★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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フェイク

 イギリス出身のマイク・ニューウェル監督による、実話を元にしたサスペンス、というより二人の男の友情ドラマ。主演のジョニー・デップとアル・パチーノの演技も見事なものの、全体的に緊張感が足りない印象です。
 物語の引きにである主役二人の友情はきちんと描けているものの、イマイチなのは映画的な余裕のなさからでしょうか。実話ベースなのは分かりますが、展開が平板すぎました。登場するマフィアが情けない人物ばかりなのもガッカリ。あと、ラストの最も重要な場面をWOWOWか何かのCMで流していたせいで、せっかくの感動が薄れてしまったというのもあるかもしれません。一瞬ならまだしも、どういう意図のシーンか分かってしまうほど流しておいて、映画もそこで終わりというのは酷いなあ、と。でも、それがなくてもラストの演出はチープすぎたと思います。

 丁寧に作り込んであるせいか、最後まで飽きずに見られるのは評価したいところ。家族というものについて結構考えさせられるあたり、テーマ性も強く出ていました。ただ、ハリウッドの方程式にはまった内容で、せいぜい「良くできたドラマ」止まりなのが残念。パチーノとデップを見たい人にはオススメです。

監督:マイク・ニューウェル
出演:アル・パチーノ、ジョニー・デップ、マイケル・マドセン
20051215 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ブリジット・ジョーンズの日記

 同名のベストセラー小説を、これまた女性のシャロン・マグワイア監督で映画化した話題作。イギリスでは社会現象化したというほどの人気小説ですが、映画自体はオーソドックスな恋愛モノでした。

 原作のキワモノ性は聞き及んでいたので、当たり障り無い主人公の行動やラストにちょっとがっかり。テンポ良く進むストーリーとセンスの良い音楽で飽きさせませんが、どうにも主人公ブリジットの魅力が分かりません。こんなことで「女性の本音!」とか叫ばれても、「そんな浅い生き方で本当に満足なのか?」と逆に聴きたくなります。ドタバタ劇は笑えるし、結末にも特に異論はありませんが、何となくご都合主義だなあと思ってしまいました。
 しかし、この映画の見どころは、誰が何と言おうとヒュー・グラントです。本人をモデルにしたというダニエル役を、ヒュー・グラント自身が演じている上に、それがとんでもないプレイボーイで驚きました。それまでの「うぶな好青年」というイメージとは正反対なキャラクターで、見る前は違和感ばかりでしたが映画を観てみて納得。これだけでも拍手喝采の内容で、上映中はずっとヒューばかり見ていました。

 精神性については共感できませんが、映画としての出来は悪くないし、ヒュー・グラントの意外な一面も楽しめたので差し引きゼロ、ということで……。

監督:シャロン・マグアイア
原作:ヘレン・フィールディング
出演:レニー・ゼルウィガー、コリン・ファース、ヒュー・グラント
20051207 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ブラザーズ・グリム

 「ラスベガスをやっつけろ」以来、実に7年ぶりとなるテリー・ギリアム監督の作品。「バロン」ばりのメルヘン超大作で、監督ならではの毒は控えめなものの、映画としては普通に楽しめる良作でした。

 製作会社側からかなり圧力を受けたようで、俳優のチョイスもストーリーも、それどころか広告展開までライトな大作映画のノリですが、細かいところにギリアムならではの皮肉が効いています。何しろ舞台からしてドイツとフランスのいがみ合いですから、モンティ・パイソンからのファンとしては始終笑わされっぱなしでした。グリム童話のオールスターといった節操のないフィーチャーの仕方も洒落が効いていて、ギリアムらしい凝りまくりの美術と衣装も、いかにもな雰囲気の森も、全てが監督の鬱憤をそのままぶつけたかのようなインパクトがあります。
 俳優も見所満載で、主演二人の配役の意外性、ジョナサン・プライスの手慣れた憎まれ役、ピーター・ストーメアのオーバーアクトと”イタリア訛りのフランス英語”などなど。モニカ・ベルッチも見事に女王になっていますし、子供達も可愛いし、相変わらずギリアム監督は俳優の魅力を引き出すのが巧みですね。

 どんなに隠そうとしても見えてしまう「ギリアム色」にファンとしては嬉しくなってしまいました。これだけの大作を、渋々ながらもソツなく撮り上げてしまうのは、ギリアム監督が映画に対する情熱を失っていない証拠です。ダークなオチや泥沼の精神描写は次回作以降に期待するとして、ここはギリアム監督の帰還を拍手で迎えたいところです。

監督:テリー・ギリアム
出演:マット・デイモン、ヒース・レジャー、レナ・ヘディ、モニカ・ベルッチ、ジョナサン・プライス、ピーター・ストーメア
公式サイト
20051127 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ハウルの動く城

 日本アニメ界の代表者になってしまった宮崎駿監督による、初の正統派ファンタジー作品。原作は気に入らなかったので(翻訳のせいかも)、このお話を監督がどう料理しているのかと期待して観ましたが、見事に肩すかしを喰った印象です。

 機関車が出てきた時点でおかしいなとは思ったんですが、ここまで原作を無視しているとは思いませんでした。登場人物や前半のプロットは一緒でも、後半の展開は映画オリジナル。そもそもハウルの素性が明かされないなんて……「はてしない物語」にバスチアンが出てこないようなものです。
 原作の物語としてのカタルシスは、絵に描いたような”お伽話の世界”という極端な世界設定が、ハウルの正体判明で一気に説得力を持つところであって、荒れ地の魔女の正体もソフィーの存在意義も「オズの魔法使」になぞらえたその他の登場人物たちも、そこに全てかかってきていたはずです。ところが映画ではその設定自体が消えたために凡庸なファンタジーになり、更に「戦争」という唐突で物語にそぐわないテーマまでが挿入されているので、原作の意図が全てうやむやになってしまいました。

 すげ替えられた物語が単純に面白ければ我慢のしようもありますが、そういうこともなく。映画としても、目的の分からないアクションシーン、無粋な台詞、細かいだけで表現力に乏しい背景美術など、納得のいかない部分ばかりでした。唯一良かったのは冒頭、羊飼いをナメて城が歩くカット(背景は男鹿和雄!)。これで原作の説明不足な点が一気に解消したんですが……。
 ちなみに映画自体で説明不足な点の殆どは、原作には初めから存在しない要素なので原作を読んでも解決されません。悪しからず。

 もともと某監督作品として制作が進められていたものの頓挫し、再開後もカツカツのスケジュールで制作されたという経緯もありますが、それにしてもこの破綻ぶりは酷い。試行錯誤をしているのは分かりますし、新しい試みも大事だと思いますが、宮崎監督には肩の力を抜いて90分ぐらいの小規模な作品を作ってほしい、というのが本心です。

監督:宮崎駿
原作:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
声の出演:倍賞千恵子、木村拓哉、美輪明宏、神木隆之介、我修院達也
20051121 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

パリ・テキサス

 ヴィム・ヴェンダース監督の代表作との呼び声も高いロード・ムービー。まだロード・ムービーというものをそれほど経験していない学生時代に観て、完全に打ちのめされました。

 一切の言葉を放棄し、行動の意図すらつかめない主人公に不思議と感情移入してしまって、長い上映時間の最後まで身動き一つ出来なかったことを覚えています。ロード・ムービーばかりを撮ってきた監督にとって、このストーリーは些か分かり易すぎるかもしれませんが、その単純なドラマを146分という長い上映時間を使ってじっくり描写することで、人間と世界の本質をなんとか描き出してやろうという監督の執念が伝わってきて、映像から目が離せませんでした。そして全てが終わってから振り返ると、アメリカという大地の美しさが心に響いてきます。この空気感こそ、アメリカに執着する監督ならではの拘りなのでしょう。

 映画を観る動機の一つに「価値観を変えられる」というのがあるとするなら、まさにこの映画こそ、そのエネルギーを持った作品だと思います。頭で考えるのではなく、その空気に触れさせることで観客自身の視野を広げるという、まさにロードムービーの醍醐味が結実したかのような傑作でした。

監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:ハリー・ディーン・スタントン、ナスターシャ・キンスキー、ディーン・ストックウェル、ハンター・カーソン
20051118 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

バロン

 鬼才テリー・ギリアム監督による、荒唐無稽さにかけては随一の傑作メルヘン。原作は、ドイツでは知らない人はいないほど著名な「ほら男爵」ミュンヒハウゼンの物語。僕もこの原作は大好きですが、その無茶な妄想世界を、ギリアム監督はこれ以上ないほど見事に再現しています。

 音より速く走る男や、首の取れる月の大王、ロープを下ろして月から降り、大砲の弾に捕まって自陣と敵陣を往復……とまあ、どんな絵になるのか聞いただけでは分からないようなものを片っ端から映像化し、どれもそれなりに説得力を持たせているところが凄い。また、断片的なエピソード群である原作を、一つの物語としてまとめるために付け足された物語も秀逸。劇中劇を否定するバロンの登場シーンから始まって、ほら話が現実を凌駕するラストは、ギリアムらしい皮肉とカタルシスに満ちています。

 実は豪華な俳優陣も見物。特にバロン役のジョン・ネヴィルは、原作の挿し絵にそっくりで驚きました。制作当時は予算オーバーなどで大変だったようですが、これだけの映画を後世に残せるのなら、それも仕方がないところでしょう。

監督:テリー・ギリアム
出演:ジョン・ネヴィル、サラ・ポーリー、エリック・アイドル、オリヴァー・リード、ユマ・サーマン、ロビン・ウィリアムズ、ジョナサン・プライス、スティング
20051117 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ハリー・ポッターと炎のゴブレット

 イギリスの同名ファンタジー小説の映画化シリーズ第4作。試写会にも行きましたが、面白かったので劇場でもう一度観てきました。今回はシリーズ初の英国人監督ということで、過去の作品よりもイギリスらしい空気感が見事。相変わらず端折られた物語も映画としての見どころは豊富で、原作ファンとしては大満足の内容でした。

 映画の冒頭、ロケ撮影の部分の瑞々しさが目を惹きます。望遠や広角を巧みに使い分け、随所に遠景からのダイナミックなシーンを挿入しているため、風景のみの描写が減ったにも関わらず、今までで一番「空間」を感じる映像になっていました。俳優の演技も良くなっていますし、原作にはないユーモラスな会話が散りばめられた秀逸な脚本もあって、本当に主人公たちがホグワーツ魔法学校の中で生活しているような現実感があります。この、現実を反映した説得力のある学校生活こそ原作最大の魅力なので、映画もきちんと「ハリー・ポッター世界」になっていて納得の仕上がりでした。
 それにしても「死喰い人」の描写など、今回も説明不足の感は否めません。そろそろ原作ファンか旧作からのファンぐらいしか観ていないので、3時間ぐらいに上映時間を延ばしてもいいのでは。今回は映画自体が良くできているだけに、そこに不満が集約してしまいました。

 ともあれ、シリーズの「山場」とも言える今作を見事に映像化したマイク・ニューウェルの手腕には脱帽。映画としても原作の再現としても、シリーズで一番の出来ではないでしょうか。試写会では終了後に拍手まで起こっていましたし。主演の3人を始め子供達も相応に成長していて(ネビルは伸びすぎですが)、次の映画が今から楽しみです。

監督:マイク・ニューウェル
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、マイケル・ガンボン、マギー・スミス、アラン・リックマン、イアン・ハート、ロビー・コルトレーン、デヴィッド・シューリス、ゲイリー・オールドマン、ブレンダン・グリーソン、レイフ・ファインズ
公式サイト
20051112 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ハリー・ポッターとアズカバンの囚人

 同名ファンタジー小説の映画化シリーズ第3作。今回は監督が「天国の口、終わりの楽園」のアルフォンソ・キュアロンに交代して、前2作よりも凝った演出が目立つ作品に仕上がっています。

 上映時間が一気に短くなったため、相変わらず原作を読んでいるのが前提のような説明不足さが目立ちます。心情描写に時間を割いている点は良かったんですが、それも原作ファンじゃないと分かりにくいのでは。ただ今回はゲイリー・オールドマンがシリウス・ブラックを演じているというだけで、もう僕としては気絶するほど嬉しいのです。しかもルーピン先生がデヴィッド・シューリスだというのもツボ。主演の3人をはじめ子役達も相応に成長して、服装や髪型にも凝ってみたりと映像的にも新鮮でした。リチャード・ハリスの急逝でダンブルドア校長役はマイケル・ガンボンに交代しましたが、こちらもしっかりした演技で違和感ありません。
 先述した心情描写もそうですが、今回は原作にない演出があって、でも世界観を壊さずに映画的な味付けをしているという印象で好感が持てました。きちんと「映画」になっているという感じ。ただ映画の質が上がると、原作にあるような感動が半減しているのが余計残念に感じられます。ああああそこはもっとこう、こういうカタルシスがあるのに……と。

 ちなみに、この3作目は子供には不評のようです。あまり映画を見慣れていない子供にとっては、繊細で凝った演出は邪魔なだけなのかも。なかなか難しいですね。ともあれ、3作目までは及第点で来ているので、このまま続けて欲しいシリーズではあります。

監督:アルフォンソ・キュアロン
原作:J・K・ローリング
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、マイケル・ガンボン、マギー・スミス、アラン・リックマン、ロビー・コルトレーン、ゲイリー・オールドマン、デヴィッド・シューリス
20051111 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ハリー・ポッターと秘密の部屋

 同名ファンタジー小説の映画化シリーズ第2弾。相変わらず原作に忠実なうえ、前作よりも分かりやすいお話なのでファンならずとも楽しめるのでは。スタッフはほぼ前作と同じで、撮影監督がロジャー・プラット(「未来世紀ブラジル」「バットマン」など)に変わったぐらい。大物キャストではケネス・ブラナーとジェイソン・アイザックスが新たに加わっています。

 少しホラー色の入った原作を反映した、ダークな画面や物語展開は見応え充分。ただ、前作より10分ほど上映時間を増やしたのにも関わらず、それ以上に原作もボリュームアップしているので、展開が駆け足の印象はぬぐえません。原作にあった精神的な描写も控えめで、何となく物足りない感じでした。それは原作を読んでいるから感じる不満なのかも知れませんが、例えばトム・リドルの素性に関することなど、所々で重要な台詞がカットされていた(DVD版の特典映像にはありました)のは、やはりストーリーに穴を作ることなので、ちょっと納得できません。
 でも相変わらず原作に忠実なビジュアルには大満足。イングランド俳優のオールスターとも言うべき豪華なキャストも前作と変わらず出演しているのが、何より嬉しいことです。

 ちなみにDVD版ですが、前回不満だった「ゲームをクリアしないといろいろ見られない」という構成は改まって、いきなりコンテンツが制覇出来ます。専門サイトでは、圧縮率の良さも話題にもなっていました(確かにディスク1枚で160分超の映像は、圧縮を考えないと不可能ですよね…)。特典映像は前回を凌駕する数と再現率で、これが劇場版でも加わっていれば……と残念しきり。というわけで、DVD版は文句なしの出来です。

監督:クリス・コロンバス
原作:J・K・ローリング
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、リチャード・ハリス、マギー・スミス、アラン・リックマン、ロビー・コルトレーン、ケネス・ブラナー
20051110 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ハリー・ポッターと賢者の石

 世界中でベストセラーとなったファンタジー小説をクリス・コロンバス監督で映画化。映画化にあたっては全ての段階で、常に原作者の意向を反映するという異例の体制で制作されたとか。そのおかげもあってか、原作ファンならば感涙の出来でした。

 予め断っておきますが、僕もchako氏もこの原作の大ファンです。なので、原作の名シーンの数々がそのまま映像化されているだけでも感動モノでした。さすがに全シーンは無理ですが、代表的なところは網羅してありますし、特にクィディッチのシーンなんかは最高! キャストも全員がイメージ通りで、特にスネイプ先生役のアラン・リックマンと、ダンブルドア校長役のリチャード・ハリスは想像以上にハマリ役でした。物語としては前半ちょっと飛ばしすぎですが、上映時間を考えたら仕方がないかと。むしろ152分間が全然物足りなく感じるほどなので、この辺で満足するべきでしょう。
 逆に、原作を未読の人には辛いかもしれません。肝心の導入部のストーリーがおざなりで置いてきぼりを喰い、その後も何が起こってるのか分からない、という人もいるのでは。ただ、本国イギリスでは読んでない子供は居ないほどの原作なので、結果こういう映画になることは仕方ないことだと思います。

 ひとまず順調な滑り出しですが、今後7作目まできちんと続けてもらえるのか、ということが最も気になります。ファンの多い作品なので、映画のみのユーザのことはこの際見限ってでも、原作重視というスタンスを貫いて欲しいところです。

監督:クリス・コロンバス
原作:J・K・ローリング
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、リチャード・ハリス、マギー・スミス、アラン・リックマン、イアン・ハート、ロビー・コルトレーン
20051109 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -