★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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オーシャンズ11

 1960年の話題作「オーシャンと十一人の仲間」をスティーヴン・ソダーバーグ監督がリメイク。オリジナルに負けず劣らずの豪華キャストで制作された中身ゼロのスター映画で、そこそこ楽しめました。

 ラスベガスでお祭り騒ぎ的に撮られたこの映画では、ソダーバーグもいつもの作家性を廃してエンタテイメントに徹しているので、映画自体は取り立てて論じるべき内容はありません。豪華なキャストが出てきて粋なドラマを繰り広げ、ラストにきっちりどんでん返しがある、非常にありきたりな「スター映画」という印象です。
 ただその程度の「スター映画」を目指しているというのが随所から感じられるのが、この映画の面白いところ。なにしろ近年のハリウッド映画は「スター映画」すらまともに撮れていないのが現状なので、ハリウッドの映画オタク筆頭であるソダーバーグとしては「このぐらいのことは簡単にやってくれよ」と言いたいのでしょう。実際ラスベガスで毎日酒浸りになって、二日酔いに苦しみながら演技してるとは思えないほどキャストはきちんと仕事をしています。誉められたことではないですし、監督自身は寝食を削って編集していたようですが…。

 そういう意図を汲めば充分意義のある映画ですが、出来上がった映画自体を愛せるかというとそれは別問題なわけで。やっぱり平凡な「スター映画」は今の時代にはそぐわないのかなあ、と思っていたら「オーシャンズ12」で挽回してくれたので、さすがソダーバーグと感心したことを付記しておきます。

監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、ジュリア・ロバーツ、マット・デイモン、ドン・チードル、アンディ・ガルシア
20051026 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア

 トム・クルーズ、ブラッド・ピット、アントニオ・バンデラスという若手人気俳優(当時の)が共演した超お耽美映画。とにかく美しい映像と、物悲しい雰囲気に包まれたストーリーが魅力です。
 この映画を観て、美形のヴァンパイアって海外でも需要があるのだなあ、と正直感心してしまいました。格好いいヴァンパイアを何の迷いもなく描き続けるだけで映画が終わるというのは新鮮でしたが、こういうのもアリですね。終わり方も最高に格好いいし。ひたすら美しい世界観を堪能するだけで、何も考えずに観られる良質の映画です。ビジュアルで気になった人は、まず観て損はないでしょう。

 原作者のアン・ライスが当初トム・クルーズの配役に反対していたものの、完成試写会後にその意見を180度転換して絶賛したとか。確かに、このトムはハマリ役。スタン・ウィンストンによるメイクも必見です。

監督:ニール・ジョーダン
出演:トム・クルーズ、ブラッド・ピット、スティーヴン・レイ、アントニオ・バンデラス、クリスチャン・スレイター
20051024 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

エスケープ・フロム・L.A.

 あの傑作B級SF「ニューヨーク1997」の続編。例によってジョン・カーペンター監督のどこか外れた演出と、カート・ラッセルのとてもアクションヒーローに見えない体型が炸裂する、久々の正統派B級アクションSF映画でした。
 大真面目で作っているのに笑えるシーンの連続になるあたりが最高。あまりに常軌を逸したシチュエーションと、某マクレーン刑事も顔負けのスネークの無敵ぶりを思う存分楽しめます。現在のハリウッドでは珍しいバレバレのマット画や、ドットの見えているCGなども、この作品では許せてしまうのが不思議。前作のラストほどの盛り上がりがなかったことが残念ですが、あの世界観をもう一度楽しめただけでも大満足でした。

 未見の方は、前作と併せて是非。寛容な方なら、B旧映画の魅力に目覚めること請け合いの名作です。

監督:ジョン・カーペンター
出演:カート・ラッセル、ステイシー・キーチ、スティーヴ・ブシェミ、ピーター・フォンダ、ブルース・キャンベル、パム・グリア
20051015 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

青い春

 松本大洋の同名コミックを映画化した青春映画。原作中の「しあわせなら手をたたこう」を中心に構成しつつも、他のエピソードをちりばめた内容になっています。原作のファンなので期待していたんですが、原作の趣旨を完全にはき違えている、と感じました。

 あくまで私感ですが、原作は若者達の行動をドラマチックに描きつつも、肝心の若者自身の思考はとことん無気力で無目的で無計画に描いているところが重要であり、第三者には無為としか見えない「未熟ゆえのエキセントリックさ」を描き出しているのが最大の魅力だと思うんですが、それが映画では「若者の衝動と苦悩」という立派なテーマに置き換えられ、悩める若者を情緒豊かに描いているのです。おかげで、今の若者が「自分はちゃんと考えて生きているんだ」と疑いもなく信じているような気がして怖くなりました。
 ただし全てが駄目というわけでもなく、面白い演出が多かったのも事実。学校の冷たい空気なんかは良く出ています。主演の松田龍平を始めとして、出演している若手俳優の質も良かった。

 普通の「青春感動エンタテイメント」を期待する人なら楽しめるのでは。ただ原作ファンには微妙。原作からシチュエーションだけ貰った、全く別の映画だと思わないとダメです。うーん。

監督:豊田利晃
原作:松本大洋
出演:松田龍平、新井浩文、高岡蒼佑、大柴裕介、山崎裕太、忍成修吾、KEE
20051013 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

アダプテーション

 「マルコヴィッチの穴」のスパイク・ジョーンズ&チャーリー・カウフマンのコンビによる、これまた風変わりな作品。原作小説の映画脚本化を頼まれるも「バートン・フィンク」ばりに悩んでしまうチャーリー・カウフマン自身の姿を、双子の弟を引き立て役として皮肉たっぷりに描いています。

 シニカルなテーマには唸らされました。延々とハリウッド批判をするものの、映画の展開自体はコテコテのハリウッド風、という試みも面白いと思います。ハリウッドの「嘘」を象徴するかのように嘘で固められた登場人物たち(カウフマンはデブでもハゲでもないし、本当は弟もいない、とか)も象徴的。ただ、それが面白いかというと微妙です。テンポも速く、内容を消化しきらないうちにどんどん話が進んでしまって、笑うに笑えないというのが正直なところ。こうなると、畳み掛けるような演出は内容が無いのをごまかしているだけなのでは? と疑ってしまいます。
 アカデミー助演男優賞を受賞したクリス・クーパーは、とても演技とは思えないほどのハマリ役。でもやっぱりニコラス・ケイジが…あの顔が2人出てきて会話をするというのは反則です。しかも太ってるし、画面に出てくるだけで笑ってしまいました。

 これを観ると「マルコヴィッチの穴」のテーマがより鮮明になる、言うなれば「”裏”マルコヴィッチの穴」といった作品。ただ、単体の映画としてはつまらない内容になってしまったのが残念でした。

監督:スパイク・ジョーンズ
脚本:チャーリー・カウフマン、ドナルド・カウフマン
出演:ニコラス・ケイジ、メリル・ストリープ、クリス・クーパー、ティルダ・スウィントン、ブライアン・コックス
公式サイト
20051006 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

赤ちゃん泥棒

 コーエン兄弟がデビューしたてのころに撮ったドタバタ・コメディーの秀作。とにかく冒頭からのテンポの良い展開と、あまりに特殊な展開に圧倒されるばかりの作品でした。
 今観ても新鮮なスティディカムによる移動撮影や、そこまでやるかと言いたくなるほどひねくれたキャラクター、無駄なシーンをカットしまくる編集も注目すべきところではありますが、何よりそれらを不自然と思わせない、映像に対する天性ともいえるセンスがすごい。また、ただのコメディーに終わらない脚本と、多少ファンタジックな語り口もコーエン兄弟の素晴らしいところなのでしょう。そんな中で、さりげなく演技派のホリー・ハンターとニコラス・ケイジが主役二人を好演しているのがまた良かった。

 ニコラス・ケイジの出演作から一本選ぶとしたら、迷わずこの作品を選びます。そういう人も多いのでは。映画は多少ブラックなぐらいが好き、という人も是非。

監督:ジョエル・コーエン
脚本:イーサン・コーエン、ジョエル・コーエン
出演:ニコラス・ケイジ、ホリー・ハンター、ジョン・グッドマン
20051006 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

愛のエチュード

 ウラジミール・ナボコフによる原作小説を「ダロウェイ夫人」のマルレーン・ゴリス監督で映画化。主演のジョン・タトゥーロとエミリー・ワトソンが、どちらも強い個性を発揮していて見応えがありますが、何か物足りない印象でした。
 おそらくは、演技力のある主演二人の演技が映像にいまいち反映されていないからでしょう。「いいお話」で終わってしまって、心に深く響くという感じではありません。映像は綺麗。ただ、同じようなシーンが続く割にカメラワークが一辺倒だったので、ストーリーに応じてメリハリがあればなあ、と思ってしまいました。

 ジョン・タトゥーロは、こういう役をやらせると栄えますね。饒舌な彼も好きですが、今回は天才と狂気の狭間を揺れ動く人物の危うさを巧みに演じていました。

監督:マルレーン・ゴリス
出演:ジョン・タトゥーロ、エミリー・ワトソン
20051005 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ありふれた事件

 メインスタッフ3人が原案・監督・製作・脚本・撮影・主演・編集を兼ねるという超インディペンデントな、バイオレンス映画の問題作。「蝿を殺すように人間を殺す男」をカメラがひたすら追い続けるドキュメンタリー、という設定のフィクション。でも真に迫りすぎていて、本物のドキュメンタリーではないかと怖くなる瞬間すらありました。

 観ているものまで犯罪を犯したような気分にさせる、突拍子もない演出は見事。実験映画をたて続けに観ていた時期に観たので、かなりはまってしまいました。出演者が「本人」として登場していて、そのあたりも錯覚させる材料の一つになっています。特にブノワ・ポールヴールドの残虐性は凄い、というか酷い……。オチは上手くまとまりすぎでしたが、そうでもしないと救われない話なのでそれはそれで良いのかも。
 エンタテイメント重視の映画ではないので退屈なシーンもあるものの、実験的精神は抜群。見た目以上に精神的な残虐性が堪えるので、苦手な人にはお勧めできませんが、ハリウッド系の上品なバイオレンスが嫌いな人は是非。

監督・出演:レミー・ベルヴォー、アンドレ・ボンゼル、ブノワ・ポールヴールド
20051002 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

遊びの時間は終らない

 「12人の優しい日本人」のプロデューサによる、なんとも日本映画らしいサスペンス・コメディの秀作。あまりに実直すぎる警官が銀行強盗役になったせいで、予行演習が一転して大事件に発展する様を巧みに描いています。

 冒頭からラストまで素早い展開で畳みかけつつ、細かい笑い一つ一つに必然性を持ってくるシナリオがとても魅力的。主人公対警察という構図が、次第にスケールを広げつつ周囲を巻き込んでいくあたりは、コメディ映画なのに感動的ですらありました。ここまでシナリオが秀逸な犯罪ドラマは、90年代の日本映画には少ないのでは。さりげなく豪華なキャストも見所。
 しかし何と言っても、この映画は主演の本木雅弘のための映画です。おそらく彼の魅力が最も良く引き出された映画ではないでしょうか。未見の方は、騙されたと思って是非。

監督:萩庭貞明
原作:都井邦彦
出演:本木雅弘、石橋蓮司、萩原流行、原田大二郎
20050926 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

オーシャンズ12

 スティーヴン・ソダーバーグ監督による、大ヒット映画の続編。前作が典型的なハリウッド映画のスタイルだったので今回もそれほど期待していなかったんですが、おかげで見事にハマってしまいました。ここ数年のハリウッド大作映画系ではベスト。

 何が面白かったのかと聞かれて明確にコレと答えられるものはないんですが、強いて言うなら映画全体が「良い雰囲気」だったことでしょうか。キャストだけならスター映画なのに、どう見てもインディーズ映画みたいなノリで、シナリオは適度にご都合主義でも決して浮き足立たず、テンポが駆け足でも喰らい付いていけば最後まで楽しめるという、全てのさじ加減が絶妙にブレンドされて、前作とは比較できないほど粋で笑えて痛快な映画になっています。そして何より、人も風景も全てが華やか! でも、楽屋ネタも前作への皮肉もたっぷりなので、そういうので「雰囲気が台無し!」と怒ってしまう人向きではないですね。
 前作から共通の俳優は言わずもがなですが、中でもマット・デイモンはオイシイ役どころでした。この人はオトボケ役が一番似合うと思います。初登場組では、やはりヴァンサン・カッセルの貴族っぷりが目を惹きます。サウンドトラックも秀逸で、単体の音楽CDとしても充分楽しめるほどでした。なお、今回も前作と同じ8500万ドルという、このキャストからしたら破格の低予算で撮り上げているのも注目すべき点でしょう。

 とにかく全体のユルさが最高でした。全力で映画史に残る傑作を作ろうとして空回りしている大作映画が多い中で、肩の力を抜いて観られる最高のエンタテインメントに仕上がっています。俳優の表情が他のどんな映画より生き生きしているのが、その何よりの証拠ですね。

監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、ジュリア・ロバーツ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、アンディ・ガルシア、マット・デイモン、ヴァンサン・カッセル、ドン・チードル
20050919 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -