★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語

 世界中でベストセラーとなった同名児童文学を、「キャスパー」のブラッド・シルバーリング監督で映画化。ビジュアルはなかなかの出来でしたが、物語はお粗末な印象を受けました。

 三人姉弟妹の落ち着いた演技や、ジム・キャリー扮するオラフ伯爵のコミカルさは良い。物語を彩る様々なセットや人物の衣装など、美術面もゴシックで非常に僕の好みでした。ただ、子供達が”不幸”から如何にして脱出するかが物語のキモなのに、そこのギミックがなおざりでセンスを感じられない出来なので、物語中盤からはダレてしまいました。その上、とってつけたような謎の存在も微妙(これは続編への布石でしょうが)。ジム・キャリーの変装も、もっとバリエーションがあると思っていただけに物足りない印象です。
 全体に、メルヘンというより単純な”子供だまし”に終始しているのが残念でした。雰囲気に浸りたいだけなら構いませんが、生粋の児童文学ファンにはお薦め出来ません。

監督:ブラッド・シルバーリング
原作:レモニー・スニケット
出演:ジム・キャリー、エミリー・ブラウニング、リーアム・エイケン、カラ・ホフマン、シェルビー・ホフマン、ティモシー・スポール、メリル・ストリープ
20060130 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち

 ゴア・ヴァービンスキー監督の名前をヒットメーカーとして印象付けた海賊モノのアクション大作。オリジナルは、ディズニーランドで人気のあのアトラクション。ディズニーなので平凡な作品になるかと思いきや、ジョニー・デップ扮するスパロウ船長のおかげで、ひとクセある内容に仕上がっています。

 ジョニー・デップという(すっかりハリウッドの第一線から退いた感のある)俳優をビッグ・バジェット映画に連れ戻したというのが、この映画の第一の功績でしょう。ジェフリー・ラッシュの真っ当な名演が霞むほどの存在感は流石。オーランド・ブルームやキーラ・ナイトレイのような若手は鼻先であしらって、143分という長い上映時間のほとんど全てでその魅力を振りまいています。あまりにデップの前評判が良かったので、観た直後は正直「こんなもんか」と思いましたが、それでも他の俳優には真似の出来ない名演でした。
 演出や編集はヴァービンスキー監督らしくソツのない出来。海賊たちの設定が狙いすぎで辛いところですが、映像的な見栄えは抜群でした。マンガのような紋切り型の展開もディズニー映画ならと諦められるレベルで、とにかく深く考えずスケールの大きいアクションを楽しむのが正解ですね。

 海賊アクション映画というのは不毛なジャンルでしたが、これは万人向けでアクションも悪くない出来でした。デップのファンにはもちろんオススメ。彼がいる限りこのシリーズは安泰でしょう。

監督:ゴア・ヴァービンスキー
出演:ジョニー・デップ、オーランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイ、ジェフリー・ラッシュ、ジョナサン・プライス
20051219 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ドラゴンハート

 コテコテのアクション映画が得意なロブ・コーエン監督による、絵に描いたような「ドラゴンもの」映画。お話しは相変わらずの出来ですが、単純に楽しめる作品でした。

 CGキャラクターがまだメジャーではなかった時代の作品としては比較的良質な映像で、少なくともドラゴンのスケール感はよく出ています。主人公がヒーローらしくないのも新鮮。この二人が繰り広げる漫才まがいの珍道中がなかなか笑えるのですが、後半お話しが本題に入ると単調になってしまって、そこが残念。
 声の出演のショーン・コネリーは言うこと無しですし、デヴィッド・シューリスの悪人ぶりも印象的。他にもジェイソン・アイザックスが出演していたりと、なかなか豪華なキャスティングも見物。見終わったらストーリーすら朧気になってしまうような内容ですが、何も考えずにハリウッド的アクション・ファンタジーを楽しみたいのなら打って付けだと思います。

監督:ロブ・コーエン
出演:デニス・クエイド、デヴィッド・シューリス、ピート・ポスルスウェイト、ジュリー・クリスティ、ショーン・コネリー
20051203 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

スノーホワイト

 グリム童話「白雪姫」のダークな面をも再現した、ファンタジー映画の秀作。こういうのは企画だけが一人歩きして内容がついてこない場合が多いんですが、今回は及第点どころかその上をいく出来で驚かされました。

 そもそもシガニー・ウィーヴァーとサム・ニールという配役からして笑ってしまうぐらいホラー向け。途中で出てくる「七人の小人」や魔女の動機付け、はては置きパンなどのダイナミックなカメラワークも、ディズニー版のイメージを完全に覆すブラックな出来栄えで、いい意味で期待を裏切ってくれました。ただし全体的に限界が見えてしまっているのが惜しかった。セットの狭さや技術の無さを演出でカバーしているものの、それが分かってしまう瞬間がありました。そのあたりが企画モノの限界なのかも。
 それでも普通のB級ホラーとは一線を画す映画として、ホラーなメルヘンを期待する方にはお薦めです。特にシガニー・ウィーヴァーの継母ぶりは必見。

監督:マイケル・コーン
出演:モニカ・キーナ、シガニー・ウィーヴァー、サム・ニール
20051129 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ブラザーズ・グリム

 「ラスベガスをやっつけろ」以来、実に7年ぶりとなるテリー・ギリアム監督の作品。「バロン」ばりのメルヘン超大作で、監督ならではの毒は控えめなものの、映画としては普通に楽しめる良作でした。

 製作会社側からかなり圧力を受けたようで、俳優のチョイスもストーリーも、それどころか広告展開までライトな大作映画のノリですが、細かいところにギリアムならではの皮肉が効いています。何しろ舞台からしてドイツとフランスのいがみ合いですから、モンティ・パイソンからのファンとしては始終笑わされっぱなしでした。グリム童話のオールスターといった節操のないフィーチャーの仕方も洒落が効いていて、ギリアムらしい凝りまくりの美術と衣装も、いかにもな雰囲気の森も、全てが監督の鬱憤をそのままぶつけたかのようなインパクトがあります。
 俳優も見所満載で、主演二人の配役の意外性、ジョナサン・プライスの手慣れた憎まれ役、ピーター・ストーメアのオーバーアクトと”イタリア訛りのフランス英語”などなど。モニカ・ベルッチも見事に女王になっていますし、子供達も可愛いし、相変わらずギリアム監督は俳優の魅力を引き出すのが巧みですね。

 どんなに隠そうとしても見えてしまう「ギリアム色」にファンとしては嬉しくなってしまいました。これだけの大作を、渋々ながらもソツなく撮り上げてしまうのは、ギリアム監督が映画に対する情熱を失っていない証拠です。ダークなオチや泥沼の精神描写は次回作以降に期待するとして、ここはギリアム監督の帰還を拍手で迎えたいところです。

監督:テリー・ギリアム
出演:マット・デイモン、ヒース・レジャー、レナ・ヘディ、モニカ・ベルッチ、ジョナサン・プライス、ピーター・ストーメア
公式サイト
20051127 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ハウルの動く城

 日本アニメ界の代表者になってしまった宮崎駿監督による、初の正統派ファンタジー作品。原作は気に入らなかったので(翻訳のせいかも)、このお話を監督がどう料理しているのかと期待して観ましたが、見事に肩すかしを喰った印象です。

 機関車が出てきた時点でおかしいなとは思ったんですが、ここまで原作を無視しているとは思いませんでした。登場人物や前半のプロットは一緒でも、後半の展開は映画オリジナル。そもそもハウルの素性が明かされないなんて……「はてしない物語」にバスチアンが出てこないようなものです。
 原作の物語としてのカタルシスは、絵に描いたような”お伽話の世界”という極端な世界設定が、ハウルの正体判明で一気に説得力を持つところであって、荒れ地の魔女の正体もソフィーの存在意義も「オズの魔法使」になぞらえたその他の登場人物たちも、そこに全てかかってきていたはずです。ところが映画ではその設定自体が消えたために凡庸なファンタジーになり、更に「戦争」という唐突で物語にそぐわないテーマまでが挿入されているので、原作の意図が全てうやむやになってしまいました。

 すげ替えられた物語が単純に面白ければ我慢のしようもありますが、そういうこともなく。映画としても、目的の分からないアクションシーン、無粋な台詞、細かいだけで表現力に乏しい背景美術など、納得のいかない部分ばかりでした。唯一良かったのは冒頭、羊飼いをナメて城が歩くカット(背景は男鹿和雄!)。これで原作の説明不足な点が一気に解消したんですが……。
 ちなみに映画自体で説明不足な点の殆どは、原作には初めから存在しない要素なので原作を読んでも解決されません。悪しからず。

 もともと某監督作品として制作が進められていたものの頓挫し、再開後もカツカツのスケジュールで制作されたという経緯もありますが、それにしてもこの破綻ぶりは酷い。試行錯誤をしているのは分かりますし、新しい試みも大事だと思いますが、宮崎監督には肩の力を抜いて90分ぐらいの小規模な作品を作ってほしい、というのが本心です。

監督:宮崎駿
原作:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
声の出演:倍賞千恵子、木村拓哉、美輪明宏、神木隆之介、我修院達也
20051121 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

バロン

 鬼才テリー・ギリアム監督による、荒唐無稽さにかけては随一の傑作メルヘン。原作は、ドイツでは知らない人はいないほど著名な「ほら男爵」ミュンヒハウゼンの物語。僕もこの原作は大好きですが、その無茶な妄想世界を、ギリアム監督はこれ以上ないほど見事に再現しています。

 音より速く走る男や、首の取れる月の大王、ロープを下ろして月から降り、大砲の弾に捕まって自陣と敵陣を往復……とまあ、どんな絵になるのか聞いただけでは分からないようなものを片っ端から映像化し、どれもそれなりに説得力を持たせているところが凄い。また、断片的なエピソード群である原作を、一つの物語としてまとめるために付け足された物語も秀逸。劇中劇を否定するバロンの登場シーンから始まって、ほら話が現実を凌駕するラストは、ギリアムらしい皮肉とカタルシスに満ちています。

 実は豪華な俳優陣も見物。特にバロン役のジョン・ネヴィルは、原作の挿し絵にそっくりで驚きました。制作当時は予算オーバーなどで大変だったようですが、これだけの映画を後世に残せるのなら、それも仕方がないところでしょう。

監督:テリー・ギリアム
出演:ジョン・ネヴィル、サラ・ポーリー、エリック・アイドル、オリヴァー・リード、ユマ・サーマン、ロビン・ウィリアムズ、ジョナサン・プライス、スティング
20051117 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ロード・オブ・ザ・リング

 ピーター・ジャクソン監督が長年の「指輪物語」ファンの夢を結実させた超大作。3部作を最初に全て撮影してしまって、1年ごとに1作ずつ公開するという仕組みは、よくもやったりという大企画です。ただ原作を未読だったせいか、展開が突飛すぎて楽しめませんでした。

 確かに所々で魅せる場面もあるのですが、会話シーンとアクションシーンでメリハリが利いてなかったり、被写界深度も慣性の法則もそっちのけのCG風景がミニチュアみたいに見えたりと、的はずれなカメラワークのせいで損をしている場面が目立ちます。台詞回しも原作未読者が理解できないほど濃縮されていて、人物の魅力もいまいち分かりませんでしたし、映画の基本的なところが出来ていないという印象です。何より唐突に挿入されるB級ホラー的演出が笑えてしまって、深刻なシーンでも感情移入が出来ないのはちょっと……。
 大金を投入して作り上げた映像世界にはパワーがありますが、密度が高いだけで工夫は乏しいかと。原作に思い入れもないし、特に好きな俳優も出ていないので、せめてストーリーの不足分を補うような目の覚めるような演出があれば楽しめたのに、と残念です。

 あと、日本公開ではサブタイトルを省くなど3部作であることを伏せたような広告展開で困惑させたり、字幕が原作を尊重していなかったりと、原作ファンのみならず映画ファンも無視したような配給の仕方だったことを付記しておきます。内容も営業も、全てに不満点の多い映画でした。

監督:ピーター・ジャクソン
原作:J・R・R・トールキン
出演:イライジャ・ウッド、イアン・マッケラン、ヴィゴ・モーテンセン、オーランド・ブルーム
20051116 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

レジェンド/光と闇の伝説

 映像に定評のあるリドリー・スコット監督の手がけたファンタジー映画。こんな映画を撮れるのはこの監督だけでしょう。典型的なハイ・ファンタジーの世界を、見事に映像化しています。

 魔王に妖精にユニコーンという、コテコテのファンタジーを堪能できるのがこの映画最大の魅力。他には何もないのですが、その割り切り方が潔いと思いました。多数のクリーチャーが出てこようが無数の綿毛が森に舞っていようが、お構いなしで美しい映像にしてしまうのは流石。リドリー・スコットというと殺伐とした映像が印象的ですが、初期の映画ではむしろ幻想的なシーンの魅力が際立っていると思います。あまりに紋切り型の物語ですが、ヨーロッパ版にはかなりの追加シーンがあるそうで、それを観れば評価が変わるのかも。
 主演のトム・クルーズの、キレイな顔立ちが作品世界に見事にハマっています。ティム・カリーの演じる魔王も迫力があって、まさにファンタジー映画の教科書的作品でした。純粋にファンタジー世界を楽しみたいのであればオススメです。

監督:リドリー・スコット
原作・脚本:ウィリアム・ヒョーツバーグ
出演:トム・クルーズ、ミア・サラ、ティム・カリー
20051115 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ハリー・ポッターと炎のゴブレット

 イギリスの同名ファンタジー小説の映画化シリーズ第4作。試写会にも行きましたが、面白かったので劇場でもう一度観てきました。今回はシリーズ初の英国人監督ということで、過去の作品よりもイギリスらしい空気感が見事。相変わらず端折られた物語も映画としての見どころは豊富で、原作ファンとしては大満足の内容でした。

 映画の冒頭、ロケ撮影の部分の瑞々しさが目を惹きます。望遠や広角を巧みに使い分け、随所に遠景からのダイナミックなシーンを挿入しているため、風景のみの描写が減ったにも関わらず、今までで一番「空間」を感じる映像になっていました。俳優の演技も良くなっていますし、原作にはないユーモラスな会話が散りばめられた秀逸な脚本もあって、本当に主人公たちがホグワーツ魔法学校の中で生活しているような現実感があります。この、現実を反映した説得力のある学校生活こそ原作最大の魅力なので、映画もきちんと「ハリー・ポッター世界」になっていて納得の仕上がりでした。
 それにしても「死喰い人」の描写など、今回も説明不足の感は否めません。そろそろ原作ファンか旧作からのファンぐらいしか観ていないので、3時間ぐらいに上映時間を延ばしてもいいのでは。今回は映画自体が良くできているだけに、そこに不満が集約してしまいました。

 ともあれ、シリーズの「山場」とも言える今作を見事に映像化したマイク・ニューウェルの手腕には脱帽。映画としても原作の再現としても、シリーズで一番の出来ではないでしょうか。試写会では終了後に拍手まで起こっていましたし。主演の3人を始め子供達も相応に成長していて(ネビルは伸びすぎですが)、次の映画が今から楽しみです。

監督:マイク・ニューウェル
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、マイケル・ガンボン、マギー・スミス、アラン・リックマン、イアン・ハート、ロビー・コルトレーン、デヴィッド・シューリス、ゲイリー・オールドマン、ブレンダン・グリーソン、レイフ・ファインズ
公式サイト
20051112 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -