★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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MEMORIES

 大友克洋の総監督によるオムニバスの劇場アニメ。SFやギャグといった、大友漫画の持つ異なるテイストを抽出した3つの短編は、それぞれ個性的で見応えがあります。
 シリアスなSFホラーが楽しめる「彼女の想いで」、濃いギャグとナンセンスさの「最臭兵器」、そして大友の欧州アニメーションへの愛が炸裂した「大砲の街」の3本で、どれも圧倒的な表現力にめまいがするほどでした。特に「彼女の想いで」の的確な演出と豪華な美術は、何度観ても唖然とします。「最臭兵器」の馬鹿アクションと、山梨ローカルぶりも必見。ただ、「大砲の街」の感覚は、劇場公開時こそ新鮮でしたが、ヨーロッパのアニメを多数観てしまってからだと、どうしても見劣りしますね。その辺りが残念。

 大友克洋の短編集を読んだことがある人なら、見知った空気を劇場で観られるのはやはり嬉しいでしょう。菅野よう子、石野卓球などが参加した音楽も個性的で良い。映画として小さくまとまってるので、もう一工夫欲しかった気はしますが、日本アニメのポテンシャルの高さを実感できる秀作です。

監督:森本晃司、岡本天斎、大友克洋
原作:大友克洋
出演:磯部勉、山寺宏一、飯塚昭三、高島雅羅、堀秀行、羽佐間道夫、大塚周夫、林勇、キートン山田、山本圭子、仲木隆司
20060429 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

スピード

 撮影監督として数多の作品を手がけてきたヤン・デ・ボンの監督デビュー作にして、純粋アクション映画ブームの火付け役になった爽快アクション。分かりやすい娯楽作、の一言に尽きます。
 車が高速で疾走するというのは、動的メディアである映画の長所を上手く捉えたテーマの一つで、その魅力を巧みに引き出している点でこの映画は高く評価できます。サスペンスの現場が高速で移動しているというのは、否応なく緊迫感が沸きますね。個々のアイデアは過去の名作映画に見られるものですし、物語的な目新しさも皆無ですが、組み立て方が巧みなので気になりません。あとデニス・ホッパーの、ふてぶてしい悪役ぶりも良かった。あまりに行儀の良い話なのが気になりますが、まあ万人向けのアクション映画としては妥当なのかなーと。

 マーク・マンシーナによるメイン・テーマも絶妙。単純にドカンと景気のつく映画が観たい、分刻みで畳み掛けてくるアクションを楽しみたい、という要求に見事に答えた作品でした。

監督:ヤン・デ・ボン
出演:キアヌ・リーヴス、サンドラ・ブロック、デニス・ホッパー、ジェフ・ダニエルズ、ジョー・モートン
20060425 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ブルース・ブラザース 2000

 第1作より18年を経て製作された、カルト音楽コメディの続編。さすがにパワーダウンは否めないものの、前作のファンとしては一応観ておきたい作品です。
 今度はダン・エイクロイド&ジョン・グッドマンのコンビで、再びブラックな笑いを繰り広げています。お話の筋は前作と大して変わらない代わりに、相変わらずツボな音楽とカーアクションは存分に楽しめました。特に、前作以上に豪華なゲストを揃えてのセッションの数々は必見。ただ、何となく物足りない…。撮影技術が上がってしまっただけ、映像がショボいのが目立ってしまったような。まあ、それがジョン・ランディス監督らしいといえばらしいんですが。

 それにしてもジェームズ・ブラウンの若々しさには、この人は年を取らないのかと目を疑いました。音楽と爆発とくだらないギャグ満載の、あの世界をもう一度と思う人は、ぜひ。

監督:ジョン・ランディス
出演:ダン・エイクロイド、ジョン・グッドマン、ジョー・モートン、J・エヴァン・ボニファント、エリカ・バドゥ、ジェームズ・ブラウン、アレサ・フランクリン、B・B・キング
20060424 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ソードフィッシュ

 映像美にこだわるドミニク・セナ監督の長編第三作。今回は前二作の長所を集めたような、完成度の高いエンタテイメント作品に仕上がっています。
 明らかに「狼たちの午後」を意識した単純な展開も、速いテンポで全く飽きません。過去の映画を引き合いに出しながら、映画論や犯罪論やらをぶつ悪役ガブリエルはかなり魅力的。悪漢小説ばりの掛け合いで物語を引っ張るのも、なかなか楽しめます。アクションを期待した人には物足りないところでしょうが、先入観を持たずに観れば大満足の娯楽作でした。あまり細かいことを突っ込まずに観られる人にお勧めです。ただ、冒頭の5分間の出来が最高だっただけに、本編でそのテンションを持続できなかったのは残念。ラストのどんでん返しも、むしろ蛇足かなあ。

 俳優陣もなかなか豪華。まだ名前が売れ始めたばかりで、演技に定評のある俳優ばかり選んでます。あとヴィニー・ジョーンズが、ちょっとしか見せ場はないんですが良かった。セナ監督には、この調子でカタいアクション映画を撮り続けてもらいたいところです。

監督:ドミニク・セナ
出演:ジョン・トラヴォルタ、ヒュー・ジャックマン、ハル・ベリー、ドン・チードル、ヴィニー・ジョーンズ、サム・シェパード
20060422 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

60セカンズ

 「カリフォルニア」のドミニク・セナ監督が、カーアクション映画の傑作「バニシングIN60」をリメイク。といっても内容は前作の作りとは違って、カーマニア同士の自己満足トークが炸裂するフェチ映画でした。

 もちろんカーチェイスにも力が入っているんですが、それが味付け程度に感じられるほど濃い喋りは必見。盗む車のラインナップもマニアックだし、車ごとに“実用的”な盗み方を披露してみたり(さすがに画面ではちょっとしか映しませんが)、分かりにくいところに小技が効いていて監督のこだわりが伺えます。物語はいたって平凡な兄弟愛もので、それだけにフェティシズムとアクションに集中できます。ハイ・コントラストでざらついた映像との相性も良いですね。
 主演はニコラス・ケイジ。予想通り、倒錯演技が嫌というほど似合ってました。デルロイ・リンドー、ロバート・デュヴァルといったシブい親父の演技が楽しめるのも一興。アンジェリーナ・ジョリーが完全に除け者扱いされているのも逆に笑えます。

 映画の構造自体は底の浅い娯楽作なのに、制作側の妙な思い入れのおかげでなかなか楽しめました。車を盗まれたことのある人は気持ち良いものではないでしょうが、クルマに思い入れのある人にはオススメ。

監督:ドミニク・セナ
出演:ニコラス・ケイジ、アンジェリーナ・ジョリー、ジョヴァンニ・リビジ、スコット・カーン、デルロイ・リンドー、ヴィニー・ジョーンズ、クリストファー・エクルストン、ロバート・デュヴァル
20060421 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

TAXi

 リュック・ベッソンの製作・脚本による、カー・アクション・コメディの大ヒット作。マルセイユを250km/hオーバーで爆走するタクシー、というビジュアルだけで大満足です。
 実際にマルセイユの街の各所で撮影された、ホンモノのスピード感が楽しめるのがこの映画の見所。ピレス監督自身がレーサー出身ということもあって、プロのドライバーを多数起用してのチェイスシーンは迫力満点です。フレンチ・コメディらしい皮肉たっぷりの笑いを盛り込みつつ、犯人追跡関係の細部を思いっきり省略してしまうというのも、カー・アクション映画らしい割り切り方。欲を言えば85分という上映時間は物足りないものの、「とにかく高速チェイスさえ見られれば良いんだ!」という人には打ってつけの一本です。

 これでドラマがもうちょっとシェイプアップされていれば良かったんですが、そこは映画の本題とは違うので目をつぶりましょう。単純に「走り」を楽しむ映画として、非常に画期的でした。

監督:ジェラール・ピレス
出演:サミー・ナセリ、フレデリック・ディフェンタール、マリオン・コティヤール、ベルナール・ファルシ、エマ・シェーベルイ
20060418 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

バスケットボール・ダイアリーズ

 ジム・キャロルの原作を元に、ニューヨーク下町に住む少年の荒んだ日々を描いた青春映画。レオナルド・ディカプリオの演技力が見所。
 原作者の実体験を反映させたという物語は、かなりショッキングで重みがあります。あまり目立ちませんが凝った演出もあり、青春ドラマとして説得力を感じました。そして、物語を一層引き立てているのがディカプリオの存在。ちょっとクサい演技なんですが、ドラッグにはまるところとか独白のシーンなど、ついつい引き込まれる熱演です。あまりの力の入れように、他の登場人物との差が開きすぎてしまったのが残念と言えば残念。それだけにディカプリオのファンにはたまらない内容でしょう。

 ドラッグの恐怖と、そこからの克服を丁寧に描いているあたりは好感が持てました。今観るとさすがに古い映画だと感じるものの、ドラッグ映画として外せない一本なのでは。

監督:スコット・カルヴァート
原作:ジム・キャロル
出演:レオナルド・ディカプリオ、ブルーノ・カービイ、ロレイン・ブラッコ、マーク・ウォルバーグ、ジュリエット・ルイス
20060417 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

トラフィック

 スティーヴン・ソダバーグ監督がアカデミー監督賞を受賞するなど、デビュー以来久々に話題を振りまいた犯罪ドラマ。これだけの密度をよく詰め込んだなーとは思いますが、ちょっと詰め込みすぎ。
 麻薬組織の暗躍や、それに対する政府の対策、一般人の反応、担当警官の苦悩など、かなり多くの要素が映画の中に閉じこめられていているものの、それらが現実をスナップしたかのように断片的に描かれるため、映画にはまとまりがありません。彼らの直面する現実が複雑なことは分かりますが、それらが映画の中で効果的に描かれているとは思えませんでした。リアリズムと言われれば頷くしかないんですが、問題提起を目的とする映画としては突き放し過ぎなのでは。結局、分かり易いベニチオ・デル・トロ演じるメキシコの警官の格好良さや、マイケル・ダグラスの相変わらずのお父さん振りに目が行ってしまいました。

 設定された背景の精密さや俳優の演技は、どれをとっても一級品。ソダバーグ自身の手によるカメラワークも、地域ごとに画質を変えるといった努力の甲斐あってか、効果的な画面が作れていると感じました。あとは、どうせフィクションなんだから大胆な映画的翻案があればなあ、と。

監督:スティーヴン・ソダバーグ
原作:サイモン・ムーア
出演:マイケル・ダグラス、ベニチオ・デル・トロ、キャサリン・ゼタ・ジョーンズ、ドン・チードル、ルイス・ガスマン、デニス・クエイド、ジェイコブ・ヴァーガス
20060416 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

天国の日々

 テレンス・マリック監督による、今世紀初頭のアメリカ農村地帯が舞台のドラマ。映画全体としては時代を感じさせるものですが、撮影がひたすら見事。
 演出も俳優もそれほどではなく、アメリカの原風景を活写するだけのこの映画が高い評価を得られたのは、やはり撮影監督ネストール・アルメンドロスに依るところが大きいでしょう。殆どのシーンを、わざわざ早朝と夕方の赤く焼けた光線だけを選んで撮影したという、前代未聞の映像に対するこだわりが映画全体の完成度を底上げしていて、何でもないシーンですら印象派の絵画のような美しさでした。ましてや四季折々の農場が見せる表情は、どんな脚本よりも感動的で説得力があります。「20世紀最高の映像」と評されるのも納得。

 リチャード・ギアのステレオタイプなダメ男っぷりが気に入らなかったので、夕陽とサム・シェパードばかり見ていました。すぐカッとなって相手に掴みかかっていくことが格好いいことだとでも思っているんだろうか…。ただ映像のためだけにでも、観る価値のある作品です。

監督:テレンス・マリック
出演:リチャード・ギア、リンダ・マンズ、サム・シェパード、ブルック・アダムス
20060414 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

月のひつじ

 小さな田舎町の大きなパラボラアンテナに関する実話を元にした、ロブ・シッチ監督によるオーストラリア映画。じっくり観せるタイプの、そつのない良作でした。

 独特の空気を持ったオーストラリア映画の中では、これは比較的控えめな作品。全体にありがちなプロットですが、人物を絞るなど脚色の仕方がなかなか秀逸で、地味ながら最後まで飽きさせません。大使が来ちゃってるのに次々起こる騒動などにはハラハラさせられるものの、宇宙開発とローカル精神という組み合わせがほのぼのしていて、そこはかとなく笑えます。これもオーストラリアならではの雰囲気なのでしょう。文部省推薦という言葉が良い意味で似合いそうな“いい話”でした。
 警備員役のテイラー・ケインが格好良かったなー。サム・ニールのオジサンぶりも安定感がありますね。良い映画。

監督:ロブ・シッチ
出演:サム・ニール、ケヴィン・ハリントン、トム・ロング、パトリック・ウォーバートン、テイラー・ケイン
20060413 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -