると文句は言えないですね。

 俳優ではジャック・ヴィルレ(ピニョン役)とダニエル・プレヴォー(査察官役)の二人が見事なコメディアンぶりを発揮していて、セザール賞の受賞も納得。それにティエリー・レルミットがまた格好いいんですが、今回は翻弄されっぱなしでオイシイ役回りでした。この人見たさに観た映画でもあったので、大満足です。

監督:フランシス・ヴェベール
出演:ジャック・ヴィルレ、ティエリー・レルミット、アレクサンドラ・ヴァンダヌート、カトリーヌ・フロ、ダニエル・プレヴォー、フランシス・ユステール
20060302 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

12人の優しい日本人

 シドニー・ルメット監督の「十二人の怒れる男」をモチーフにした東京サンシャインボーイズの舞台劇を、中原俊監督で映画化。登場人物の日本人らしい葛藤に、腹がよじれるほど笑える傑作コメディです。
 ”もしも日本に陪審員制度制度があったら”というアイデア自体が秀逸ですが、それをここまで論理的に組み上げた三谷幸喜の脚本センスは凄い。役者の演技も際立っていて、116分という上映時間の中に無駄な間が全く無いことに驚かされます。しかも、繰り広げられる議論がことごとく日本人的で、自分の意見がなかったり結論を先延ばしにしたりと、法廷劇の常識をことごとく覆すトリッキーさは爆笑もの。落語のようにきっちり落とすラストといい、非の打ち所のない内容です。

 俳優では、誰を差し置いても相島一之のしつこい演技が印象的でした。当時まだ無名だった豊川悦司の飄々とした佇まいも必見。でも、それ以外の役者も全員が個性的で、”日本人”の博覧会のような趣の映画でした。地味な映画ですが、コメディ好きにはお薦めの一本。

監督:中原俊
出演:相島一之、塩見三省、上田耕一、二瓶鮫一、中村まり子、大河内浩、梶原善、山下容莉枝、村松克己、林美智子、加藤善博、豊川悦司
20060228 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

シコふんじゃった。

 「ファンシイダンス」で見事なコメディセンスを発揮した周防正行監督の、メジャー第二弾作品。前作と構造的にも俳優的にもほとんど一緒なんですが、それでもいい!と思えてしまう面白さに脱帽。
 HOW TO ものという題材の類似に始まり、主人公・秋平ちゃんの動機、竹中直人や田口浩正や宝井誠明の役柄、モノローグの入れ方などなど、前作を観た人には既視感たっぷりの要素が連続します。でも、そんな予定調和ぶりすら堂に入っているあたり、小津マニアの周防監督らしいというか。映画のテンポは非常に緩やかなんですが、慣れない環境に四苦八苦する主人公たちの姿を素直に描いていて、気持ちよく笑えました。学生相撲という聞き慣れないジャンルに戸惑いつつ、次第にハマっていく主人公の心情を巧みにとらえたシナリオは絶妙。見ているうちに自然と主人公に同調してしまって、映画の最後には一緒にシコを踏みたくなってしまうこと請け合いです。

 俳優では、まわし一丁が似合いすぎの本木雅弘がアイドル出身とは思えない名演。もちろん竹中直人の怪演も見物なんですが、モッくんには惚れました。きっちり笑えて最後はちょっと感動もできる、コメディ映画の名作です。必見。

監督:周防正行
出演:本木雅弘、清水美砂、竹中直人、宝井誠明、田口浩正、水島かおり、宮坂ひろし、柄本明
20060226 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ファンシイダンス

 小津映画をパクりまくった異色のピンク映画「変態家族 兄貴の嫁さん」で一部の話題をさらった周防正行監督のメジャーデビュー作品。日本映画ならではの緩やかな演出と、トボけた笑いがたまらない秀作コメディです。
 それまで馬鹿にしていた”お坊さんライフ”に、典型的なパンクロッカーだったはずの主人公が着々とハマっていく様は、それだけで笑えます。と同時に、一挙手一投足が洗練されていくのを見せつけられると、観ている者まで”お坊さんってカッコイイかも…”と思えてくるあたりが侮れません。また主演の本木雅弘のなりきりっぷりも最高で、小津の影響がそこら中から香る周防監督の演出との相性も抜群。竹中直人の中途半端な破戒僧ぶりなど、登場する他の僧もそれぞれに個性があって印象的でした。

 挿入歌「若者たち」の使い方も絶妙。あっさりした演出の中に、さりげなく青春の香りを漂わせるあたりも周防監督の好ましい点ですね。映画文法自体は古い日本映画のそれなので、よりテンポの良い姉妹作「シコふんじゃった。」を先に観てからの方が楽しめるかと。ともあれ、邦画コメディと言われて真っ先に思い浮かぶのがこの映画なので、未見の方は是非。

監督:周防正行
原作:岡野玲子
出演:本木雅弘、鈴木保奈美、大沢健、田口浩正、竹中直人、甲田益也子、彦摩呂、宮坂ひろし、宮琢磨
20060225 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

座頭市

 子母沢寛原作の人気時代劇を新たな解釈で映画化した、北野武監督によるアクション大作。エンタテイメントに徹した作りながら、現代性も兼ね備えたなかなかの良作です。
 あまり深いことは考えず殺陣と人情で引っ張る、いかにも時代劇な作りはソツがありません。逆に言うと新しい要素も少ないんですが、見事な歌や踊り、それに寒いコントといった引きの要素が気持ち良いので単純に楽しめます。これが軽薄に思える人にはダメなんでしょうが、僕は映画自体を”楽しんでやろう”という監督の姿勢が感じ取れたので満足。たまにはこういう脳天気な映画だっていいじゃないか、と。金髪に朱塗りの仕込み杖というビジュアルも違和感ありませんし、肝心の殺陣の出来も上々。タケシの早技も見事ですが、浅野忠信のしっかりとした太刀筋もかなりのものです。

 まさに大衆向けの娯楽映画といったノリの、気軽に楽しめる作品でした。「七人の侍」などの黒沢映画へ強烈なオマージュを捧げつつ、それを笑い飛ばせるだけの余裕を見せた北野武は、やはり現代日本を代表する監督なのだなあ、と納得。

監督:北野武
原作:子母沢寛
出演:ビートたけし、浅野忠信、夏川結衣、ガダルカナル・タカ、大楠道代、橘大五郎、大家由祐子、岸部一徳、柄本明、樋浦勉
20060224 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

黒い十人の女

 '61年作品という古さを感じさせない、市川崑監督による傑作フィルム・ノワール。サスペンスとコメディという二つの要素を巧みに絡めた、軽妙なストーリーが秀逸です。

 まず船越英二の演じる浮気性のTVプロデューサーを、山本富士子や岸恵子といった十人の女性達が取り合う、という構図が面白い。ヤクザ社会が染みついている日本でノワールをやるとなんとも様にならないものですが、この”女性の陰謀”という題材は見事にハマっていました。TV局内の描写も説得力があって物語に深みを加えていますし、そこに佇む船越英二のいかにもな業界人っぷりは必見です。
 しかしこの映画の魅力は、やはり市川監督の映像センスに尽きるでしょう。カメラの置き方、光の当て方、音の乗せ方といったテクニックを駆使して画面の密度を上げ、場面に応じた緊張感をつくり上げる縦横無尽な演出は圧巻。余韻を残しつつバッサリ終わるラストといい、市川監督の独壇場と言える内容でした。

 総じて、洒落の効いたシナリオと市川監督の一流の演出が楽しめる、上質のサスペンスでした。それらを全てひっくり返すぐらいの個性に欠けるのが悲しいところですが、今でも全く色褪せないスタイリッシュな映像は必見です。

監督:市川崑
出演:船越英二、岸恵子、山本富士子、岸田今日子、宮城まり子、中村玉緒、ハナ肇とクレージーキャッツ
20060222 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

鉄男 TETSUO

 映画作家・塚本晋也の名前を世界に知らしめた作品。監督・脚本・撮影・美術・編集・出演の六役をこなした塚本監督の、まだ荒削りながらも力強い、映像に対するアプローチが感じられる問題作です。
 塚本監督の共通するテーマである”肉体”への表現が、既にこの映画の時点で明確に志向されています。67分という短い上映時間ながらも、長編映画以上のボリュームを感じさせる濃密な映像が凄い。モノクロであるが故にかえって力強さが増幅され、叙情とか感傷といった生半可な表現は、ことごとく金属化した”肉体”の下に叩き伏せられるのみ。言葉やプロットでどうこう言うより、完全に感覚で捉える映画でした。

 明らかに商業映画ではないし、暴力描写が嫌いな人も絶対に観てはいけない部類のものですが、くだらない精神論をぶって悦に浸るような映画よりよほど実のある内容だと感じました。しかし、体力的に余裕がないときには遠慮した方が良いのは確実なので、観る前は体調に気を付けましょう…。

監督:塚本晋也
出演:田口トモロヲ、塚本晋也、藤原京、叶岡伸、石橋蓮司
20060216 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

新幹線大爆破

 佐藤純弥監督による、日本パニック映画史上に残る大傑作。新幹線ひかり号に爆弾を仕掛け、時速80キロ以下になるとそれが爆発する、という発想を有効に活用した脚本が秀逸でした。
 とにかくそのアイデアが良い。実際に発生したときにどうなるか容易に想像できるので、新幹線に同乗してしまった人々のパニックぶりも頷けます。同時に、高倉健などが演じる犯人グループの切実なドラマと巧妙な手口も、いかにも70年代というケレンに溢れた設定で、かつ犯罪映画として単体で立てるほど。こういう一つ一つの作り込みがしっかりしているので、映像や端役の演技が多少チープでも気になりませんでした。

 ここまでアクションとサスペンスが両立できている日本映画というのは珍しいかも知れません。見るたびに手に汗握る、最高のパニック映画です。ちょっと昔の制作なうえに、当時の国鉄からロケ撮影を断られたという経緯もあって映像の迫力は若干落ちてしまうんですが、それを差し引いても必見の一本。

監督:佐藤純弥
出演:高倉健、山本圭、宇津井健、田中邦衛、織田あきら、千葉真一、小林稔侍、永井智雄、志村喬
20060213 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -