★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ドグマ

 ハリウッドの問題児ケヴィン・スミス監督による、宗教を題材にしたブラック・コメディ。本国ではキリスト教徒による上映禁止運動が起こり、日本でも限定公開になった曰く付きの映画。完成度はそこそこですが、独特のまったりとしたテンポには中毒性がありました。

 ベン・アフレックとマット・デイモンの共演作とだけ聞いて観るとあまりに方向性が違うので驚かされますが、突飛な世界観はアメリカン・コメディのノリに忠実なのですんなり入り込むことが出来ました。ポンポン登場するキャラクターもいちいち特徴があって飽きさせません。多少説明的なきらいはありますが、いわゆる”免罪符騒動”をモチーフにしたような物語には、薄っぺらいシナリオとは一線を画す深みがありました。そして破壊的と言うほどではないですが、ジワジワと効いてくる独特のブラックでシュールな笑いは確かに凄い。カルトなファンがいるというのも納得です。
 同監督作の常連というジェイ&サイレント・ボブの浮きっぷりには笑わされました。アラン・リックマンがメタトロンというのも宗教マニア的にはツボでしょう。”神”役のキャスティングも洒落が効いていて良い。この監督の作品は初めてですが、他の作品も観てみたいと思いました。

監督:ケヴィン・スミス
出演:ベン・アフレック、マット・デイモン、リンダ・フィオレンティーノ、アラン・リックマン、ジェイソン・ミューズ、ケヴィン・スミス、サルマ・ハエック、ジェイソン・リー
20060121 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ギャラクシー・クエスト

 ドリーム・ワークスの設立初期に制作されたSFナンセンスコメディ。公開当時はあまりの地味さにノーマークでしたが、観てみたらかなり凄い、というか観ていなかったことを後悔しました。

 とにかく笑いのセンスが濃すぎなくて、そのくせ常にチクチクと細かいところを攻められるような気の利いた脚本がたまりません。登場人物全員が分かりやすいジレンマを抱えていて、それを観客に端的に伝えたあとは、あまり執着せずに人物の魅力と小ネタで畳み掛けているのが良かった。プロット自体はありきたりな正統派ドラマなんですが、そういった作りこみの良さと小ネタの楽しさで、ついつい感情移入してしまいました。
 役者では、何と言ってもアラン・リックマンの演じるドクター・ラザラスが最高! コメディも出来る人だとは知っていましたが、まさかここまで開き直るとは。ミッシー・パイル演じる女性エイリアンの不気味な笑顔も記憶に残ること請け合いです。

 惜しむらくは、この映画のパクり元である「スター・トレック」を僕が全く知らないこと。知らなくても十分楽しめる映画だとは思いますが、知っていればもっと楽しめたかなと。ともあれSF映画ファンなら必見の一本です。

監督:ディーン・パリソット
出演:ティム・アレン、シガニー・ウィーバー、アラン・リックマン、トニー・シャローブ、ダリル・ミッチェル
20060102 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

不思議惑星キン・ザ・ザ

 グルジア共和国出身のゲオルギー・ダネリア監督が撮った、シュールなSFファンタジー。一見するとただ冗長でくだらない内容ですが、その不思議な世界観がツボにはまると最高に楽しめます。

 まず絶対に飛びそうにない飛行物体に始まって、マッチが高級品だったり、変な挨拶や不思議な人種間差別が横行などなど、ツッコミどころ満載の設定が続出で笑えます。B級映画の雰囲気を漂わせつつ、しっかり独自の世界観を実現しているところも凄い。宇宙船や地下都市などのデザインも欧米の映画とはまた違った方向性で目を惹きました。ちょっとした風刺やSF映画としての後味の良さもあって、ただのチープなSF映画と捨て置くことのできない、実に奇妙な映画です。
 上映時間134分というのが最初は長く感じたのですが、二度目に観たときはあっという間に終わってしまって驚きました。退屈と思っていましたが、実はちょっとスローテンポなだけで無駄なシーンは一つもありません。シナリオ的なカタルシスは真面目なSF映画も顔負けの出来。何より物語から感じられる世界の広がりが、文字通り宇宙的規模の作り込みで圧倒されてしまいました。

 良くも悪くも、一度観たら忘れられない映画であることは確実。このセンスを面白いと思うかどうかで評価が一変すると思います。ミニシアター系映画を好き人なら必見。

監督:ゲオルギー・ダネリア
出演:スタニスラフ・リュブシン、エフゲニー・レオーノフ
20060101 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

アリゾナ・ドリーム

 サラエボ出身のエミール・クストリッツァ監督による、奇妙な味わいのドラマ作品。演出などに独特の空気感がありますが、いまいち入り込めませんでした。
 監督の後の作品に見られる、白昼夢を見ているような映像感覚はこの映画でも健在です。普通のドラマの中に突如として挿入されるシュールレアリズム映画のような演出は、一度経験する価値はあります。そんな現実と非現実の境界が曖昧な世界で繰り広げられる、意外とシリアスな努力と挫折の物語に、この監督ならではの諦観のムードがありありと滲んでいました。しかし、それにしても脚本や編集のセンスが繊細すぎ。僕は夢を早々に諦めてしまった世代の人間なので、そこに感傷を覚えること自体が滑稽に思えてしまいます。

 ちなみに、制作国はフランスですが、劇中使われている言語は主に英語。ジョニー・デップとヴィンセント・ギャロが、どちらも得体の知れない可愛らしさを振りまいていて目を惹きます。この監督の作品を観たことがないか、もしくは他の作品にお気に入りがあるのなら、一度は観てみるのも良いかと。もちろん監督のファンなら必見でしょう。

監督:エミール・クストリッツァ
出演:ジョニー・デップ、ヴィンセント・ギャロ、ジェリー・ルイス、フェイ・ダナウェイ、リリ・テイラー
20051220 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

アバウト・ア・ボーイ

 ニック・ホーンビィの小説を、ポール&クリス・ウェイツ兄弟監督が映画化したドラマ作品。現代のシングル男性を題材にした物語で、全体的に良くできているものの、何かパンチが足りないと感じました。
 主人公ウィルが現状に満足しているような描かれ方なのに、その生活を邪魔する人間に対してことさら神経質にならないところが納得できなかったかなと。完全に引きこもってたら、こういうテーマの映画にはならないので仕方ないんですが。母子家庭とか印税生活といった要素から想定される”暗さ”が意図的に排除されているため、みんな優等生のようで面白くありません。人々の関係性もどこか予定調和的ですし……。シングル男性と冴えない少年の交流という着眼点や、エピソードの選び方はセンスを感じただけに残念。

 ただ、もともと凝ったドラマを期待していたわけではなく、単にヒュー・グラントの演技を観たかっただけなので十分楽しめました。共演者であり本来の主役であるニコラス・ホルトも可愛いし、その点では大満足です。一般受けはしたようだし、お気楽クリスマス・ムービーとしては当たり障りのない出来かと。

監督:クリス・ワイツ、ポール・ワイツ
原作:ニック・ホーンビィ
出演:ニコラス・ホルト、ヒュー・グラント、トニー・コレット、レイチェル・ワイズ
20051208 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ブリジット・ジョーンズの日記

 同名のベストセラー小説を、これまた女性のシャロン・マグワイア監督で映画化した話題作。イギリスでは社会現象化したというほどの人気小説ですが、映画自体はオーソドックスな恋愛モノでした。

 原作のキワモノ性は聞き及んでいたので、当たり障り無い主人公の行動やラストにちょっとがっかり。テンポ良く進むストーリーとセンスの良い音楽で飽きさせませんが、どうにも主人公ブリジットの魅力が分かりません。こんなことで「女性の本音!」とか叫ばれても、「そんな浅い生き方で本当に満足なのか?」と逆に聴きたくなります。ドタバタ劇は笑えるし、結末にも特に異論はありませんが、何となくご都合主義だなあと思ってしまいました。
 しかし、この映画の見どころは、誰が何と言おうとヒュー・グラントです。本人をモデルにしたというダニエル役を、ヒュー・グラント自身が演じている上に、それがとんでもないプレイボーイで驚きました。それまでの「うぶな好青年」というイメージとは正反対なキャラクターで、見る前は違和感ばかりでしたが映画を観てみて納得。これだけでも拍手喝采の内容で、上映中はずっとヒューばかり見ていました。

 精神性については共感できませんが、映画としての出来は悪くないし、ヒュー・グラントの意外な一面も楽しめたので差し引きゼロ、ということで……。

監督:シャロン・マグアイア
原作:ヘレン・フィールディング
出演:レニー・ゼルウィガー、コリン・ファース、ヒュー・グラント
20051207 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ノッティングヒルの恋人

 ロジャー・ミッチェル監督による、「ローマの休日」そのままなラブ・ストーリー。隅から隅までどこかで見たような感じのする内容ですが、きちんと笑えて後味も悪くない、良くできた作品でした。

 ヒュー・グラントが好きでもジュリア・ロバーツは苦手なので敬遠していましたが、何かの拍子で観て「悪くない」と感じました。リス・エヴァンスやジーナ・マッキーなどの脇役がきちんと立っていて、物語のテンポも悪くないし、何よりJ・ロバーツを全然魅力的じゃなく描いていたのが良かった。展開自体もコテコテで感情移入させようとしていない、どちらかというと昔の恋愛映画を想起させます。のめり込んで観るというより、ホームドラマのように軽い気持ちで楽しむ映画なのでしょう。
 ワンカットで四季折々を表現する映像が印象的。あとはリス・エヴァンスのブリーフですね。もちろん、ヒュー・グラントは良かったですよ。何しろ主人公なので出演時間は長いし、例によってウジウジ悩んでいる姿が様になります。設定を聞いただけで拒否反応を起こす人は別ですが、万人向けの恋愛映画としては充分な出来ではないでしょうか。

監督:ロジャー・ミッチェル
出演:ヒュー・グラント、ジュリア・ロバーツ、リス・エヴァンス、ジーナ・マッキー
20051206 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ウェールズの山

 ウェールズ出身のクリストファー・マンガー監督が、出身地に伝わる逸話をもとに映画化したコメディ。”丘を登り、しかしながら山から降りてきた英国人”という意味の原題もユニークですが、内容もそれに負けないほど笑えて感動できる傑作でした。

 ひたすらブラックで渋い笑いが続く展開こそブリティッシュ・コメディの真骨頂で、これもそのうちの一つ。しかもウェールズの田舎臭い村が舞台となれば、それはもう巨大な笑いの渦が待ちかまえているのです。どうでもいいけど現地人にしてみれば大問題、を延々と回りくどく、しかし面白おかしくやれるのは、もはやこの国以上に無いでしょう。主演のヒュー・グラントは相変わらずのスっとぼけぶりですし、その他の登場人物の奇妙さもバランス良く決まっていて、とにかく随所で笑わせてくれる良質のコメディでした。
 公開当時の、ブリティッシュ・ポップ・ムービーの隆盛には逆らう流れですが、こういう伝統的な面白さを維持している作品も作り続けて欲しいところ。とにかく笑いたい人にはお薦めです。

監督:クリストファー・マンガー
出演:ヒュー・グラント、タラ・フィッツジェラルド、コルム・ミーニイ、イアン・ハート
20051205 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ドラゴンハート

 コテコテのアクション映画が得意なロブ・コーエン監督による、絵に描いたような「ドラゴンもの」映画。お話しは相変わらずの出来ですが、単純に楽しめる作品でした。

 CGキャラクターがまだメジャーではなかった時代の作品としては比較的良質な映像で、少なくともドラゴンのスケール感はよく出ています。主人公がヒーローらしくないのも新鮮。この二人が繰り広げる漫才まがいの珍道中がなかなか笑えるのですが、後半お話しが本題に入ると単調になってしまって、そこが残念。
 声の出演のショーン・コネリーは言うこと無しですし、デヴィッド・シューリスの悪人ぶりも印象的。他にもジェイソン・アイザックスが出演していたりと、なかなか豪華なキャスティングも見物。見終わったらストーリーすら朧気になってしまうような内容ですが、何も考えずにハリウッド的アクション・ファンタジーを楽しみたいのなら打って付けだと思います。

監督:ロブ・コーエン
出演:デニス・クエイド、デヴィッド・シューリス、ピート・ポスルスウェイト、ジュリー・クリスティ、ショーン・コネリー
20051203 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

モンティ・パイソン・アンド・ホーリーグレイル

 イギリスを代表するブラックコメディ集団モンティ・パイソンによる、初の本格劇映画。本国イギリスの伝説的英雄である「アーサー王と円卓の騎士」をものの見事に皮肉った、まさにカルト・コメディの代表作と呼ぶにふさわしい作品です。

 この映画がただのトンデモ映画に終わっていないのは、時代考証をしっかりと行い、アーサー王伝説に沿って物語を進めながら、登場人物に時代錯誤な(しかし必要以上に論理的な)皮肉を言わせて、「英雄」であるはずの一行を一般人以下の存在におとしめているところです。この違和感こそパイソンズの売りですが、劇場作品ならではのスケールと上映時間でひたすら展開されるナンセンス・ギャグは、もはや神々しいほどでした。
 印象的なギャグは数え上げればきりがありませんが、「ニッの騎士」は観たあとに口癖になること請け合いです。ただ、予備知識ゼロで観ると理解できないところもあるので、まずはTVシリーズなどでパイソンズの空気に慣れて、更にアーサー王伝説を軽くさらってから観ることをお薦めします。

監督:テリー・ギリアム、テリー・ジョーンズ
出演:グレアム・チャップマン、ジョン・クリーズ、テリー・ギリアム、マイケル・ペイリン、エリック・アイドル、テリー・ジョーンズ
20051128 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -