★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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セイント

 ヴァル・キルマーの主演作としては珍しく破綻していないアクション映画。気になる点は多々あるものの、90年代のスパイ映画ブームに乗って作られた一作の中では、きっちり盛り上がって楽しめる内容でした。
 キルマーの変装メイクはバレバレですが、人物ごとの演じ分けはきちんと出来ていたような。「パトリオット・ゲーム」「今そこにある危機」で名を馳せたフィリップ・ノイス監督による映像は重厚で見応えがあり、軽すぎのB級アクションになりがちなところをうまくごまかしています。さすがに敵がロシアだったり、争うものが低温核融合の方程式だったりと、思わずツッこみたくなる設定の古さは辛いところがありますが、締めるべきところをきっちり締めた演出には好感が持てました。あと、この「聖人の名前をとった人物に変装する」という設定は、陳腐かも知れませんが映画向きで面白いな、と。

 レイド・セルベッジアが、悪玉の石油王役でふてぶてしい演技を披露しているのも見物の一つ。かなりご都合主義映画のような気もしますが、ヒーロー映画寄りのスパイものとして観るなら損はしないと思います。

監督:フィリップ・ノイス
原作:レスリー・チャータリス
出演:ヴァル・キルマー、エリザベス・シュー、ヴァレリー・ニコラエフ、レイド・セルベッジア
20060116 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

スポーン

 アメコミ界の人気作家トッド・マクファーレンによる原作コミックを、いわゆるアニメ世代出身のマーク・ディッペ監督で映画化。アメコミそのままな展開は短絡的でしたが、主人公スポーンの再現率は良かった。

 アクションだけなら楽しめるものの、観たあとに何も残らないのが宿命というか何というか。ストーリーのひねり具合もそこそこ良いんですが、世界の命運がかかってる割に話のスケールが小さくなったりして興ざめな部分もありました。予算の関係なのでしょうが、俳優に特徴ある人物がいないというのも辛い。明確なテーマもないので、暗いムードを貫こうとしているのに、どこか軽く感じてしまいました。
 それでもアクションは迫力があって楽しめますし、アメコミ世界の再現性という点では良く出来ていたと思います。何よりジョン・レグイザモが特殊メイクで演じるクラウンの存在感が良かった。ここまで印象的な悪役は、数多のアメコミものでも貴重なのでは。さらにCGで再現されたスポーンのマントも、躍動感に不気味さが加わって唸らされます。古いCGなのでテクスチャなどに粗さが残るのと、最後の見せ場で急に手抜き演出になるのが惜しいところですが、それを補う演出だったと思います。

 何だかんだで原作ファンには一見の価値はあるかと。映像の重さと主人公のキャラクターなど、もっと良くなる要素はあっただけに残念です。

監督:マーク・A・Z・ディッペ
原作:トッド・マクファーレン
出演:マイケル・ジェイ・ホワイト、ジョン・レグイザモ、マーティン・シーン
20060112 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ストーカー

 旧ソ連の巨匠、アンドレイ・タルコフスキーの代表作の一つ。突如出現した”ゾーン”と呼ばれる空間と、そこに忍び込む人々を描いたSFサスペンスの傑作です。

 プロット自体はシンプルですが、160分という時間をかけてじっくりと描き出されているために、物語はこれ以上ないほど厚みがあります。宗教的であったり観念的であったりする登場人物の思想も、最後には一つのテーマへと昇華していて、非常に手応えのある物語でした。モノクロとカラーの映像を場面によって切り替えたり、ゾーンの驚異を具体的な何かでなく自然現象の一つになぞらえて描くなど、表現技法にも独特の説得力があります。
 SFやファンタジーなど非現実を舞台にした物語は、その舞台設定に対する必然性がないと興ざめしがちです。この映画も、あらすじを聞いた時点では”ゾーン”という舞台設定からしてチープに思えましたが、観終わるころにはその哲学性に惚れ込んでしまいました。象徴主義や観念論などを駆使し、映像と台詞でテーマをこねくり回す様は圧巻です。

 極力エンタテイメント性を廃した作品なので注意。全力で映画の表現したいことを考えながら観ないと取り残されてしまいますが、それだけ哲学的SF映画の懐しみに満ちた名作でした。

監督:アンドレイ・タルコフスキー
原作:アルカージー・ストルガツキー、ボリス・ストルガツキー
出演:アレクサンドル・カイダノフスキー、アナトリー・ソロニーツィン、アリーサ・フレインドリフ
20051226 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ショコラ

 感動的な語り口で評価が高いラッセ・ハルストレム監督による、ファンタジックな、それでいて重いテーマのドラマ。全体としては綺麗にまとめていますし、表現したいことも分かるんですが、うまく騙されたような気分。
 古い因習に支配された街が、僕にはそれほど不幸と思えなかったので、それを打ち壊す主人公の行動が自分勝手な”悪”に見えました。お伽噺なので教訓的なのは良いとしても、”ルール”に対案を立てて反論するのではなく、異質な文化の流入で”ルール”をうやむやにするというのは、今の文明が犯している罪そのものなのではないでしょうか。それを美談にしてしまっている時点で、自由という名の暴力を正当化しているようで馴染めませんでした。オチの付け方はファンタジーらしくて秀逸なので、世界観を受け入れられる人なら充分楽しめる映画だとは思います。

 ところで、ジョニー・デップは全然活躍しません。ファンとしては寂しいところですが、これ以上出てこられると違う話になってしまうので我慢です。ピーター・ストーメアも、役柄は良いんですが劇中での役割は微妙。全体に、スッキリしない映画でした。

監督:ラッセ・ハルストレム
出演: ジュリエット・ビノシュ、ヴィクトワール・ティヴィソル、ジョニー・デップ、ピーター・ストーメア
20051216 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

シティ・オブ・ゴッド

 ブラジル、リオデジャネイロ郊外の通称”Cidade de Deus(神の街)”を舞台に繰り広げられる、実話を元にした犯罪ドラマ。130分という上映時間に少しの無駄もない、むしろそれ以上の時間が凝縮された、爆弾のように強烈な映画でした。

 南米のスラム街が舞台で、少年と麻薬とギャングがテーマと聞いて暗澹としたムードを想像していましたが、映画は見事なまでにエンタテイメント。トリッキーな構図やカット割りも、きちんと脚本の意図を反映した演出になっているので、テンポが良くても軽薄になりすぎていません。しかし、何より驚かされたのは少年達の演技の凄まじさ。実際にスラムに暮らし、ドラッグや強盗や殺人と隣り合わせの世界に生きている少年達が演じているので、演技にも説得力がありました。
 ”神の街”の少年達は、今でも日常的に銃を持ち歩いているそうです。その現実を踏まえながらも、映画はその事態を断罪したりせずに、あくまでエンタテイメントに徹しているというのがショックでした。誇張して撮らなくても画面の端から滲み出るような暴力性がこの街には現存していて、だからこそ同情を惹くような演出はしないというのが潔い。実際、ドキュメンタリーにした方が良さそうな映画が氾濫する中で、この映画は「映画である価値」を確信できる傑作です。

監督:フェルナンド・メイレレス
原作:パウロ・リンス
出演:アレクサンドル・ロドリゲス、レアンドロ・フィルミノ・ダ・オラ、セウ・ジョルジ
20051213 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

スノーホワイト

 グリム童話「白雪姫」のダークな面をも再現した、ファンタジー映画の秀作。こういうのは企画だけが一人歩きして内容がついてこない場合が多いんですが、今回は及第点どころかその上をいく出来で驚かされました。

 そもそもシガニー・ウィーヴァーとサム・ニールという配役からして笑ってしまうぐらいホラー向け。途中で出てくる「七人の小人」や魔女の動機付け、はては置きパンなどのダイナミックなカメラワークも、ディズニー版のイメージを完全に覆すブラックな出来栄えで、いい意味で期待を裏切ってくれました。ただし全体的に限界が見えてしまっているのが惜しかった。セットの狭さや技術の無さを演出でカバーしているものの、それが分かってしまう瞬間がありました。そのあたりが企画モノの限界なのかも。
 それでも普通のB級ホラーとは一線を画す映画として、ホラーなメルヘンを期待する方にはお薦めです。特にシガニー・ウィーヴァーの継母ぶりは必見。

監督:マイケル・コーン
出演:モニカ・キーナ、シガニー・ウィーヴァー、サム・ニール
20051129 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ザ・グリード

 スティーヴン・ソマーズ監督による海洋クリーチャーもの映画。まさしくB級映画万歳! という出来で、とても楽しめました。
 俳優は安っぽく、クリーチャーの作り込みも甘く、セット自体もペラペラで予算が下りなかったのかなと思いましたが、それを覆すほど良くできた展開で、特にクリーチャーが登場してからはずっと盛り上がりっぱなしでした。ここまで緊張を持続できる演出力は珍しいのでは。過去の定番を踏襲しつつ新たな演出を絡めていたり、オチも一ひねりしてあるあたり、この手の映画のなかでは際立っています。ただどうもA級スリラーを狙おうとしているのか、いらないとこに力を注いでいるような節もありました。

 脚本が的外れながらもいいなー、と思っていたらこの監督さんが脚本も兼ねているようで。ああなるほど、そういうところを買われたんだな、と。若いころのジェームズ・キャメロンと似ているかも。キャメロンよりB級っぽさが強く、真面目なシナリオには似合わなさそうですが。

監督:スティーヴン・ソマーズ
出演:トリート・ウィリアムズ、ファムケ・ヤンセン、ケヴィン・J・オコナー、ジェイソン・フレミング
20051113 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

シン・シティ

 R・ロドリゲス監督がデビュー当時から映画化したかったというグラフィック・ノベルのカルト的作品を、その原作者を共同監督に迎えて制作した話題作。これでもかというバイオレンス映画を期待していたので大満足でした。

 これはパルプ・フィクション的な理想郷である「シン・シティ」で繰り広げられる、ある種のファンタジーですね。ハードボイルドの定番をふんだんに盛り込みつつ、映画的なケレンに溢れたストーリーが秀逸。出てくる男はロクデナシかサイコ野郎で、女はビッチ限定という世界観は、ハマれる人はとことん楽しめるのでは。コミックそのままの、コントラストの強いモノクロ映像も見事。バイオレンス描写もどこかユーモアがあって、言われているほど激しいとは思いませんでした。デートには向かないという感想をたまに読みますが、chako氏は大喜びだったので女性だからダメということはないと思います。
 そしてミッキー・ロークほか俳優陣が良い! 個人的にはクライヴ・オーウェンが期待以上の色気を振りまいていたのがツボでした。デル・トロやイライジャ・ウッドは、相変わらず気持ち悪い役が似合います。女性陣ではゲイル役のロザリオ・ドーソンがビジュアルも役回りも格好良かったかなと。

 ところで、ロドリゲスはタイトルロールにある通り"SHOOT AND CUT"がメインで、実質の監督はフランク・ミラー本人だったようですね。そのためか、他のロドリゲス作品とは一線を画す仕上がりでした。台詞も構図も原作そのままのようなので、これは「スクリーンで観るコミック」なのでしょう。コミックとか映画とかいう枠組みを無視して、こういう試みを実現してしまう才能は大事だと思います。というわけで続編にも期待。

監督:ロバート・ロドリゲス、フランク・ミラー
出演:ミッキー・ローク、ブルース・ウィリス、クライヴ・オーウェン、ジェシカ・アルバ、ベニチオ・デル・トロ、イライジャ・ウッド、デヴォン青木、ロザリオ・ドーソン、ジョシュ・ハートネット
公式サイト
20051030 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

スナッチ

 処女作「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」が評価され、一躍イギリス映画界の寵児となったガイ・リッチー監督の第2作。ストーリーは支離滅裂、登場人物はアクが強すぎるというのに、それらをセンス溢れる音楽と編集で包装して観客の前にこれでもかと並べる手法が冴えています。

 映画全体のリズムは最近ハリウッドで流行のMTV風ですが、最大の違いは作り込みではなくセンスで一発勝負をかけているところ。特にアクションシーンに流行のスローモーションを殆ど使わず、コマ落としと止め絵で盛り上げる疾走感は最高でした。1コマ単位で練られたであろう編集など、観ているだけで気持ちの良い映画に仕上がっています。
 ワン・パンチ・ミッキー役のブラッド・ピットが流石のキャラクターで活躍していますが、それ以外の俳優も良かった。ヴィニー・ジョーンズやレイド・セルベッジアの無敵振り、ベネチオ・デル・トロの放蕩っぷり、デニス・ファリーナのしたたか振りなど、見所は沢山です。シナリオも、前作が一発ネタだったのに対し、今回は色々ネタを仕込む余裕があるぐらい。その分前作のような切れ味は欠けますが、娯楽作としてはこのぐらいのさじ加減が丁度良いのではないかな、と。

 スナック片手に観るのが最適な軽い映画ですが、何度観ても楽しいので未見の方はぜひ!

監督:ガイ・リッチー
出演:ジェイソン・ステイサム、ブラッド・ピット、ヴィニー・ジョーンズ、ベニチオ・デル・トロ、デニス・ファリーナ、レイド・セルベッジア、ユエン・ブレムナー
20051025 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

セブン

 デヴィッド・フィンチャーが新人らしからぬところを見せつけたサイコ・サスペンス映画の傑作。これは問答無用で惚れました。

 宗教的なテーゼに基づいて犯行が繰り返される様が、非情とも言える客観性と共に描かれています。それを傍観するしかない主人公達の無力感が、土壇場でいきなり観客自身にまで襲いかかってくるときの恐怖は、他のどの映画においても感じたことのないものでした。見終わって映画館から出てくるときにまだ身体が震えていたのを覚えています。
 降り続く雨の向こうに霞んでいる現実感のない町並み、精神を逆なでするノイズ混じりの音と映像、「人を殺したくなる」ほどエキセントリックな犯行、それを楽しんでいる自分に気付いたときの倒錯感、そういう全てを実現したフィンチャー監督の演出と、ダリウス・コンジによる撮影にただ圧倒されるばかりの映画でした。

 あまりの後味の悪さに、最初は「二度と観たくない」と思いましたが、時間が経つにつれてその魅力に身体が蝕まれていく心地よさを感じられた希有な作品です。カイル・クーパーによるタイトルバックが、それを端的に表現していて秀逸。なお、犯人役の俳優は映画の予告ではクレジットされていなかったので、ここでも敢えて書きませんでした。そのあたりは観てのお楽しみということで。

監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:ブラッド・ピット、モーガン・フリーマン、グウィネス・パルトロウ
20051023 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -