★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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オーシャンズ13

 スティーヴン・ソダーバーグ監督による、大ヒットシリーズ第三弾。今回は、エンタテイメントに徹した一作目と、アイドル映画を目指した二作目のいいとこ取りを狙った内容でした。

 ご都合主義ながらも精巧に練られた脚本や、豪華キャストはそのまま。今回新たにアル・パチーノとエレン・バーキンを加えて賑やかさを増していますが、物語自体が中盤でもたついてしまいました。大オチに向けて伏線を張りまくった反面、その間に大きな事件がないのが一因。それをごまかすためのジョークも笑えるのですが、かえって物語を見失うことに。結局どっちつかずに終わってしまった印象です。
 でも、俳優が嬉々として演じているのは相変わらず良かった。特にエレン・バーキンのはっちゃけ方は凄いです。マット・デイモンは今回もやらかしてくれますし、アンディ・ガルシアもどんどん可愛くなるし、クルーニー&ピットはもう恋人みたいな仲の良さ。肝心のアル・パチーノがいつも通りで終わっちゃったのだけが残念です。

 余談ですが、相撲や日本酒といった日本文化がそこここで登場して、こそばゆい気分になりました。一作目でもアンディ・ガルシアが日本語で挨拶してたなー。ともあれ、売り上げ至上主義のハリウッドにあって、こういういかにも豪華な企画が成立するというのは映画ファンとしては素直に嬉しいところです。あとは映画の出来が良ければ最高なんですが…。

監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、マット・デイモン、アンディ・ガルシア、アル・パチーノ、エレン・バーキン、ドン・チードル
20081019 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

モモ

 ドイツを代表する児童文学作家ミヒャエル・エンデによる原作を西ドイツ/イタリアの共同制作で映画化したファンタジー作品。原作の持つ雰囲気を丁寧に再現した映画になりました。

 子供時代に観たときは、とにかく「時間泥棒」たちの雰囲気が怖く、またモモとその周辺の人間関係の暖かさと独特のファンタジー表現にひたすら目を丸くして見入っていました。
 大人になって改めて観てみると、セット撮影の限界や原作のエピソードの省略など、小さくまとまってしまった点が気になりましたが、それでもファンタジー作品としては充分及第点の印象です。特に原作の哲学的な台詞回しを適度に抽出し、ストーリーに深みを持たせた脚本はいかにもドイツ映画らしく、今でも考えさせられる内容でした。

 何よりモモを演じたラドスト・ボーケルが非常にハマっていて、自分もモモの前に座って心を開いているような気持ちになれます。原作ファンならずとも心温まるファンタジーで、特に子供時代にこれを観られた自分は幸せだと思いました。

監督:ヨハネス・シャーフ
原作:ミヒャエル・エンデ
出演:ラドスト・ボーケル、ジョン・ヒューストン、ブルーノ・ストリ、レオポルド・トリエステ、マリオ・アドルフ
20081010 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

クロウ/飛翔伝説

 ジェームズ・オバーによるカルト・コミックを、エジプト出身・オーストラリア育ちというアレックス・プロヤス監督で映画化したダーク・ヒーローもの。主演のブランドン・リーが撮影中に死亡するという事故があったものの、未撮影分が数カットだったこともあって映画化にこぎ着けられたといういわくつきの作品です。
 カラスの目を通して描かれたかのような不安定な視点のカメラワーク、全編に流れるオルタナティヴ・ロックなどが、原作通りのダークな世界観とマッチしています。主演のブランドン・リーの狂気に満ちた演技もいい。ただ、元々のストーリーがロマンチシズムに沈みすぎて救いがないのが辛い。主人公の悲劇を描くには話が軽すぎ、そのわりに人だけがバタバタ死んでいくのはあまり情緒があるとは言えません。

 ブランドン・リーは、今後が期待できる俳優だっただけに非常に残念でした。たまたま原作を読む機会があったんですが、こちらもなかなか面白いので、映画を気に入った方は原作も是非。

監督:アレックス・プロヤス
原作:ジェームズ・オバー
出演:ブランドン・リー、アーニー・ハドソン、マイケル・ウィンコット
20081004 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

銀河ヒッチハイク・ガイド

 イギリスのカルトSFコメディ小説の映画化作品。いかにもイギリス的な皮肉が楽しめるものの、映画としては若干まとまりにかける印象でした。

 壮大なのにどこか生活臭の漂う設定や不条理ギャグは、イギリスのコメディ好きにはたまらない内容ですが、全体に駆け足のストーリー展開のせいでメリハリが効いていない印象。オチが用意されている脚本なのでそこまで辿り着きたかったんでしょうが、ドタバタ珍道中だけでも充分楽しめるので、いっそオチは次回作に持ち越しても良かったのでは。
 声だけ出演のアラン・リックマンをはじめ、モス・デフやビル・ナイなど良い演技をする俳優を集めたのは良かった。画面の作り方も巧みで、CGもそこそこ馴染んでいただけに、109分で終わらせるのは勿体ない感じでした。1981年にテレビシリーズ化されているそうですが、そちらも気になります。

 ともあれ、冒頭のイルカの歌などブリティッシュ・コメディならではのブラックな笑いはふんだんに用意されているので、そちらを期待している方は楽しめるのでは。個人的にはアラン・リックマンの声だけでノックアウトでした。この人、意外とSF似合いますよね…… 。

監督:ガース・ジェニングス
原作:ダグラス・アダムス
出演:マーティン・フリーマン、モス・デフ、サム・ロックウェル、ズーイー・デシャネル、ケリー・マクドナルド、ビル・ナイ、ジョン・マルコヴィッチ、アラン・リックマン
20080930 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!

 「ショーン・オブ・ザ・デッド」でゾンビ映画マニアをうならせた新鋭エドガー・ライト&サイモン・ペッグによる長編第二作。今度は刑事映画のパロディを中心にはっちゃけています。
 「バッドボーイズ2バッド」「ドミノ」といった比較的最近のハリウッド映画の演出を用いて、どうでもいいシーンを過剰に盛り上げる悪ノリは面白いものの、終盤に至るまでそれ以外に物語を引き締める要素がないというのが辛い。その分、ラストではきっちり楽しませてくれるし、複線の絡め方なども上手いんですが、逆に上手くまとめすぎてしまってパンチが足りない印象です。俳優もなかなか豪華に使っていますし、何より主演コンビは出てくるだけで面白いんですが、これらもあまり生かし切れていない感じ。期待値が高かったこともあってか、もう一つ消化不良な作品になってしまいました。

 それでもコメディ映画としては普通に楽しめます。何より90年代のハリウッド映画を、タランティーノ監督のようにコラージュさせた演出の巧みさは見所。次はもっとセンスを爆発させた映画に期待です。

監督:エドガー・ライト
出演:サイモン・ペッグ、ニック・フロスト、ジム・ブロードベント、パディ・コンシダイン、ティモシー・ダルトン、ビル・ナイ
20080928 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

M:i:III

 主演のトム・クルーズが製作も務める人気シリーズ第三弾。毎回違ったコンセプトで楽しませてくれますが、今回は一言でまとめれば「TVシリーズ総集編のような濃さ」が最大の見所でした。

 もともとJ・J・エイブラムス監督自身、数々のヒットTVシリーズを手がけていることもあり、今作からは近年のアメリカTVシリーズものの雰囲気が色濃く漂います。分かり易さ重視のカメラワーク、二転三転して更に最後でひっくり返すプロット、細かいところで自己主張する脇役たちなど、TVシリーズで培われた新しい技法を、いち早く作品に反映させるあたりがトム・クルーズの手腕なのでしょう。芸術的なカメラワークや、深みのある物語を期待すると落胆しそうですが、アクション映画としては正しい割り切り方だと思いました。
 俳優陣は、シリーズでも最高の豪華さ。特に名バイ・プレイヤーのフィリップ・シーモア・ホフマンが、大きいお腹を揺すっての大活躍で笑わせてくれました。逆にジョナサン・リス=マイヤーズなんかは、けっこう活躍するのに最後まで彼だと気付きませんでしたが…。

 相変わらずどこが「スパイ大作戦」なのか不明なのはご愛敬。もともとアクションだけ見に行っているようなものですし、このぐらいの薄さがベストなのかなあと思いつつ、その計算尽くの作りにいまいち納得できないのも事実。まあ、このあたりで大団円でしょう。

監督:J・J・エイブラムス
原作:ブルース・ゲラー
出演:トム・クルーズ、ヴィング・レイムス、マギー・Q、ジョナサン・リス=マイヤーズ、ミシェル・モナハン、ビリー・クラダップ、フィリップ・シーモア・ホフマン、ローレンス・フィッシュバーン
20061012 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ローズ・イン・タイドランド

 ギリアムの大ファンというミッチ・カリンによる原作を、そのままギリアム本人が気に入って映画化したホラー風味のファンタジー作品。「ブラザーズ・グリム」の製作中断中に撮影しただけあって、いつもより更にやりたい放題な内容に、ついて行くのがやっとでした。
 ギリアム版「不思議の国のアリス」とも言うべき内容で、主人公ローズの妄想世界はまさに絶好の題材。ただ、それを第三者視点で描いているので、ローズが現実から逃避しているのが客観的に見えてしまって、痛ましいというかなんというか。まともな人間がいないのはいつものことですが、今回は主人公まで一緒になって観客を置いてけぼりにしてくれます。そんなこんなでひたすら疲れたものの、ギリアムの健在ぶりを文字通り体感できたのは収穫でした。この調子で最期まで暴走し続けて欲しいところです。

 実は冒頭とラストだけが現実で、途中の話はラストのアレを見たローズがさかのぼって“捏造”したものなんじゃないかとか、いろいろと考察できると楽しいかも。あとローズ役のジョデル・フェルランドがかなり可愛いうえに演技も抜群だったので、今後が気になります。

監督:テリー・ギリアム
原作:ミッチ・カリン
出演:ジョデル・フェルランド、ジェフ・ブリッジス、ジャネット・マクティア、ブレンダン・フレッチャージェニファー・ティリー
20061006 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

学校の怪談3

 子供向け人気夏休みホラー映画の第三弾。今回は新「ガメラ」シリーズの金子修介監督にバトンタッチしたため、ガラリと変わった雰囲気が新鮮でした。
 まず叙情性を増した映像が見事。子供向け映画でも手を抜かない人物の造形や、情景描写を巧みに織り込むメリハリのあるカメラワークは金子監督らしいこだわりでした。また、あえて近代的な校舎を舞台にしたのも英断。木造校舎も趣があって良いんですが、見慣れた鉄筋コンクリートの校舎を妖怪達が闊歩するのはリアルな怖さがあります。後半のまとめ方も納得。ただ、盛りだくさんにしようとしたせいか、物語のツナギが無理矢理で、そのため映画全体の印象が安っぽくなってしまったのが残念でした。

 子供が楽しめるかというと実は微妙なのも辛いところ。ただ、SFXは当時の日本映画としては最高級。金子監督の作品は映像ばかり突出してしまう印象があるので、あとはストーリーで今の気負いが消えれば良いなあ、と。

監督:金子修介
原作:常光徹、日本民話の会
出演:西田尚美、吉澤拓真、前田亜季、ヒガタケル、山田一統、黒木瞳、野田秀樹、蛍雪次郎、野村宏伸、津川雅彦、渡辺真知子
20060510 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

学校の怪談

 小・中学生を中心にヒットした、タイトル通り“学校の怪談”モノ映画。全国各地の怪談を多数映像化しつつ、ドラマもなかなか楽しめる秀作です。
 後半で怪獣映画のノリになってしまうのは辛いところですが、それまでの恐怖演出は秀逸。カメラワークもなかなか凝っています。あとは子役の演技が良ければというところなんですが、まあ日本映画のレベルを考えれば仕方のないところでしょう。それに真の主役である“お化け”の再現具合が絶妙で、次は何が登場するのかとワクワクしながら観ることができました。主演の野村宏伸のトボけた先生ぶりも良い。あと冒頭の笹野高史も印象的。

 大人が本気で観るような映画ではありませんが、夏休みの子供向け映画としては良くできた方なのでは。世代を問わず楽しめる点が多数なので、家族揃って観るにはお薦めの作品です。

監督:平山秀幸
原作:常光徹、日本民話の会
出演:野村宏伸、遠山真澄、米澤史織、杉山亜矢子、笹野高史、熱田一、塚田純一郎、町田昇平、岡本綾、佐藤正宏
20060508 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

王立宇宙軍 オネアミスの翼

 GAINAX設立第一弾の劇場用SFアニメ。80年代のSFアニメらしい特殊な世界観は、良く作り込んだなと感心はしますが共感はできません。
 なんというか、この世界観が無ければそのまま「ライトスタッフ」なヒネリのない物語が辛い。技術革新と、それに対する軋轢にドラマを感じるのは理解しますが、現実にいくらでもある題材をわざわざSFにしてしまう意図が分かりません。わざわざ架空の文化を創り上げた努力や、優秀なアニメータを多数起用しての緻密な作画にはさすがに圧倒されましたが、それも物語が平凡なら意味がないわけで。なんでそこで宗教かなあ、とか、共感できないことだらけでした。

 色々感想はあるんですが、結論としては主人公の声に森本レオをあてるのはおかしいだろう、と。坂本龍一によるメインテーマは良いですね。努力は認めますが、非常に居心地の悪い作品でした。

監督:山賀博之
出演:森本レオ、曽我部和恭、平野正人、鈴置洋孝、伊沢弘、大塚周夫、弥生みつき、内田稔
20060506 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -