★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ストーカー

 旧ソ連の巨匠、アンドレイ・タルコフスキーの代表作の一つ。突如出現した”ゾーン”と呼ばれる空間と、そこに忍び込む人々を描いたSFサスペンスの傑作です。

 プロット自体はシンプルですが、160分という時間をかけてじっくりと描き出されているために、物語はこれ以上ないほど厚みがあります。宗教的であったり観念的であったりする登場人物の思想も、最後には一つのテーマへと昇華していて、非常に手応えのある物語でした。モノクロとカラーの映像を場面によって切り替えたり、ゾーンの驚異を具体的な何かでなく自然現象の一つになぞらえて描くなど、表現技法にも独特の説得力があります。
 SFやファンタジーなど非現実を舞台にした物語は、その舞台設定に対する必然性がないと興ざめしがちです。この映画も、あらすじを聞いた時点では”ゾーン”という舞台設定からしてチープに思えましたが、観終わるころにはその哲学性に惚れ込んでしまいました。象徴主義や観念論などを駆使し、映像と台詞でテーマをこねくり回す様は圧巻です。

 極力エンタテイメント性を廃した作品なので注意。全力で映画の表現したいことを考えながら観ないと取り残されてしまいますが、それだけ哲学的SF映画の懐しみに満ちた名作でした。

監督:アンドレイ・タルコフスキー
原作:アルカージー・ストルガツキー、ボリス・ストルガツキー
出演:アレクサンドル・カイダノフスキー、アナトリー・ソロニーツィン、アリーサ・フレインドリフ
20051226 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

THX-1138

 ジョージ・ルーカス監督の長編デビュー作。学生時代に撮った短編映画を評価されて劇場用に作り直したもので、映画としての構成は単調で分かりにくいのですが、そのストイックな設定や物語はSF好きのツボを心得ています。

 第一に登場人物が男性も女性もスキンヘッドという、全く映画向きじゃないビジュアルを貫いているのに驚きました。そのだけで近未来的管理社会の性質がストレートに観客に伝わってきます。ルーカス監督なので掘り下げの足りなさには泣きが入りますが、それでも印象的なカットや台詞が散見されました。何よりラストのカットは、SF映画史上に残る名シーンなのではないでしょうか。
 近年大量生産されている、SFという名を冠しただけのアクション映画に比べれば、充分SFとして観賞に堪える作品。「メトロポリス」や「アルファヴィル」のような過去の名作SFに着想を得ながら、独自のイメージを構築出来ている点だけでも凄い。それに”管理社会SF”を多数目にしてきた人にとっては、そのいいとこ取り的なこの映画は一見の価値アリなのです。

 因みに、最近発売されたDVD版では多数の追加、修正が行われているようです。うーん、それも観てみたいかも。

監督:ジョージ・ルーカス
出演:ロバート・デュヴァル、マギー・マコーミー、ドナルド・プレザンス、イアン・ウルフ
20051225 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

1984

 ジョージ・オーウェルによって1949年に書かれたSF小説を、表題の1984年に映画化したという作品。ビッグ・ブラザーというリーダーの下に統制の敷かれた未来像が衝撃的でした。原作のテーマは様々な映画で応用されていますし、この映画自体、多数のオマージュを生み出したSF映画の隠れた名作です。

 全体主義からの逃亡というのはSFにおける普遍的なテーマの一つですが、そのテーマが端的にまとめられていて、非常に骨太な印象でした。とことん暗く救いのない世界が綴られる中で、愛だけが唯一の救いとして描かれているのが感動的。都市の荒廃ぶりや支配者の絶対性を、説明的な描写を用いずに映像の端橋から感じさせる演出も、映画の格を引き上げています。小説を読んだ方がテーマをより理解できるのでしょうが、映画だけでもその趣旨は充分表現できている、と感じました。
 全体に暗澹としていて退屈な映画ですが、ハードSFが好きな人ならその重厚さを楽しめるはず。ビデオもDVDも国内では絶版なのが残念です。レンタル店では稀に見かけるので、気になる方は是非。

監督:マイケル・ラドフォード
原作:ジョージ・オーウェル
出演:ジョン・ハート、リチャード・バートン、スザンナ・ハミルトン、シリル・キューザック
20051224 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

未来世紀ブラジル

 テリー・ギリアム監督によるSF映画の傑作。ギリアム監督のシニカルな面が存分に発揮された物語で、夢と現実の交錯する構成が見事な、カルト映画の代名詞のような作品です。

 何処が良いかと聞かれても、あまりに荒唐無稽な内容なので、とにかく一度観てくれと言うしかありません。物語そのものも非常に魅力的ですが、それが映像を伴ったときに発揮される焦燥感はギリアム作品の中でもダントツ。随所に挿入されるブラックユーモアや、無機的で白が基調の都市と有機的で猥雑な夢の対比、あまりに衝撃的で救いのないラストも良い。
 それにしても豪華な映像には参りました。近未来の巨大なビルや、主人公の見る悪夢の世界を完璧に映像化したセンスには脱帽。どれも存在感があって、かつ「ありえない」感じが良く出ていました。中でも拷問室のセットは無言の圧迫感があり、映画の不気味さを引き立てています。物語がダークで混沌にまみれている中で、音楽だけが明るくポップなのも皮肉が効いていて良かった。

 シナリオを真面目に追って考え込むより、そこに秘められたブラックさに笑いつつ、カラフルな映像を楽しむのが目的でしょう。SFという世界観のファンタジーであり、チャンネルが合う人には最高のトリップ・ムービーかと。こういう映画を観てしまうと、普通の映画ではもう物足りなくなってしまいますね。

監督:テリー・ギリアム
出演:ジョナサン・プライス、キム・グライスト、ロバート・デ・ニーロ、イアン・ホルム、キャサリン・ヘルモンド、ボブ・ホスキンス
20051223 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ブレードランナー

 リドリー・スコットの名声を確実なものにした、SFサスペンスの傑作。80年代SF映画の最高峰のひとつで、荒廃した世界観とハードボイルド的な物語の組み合わせが見事です。

 冒頭から、もの凄く広がりのある近未来空間に目を奪われました。空を飛ぶスピナーや広告塔のイメージは、これまでのどんなSF映画よりも説得力がありますし、廃墟のようなビルと酸性雨は「未来は光に満ちている」という妄想が終焉を迎えたことを端的に表現しています。この斬新なイメージが当時のSF映画に与えた影響は絶大で、以降の作品は全てこの映画を踏まえていると言っても過言ではないほどです。
 物語も、ハードSFらしく哲学的なテーマが強く存在していて、それを雄弁に語る主人公のモノローグが印象的でした。レプリカントを演じたルトガー・ハウアーの不気味さは必見。あくまで一つの目標に向かって突き進んでいるレプリカントに対して、追いかける主人公が悩み続けているという構図はそのまんまハードボイルドの定番ですが、そこにSF的な見せ場を絡めてくるところが秀逸でした。

 今観ると古い映画だと感じてしまうところも多々ありますが、記念碑的作品としてSF映画好きなら一度は見ておいて欲しい作品。ちなみに「公開版」、「完全版」、「最終版」と様々なバージョンがある映画ですが、個人的にはモノローグのある公開版が一番好みです。

監督:リドリー・スコット
原作:フィリップ・K・ディック
出演:ハリソン・フォード、ルトガー・ハウアー、ショーン・ヤング、ダリル・ハンナ
20051222 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

エイリアン4

 J=P・ジュネ監督による、人気SFホラー(という呼称は本来不適切だけど)シリーズの第4作目。今回、盟友キャロは「繊細すぎるため」デザイン面のみの参加ということですが、相変わらずのダークでどこかユーモアのある世界観は健在。ただ「エイリアン」との食い合わせは微妙でした。

 ジョス・ウェドンによる脚本は、B級ホラーを好きな人なら大喜びな出来。過去のエイリアンシリーズを全て踏襲しつつ、違和感のない物語は見応えがありました。今までにないほど強烈なキャラクターを与えられたエイリアンは、ジュネ監督独自のカメラワークとダリウス・コンジによる明快な映像によって、絵画のように美しく、より人間的に描かれています。この映画にあるのはエイリアンというキャラクターに対する愛だけで、人間はそれを殺害しようとする敵に過ぎないのでしょう。ホラーでもサスペンスでもなく、エイリアン主役のスター映画。だから最後はスッキリしない感じですし、そもそもジュネ監督である必要も無いなあ、と。過去最高のグロテスクさには大満足なんですが。
 ウィノナ・ライダーの演じたコールが愛らしくて良かった。ロン・パールマンとドミニク・ピノンの二人がちゃっかり出演しちゃうのもファンとして嬉しいところ。それにしてもエイリアンシリーズは毎回全く違う作風で、そもそもシリーズにする必然性があるのか、という感じですね。

監督:ジャン=ピエール・ジュネ
出演:シガニー・ウィーヴァー、ウィノナ・ライダー、ダン・ヘダヤ、ロン・パールマン、ドミニク・ピノン、マイケル・ウィンコット
20051107 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ロスト・チルドレン

 ジュネ&キャロのコンビによる長編第二弾(マルク・キャロは美術監督として参加)。14億円という、フランス映画にしては莫大な予算をつぎ込み、巨大セットをいくつも建造して創り出したヨーロッパ世紀末的な世界観が凄い。僕もchako氏も、あらゆる映画の中でこの作品が一番好きです。

 前作「デリカテッセン」の完成度が高かったので、こんな大予算で、有名なスタッフを使って大丈夫なのかと心配したんですが、全くの杞憂でした。ダリウス・コンジの映像は色彩豊かなのに前作より焦点が定まって迫力がありますし、J=P・ゴルチエの衣装も、アンジェロ・バダラメンティの音楽も最高!
 しかし、やはり見どころはジュネ&キャロによる映像世界でしょう。登場人物に幅ができて華やかになったおかげで、絵本的でキッチュな世界観に磨きがかかっています。それだけでも楽しめるのに、ファンタジーとして最高級のシナリオがその世界観の中から自然に紡ぎ出される様は圧巻です。俳優も、特に主演のロン・パールマンとジュディット・ヴィッテの美女と野獣っぷりは必見。しかも前作で主役を演じたドミニク・ピノンが今回は6人のクローンで息の合った「共演」を繰り広げています。ジャン=ルイ・トランティニヤンが、脳味噌だけのクローン”イルヴィン”の声として出演しているのも良かった。

 あえて批判するなら脚本が雑多で、全体像がはっきりしないこと。また、感情移入する対象がいないのも問題かもしれません。暗めの映像を嫌う人もいるでしょう。でもその底知れない混沌こそ、この映画の最大の魅力なので仕方ありません。それこそ好きな人には最高に楽しめる、現代最高のお伽話です。ヨーロッパ映画の空気感と、メルヘンが好きな人はぜひ。

監督:ジャン=ピエール・ジュネ
出演:ジュディット・ヴィッテ、ロン・パールマン、ドミニク・ピノン、ダニエル・エミルフォルク、ジャン=ルイ・トランティニヤン
20051106 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

デリカテッセン

 ジャン=ピエール・ジュネとマルク・キャロのコンビによる、非常にブラックでユーモアに満ちた長編処女作。それまで映画に抱いていたイメージが、この作品によって根本から覆されました。それだけオリジナリティのある、希有な映画です。

 ここまで他の作品と共通点のない映画というものは初めて観ました。ファンタジーともSFともつかないダークな世界観に、メルヘンの味付けがされているのがツボ。ストーリー自体は平板なんですが、ラストには映画を見たという充実感が確実にあります。それに奇抜なキャラクターと会話のおかげで飽きることがありません。ダリウス・コンジによる、空気感を強調した撮影も新鮮です。
 あと、俳優陣も独創的。ドミニク・ピノンの顔は一度見たら忘れられませんが、この人を始め普通の面構えの人が一人も出ていません。しかも演技もジュネ監督の美学で統一されていて、本当に絵本のような魅力に溢れた映画でした。

 非常に良い映画なんですが、映像が暗すぎるのでテレビで観ると何が起きているのか分からないのが難と言えば難。なので、ぜひまたどこかで上映してくれないかなあ、と思っている作品です。コンビの次作である「ロスト・チルドレン」と一緒なら、それこそ毎日通ってしまいそう。

監督:ジャン=ピエール・ジュネ、マルク・キャロ
出演:ドミニク・ピノン、マリー=ロール・ドゥーニャ、ジャン=クロード・ドレフュス、ティッキー・オルガド
20051105 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

バーバレラ

 ジャン=クロード・フォレストによるコミックを元に、1967に制作された不条理SFの傑作。映画としては破綻しまくっているんですが、ここまで凄いとかえって全てが許せてしまいます。

 他人から勧められて観たんですが、最初は勧めた理由が全く分かりませんでした。チープなのか芸術なのか判断の付きかねる美術、無駄なエロス描写、そもそもこれはSFなのかと疑いたくなる展開など、全てが過剰で意味不明。わけが分からず頭の中をシェイクされたような気分になりました。テンポもダルダルで欠伸が出ること必至ですが、そのサイケデリックな世界観は60年代という時代を如実に表しています。しかしバカだなあ…。
 セックス・マシーンの拷問シーンは必見。真面目に観るより、ちょっと下品な内装のカフェとかで流したらハマりそうな映画です。

監督:ロジェ・ヴァディム
出演:ジェーン・フォンダ、ジョン・フィリップ・ロー、マルセル・マルソー、ミロ・オーシャ、デヴィッド・ヘミングス
20051103 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

12モンキーズ

 鬼才という言葉がいやに似合うテリー・ギリアム監督が、クリス・マルケルの「ラ・ジュテ」に触発されて撮ったというSFサスペンス。よく作り込まれていますが、不満点の多い内容でした。

 物語の根幹はオリジナルそのままで、それを膨らまして長編に仕立てています。ただ、その「変わった部分」が皮肉たっぷり過ぎてダメでした。サスペンス的な盛り上がりはあるし、やりたいことは分かるんですが、物語の進展と共に方向性が不明瞭になっていって、オチも釈然としません。
 例によってセットや俳優の使い方は巧みでした。こんなにブルース・ウィリスを渋かっこ良く感じたのは初めてです。マデリーン・ストウも綺麗。ブラッド・ピットは、ちょっとやり過ぎな感はありますがエキセントリックで好きです。また、冒頭の荒廃したニューヨークのシーンに代表される世紀末感あふれるSF描写も見事。というか、映画が始まってしばらくは、そういったギミックのせいで興奮しっぱなしでした。

 各要素や前半の展開は気に入っているので、テレビなどで放送しているとついつい観てしまいます。むしろ一度経験しているので寛容になれるのかも。あと悪夢のようなメインテーマも秀逸。ともあれ、ギリアム好きとしては捨て置けない作品ではありますね。

監督:テリー・ギリアム
出演:ブルース・ウィリス、マデリーン・ストウ、ブラッド・ピット
20051021 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -