★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
詳細な評価基準についてはこちら

60セカンズ

 「カリフォルニア」のドミニク・セナ監督が、カーアクション映画の傑作「バニシングIN60」をリメイク。といっても内容は前作の作りとは違って、カーマニア同士の自己満足トークが炸裂するフェチ映画でした。

 もちろんカーチェイスにも力が入っているんですが、それが味付け程度に感じられるほど濃い喋りは必見。盗む車のラインナップもマニアックだし、車ごとに“実用的”な盗み方を披露してみたり(さすがに画面ではちょっとしか映しませんが)、分かりにくいところに小技が効いていて監督のこだわりが伺えます。物語はいたって平凡な兄弟愛もので、それだけにフェティシズムとアクションに集中できます。ハイ・コントラストでざらついた映像との相性も良いですね。
 主演はニコラス・ケイジ。予想通り、倒錯演技が嫌というほど似合ってました。デルロイ・リンドー、ロバート・デュヴァルといったシブい親父の演技が楽しめるのも一興。アンジェリーナ・ジョリーが完全に除け者扱いされているのも逆に笑えます。

 映画の構造自体は底の浅い娯楽作なのに、制作側の妙な思い入れのおかげでなかなか楽しめました。車を盗まれたことのある人は気持ち良いものではないでしょうが、クルマに思い入れのある人にはオススメ。

監督:ドミニク・セナ
出演:ニコラス・ケイジ、アンジェリーナ・ジョリー、ジョヴァンニ・リビジ、スコット・カーン、デルロイ・リンドー、ヴィニー・ジョーンズ、クリストファー・エクルストン、ロバート・デュヴァル
20060421 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

千と千尋の神隠し

 宮崎駿監督による長編アニメ。画面いっぱいにお伽話の世界が展開されるものの、心の底から楽しめるわけではない、微妙な作品でした。

 ファンタジーとしてのギミックはそれぞれ面白い。純和風のアニミズム的神話世界を背景に、次々飛び出す異様なキャラクターはどれも愛嬌があって笑わせてくれます。ただ、その個々のキャラクターから監督の主張が滲み出ているのに気を取られて、物語に入り込めませんでした。実写のように余計なノイズが混ざる場合は構わないんでしょうが、アニメのしかも長編でやられると遊びが無くて疲れるだけ。テーマが伝わってくるかどうかより、それが映画を面白くしているかどうか大事だと思うので、この作品に関してはやっぱり「つまらない」の一言で片付けたいと思います。
 今作から本格導入されたデジタルペイントは、ムラが無いせいで深みもありません。背景美術も、男鹿和雄が手がけた冒頭と最後のパート以外は、どうしても見劣りがします。でも声は良かった。特に湯婆婆役の夏木マリは貫禄です。

 どうも、近年の宮崎アニメは子供ではなく「子供を連れて観に来ている親(監督にとっては“子供”世代)」を相手にしているようで、その辺がクドクドした語り口の原因なのでは。小言はなるべく堪えて小出しにしないと、伝わるものも伝わりません。

監督:宮崎駿
出演:柊瑠美、入野自由、夏木マリ、内藤剛志、沢口靖子、上條恒彦、小野武彦、我修院達也、菅原文太、神木隆之介
20060410 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ジュラシック・パークIII

 大ヒット恐竜映画シリーズ第三弾。監督は「ロケッティア」「ジュマンジ」などSFやファンタジーが妙に得意なジョー・ジョンストン。地味ながら質の高い映像が楽しめる秀作です。
 第一作の娯楽性と第二作のホラー性を掛け合わせたような内容で、悪く言えばどっちつかずなんですが、適度にハラハラ、でも暗くなりすぎずに楽しめるところは好感が持てました。登場する恐竜も少数精鋭。さすがに恐竜が出てくるだけでは驚かなくなったものの、スケールを実感させる巧みな見せ方で迫力を出しています。テーマ性を排して、娯楽に徹したシナリオも良い。コンパクトで何の気負いもなく楽しめるだけに、純粋な“恐竜映画”だと感じました。

 とにかくジョー・ジョンストンの作品を一つでも観たことのある人なら納得の出来でしょう。テーマはないと書きましたが、最後のラプトルとの対峙やプテラノドンの飛翔が、監督の恐竜への強い思い入れを示しているような気がしました。シリーズ中で最も、恐竜への愛に満ちた作品かもしれません。

監督:ジョー・ジョンストン
原作:マイケル・クライトン
出演:サム・ニール、ローラ・ダーン、ウィリアム・H・メイシー、ティア・レオーニ、ジョン・ディール、マイケル・ジェッター
20060403 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ジュラシック・パーク

 世界中の恐竜ファンの夢を実現したとも言える、スティーヴン・スピルバーグ監督による恐竜映画。マイケル・クライトンによる原作を、ILMの特殊効果技術を総結集して実現した驚異の映像は、当時としては奇跡を見るようでした。
 登場する恐竜は全てマペット(機械駆動の人形)かCGで、着ぐるみが一つもないというのは恐竜映画にとっては革命的なこと。実物大ティラノサウルス・レックスのマペットまで作ったというスピルバーグの力の入れ様は凄いの一言に尽きます。アクションシーンの撮り方に突出したものはありませんが、素材の良さを殺さないそつの無さは良かった。サム・ニールやジェフ・ゴールドブラムなど、もうお父さん世代になってしまったかつての若手スターが、主役級で出演しているのも嬉しいところ。ストーリーはグダグダだし、映画の構造も数多のジェットコースター・ムービーと大差ありませんが、とにかく大迫力の恐竜たちが画面の中を暴れ回っているというだけで感動モノでした。

 とにかく恐竜好きなら、一度は観ておくべきでしょう。この作品以降、ハリウッドではCGを使ってどんなシーンでも実現できるようになってしまいましたが、この作品を観たときほどの感動はもう得られないでしょう。それだけインパクトがあった映画でした。

監督:スティーヴン・スピルバーグ
原作:マイケル・クライトン
出演:サム・ニール、ローラ・ダーン、ジェフ・ゴールドブラム、サミュエル・L・ジャクソン、リチャード・アッテンボロー
20060401 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

スターゲイト

 ドイツ出身のローランド・エメリッヒ監督が手がけたSF大作。笑っちゃうほどコテコテの展開を大真面目にやる手法には、感動すら覚えました。

 近年のハリウッドで乱発される“B級大作映画”とでも呼ぶべきジャンルは、この作品から始まったと言っても過言ではないでしょう。なかなかキャッチーな出だしで、物語のスケールが大きく、全てにおいて手も込んでいるのに、物語の根幹は過去のB級SF映画と何ら変わりません。底の浅いものを大仰にやるので、かえって安っぽさばかりが強調されてしまいました。
 ただB級SFとしての出来はなかなかのもの。何より神々の変身や戦闘機の爆撃など、見せ場の迫力はかなりのもので、特撮監督エメリッヒの手腕が伺えます。“スネーク”カート・ラッセルの出演も嬉しいところ。物語も必要以上に期待しなければ楽しめるレベルで、テレビでやってるとついつい観てしまう映画、といった印象です。

 ハリウッドが忘れていた大作映画の良さを思い出させてくれた、と言えば存在意義もあったのかも。ただ過去の焼き直しに過ぎないので、作品自体の新鮮さはゼロ。エメリッヒ監督はそれだけの人だ、ということをハリウッドは早く気づいてあげるべきだったのではないかなあ、と。

監督:ローランド・エメリッヒ
出演:ジェームズ・スペイダー、カート・ラッセル、ジェイ・デヴィッドソン、ヴィヴェカ・リンドフォース
20060329 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

女王蜂

 市川崑監督による、石坂金田一シリーズ第四弾。さすがにマンネリですが、それでも見どころが残されているのがこのシリーズの凄いところです。
 三部作の予定が、あまりの人気ぶりに無理矢理続けたような企画を、逆にシリーズのオールスター的に仕上げるという開き直りぶりが良い。紅葉や茶の湯、土塀など日本らしい美を巧みにとらえた映像も、シリーズ中最高の色彩感で魅せてくれます。ただ、そのせいか前作までのおどろおどろしさが消えて、エンタテイメント色が強くなってしまったのが残念。犯人の止むに止まれぬ事情など、人間の暗さを暴き出すのが金田一シリーズの肝だと思うんですが、そういう切実さまで薄れてしまったような印象です。

 俳優では、とにかく仲代達矢が良いですね。こういう演技がきちんと生きる映画である、というのが嬉しいところです。あとは岸恵子がやっぱりキレイ。犯人当ての場面は無理矢理だなあと思いつつも、この出演陣に助けられました。シリーズのファンなら、ぜひ。

監督:市川崑
原作:横溝正史
出演:石坂浩二、中井貴恵、高峰三枝子、司葉子、岸恵子、仲代達矢、萩尾みどり、沖雅也、加藤武、草笛光子、大滝秀治、坂口良子、三木のり平、小林昭二、常田富士男
20060323 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

サバイビング・ピカソ

 ジェームズ・アイヴォリー監督による、パブロ・ピカソの評伝映画。非常に良い内容に仕上がっているんですが、ピカソだったかというと疑問。
 現代における芸術家のステレオタイプそのもの(女好き、天才的、気まぐれ、高いカリスマ性などなど)であるピカソを映画化するにあたって、アイヴォリー監督は物語を上品にまとめました。それも良いんですが、やはりピカソという題材を考えると物足りなさが残ります。何よりアンソニー・ホプキンスのピカソが落ち着きすぎで、ただの色男にしか見えません。逆にピカソを取り巻く女性たちの方が生き生きしていると思えるほどです。ピカソの芸術観が本筋ではないものの、彼にとっては女性遍歴がそのまま芸術性と結びついている側面もあるので、女性観のみに絞って描かれるとどうしても片手落ちという印象が拭えません。

 フランソワーズを演じたナターシャ・マケルホーンが、飛び抜けて魅力的。役柄もありますが、凛とした女性という言葉が似合います。ピカソをかじったことがある人なら思わず喜びそうな再現シーンもいくつかあるので、興味がある人は是非。

監督:ジェームズ・アイヴォリー
出演:アンソニー・ホプキンス、ナターシャ・マケルホーン、ジュリアン・ムーア
20060315 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

スクール・オブ・ロック

 常にひと癖ある映画を撮り続けるリチャード・リンクレイター監督による、コテコテスポ根風味のロック映画。ファミリー向け映画のふりをして、実はロック好きの精神が詰まった佳作です。

 ジャック・ブラック演じるニセ教師のキャラクター自体はスポ根にありがちなものの、教えるのが”ロック”というのが斬新でした。ロックの歴史を知らなくてもそれなりに笑えますが、知っている人には堪らない濃さの授業は一見の価値あり。観れば誰もが「ロックの杯を掲げ」たくなります。演奏される音楽や使っているギターなんかもいちいち気が利いていて、その上ジャック・ブラックの大げさすぎる演技に爆笑させられてしまいました。
 とにかくこのジャック・ブラックの破天荒な教師ぶりは必見です。もともと、脚本家で映画に出演もしたマイク・ホワイトが、無名時代からの盟友であるジャック・ブラックのために書いた脚本だそうで、ハマらないはずがありません。子供たちの配役も絶妙で、中には既にプロとして活躍している人もいるという懲りよう。非常に大ざっぱな脚本ですが、彼らの勢いに感情移入してしまって、最後は涙してしまいました。

 そういえば、僕も小学校の頃こういう先生に教わったことがありました。校内放送で校長から怒られても雪合戦を止めなかった山田先生は最高の恩師ですが、今ではそういう先生は少ないのかも。そんな現代に対する”反抗”という意味でも、”ロック”は分かりやすいヒーローなのでしょう。ご都合主義大歓迎な方はぜひ!

監督:リチャード・リンクレイター
出演:ジャック・ブラック、マイク・ホワイト、ミランダ・コスグローヴ、ジョーイ・ゲイドス・Jr、サラ・シルヴァーマン 、ジョーン・キューザック
公式サイト
20060307 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

散歩する惑星

 カンヌ広告祭等で多くの賞を受賞しているロイ・アンダーソン監督による不条理芸術映画。ペルーの詩人セサル・バジェホの詩に影響されたという物語は、とにかく不条理で何が何だか、でした。
 壮大なるローテクで撮影された映像には独特の荒涼とした味わいがあり、頑張って生きている人々の姿は時に喜劇にすら見えてきます。そういう”普通の人々”に向けた”人生賛歌”のような映画、という点については理解出来るんですが、いかんせん僕のセンスには合いませんでした。きっちり決まった構図とか、漠々として虚無感だけが漂う風景とか、白塗りで計算された動きしかしない人々とか、表現的に惹かれる点は多いだけに残念。

 これを観て思ったのは、「最近人生を嘆かなくなったなあ」ということ。そのときの精神状態を映す鏡のような作品なのかもしれません。励まされたい人とか悩みたい人には打って付けの映画。

監督:ロイ・アンダーソン
出演:ラース・ノルド、シュテファン・ラーソン、ルチオ・ヴチーナ、ハッセ・ソーデルホルム、トルビョーン・ファルトロム
20060301 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

12人の優しい日本人

 シドニー・ルメット監督の「十二人の怒れる男」をモチーフにした東京サンシャインボーイズの舞台劇を、中原俊監督で映画化。登場人物の日本人らしい葛藤に、腹がよじれるほど笑える傑作コメディです。
 ”もしも日本に陪審員制度制度があったら”というアイデア自体が秀逸ですが、それをここまで論理的に組み上げた三谷幸喜の脚本センスは凄い。役者の演技も際立っていて、116分という上映時間の中に無駄な間が全く無いことに驚かされます。しかも、繰り広げられる議論がことごとく日本人的で、自分の意見がなかったり結論を先延ばしにしたりと、法廷劇の常識をことごとく覆すトリッキーさは爆笑もの。落語のようにきっちり落とすラストといい、非の打ち所のない内容です。

 俳優では、誰を差し置いても相島一之のしつこい演技が印象的でした。当時まだ無名だった豊川悦司の飄々とした佇まいも必見。でも、それ以外の役者も全員が個性的で、”日本人”の博覧会のような趣の映画でした。地味な映画ですが、コメディ好きにはお薦めの一本。

監督:中原俊
出演:相島一之、塩見三省、上田耕一、二瓶鮫一、中村まり子、大河内浩、梶原善、山下容莉枝、村松克己、林美智子、加藤善博、豊川悦司
20060228 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -