★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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イン・ザ・スープ

 映画監督になりたい青年アルドルフォと、謎の老人ジョーの奇妙な友情を描いたドラマ。プロットだけなら単純な物語なんですが、キャラクターが魅力的なおかげでまったく飽きずに観ることが出来ます。と思ったら、どうやら監督の実体験に基づいた話だそうで、映画も老人ジョーに捧げられていました。なるほど。しかし、とても実話とは思えないほど魅力的な物語です。

 魅力の一つは、実話ベースであることを感じさせないほどまとめ上げられたシナリオにあると思います。エピソードの一つ一つに存在意義があるので、淡々と進むストーリーからも目を離せませんでした。主人公二人を演じるS・ブシェミとSカッセルも名演。カッセルは老人の魅力を細かい仕草で体現していて思わず唸ってしまうほどですし、ブシェミも珍しく「平凡でうぶな青年」を演じていて、この二人の軽妙なやりとりが物語を引き締めていました。

 全体に寓話的ですが教訓的な話というわけではなく、ほのかな余韻が心に残る映画です。しかも他では見られないほど素朴なブシェミを楽しめるので、ついつい評価が甘くなってしまいました。ファンなら要チェックですが、現在はビデオのみでDVDは未発売。残念。

監督:アレクサンダー・ロックウェル
出演:スティーヴ・ブシェミ、シーモア・カッセル、ジェニファー・ビールス、ジム・ジャームッシュ
20051122 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

アメリ

 ジャン=ピエール・ジュネ監督の長編4作目。今回はマルク・キャロとのコンビを解消し、ひたすら自分の世界を追求しています。もう、こんな映画を待っていました、という気分。初めてジュネ作品を観たときから、いつかはこういった映画を撮ってくれるのではないかと期待していたのですが、これで夢が叶いました。

 一応恋愛映画なのですが、物語に占める恋愛の比重はひたすら低く、むしろアメリの無邪気な悪戯の方が強調されています。この悪戯が、またジュネ作品には恒例のバタフライ効果満載で笑えました。今回は更にギョーム・ローランによる知的な台詞も加わったおかげで、多弁でエスプリの効いたキャラクターが増え、画面は明るくなったのにブラックさは増しています。
 ジュネ監督にとって初めてのロケ撮影ですが、空をデジタルで描き替えたり、ポスターを全てオリジナルのものにしたりと、独特の世界観は損なわれていません(モンマルトルはこんなに美しくはない!)。また、ヤン・ティルセンによる音楽や、最後まで姿を現さないナレーターといった「新しい試み」も、まるで当然のように映画の中で市民権を得ています。何よりオドレイ・トトゥとマチュー・カソヴィッツのカップルが可愛らしくて、思わずにやけてしまいました。

 アメリの妄想を中心に話が進むので、その社会不適合者っぷりに拒絶反応を示す人も多いようですが、僕は気になりませんでした。むしろ、きちんとツッコミを入れながら力強く肯定しているのが嬉しいかったぐらい。そういう人にはそういう人なりの社会との付き方がある、という非常に前向きなメッセージです。ラストの小説家イポリト氏の態度に、そういった監督の姿勢が反映されている、と深読みしてみましたが、どうでしょう。
 でも、そんな事を考えずとも単純に楽しめるのがジュネ映画の良いところ。子供は無邪気に、大人はシニカルに楽しめる映画でした。

監督:ジャン=ピエール・ジュネ
出演:オドレイ・トトゥ、マチュー・カソヴィッツ、ドミニク・ピノン、イザベル・ナンティ、リュファス
20051108 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ヴィンセント

 ティム・バートンがディズニー在籍時に撮影した短編ストップモーション・アニメ。ヴィンセント・プライスに憧れる怪奇映画マニアの主人公ヴィンセントを描いた内容は、そのまま監督であるティム・バートンの姿と重なります。
 以降のティム・バートン作品に登場するモチーフちりばめられているのも驚きですが、妄想だらけの生活を送る主人公の姿にいちいち笑ってしまいました。それらがたった約5分間の本編の中に押し込められているという濃い内容で、ナレーションをヴィンセント・プライス本人が務めているというあたりも見どころの一本。バートン映画のファンなら要チェックです。

監督:ティム・バートン
出演:ヴィンセント・プライス
20051029 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

スナッチ

 処女作「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」が評価され、一躍イギリス映画界の寵児となったガイ・リッチー監督の第2作。ストーリーは支離滅裂、登場人物はアクが強すぎるというのに、それらをセンス溢れる音楽と編集で包装して観客の前にこれでもかと並べる手法が冴えています。

 映画全体のリズムは最近ハリウッドで流行のMTV風ですが、最大の違いは作り込みではなくセンスで一発勝負をかけているところ。特にアクションシーンに流行のスローモーションを殆ど使わず、コマ落としと止め絵で盛り上げる疾走感は最高でした。1コマ単位で練られたであろう編集など、観ているだけで気持ちの良い映画に仕上がっています。
 ワン・パンチ・ミッキー役のブラッド・ピットが流石のキャラクターで活躍していますが、それ以外の俳優も良かった。ヴィニー・ジョーンズやレイド・セルベッジアの無敵振り、ベネチオ・デル・トロの放蕩っぷり、デニス・ファリーナのしたたか振りなど、見所は沢山です。シナリオも、前作が一発ネタだったのに対し、今回は色々ネタを仕込む余裕があるぐらい。その分前作のような切れ味は欠けますが、娯楽作としてはこのぐらいのさじ加減が丁度良いのではないかな、と。

 スナック片手に観るのが最適な軽い映画ですが、何度観ても楽しいので未見の方はぜひ!

監督:ガイ・リッチー
出演:ジェイソン・ステイサム、ブラッド・ピット、ヴィニー・ジョーンズ、ベニチオ・デル・トロ、デニス・ファリーナ、レイド・セルベッジア、ユエン・ブレムナー
20051025 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ノー・マンズ・ランド

 ボスニア紛争時にボスニア軍でドキュメンタリーを撮影していたダニス・タノヴィッチの長編デビュー作。やはりボスニア紛争を題材とし、軍やマスコミを巻き込んんだドタバタ劇を確実なタッチで描いている。リアリティに裏打ちされた演出と、その中で見せるブラックな、ときに笑うことのはばかられるセンスは凄い。

 明快なシナリオの中に、現地の勢力図を縮図として組み込むしたたかさがあり、各国語を話すキャストにきちんと演じさせているおかげで嫌味がありません。今までにない戦争映画、特に国連PKO関連の映画の中では決定打と言える作品かも。政治問題に興味がない人には辛いかもしれませんが、ちょっと興味がある人なら勉強のために見ても十分意味のある映画だと思います。
 凄いのは、これだけの現状をきちんと一つのシナリオにまとめ上げて、ところどころ笑いすら取ろうとすることです。ただE・クストリッツァのような狂気と情熱ではなく、ドキュメンタリー経験者らしく冷静に事態を描写していくスタンスが特徴的でした。

 後味の悪い映画で、この結末を作り出したのは他でもない西側諸国だ、という監督の叫びが痛いほど伝わってきます。ラストに至るころには情けなさで押しつぶされそうになりましたが、それだけ考えさせられる映画です。

監督:ダニス・タノヴィッチ
出演:ブランコ・ジュリッチ、レネ・ビトラヤツ
20051017 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

シャドウ・オブ・ヴァンパイア

 F・W・ムルナウによる名作ホラー「吸血鬼ノスフェラトゥ」を豪快にパロディ化したナンセンス映画。あの映画の吸血鬼役の俳優が、実は本当に吸血鬼だったら……というアイデアと配役が良いので期待したんですが、期待したほどには楽しめませんでした。

 シリアスになりたいのか、コメディにしたいのかハッキリしない脚本が最大の不満点です。笑わせすぎで低俗になるのを恐れたのか、シナリオで笑いを取ろうとしている部分が数カ所しかありません。あとはオリジナルとその付近の人物たちに捧げたオマージュ(というか皮肉?)ばかりで、オリジナルに思い入れのない身としては引いてしまいました。
 ただ、ウィレム・デフォーの吸血鬼っぷりが良いので、それだけで笑えるのが救い。画面に出てくるだけで笑えるというのは、なかなか凄い業です。これで映画が面白かったら、と残念しきりの一本。

監督:E・エリアス・マーヒッジ
出演:ウィレム・デフォー、ジョン・マルコヴィッチ、ウド・キアー、キャサリン・マコーマック
公式サイト
20051009 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

アダプテーション

 「マルコヴィッチの穴」のスパイク・ジョーンズ&チャーリー・カウフマンのコンビによる、これまた風変わりな作品。原作小説の映画脚本化を頼まれるも「バートン・フィンク」ばりに悩んでしまうチャーリー・カウフマン自身の姿を、双子の弟を引き立て役として皮肉たっぷりに描いています。

 シニカルなテーマには唸らされました。延々とハリウッド批判をするものの、映画の展開自体はコテコテのハリウッド風、という試みも面白いと思います。ハリウッドの「嘘」を象徴するかのように嘘で固められた登場人物たち(カウフマンはデブでもハゲでもないし、本当は弟もいない、とか)も象徴的。ただ、それが面白いかというと微妙です。テンポも速く、内容を消化しきらないうちにどんどん話が進んでしまって、笑うに笑えないというのが正直なところ。こうなると、畳み掛けるような演出は内容が無いのをごまかしているだけなのでは? と疑ってしまいます。
 アカデミー助演男優賞を受賞したクリス・クーパーは、とても演技とは思えないほどのハマリ役。でもやっぱりニコラス・ケイジが…あの顔が2人出てきて会話をするというのは反則です。しかも太ってるし、画面に出てくるだけで笑ってしまいました。

 これを観ると「マルコヴィッチの穴」のテーマがより鮮明になる、言うなれば「”裏”マルコヴィッチの穴」といった作品。ただ、単体の映画としてはつまらない内容になってしまったのが残念でした。

監督:スパイク・ジョーンズ
脚本:チャーリー・カウフマン、ドナルド・カウフマン
出演:ニコラス・ケイジ、メリル・ストリープ、クリス・クーパー、ティルダ・スウィントン、ブライアン・コックス
公式サイト
20051006 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

赤ちゃん泥棒

 コーエン兄弟がデビューしたてのころに撮ったドタバタ・コメディーの秀作。とにかく冒頭からのテンポの良い展開と、あまりに特殊な展開に圧倒されるばかりの作品でした。
 今観ても新鮮なスティディカムによる移動撮影や、そこまでやるかと言いたくなるほどひねくれたキャラクター、無駄なシーンをカットしまくる編集も注目すべきところではありますが、何よりそれらを不自然と思わせない、映像に対する天性ともいえるセンスがすごい。また、ただのコメディーに終わらない脚本と、多少ファンタジックな語り口もコーエン兄弟の素晴らしいところなのでしょう。そんな中で、さりげなく演技派のホリー・ハンターとニコラス・ケイジが主役二人を好演しているのがまた良かった。

 ニコラス・ケイジの出演作から一本選ぶとしたら、迷わずこの作品を選びます。そういう人も多いのでは。映画は多少ブラックなぐらいが好き、という人も是非。

監督:ジョエル・コーエン
脚本:イーサン・コーエン、ジョエル・コーエン
出演:ニコラス・ケイジ、ホリー・ハンター、ジョン・グッドマン
20051006 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

マウス・ハント

 「ザ・リング」「パイレーツ・オブ・カリビアン」など最近はヒット作を量産しているゴア・ヴァービンスキー監督のデビュー作。なかなか器用な作風が売りの人ですが、このころから既に芸達者ぶりを発揮しています。ただ、全体に中途半端な印象でした。

 クリストファー・ウォーケンの「掃除屋」は流石に笑わされましたが、それ以外はどれも微妙。ビジュアルや設定からブラックコメディを期待していたんですが、映画自体はファミリー向けだったので物足りなく感じたのかもしれません。まったりとしたテンポなのも一因です。アクションシーンの演出自体は目が覚めるほど良いのに、ドラマとの接続が強引と感じるところもありました。
 したたかなネズミの行動自体は、観ていてついつい応援したくなるほど。映画自体のアイデアは良いし、決してつまらない映画ではないだけに、もう少しテンポが良ければ、と惜しい感じです。

監督:ゴア・ヴァービンスキー
出演:ネイサン・レイン、リー・エヴァンス、ヴィッキー・ルイス、クリストファー・ウォーケン
20051005 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ザ・ロイヤル・テネンバウムズ

 ウェス・アンダーソン監督による、おかしな家族の寓話的作品。うーん、微妙。確かに独自の世界を構築していて興味深いし、演出力もあるし俳優の演技もいいし、シックで良くできた映画だと思うんですが、描かれる世界が何一つ心に響いてきませんでした。
 一つ思い当たるのは、すごくデフォルメされたキャラを配しておきながら、物語は一般性の範囲内で動いてしまうこと。おかげで、観ていても一歩引いた視点になってしまいます。かといってそこに深い考察や示唆があるわけでもなく、結果として淡々と映画が進行するだけ。監督はそれを狙った感じがありますが、じゃあどうしてそういう演出にしたのか、は不明。要するに世間の人々は幸せだったり不幸せだったりするけど、本質はこんなところじゃないの、という問題提起なんでしょうか。それともこういう絵本的な演出が好きなだけで、ストーリーとの関連性はないのか…。

 これまでのホームドラマから大きくかけ離れたキャラクタを主要人物にしたという点では目を引きます。ただ、その凝ったキャラクタに感情移入できないので、映画を楽しめなかったのかな、と。消化不良。

監督:ウェス・アンダーソン
出演:ジーン・ハックマン、アンジェリカ・ヒューストン、ベン・スティラー、グウィネス・パルトロー、ルーク・ウィルソン、オーウェン・ウィルソン、ビル・マーレイ
公式サイト
20051002 | レビュー(評価別) > ★ | - | -