★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
詳細な評価基準についてはこちら

デジモンアドベンチャー

 今やすっかり人気を得た細田守監督の映画デビュー作。20分という短編ですが、子供向けアニメとは思えない高い完成度は必見です。

 何より演出センスが凄い。アニメ作品には珍しく実写的なカメラワークを取り入れ、望遠と広角、カットバックと長回しを効果的に使い分けた映像には迫力があります。画面に入れる要素の取捨選択も秀逸で、風景描写が人物の心情描写になるあたりは古典的な日本映画に通じるものもあり、アニメーションにおける演出もここまできたかと驚かされました。
 デジモンのタイトルを冠していますが、ストーリー的には単体の怪獣映画としても楽しめます。少年が未確認生物のタマゴを手に入れる導入部から、大友克洋の「童夢」を彷彿とさせる後半までの展開は、地味ながら心に響きました。

 あまりにストイックな内容で、公開当時の子供ウケは最悪だったようですが、そのあたりは同時上映の別の作品に任せてしまえば良いわけで。細田監督は、この後も演出した作品が軒並み高評価を受けるのですが、それも納得の秀作です。ぜひ。

監督:細田守
声の出演:藤田淑子、荒木香恵、坂本千夏
20061005 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

TAXi 3

 リュック・ベッソン製作・脚本の人気シリーズ第三弾。回を重ねて勢いは増したものの、なんとなく空回りしてしまいました。
 相変わらずのナンセンスぶりと無鉄砲なアクションは健在。人間ドラマにも厚みが増してみたりと、大忙しの内容になっています。ただ、今回は全体的にテンポの悪さが目立ちました。敵の設定が相変わらず弱いのは良いとしても、ちょっと特徴が掴めなさすぎ。アクションも尻すぼみで、特にラストのアレは不満です。せっかく雪山まで行ってあの程度だと……。交通事故数を減らしたいというフランス国内の情勢も関係しているようですが、やはり単純カーチェイス映画としては物足りなさが残りました。

 各所で言われている通り、オープニングはとにかく必見。その悪ノリは好きです。でも他は遊びすぎだなあ、と。

監督:ジェラール・クラヴジック
出演:サミー・ナセリ、フレデリック・ディフェンタール、ベルナール・ファルシ、マリオン・コティヤール、エマ・シェーベルイ、バイ・リン
20060420 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

TAXi 2

 リュック・ベッソンが製作・脚本を担当する人気カーアクション映画の続編。目的が明確な映画作法で、続編なのに前作よりも楽しめたような。
 上映時間は前作と同じなのに、登場人物の紹介を割愛できただけチェイスシーンが増えて、前作の不満が一気に解消しました。ストーリーのうっちゃりかたも前作以上。特に今回は敵役が日本のヤクザで、主人公たちも慣れない日本語を披露してくれてなおさら笑えます。これが本当に日本を勘違いしているだけなら辛いんですが、劇中ではちゃんと「イタい外国人」として描かれていて凄いなあ、と。それに、パリ市内を暴走する千葉ナンバーのランエボがもう…!

 俳優陣も前作のまま。主演の二人も良いんですが、ここはやはりジベール署長役のベルナール・ファルシの(前作同様の)活躍こそが、この映画の肝と言ってもいいかもしれません。チョイ役の人々が、前作にも登場した人だったりするのがまた楽しかったり。
 監督のジェラール・クラヴジックは、前作でも臨時で監督を体験していたせいか撮り方が様になっていました。むしろ前作より迫力があって、しかも笑いをどこかに残したチェイスシーンは見物。何はともあれ日本人必見。観たあとで「ニンジャー!」と叫びたくなる秀作です。

監督:ジェラール・クラヴジック
出演:サミー・ナセリ、フレデリック・ディフェンタール、マリオン・コティヤール、ベルナール・ファルシ、エマ・シェーベルイ
20060419 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

TAXi

 リュック・ベッソンの製作・脚本による、カー・アクション・コメディの大ヒット作。マルセイユを250km/hオーバーで爆走するタクシー、というビジュアルだけで大満足です。
 実際にマルセイユの街の各所で撮影された、ホンモノのスピード感が楽しめるのがこの映画の見所。ピレス監督自身がレーサー出身ということもあって、プロのドライバーを多数起用してのチェイスシーンは迫力満点です。フレンチ・コメディらしい皮肉たっぷりの笑いを盛り込みつつ、犯人追跡関係の細部を思いっきり省略してしまうというのも、カー・アクション映画らしい割り切り方。欲を言えば85分という上映時間は物足りないものの、「とにかく高速チェイスさえ見られれば良いんだ!」という人には打ってつけの一本です。

 これでドラマがもうちょっとシェイプアップされていれば良かったんですが、そこは映画の本題とは違うので目をつぶりましょう。単純に「走り」を楽しむ映画として、非常に画期的でした。

監督:ジェラール・ピレス
出演:サミー・ナセリ、フレデリック・ディフェンタール、マリオン・コティヤール、ベルナール・ファルシ、エマ・シェーベルイ
20060418 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

天国の日々

 テレンス・マリック監督による、今世紀初頭のアメリカ農村地帯が舞台のドラマ。映画全体としては時代を感じさせるものですが、撮影がひたすら見事。
 演出も俳優もそれほどではなく、アメリカの原風景を活写するだけのこの映画が高い評価を得られたのは、やはり撮影監督ネストール・アルメンドロスに依るところが大きいでしょう。殆どのシーンを、わざわざ早朝と夕方の赤く焼けた光線だけを選んで撮影したという、前代未聞の映像に対するこだわりが映画全体の完成度を底上げしていて、何でもないシーンですら印象派の絵画のような美しさでした。ましてや四季折々の農場が見せる表情は、どんな脚本よりも感動的で説得力があります。「20世紀最高の映像」と評されるのも納得。

 リチャード・ギアのステレオタイプなダメ男っぷりが気に入らなかったので、夕陽とサム・シェパードばかり見ていました。すぐカッとなって相手に掴みかかっていくことが格好いいことだとでも思っているんだろうか…。ただ映像のためだけにでも、観る価値のある作品です。

監督:テレンス・マリック
出演:リチャード・ギア、リンダ・マンズ、サム・シェパード、ブルック・アダムス
20060414 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

月のひつじ

 小さな田舎町の大きなパラボラアンテナに関する実話を元にした、ロブ・シッチ監督によるオーストラリア映画。じっくり観せるタイプの、そつのない良作でした。

 独特の空気を持ったオーストラリア映画の中では、これは比較的控えめな作品。全体にありがちなプロットですが、人物を絞るなど脚色の仕方がなかなか秀逸で、地味ながら最後まで飽きさせません。大使が来ちゃってるのに次々起こる騒動などにはハラハラさせられるものの、宇宙開発とローカル精神という組み合わせがほのぼのしていて、そこはかとなく笑えます。これもオーストラリアならではの雰囲気なのでしょう。文部省推薦という言葉が良い意味で似合いそうな“いい話”でした。
 警備員役のテイラー・ケインが格好良かったなー。サム・ニールのオジサンぶりも安定感がありますね。良い映画。

監督:ロブ・シッチ
出演:サム・ニール、ケヴィン・ハリントン、トム・ロング、パトリック・ウォーバートン、テイラー・ケイン
20060413 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

デカローグ

 ポーランドの巨匠クシシュトフ・キェシロフスキによる、「愛」に関する十編のドラマ。静かな演出ながら感情を強く揺さぶられる、文句なしの傑作です。

 それぞれ一時間という短さながら、現代の十戒とも言うべき荘厳で奥深い物語の数々に、観ていて何度も泣けてしまいました。シナリオはどれも単純で、演出も単調すぎるぐらいなのにここまで感動できてしまうのは、とにかく監督の視点の正直さにあると思います。なんでもないドラマだって、実際に自分の身に降りかかってみれば一大事なわけで、それを俳優の微妙な表情と、長尺でたゆたうようなカメラワークだけで表現してしまうセンスには、ただただ感服の一言しかありません。
 どれも最高の作品なんですが、その中でも「第1話:ある運命に関する物語」「第5話:ある殺人に関する物語」は特にお気に入り。各話の登場人物が他の物語にちょっとずつ顔を出したり、ほぼ全ての物語に顔を出す謎の男(おそらくは“神の存在”の暗喩)など、細かい部分の作り込みも秀逸。ちなみに、第5話と第6話はそれぞれ再編集され「殺人に関する短いフィルム」「愛に関する短いフィルム」として劇場公開されています。

 「これさえ観なければ、他の映画がもっと楽しめたのに」という映画は誰しも何本かはあると思いますが、僕にとってはまさにその筆頭ともいうべき映画。どんなエキセントリックな物語よりも心に突き刺さる”平凡なドラマ”です。必見。

監督:クシシュトフ・キェシロフスキ
出演:アレクサンデル・バルディーニ、クリスティナ・ヤンダ、ダニエル・オルブリフスキ、アドリアンナ・ビェジェインスカ
20060411 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

となりのトトロ

 宮崎駿監督による大ヒット長編アニメ。この映画に関しては説明不要でしょう。ノスタルジックな風景と、健気な子供達が印象的な作品です。
 今まで架空の世界を舞台にしてきた宮崎監督が、初めてリアルな、それも昭和中期の田舎を舞台にして、しかもその空気を見事に再現しているというのに驚かされました。特に宮崎作品には初参加となる男鹿和雄による美術が、田園風景をみずみずしく描き出しています。キャラクターたちも元気で力がみなぎっているので、見ていて懐かしいような嬉しいような気持ちがこみ上げてきました。北林谷栄の味のある声や、糸井重里の棒読み声も良い。後半のドラマはなんかに不満は残るものの、その辺を指摘するのは野暮というものでしょう。子供が文句なしに楽しめて、大人も童心に帰ることのできる正真正銘のファンタジーです。

 とにかく何度見ても楽しめて、少しホロリとさせる名作でしょう。懐古主義だと言われようが美しいものは美しいんだー! という、“あの時代”に対するスタッフの思い入れが感じられました。

監督:宮崎駿
出演:日高のり子、坂本千夏、糸井重里、北林谷栄、島本須美、高木均
20060407 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

天空の城ラピュタ

 宮崎駿監督による長編劇場用アニメ第三弾にして、スタジオジブリ設立後初の作品。「ガリバー旅行記」の空中都市ラピュタをモチーフに、痛快なアクションと深みのある物語が繰り広げられる傑作です。

 「風の谷のナウシカ」の余韻が残る内に制作されたためか、テーマ性を極力排してエンタテイメントに徹した作りが小気味よくきまっています。主人公と軍と空賊の三つ巴の争奪戦、“冒険活劇”を地で行く怒濤の展開、「未来少年コナン」を思わせるパズーのコミカルなアクションなど、とにかく分かり易くかつ娯楽性の高い映像世界は、アニメならではの魅力が満載でした。
 最後まで一気に楽しめるのは、もちろん物語が良いのもあるんですが、同時にキャラクターの明快さも一役買っています。特に脇役の配し方が秀逸。ドーラおばさんやムスカ大佐は、他の宮崎作品にも見られるモチーフながら、この作品における彼らは白眉といえるでしょう。数々の名台詞は必見。相変わらず軍事マニアっぷりを見せてくれる宮崎監督の演出も見どころの一つです。

 子供のころに観たときは、エンドロールでのラピュタの姿を見ながら涙してしまいました。スタジオジブリならではの完成度の高いアニメーションと、宮崎監督の巧みなストーリーテリングが、最高のバランスで結実した一作です。

監督:宮崎駿
出演:田中真弓、横沢啓子、初井言榮、寺田農、永井一郎、常田富士男
20060406 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

突破口!

 「ダーティーハリー」のドン・シーゲル監督が、「おかしな二人」のウォルター・マッソーを主演に迎えて放つ傑作犯罪アクション。顔に似合わずシリアスな活躍を見せたマッソーに惚れ惚れします。
 いきなり銀行強盗で登場し、その後もハードボイルド全開で活躍するウォルター・マッソーにただただ驚かされる二時間でした。典型的な逃避行タイプの物語ではありますが、女性との絡みや殺し屋の存在が絶妙。特にジョー・ドン・ベイカーの不敵な殺し屋モーリーの不気味さが、手に汗握る展開に拍車をかけています。70年代の映画なので映像自体は地味なんですが、それが全く気にならない、良くできたアクション映画だと感じました。

 ラストのひねり方はなるほどと頷いてしまう頭の良さで、そのためだけでもいいので観て欲しいと思えるほど。アクション映画に、派手さよりもシナリオの妙を期待するなら一押しの作品です。DVDもビデオも出てないのが残念な限り。

監督:ドン・シーゲル
出演:ウォルター・マッソー、ジョン・ヴァーノン、アンディ・ロビンソン、シェリー・ノース、フェリシア・ファー、ジョー・ドン・ベイカー
20060317 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -