★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ミミック

 メキシコ出身のギレルモ・デル・トロ監督による、異色のクリーチャー・ホラー。虫が苦手な人には悪夢のような映画ですが、映像が良いせいか宗教的な味付けのおかげか、同ジャンルの作品の中では突出している印象です。

 いわゆる「エイリアンもの」の流れに沿う作品。物語の発端が独特なうえ、キャラクターごとの動機付けも確かなので非常に新鮮でした。見た目より精神的にグロテスクな描写も良い。クリーチャーデザインとか、ニューヨーク地下の描写などにもセンスを感じます。ただ前半に期待させる要素が多いだけに、後半ありきたりな内容になってしまったのが残念。カメラワークなどは巧みで、なかなか怖がらせてくれるんですが……。
 地味に豪華なキャストも見物。ノーマン・リーダスとかF・マーレイ・エイブラハムとか、なんで出演してるんだろう。あとオトコノコも可愛いし、実はキャラ萌え映画として観ても楽しめるのかもしれません。それにしては怖すぎますが。

監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:ミラ・ソルヴィノ、ジェレミー・ノーサム、ジャンカルロ・ジャンニーニ、F・マーレイ・エイブラハム、ノーマン・リーダス
20051114 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ザ・グリード

 スティーヴン・ソマーズ監督による海洋クリーチャーもの映画。まさしくB級映画万歳! という出来で、とても楽しめました。
 俳優は安っぽく、クリーチャーの作り込みも甘く、セット自体もペラペラで予算が下りなかったのかなと思いましたが、それを覆すほど良くできた展開で、特にクリーチャーが登場してからはずっと盛り上がりっぱなしでした。ここまで緊張を持続できる演出力は珍しいのでは。過去の定番を踏襲しつつ新たな演出を絡めていたり、オチも一ひねりしてあるあたり、この手の映画のなかでは際立っています。ただどうもA級スリラーを狙おうとしているのか、いらないとこに力を注いでいるような節もありました。

 脚本が的外れながらもいいなー、と思っていたらこの監督さんが脚本も兼ねているようで。ああなるほど、そういうところを買われたんだな、と。若いころのジェームズ・キャメロンと似ているかも。キャメロンよりB級っぽさが強く、真面目なシナリオには似合わなさそうですが。

監督:スティーヴン・ソマーズ
出演:トリート・ウィリアムズ、ファムケ・ヤンセン、ケヴィン・J・オコナー、ジェイソン・フレミング
20051113 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

エイリアン4

 J=P・ジュネ監督による、人気SFホラー(という呼称は本来不適切だけど)シリーズの第4作目。今回、盟友キャロは「繊細すぎるため」デザイン面のみの参加ということですが、相変わらずのダークでどこかユーモアのある世界観は健在。ただ「エイリアン」との食い合わせは微妙でした。

 ジョス・ウェドンによる脚本は、B級ホラーを好きな人なら大喜びな出来。過去のエイリアンシリーズを全て踏襲しつつ、違和感のない物語は見応えがありました。今までにないほど強烈なキャラクターを与えられたエイリアンは、ジュネ監督独自のカメラワークとダリウス・コンジによる明快な映像によって、絵画のように美しく、より人間的に描かれています。この映画にあるのはエイリアンというキャラクターに対する愛だけで、人間はそれを殺害しようとする敵に過ぎないのでしょう。ホラーでもサスペンスでもなく、エイリアン主役のスター映画。だから最後はスッキリしない感じですし、そもそもジュネ監督である必要も無いなあ、と。過去最高のグロテスクさには大満足なんですが。
 ウィノナ・ライダーの演じたコールが愛らしくて良かった。ロン・パールマンとドミニク・ピノンの二人がちゃっかり出演しちゃうのもファンとして嬉しいところ。それにしてもエイリアンシリーズは毎回全く違う作風で、そもそもシリーズにする必然性があるのか、という感じですね。

監督:ジャン=ピエール・ジュネ
出演:シガニー・ウィーヴァー、ウィノナ・ライダー、ダン・ヘダヤ、ロン・パールマン、ドミニク・ピノン、マイケル・ウィンコット
20051107 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

天使のくれた時間

 ニコラス・ケイジが久々にハートフルドラマに出演した、比較的地味な良作。こういうケイジが観たかったので大満足でした。凝りまくったアクション映画や芸術映画じゃなくても、きちんと作れば単純に観ていて楽しめる、ということを再確認させられた作品です。
 ニューヨーカーの抱いている不安を巧みに描きつつ、さりげなく「いい話」にしているところに好感が持てました。シチュエーションもテーマも使い古されたものながら、それを今のセンスで再現して、ちょっと現代風に面白おかしく味付けしています。そして、何よりこういう複雑な人物を演じて無理のこないニコラス・ケイジが最高。割り切ったおばさん役が妙にはまっていたティア・レオーニや、ふてぶてしい演技が似合うドン・チードルも印象的です。

 監督は「ラッシュ・アワー」で好評を博したブレット・ラトナー。ちょっとデフォルメされた世界を描くのが得意な人なので、こういうファンタジーを撮ると似合いますね。付き合いの長い恋人が居る人は、ぜひカップルで見ていただきたい作品です。

監督:ブレット・ラトナー
出演:ニコラス・ケイジ、ティア・レオーニ、ドン・チードル
20051104 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ラン・ローラ・ラン

 ドイツのトム・ティクヴァ監督による、パラドクシカルで爽快なサスペンス。主人公の行動によって変化した3つの異なるラストを次々と見せるアイデア勝負の作品で、この手の話に期待する全てを成し遂げつつテンポ良く楽しめる秀作でした。
 俳優陣の演技や、軸となるストーリーに特筆すべき所はないんですが、分かりやすい展開や、飽きさせないカメラワークできちんとエンタテイメントになっていました。これは監督(脚本・音楽も兼ねる)のセンスが良いということでしょう。ローラが「存在したこと」で他の人々の未来もまた変わっていく部分の表現が秀逸。ただ、後半の展開が全体的に予想通りなのが残念。カメラワークなどに気を遣っているだけに、アイデアの練り込みにももう少し頑張って欲しかったかなと。

 「繰り返し」の手法をここまであからさまで、かつ効果的に見せた映画は珍しいのでは。カリスマ的な魅力はありませんが、このアイデアでエンタテイメントになっているという点は良かったと思います。

監督:トム・ティクヴァ
出演:フランカ・ポテンテ、モーリッツ・ブライブトロイ
20051031 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ティム・バートンのコープスブライド

 ティム・バートンによるストップモーション・アニメの3作目(監督としてのクレジットは初)。ロシアの民話を原案にしているようで、ストーリーは独特で楽しめますが「それ以上の何か」が感じられなかったかなと。

 ストップモーション・アニメとしては非常に完成度が高く、キャラクターの動きは滑らかで、特に豊かな表情は驚嘆モノ。実写ならではの質感が映像に温かみを加えていて、ダークな物語もバートン作品らしい空気をよく醸し出しています。でも、観た印象としては「無理に面白くしようとしている」感じでした。最大の不満点は、主人公ビクターの心情が説明不足な点。そのため物語に対して客観的になってしまい、二人の花嫁の間を右往左往するのに少し腹が立ってしまったり。
 ハリーハウゼンを始めとした過去のホラー映画やストップモーション・アニメに対するオマージュがそこここにあるようです。それが分かれば面白いのかも知れませんが……うーん。過去のバートン映画は、それが分からなくても有無をいわせぬ雰囲気で押し切っているのが楽しかったんですが、今回は置いてけぼりを喰った感じでした。

 ともあれ過去のストップモーション・アニメのレベルを遙かに超越しているのは事実。デジタル加工を可能な限り無くした映像は、奇跡的なほどの完成度なのです。それと、観ていて気付いたのは、ディズニー映画風のキャラクターや演出が好意的に扱われていたこと。この映画の根底にあるのは、現在のバートン流ディズニー論なのかもしれません。

監督:ティム・バートン、マイク・ジョンソン
出演:ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、エミリー・ワトソン、クリストファー・リー、ダニー・エルフマン
公式サイト
20051028 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

オーシャンズ11

 1960年の話題作「オーシャンと十一人の仲間」をスティーヴン・ソダーバーグ監督がリメイク。オリジナルに負けず劣らずの豪華キャストで制作された中身ゼロのスター映画で、そこそこ楽しめました。

 ラスベガスでお祭り騒ぎ的に撮られたこの映画では、ソダーバーグもいつもの作家性を廃してエンタテイメントに徹しているので、映画自体は取り立てて論じるべき内容はありません。豪華なキャストが出てきて粋なドラマを繰り広げ、ラストにきっちりどんでん返しがある、非常にありきたりな「スター映画」という印象です。
 ただその程度の「スター映画」を目指しているというのが随所から感じられるのが、この映画の面白いところ。なにしろ近年のハリウッド映画は「スター映画」すらまともに撮れていないのが現状なので、ハリウッドの映画オタク筆頭であるソダーバーグとしては「このぐらいのことは簡単にやってくれよ」と言いたいのでしょう。実際ラスベガスで毎日酒浸りになって、二日酔いに苦しみながら演技してるとは思えないほどキャストはきちんと仕事をしています。誉められたことではないですし、監督自身は寝食を削って編集していたようですが…。

 そういう意図を汲めば充分意義のある映画ですが、出来上がった映画自体を愛せるかというとそれは別問題なわけで。やっぱり平凡な「スター映画」は今の時代にはそぐわないのかなあ、と思っていたら「オーシャンズ12」で挽回してくれたので、さすがソダーバーグと感心したことを付記しておきます。

監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、ジュリア・ロバーツ、マット・デイモン、ドン・チードル、アンディ・ガルシア
20051026 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア

 トム・クルーズ、ブラッド・ピット、アントニオ・バンデラスという若手人気俳優(当時の)が共演した超お耽美映画。とにかく美しい映像と、物悲しい雰囲気に包まれたストーリーが魅力です。
 この映画を観て、美形のヴァンパイアって海外でも需要があるのだなあ、と正直感心してしまいました。格好いいヴァンパイアを何の迷いもなく描き続けるだけで映画が終わるというのは新鮮でしたが、こういうのもアリですね。終わり方も最高に格好いいし。ひたすら美しい世界観を堪能するだけで、何も考えずに観られる良質の映画です。ビジュアルで気になった人は、まず観て損はないでしょう。

 原作者のアン・ライスが当初トム・クルーズの配役に反対していたものの、完成試写会後にその意見を180度転換して絶賛したとか。確かに、このトムはハマリ役。スタン・ウィンストンによるメイクも必見です。

監督:ニール・ジョーダン
出演:トム・クルーズ、ブラッド・ピット、スティーヴン・レイ、アントニオ・バンデラス、クリスチャン・スレイター
20051024 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

スリーパーズ

 ハリウッドの大御所、バリー・レヴィンソンによるメガヒット作品。ブラッド・ピットやロバート・デ・ニーロ、ダスティン・ホフマンと豪華キャストを配しつつ、いかにもアメリカらしい年代記に仕上げています。
 冒頭から雰囲気のある映像で引っ張りつつ、4人の男の少年時代からジワジワと進行していくストーリーは見応えがありました。ノン・フィクション小説を原作としている割にはエンタテイメントな展開ですが、「血よりも濃い友情」を感じさせるには分かりやすくて良いのかも。アメリカ裏社会の雰囲気を垣間見られるのが個人的に好みです。とはいっても、「それ以上の何か」が無いのは如何ともしがたいところ。豪華な出演陣と、ケレンのあるストーリーを楽しんだら、あとのことは余り深く考えないというのが一番でしょう。

 良くも悪くもハリウッドらしい作品でした。初共演のロバート・デ・ニーロとダスティン・ホフマンも注目ですが、やっぱり見どころはケヴィン・ベーコンの憎まれ役っぷり。主演陣も豪華ですが、脇役も豪華ですよ。

監督:バリー・レヴィンソン
出演:ジェイソン・パトリック、ブラッド・ピット、ミニー・ドライヴァー、ロバート・デ・ニーロ、ダスティン・ホフマン、ケヴィン・ベーコン
20051022 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

12モンキーズ

 鬼才という言葉がいやに似合うテリー・ギリアム監督が、クリス・マルケルの「ラ・ジュテ」に触発されて撮ったというSFサスペンス。よく作り込まれていますが、不満点の多い内容でした。

 物語の根幹はオリジナルそのままで、それを膨らまして長編に仕立てています。ただ、その「変わった部分」が皮肉たっぷり過ぎてダメでした。サスペンス的な盛り上がりはあるし、やりたいことは分かるんですが、物語の進展と共に方向性が不明瞭になっていって、オチも釈然としません。
 例によってセットや俳優の使い方は巧みでした。こんなにブルース・ウィリスを渋かっこ良く感じたのは初めてです。マデリーン・ストウも綺麗。ブラッド・ピットは、ちょっとやり過ぎな感はありますがエキセントリックで好きです。また、冒頭の荒廃したニューヨークのシーンに代表される世紀末感あふれるSF描写も見事。というか、映画が始まってしばらくは、そういったギミックのせいで興奮しっぱなしでした。

 各要素や前半の展開は気に入っているので、テレビなどで放送しているとついつい観てしまいます。むしろ一度経験しているので寛容になれるのかも。あと悪夢のようなメインテーマも秀逸。ともあれ、ギリアム好きとしては捨て置けない作品ではありますね。

監督:テリー・ギリアム
出演:ブルース・ウィリス、マデリーン・ストウ、ブラッド・ピット
20051021 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -