★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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THX-1138

 ジョージ・ルーカス監督の長編デビュー作。学生時代に撮った短編映画を評価されて劇場用に作り直したもので、映画としての構成は単調で分かりにくいのですが、そのストイックな設定や物語はSF好きのツボを心得ています。

 第一に登場人物が男性も女性もスキンヘッドという、全く映画向きじゃないビジュアルを貫いているのに驚きました。そのだけで近未来的管理社会の性質がストレートに観客に伝わってきます。ルーカス監督なので掘り下げの足りなさには泣きが入りますが、それでも印象的なカットや台詞が散見されました。何よりラストのカットは、SF映画史上に残る名シーンなのではないでしょうか。
 近年大量生産されている、SFという名を冠しただけのアクション映画に比べれば、充分SFとして観賞に堪える作品。「メトロポリス」や「アルファヴィル」のような過去の名作SFに着想を得ながら、独自のイメージを構築出来ている点だけでも凄い。それに”管理社会SF”を多数目にしてきた人にとっては、そのいいとこ取り的なこの映画は一見の価値アリなのです。

 因みに、最近発売されたDVD版では多数の追加、修正が行われているようです。うーん、それも観てみたいかも。

監督:ジョージ・ルーカス
出演:ロバート・デュヴァル、マギー・マコーミー、ドナルド・プレザンス、イアン・ウルフ
20051225 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

イディオッツ

 ラース・フォン・トリアー監督による「黄金の心」三部作のうちの一つ。強烈な映画体験が出来るという意味では、非常にトリアー監督らしい実験作でした。

 トリアー監督の作品には「視点を変える」という共通するテーゼを感じるのですが、この映画では特にそれを意識させられました。障害者のふりをすることで、現実の不条理を見いだしつつ、見いだしてしまったがために現実に戻れない人々の”馬鹿騒ぎ”には、泣きたくなるほどの無力感があります。 ドグマ95にほぼ準じる形式で制作されたため、そのテーマが更に現実味を帯びて、現実に起こっている事件のような切実さが伝わってきました。
 ただ、やはり完成度が低いのが問題の一つ。ドラマに焦点を絞ったのだから映像の完成度は二の次と言えばそれまでですが、あくまで”次の傑作”へ向けた”実験”の役割の方が強い映画だと思いました。

監督:ラース・フォン・トリアー
出演:ボディル・ヨルゲンセン、イェンス・アルビヌス、アンヌ・ルイーセ・ハシング、トレルス・リュビュー
20051221 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

アリゾナ・ドリーム

 サラエボ出身のエミール・クストリッツァ監督による、奇妙な味わいのドラマ作品。演出などに独特の空気感がありますが、いまいち入り込めませんでした。
 監督の後の作品に見られる、白昼夢を見ているような映像感覚はこの映画でも健在です。普通のドラマの中に突如として挿入されるシュールレアリズム映画のような演出は、一度経験する価値はあります。そんな現実と非現実の境界が曖昧な世界で繰り広げられる、意外とシリアスな努力と挫折の物語に、この監督ならではの諦観のムードがありありと滲んでいました。しかし、それにしても脚本や編集のセンスが繊細すぎ。僕は夢を早々に諦めてしまった世代の人間なので、そこに感傷を覚えること自体が滑稽に思えてしまいます。

 ちなみに、制作国はフランスですが、劇中使われている言語は主に英語。ジョニー・デップとヴィンセント・ギャロが、どちらも得体の知れない可愛らしさを振りまいていて目を惹きます。この監督の作品を観たことがないか、もしくは他の作品にお気に入りがあるのなら、一度は観てみるのも良いかと。もちろん監督のファンなら必見でしょう。

監督:エミール・クストリッツァ
出演:ジョニー・デップ、ヴィンセント・ギャロ、ジェリー・ルイス、フェイ・ダナウェイ、リリ・テイラー
20051220 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち

 ゴア・ヴァービンスキー監督の名前をヒットメーカーとして印象付けた海賊モノのアクション大作。オリジナルは、ディズニーランドで人気のあのアトラクション。ディズニーなので平凡な作品になるかと思いきや、ジョニー・デップ扮するスパロウ船長のおかげで、ひとクセある内容に仕上がっています。

 ジョニー・デップという(すっかりハリウッドの第一線から退いた感のある)俳優をビッグ・バジェット映画に連れ戻したというのが、この映画の第一の功績でしょう。ジェフリー・ラッシュの真っ当な名演が霞むほどの存在感は流石。オーランド・ブルームやキーラ・ナイトレイのような若手は鼻先であしらって、143分という長い上映時間のほとんど全てでその魅力を振りまいています。あまりにデップの前評判が良かったので、観た直後は正直「こんなもんか」と思いましたが、それでも他の俳優には真似の出来ない名演でした。
 演出や編集はヴァービンスキー監督らしくソツのない出来。海賊たちの設定が狙いすぎで辛いところですが、映像的な見栄えは抜群でした。マンガのような紋切り型の展開もディズニー映画ならと諦められるレベルで、とにかく深く考えずスケールの大きいアクションを楽しむのが正解ですね。

 海賊アクション映画というのは不毛なジャンルでしたが、これは万人向けでアクションも悪くない出来でした。デップのファンにはもちろんオススメ。彼がいる限りこのシリーズは安泰でしょう。

監督:ゴア・ヴァービンスキー
出演:ジョニー・デップ、オーランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイ、ジェフリー・ラッシュ、ジョナサン・プライス
20051219 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ロスト・イン・ラ・マンチャ

 鬼才テリー・ギリアム監督による映画"The Man Who Killed Don Quixote"がいかにして制作中止に陥ったかを、「12モンキーズ」でもドキュメンタリーを手がけたキース・フルトンとルイス・ペペのコンビが撮影したドキュメンタリー。まさにドン・キホーテそのものを思わせるギリアム監督の勇姿は必見。

 ギリアム監督が最高のヒーローだと語るドン・キホーテを題材にしたブラックコメディ映画は、ファンならずとも見たいと思わせるような夢にあふれた企画で、これは所々で挿入される”撮影済みのシーン”からもひしひしと伝わってきます。しかし様々なアクシデントが襲い掛かり、映画は製作中止。これが絵に描いたようにひどい話で、ひどすぎるあまり笑ってしまうほど。奇しくもこのギリアム監督の無謀とも思える行動自体がドン・キホーテという英雄の姿と重なって見えるところが、最高に悲しいところです。
 映画の評価とは全く関係ないんですが、ジョニー・デップの普段着が格好良かった! 映画の完成を願っていますが、キャストは集め直すことになるのかなあ……。でも監督自身も諦めたわけではないようなので、辛抱強く待ちましょう。

監督:キース・フルトン、ルイス・ペペ
出演:テリー・ギリアム、ジョニー・デップ、ジャン・ロシュフォール
20051218 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ショコラ

 感動的な語り口で評価が高いラッセ・ハルストレム監督による、ファンタジックな、それでいて重いテーマのドラマ。全体としては綺麗にまとめていますし、表現したいことも分かるんですが、うまく騙されたような気分。
 古い因習に支配された街が、僕にはそれほど不幸と思えなかったので、それを打ち壊す主人公の行動が自分勝手な”悪”に見えました。お伽噺なので教訓的なのは良いとしても、”ルール”に対案を立てて反論するのではなく、異質な文化の流入で”ルール”をうやむやにするというのは、今の文明が犯している罪そのものなのではないでしょうか。それを美談にしてしまっている時点で、自由という名の暴力を正当化しているようで馴染めませんでした。オチの付け方はファンタジーらしくて秀逸なので、世界観を受け入れられる人なら充分楽しめる映画だとは思います。

 ところで、ジョニー・デップは全然活躍しません。ファンとしては寂しいところですが、これ以上出てこられると違う話になってしまうので我慢です。ピーター・ストーメアも、役柄は良いんですが劇中での役割は微妙。全体に、スッキリしない映画でした。

監督:ラッセ・ハルストレム
出演: ジュリエット・ビノシュ、ヴィクトワール・ティヴィソル、ジョニー・デップ、ピーター・ストーメア
20051216 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

フェイク

 イギリス出身のマイク・ニューウェル監督による、実話を元にしたサスペンス、というより二人の男の友情ドラマ。主演のジョニー・デップとアル・パチーノの演技も見事なものの、全体的に緊張感が足りない印象です。
 物語の引きにである主役二人の友情はきちんと描けているものの、イマイチなのは映画的な余裕のなさからでしょうか。実話ベースなのは分かりますが、展開が平板すぎました。登場するマフィアが情けない人物ばかりなのもガッカリ。あと、ラストの最も重要な場面をWOWOWか何かのCMで流していたせいで、せっかくの感動が薄れてしまったというのもあるかもしれません。一瞬ならまだしも、どういう意図のシーンか分かってしまうほど流しておいて、映画もそこで終わりというのは酷いなあ、と。でも、それがなくてもラストの演出はチープすぎたと思います。

 丁寧に作り込んであるせいか、最後まで飽きずに見られるのは評価したいところ。家族というものについて結構考えさせられるあたり、テーマ性も強く出ていました。ただ、ハリウッドの方程式にはまった内容で、せいぜい「良くできたドラマ」止まりなのが残念。パチーノとデップを見たい人にはオススメです。

監督:マイク・ニューウェル
出演:アル・パチーノ、ジョニー・デップ、マイケル・マドセン
20051215 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

アタメ

 特殊な愛の形を描いた、ペドロ・アルモドバルらしいラブストーリー。アントニオ・バンデラスの一途な変態ぶりが楽しめる異色作です。
 ストーカーに監禁された女性が、いつしかそのストーカーに心を寄せてしまう……という筋書きはありがちですが、それを細やかな心理描写で綴るのではなく、突飛な登場人物とユーモラスな映像感覚でねじ伏せていて、不思議と説得力がありました。まだ20代後半のバンデラスも、暴力的に描かれているものの、どこか子供っぽくて愛嬌すら感じるほど。エンニオ・モリコーネによる音楽もムーディーなんですが、逆に上品すぎたかもしれません。

 もっと刺激的な内容を想像していましたが、比較的落ち着いて観られるもので安心しました。強烈なインセンスの香りのような、まったりとした高揚感があります。ただのエロスではなく、突き抜けたエロスという感じ。このアクの強さがアルモドバル監督作品の魅力なのでしょう。

監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ヴィクトリア・アブリル、アントニオ・バンデラス、ロレス・レオン
20051214 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

28日後...

 ダニー・ボイル監督ならではのスタイリッシュな映像で描かれたゾンビ映画(厳密にはゾンビとは違いますが)。この手の映画としては定番のストーリーですが、しっかり楽しめる現代風のホラーになっています。

 ダニー・ボイル監督の強みは、ワンカットごとの説得力が尋常じゃないことでしょう。映像の強みを良く理解している人で、無人のロンドンや封鎖されたハイウェイを少ないカットで臨場感たっぷりに描き出し、チープになりそうな物語を巧く引き締めています。ロメロ版のゾンビを観た人なら既視感が伴う要素ばかりで、テーマらしいテーマもありませんが、その映像のおかげで最後まできっちり楽しめました。
 しかし主演のキリアン・マーフィーが格好良かった。弱々しい演技も狂気に満ちた暴走ぶりも様になっています。久々にダニー・ボイルらしい映像も楽しめましたし、収穫の多い映画でした。

監督:ダニー・ボイル
出演:キリアン・マーフィ、ナオミ・ハリス、クリストファー・エクルストン、ミーガン・バーンズ、ブレンダン・グリーソン
20051212 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

奇談

 日本漫画界に燦然と君臨するカルト作家諸星大二郎の伝説的名作「生命の木」を小松隆志監督が映画化。伝奇ホラーの醍醐味が詰まった原作のニュアンスは再現できていましたが、微かな物足りなさを感じました。

 ひたすら単調なテンポで進行する物語が、かえって原作のまったりとした雰囲気を上手く再現しています。”隠れキリシタン”に関するケレンもしっかり語っているので、伝奇モノとしても見所はありました。ただ、”神隠し”という映画オリジナルの要素を加えたうえに、それがきちんと説明出来ていなかったのが残念。原作の「天神さま」とかのエピソードを踏まえているのかなあ、と推測することも出来ますが、それでも矛盾点が残るし…。
 主演の阿部寛と藤澤恵麻は想像以上にハマっていましたし、ハナレの人々の壊れ具合も良かった。映像も、東北の寒村っぷりは予想以上に出ていて、ラストのCG処理なんかも十分だと思います。原作の独特の絵柄を何らかの形で映像として昇華して欲しかったのですが、さすがにそこまでの映像表現は無理だった様子。惜しいような気もするし、これで良いような気もするし、という感じで微妙でした。

 もともとエンタテイメントにはなりにくい題材なので、これ以上の作品にするにはかなりの作り込みが必要でしょう。むしろ巧くまとめたとも言えますが……。原作ファンと、あと伝記モノに興味がある方は是非。

監督:小松隆志
原作:諸星大二郎
出演:阿部寛、藤澤恵麻、ちすん、柳ユーレイ、神戸浩、一龍斎貞水
公式サイト
20051209 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -