★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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鉄男 II BODY HAMMER

 塚本晋也監督の出世作である”鉄男”シリーズ第二弾。前作「鉄男 TETSUO」よりトーンダウンした観は否めませんが、相変わらずパワフルな映像は一見の価値あり。
 塚本監督は、今回も脚本・美術・撮影・編集をこなしたうえ、自らも出演するという力の入れよう。しかしカラーになり、映画としての体裁も整ってしまったためか、映像的な迫力ばかりが目について、映画本来のテーマが疎かになってしまったような。アクションシーンのスピード感は流石に見物ですが、前作のような”荒削りながらも強烈な映画体験”には、何かが足りない感じでした。

 前作に続いて主演を勤める田口トモロヲが、前作以上にバリバリのアクションをこなしているのは見所。映像や造形など、明らかに普通の日本映画とは一線を画す作品であることは確実です。

監督:塚本晋也
出演:田口トモロヲ、塚本晋也、叶岡伸、金守珍
20060218 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ヒルコ 妖怪ハンター

 諸星大二郎のカルト伝奇漫画「妖怪ハンター」を、当時まだ新進気鋭の塚本晋也監督が映画化したホラー作品。原作のイメージとはかなり乖離した内容ですが、これはこれで楽しめました。
 映画の内容は、同シリーズの単行本「海竜祭の夜」に収録された「黒い探究者」をメインにしつつ、そこに「赤い唇」が絡むといった感じです。ただ原作の持つおどろおどろしさは無く、非常に標準的なホラーといった印象。伝奇的なカタルシスは分かりやすく翻案されていますし、沢田研二も落ち着きが無くて稗田礼二郎という感じではありません。ただその沢田研二と、まさお少年役の工藤正貴の掛け合いがなかなか巧みで、”少年のひと夏の体験”といった爽やかさすら感じました。室田日出男の強面も、物語を引き締めるのに一役買っています。最後の演出は、さすがにどうかと思いましたが…。

 全体にちぐはぐな印象の映画ではあるんですが、パワフルな映像と俳優に助けられて、後味は悪くなかったような。でも、これは諸星大二郎原作である必要はないかもなあ、と。

監督:塚本晋也
原作:諸星大二郎
出演:沢田研二、工藤正貴、上野めぐみ、竹中直人、室田日出男
20060217 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

鉄男 TETSUO

 映画作家・塚本晋也の名前を世界に知らしめた作品。監督・脚本・撮影・美術・編集・出演の六役をこなした塚本監督の、まだ荒削りながらも力強い、映像に対するアプローチが感じられる問題作です。
 塚本監督の共通するテーマである”肉体”への表現が、既にこの映画の時点で明確に志向されています。67分という短い上映時間ながらも、長編映画以上のボリュームを感じさせる濃密な映像が凄い。モノクロであるが故にかえって力強さが増幅され、叙情とか感傷といった生半可な表現は、ことごとく金属化した”肉体”の下に叩き伏せられるのみ。言葉やプロットでどうこう言うより、完全に感覚で捉える映画でした。

 明らかに商業映画ではないし、暴力描写が嫌いな人も絶対に観てはいけない部類のものですが、くだらない精神論をぶって悦に浸るような映画よりよほど実のある内容だと感じました。しかし、体力的に余裕がないときには遠慮した方が良いのは確実なので、観る前は体調に気を付けましょう…。

監督:塚本晋也
出演:田口トモロヲ、塚本晋也、藤原京、叶岡伸、石橋蓮司
20060216 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

カタクリ家の幸福

  韓国のホラー映画「クワイエット・ファミリー」を三池崇史監督が大胆に翻案したブラック・コメディ。分かってやっているとは思うんですが、とてもそうは思えない頭の悪さが最高です。

 舞台を日本に変えただけならともかく、明らかに勘違いぶり爆発の”ミュージカル化”だというから、さすがは三池監督。目の付け所がかなりあさってです。しかも昭和臭がプンプンする豪華なキャストまでついて、これを21世紀になってしまった今になってやるというのは明らかに自殺行為。実際、映画館はガラガラだったんですが、映画自体はとんでもない掘り出し物でした。
 で、物語はあってないようなもの。とにかくバンバン人が死に、明らかに怪しいムードが映画に漂いますが、一番シリアスにならなければいけないところで突然ミュージカルになるのです。最悪の状況では笑うしかない、という心境の強烈な比喩でしょうか。さりげなく家族愛というテーマを組み込んでいますが、それも荒唐無稽な展開とか、脇役として登場する忌野清志郎や竹中直人のおかげでぶち壊し。終盤、暴走しすぎで観客がついていけなさそうな場面もあるんですが、綺麗に完結しているところが、やはり監督の手腕のなせる技なのでしょう。

 とにかく映画全編を通して館内に笑いがこだまする、粋なミュージカル・ホラーでした。三池監督のキツい演出は観る人を選びそうですが、それだけに映画としてのエネルギーは十分すぎるほど。近年の日本映画は理屈ばかりで面白くない、突き抜けたバカが見たい、という人は必見。数々の”迷曲”が一生頭から離れなくなることは保証します。

監督:三池崇史
出演:沢田研二、松坂慶子、武田真治、西田尚美、宮崎瑶希、忌野清志郎、竹中直人、丹波哲郎
20060214 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

双生児 -GEMINI-

 塚本晋也監督による、江戸川乱歩小説の映画化作品。この二人の相性は抜群ですね。乱歩世界の持つ独特の懊悩感が、映像に見事に現れていました。

 塚本監督の毒々しい映像センスが、乱歩のエログロな世界観を得て力強さを増しただけでなく、不思議とポップな印象すら残します。テーマに合わせて二面性にこだわったカットが多用され、観ている内に現実すら覚束なくなるような感じでした。眉無しメイクや北村道子による衣装など、ビジュアル面でのアプローチも見事。豪華なキャストも手伝って、塚本作品の中では非常に取っつきやすい内容に仕上がっています。
 出演陣では、やはり主演の本木雅弘の静と動を演じ分ける表情が際立っています。りょうのどこかバランスが崩れた美しさや、カメオ出演的に顔を出す豪華共演陣も、それぞれに良い味を出していました。

 全体を通して、テーマもビジュアルも完成度の高い、それでいて日本的な美意識に満ちた秀作でした。こういうエログロの世界こそ日本人の本質なんだから、その代名詞たる乱歩小説はいくらでも映像化して欲しいところです。
 ちなみに、DVDの特典映像を何故か三池崇史監督が撮影していました。塚本監督と三池監督って、仲良さそうですね。

監督:塚本晋也
原作:江戸川乱歩
出演:本木雅弘、りょう、筒井康隆、藤村志保、浅野忠信、竹中直人、麿赤児、石橋蓮司
20060208 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

姑獲鳥の夏

 京極夏彦による人気ミステリ小説を、奇才実相寺昭雄監督で映画化。原作既読者に向けた映画ではあるものの、オカルト的な長広舌や実相寺映像が好きな人には、なかなか楽しめる内容でした。

 長い原作の大半は京極堂の喋りだけなので、どう映像化するのかと危惧していましたが、さすが実相寺監督。あの長文をきっちり喋らせつつ、奇抜なカメラワークで巧みに場面を繋いでいて、飽きさせない構成になっています。展開が単調で盛り上がりに欠ける気もしますが、もともと原作がキャラ萌え中心のライトノベルのようなものなので、山場を期待するのは間違い。原作のキモはきっちり映像化しつつ、最後まで雰囲気を崩さないセンスは驚嘆ものでした。
 豪華なキャストも役の雰囲気に合っていて、かつ全体に漂う昭和臭さが堪りません。特に堤真一は想像以上にハマり役でした。もう少し脚本にまとまりがあれば最高だったんですが、それで変にお行儀良くなるのも嫌なので我慢します。

 あまりに凝りまくった映像は目が疲れそうですが、僕はこのぐらい凝ってくれた方が好みなので万々歳。ひたすら美学を追究した映像と、豪華なキャストに面白みを見いだせる人にはオススメです。次の「魍魎の匣」も、このメンバーで映像化してくれないかなあ。

監督:実相寺昭雄
原作:京極夏彦
出演:堤真一、永瀬正敏、原田知世、阿部寛、宮迫博之、田中麗奈、松尾スズキ、恵俊彰、荒川良々
公式サイト
20060207 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

エイリアン3

 CF界で活躍していたデヴィッド・フィンチャー監督の長編映画デビュー作であり、今でもファンの間からはいろいろと非難され続けれいるシリーズ第三作。でもこれ、僕は好きです。
 脚本が何回も書き直されたとかラストを撮り直したとか、試行錯誤の末に出来上がった作品だけあって映画自体も混乱を極めているものの、フィンチャー監督の荒削りながら突出したセンスを感じられる秀作だと思います。確かに物語の焦点が定まらないという欠点はありますが、宗教的でレトロフューチャーな設定やビジュアル、グロテスクかつ精神性にこだわる残酷描写などは、シリーズ中でも抜群の完成度。設定やキャラクターを描き切れていない観はありますが、映像の端々に表れる作り込みからは、刑務所惑星という空間の広がりも感じられます。エイリアンとリプリーの関係も語りすぎないところが丁度良い。ラストも、あれこそ英断と言いたいんですが……。

 エンターテインメントを求めて観れば確かに突っぱねられますが、一作目の精神を生かしつつ付加価値を与えることが出来た、正統な続編だと考えています。二作目が好きな人には否定派の多い映画ですが、二作目を受け入れられなかった人にはむしろオススメのホラーかと。

監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:シガニー・ウィーヴァー、チャールズ・S・ダットン、ランス・ヘンリクセン
20060204 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

エイリアン

 リドリー・スコット監督によるSFホラー映画。宇宙船という密閉された空間設定と、エイリアンというクリーチャーの組み合わせが絶妙な傑作です。
 ”登場しないことで危機感を煽る”という演出を、これほど忠実に見せたのはこの映画が初めてなのでは。それまでのチープなクリーチャーホラーと一線を画すアイデアは、”エイリアンもの”と呼ばれるジャンルを作り出すほど画期的でした。監督を務めたリドリー・スコットは、デビュー作の「デュエリスト」でもそうでしたが、シンプルすぎるほどのストーリーを緊張感たっぷりに演出する技量は流石です。H・R・ギーガーによるエイリアンのデザインを始め、世紀末感溢れる美術設定も秀逸。

 後に無数の模倣作を生み出した作品ですが、オリジナル故のシンプルさと力強さは、これ以上のクリーチャー映画はもう出ないだろうと思わせるほど。昔の作品だと高をくくって観ていない人は、とりあえず速攻で観ましょう。

監督:リドリー・スコット
出演:トム・スケリット、シガニー・ウィーヴァー、ジョン・ハート、イアン・ホルム
20060202 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

フロム・ヘル

 アメリカでヒットしたグラフィック・ノベルを、新鋭ヒューズ兄弟の監督で映画化。”切り裂きジャック”に関する推論を網羅したような物語は興味深いんですが、映画としては中途半端な印象。

 魅力的な主人公を作り上げておきながら彼の内面に迫ることはせず、ロンドンの暗いセットや事件自体は重厚に再現しつつもカメラワークは派手で……結果、フィクションにもノン・フィクションにもなりきれていません。娼婦達には切実さが欠けていて、階級制度や貧富の差などの社会情勢も真に迫って来ません。犯人もすぐ分かってしまうし……。元がグラフィック・ノベルなのでこの軽さは仕方がないのかもしれませんが、サイコホラーにもヒーローものにもなることのできた題材だけに残念。
 でも、一番残念だったのは”切り裂きジャック”の正体かも。いや、期待しちゃいけない方向なのは分かってるんですが…。

 はっとするような画面効果が所々に使われていて、そこは目を惹きました。願わくば、映画全体に同じレベルで気を利かせて欲しかった。残酷描写に対する積極性も好感が持てます。それに、ジョニー・デップが魅力的でした。こんな映画でも彼を観ていれば楽しめるというのは強みでしょう。

監督:アルバート・ヒューズ、アレン・ヒューズ
原作:アラン・ムーア、エディ・キャンベル
出演:ジョニー・デップ、ヘザー・グレアム、ロビー・コルトレーン、ジェイソン・フレミング、イアン・ホルム
20051217 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

28日後...

 ダニー・ボイル監督ならではのスタイリッシュな映像で描かれたゾンビ映画(厳密にはゾンビとは違いますが)。この手の映画としては定番のストーリーですが、しっかり楽しめる現代風のホラーになっています。

 ダニー・ボイル監督の強みは、ワンカットごとの説得力が尋常じゃないことでしょう。映像の強みを良く理解している人で、無人のロンドンや封鎖されたハイウェイを少ないカットで臨場感たっぷりに描き出し、チープになりそうな物語を巧く引き締めています。ロメロ版のゾンビを観た人なら既視感が伴う要素ばかりで、テーマらしいテーマもありませんが、その映像のおかげで最後まできっちり楽しめました。
 しかし主演のキリアン・マーフィーが格好良かった。弱々しい演技も狂気に満ちた暴走ぶりも様になっています。久々にダニー・ボイルらしい映像も楽しめましたし、収穫の多い映画でした。

監督:ダニー・ボイル
出演:キリアン・マーフィ、ナオミ・ハリス、クリストファー・エクルストン、ミーガン・バーンズ、ブレンダン・グリーソン
20051212 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -