★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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アイデン&ティティ

 みうらじゅんの同名コミックを、氏の盟友田口トモロヲが監督した青春バンド・ムービー。主演の峯田和伸の説得力ある演技のおかげで楽しめました。

 この手のジャンル映画としては非常に典型的な内容なものの、ボブ・ディラン風の”ロックの神様”がアクセントになっていて飽きさせません。反則くさいんですがディランの詞を引用したりして、ロックファンは堪らないのでは。そして主演の峯田和伸を始め、バンド経験者中心に選ばれた出演陣も良い。商業主義とポリシーとの板挟みになって悩むなんてあまりに定番な話であっても、実際にバンドやってる連中が演じるんだから説得力あるわけです。
 ストーリーがあまりに直球なのと、僕自身バンド経験者じゃないのもあってそれほど心には響かなかったんですが、バンドやってたらまた感想も違ったかも知れません。しかし宮藤官九郎の脚本は、相変わらず何か足りない感じがします。キレイに収まりすぎで。

 ちょっとずつ顔を出す(おそらく音楽関係の)有名人も見物。浅野忠信は相変わらずですが、ボカスカジャンの扱いはハラハラさせられました。とりあえず、青臭いロックに共感できる人と、ディランで無条件に泣ける人なら観て損はないかと。

監督:田口トモロヲ
原作:みうらじゅん
出演:峯田和伸、麻生久美子、中村獅童、大森南朋、マギー、コタニキンヤ、岸部四郎、大杉漣、あき竹城、塩見三省
20060223 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ホワイトアウト

 大作映画のヒットに恵まれていなかった日本映画界に一石を投じるはずだったアクション大作。「踊る大ハード」という下馬評通りで既視感たっぷりなものの、それなりに楽しめる映画でした。

 原作はかなり良くできたサスペンスで、ドラマもアクションも盛りだくさんなんですが、この映画はそれを最大限に再現していて好感が持てました。親友の死とか犯人グループの確執など、分かり易いドラマではあるものの、定番だからこそ安心して楽しめます。原作はそこに様々なドラマが絡み合い、かつダムという認知度の低い空間を最大限に生かした展開が見物だったんですが、映画でそのスケール感が損なわれてしまったのだけは残念でした。特にセット撮影の場面が辛い。ロケ部分の映像が良くできているだけにもったいないなあ、と。
 俳優では吹越満が良かった。原作では彼の動機がきっちり描写されているので、映画で物足りないと思われた方はぜひ原作を。佐藤浩市も、映画らしく脚色されたキャラクターを思いっきりふてぶてしく演じていて見応えがありました。松嶋菜々子が全然出てこないのも良いですね。

 確かに所々で詰めの甘さが目立つ、あまり褒められた作品じゃないんですが、これをパクリなどと言って一概に非難するのは疑問。というか、それなら最近の日本製大作映画なんか全部パクリじゃないのかと。下手にクセがなく後味も悪くないだけ、この映画はまだ救いがあります。

監督:若松節朗
原作:真保裕一
出演:織田裕二、松嶋菜々子、佐藤浩市、石黒賢、吹越満、中村嘉葎雄、平田満
20060221 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

鉄男 II BODY HAMMER

 塚本晋也監督の出世作である”鉄男”シリーズ第二弾。前作「鉄男 TETSUO」よりトーンダウンした観は否めませんが、相変わらずパワフルな映像は一見の価値あり。
 塚本監督は、今回も脚本・美術・撮影・編集をこなしたうえ、自らも出演するという力の入れよう。しかしカラーになり、映画としての体裁も整ってしまったためか、映像的な迫力ばかりが目について、映画本来のテーマが疎かになってしまったような。アクションシーンのスピード感は流石に見物ですが、前作のような”荒削りながらも強烈な映画体験”には、何かが足りない感じでした。

 前作に続いて主演を勤める田口トモロヲが、前作以上にバリバリのアクションをこなしているのは見所。映像や造形など、明らかに普通の日本映画とは一線を画す作品であることは確実です。

監督:塚本晋也
出演:田口トモロヲ、塚本晋也、叶岡伸、金守珍
20060218 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ヒルコ 妖怪ハンター

 諸星大二郎のカルト伝奇漫画「妖怪ハンター」を、当時まだ新進気鋭の塚本晋也監督が映画化したホラー作品。原作のイメージとはかなり乖離した内容ですが、これはこれで楽しめました。
 映画の内容は、同シリーズの単行本「海竜祭の夜」に収録された「黒い探究者」をメインにしつつ、そこに「赤い唇」が絡むといった感じです。ただ原作の持つおどろおどろしさは無く、非常に標準的なホラーといった印象。伝奇的なカタルシスは分かりやすく翻案されていますし、沢田研二も落ち着きが無くて稗田礼二郎という感じではありません。ただその沢田研二と、まさお少年役の工藤正貴の掛け合いがなかなか巧みで、”少年のひと夏の体験”といった爽やかさすら感じました。室田日出男の強面も、物語を引き締めるのに一役買っています。最後の演出は、さすがにどうかと思いましたが…。

 全体にちぐはぐな印象の映画ではあるんですが、パワフルな映像と俳優に助けられて、後味は悪くなかったような。でも、これは諸星大二郎原作である必要はないかもなあ、と。

監督:塚本晋也
原作:諸星大二郎
出演:沢田研二、工藤正貴、上野めぐみ、竹中直人、室田日出男
20060217 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ゼブラーマン

 三池崇史監督、宮藤官九郎脚本、哀川翔主演というコテコテのスタッフが作り上げた異色のヒーロー映画。案の定、着眼点は良いのにそれを生かし切れていない脚本が泣き所でした。
 特撮ヒーローものではなく、あくまで色モノ映画だというのは三池監督という時点で分かっていたのでオッケー。豪華キャストもそれぞれハマり役で、主役級から脇役まで安直な扱いが無いのには大満足でした。ただ宮藤官九郎の脚本が辛い。一つ一つの台詞は気が利いているんですが、物語の全体を見通してのカタルシスが無く、伏線も皆無なので、見終わってからの感慨に欠けます。まあゼブラーマンとキメ台詞は格好いいし、見てくれと一発ギャグを楽しむだけの映画だと割り切って観るのが正解でしょう。

 哀川翔は良かった。渡部篤郎のケイゾクっぷりも最高。俳優には恵まれた映画ですね。あとTV版ゼブラーマンの渡洋史ってシャリバンですよ! びっくりしたー。「ゼブラーマンの歌」はもちろん唄・水木一郎なので、そちらも必聴。

監督:三池崇史
出演:哀川翔、鈴木京香、渡部篤郎、大杉漣、岩松了、市川由衣、近藤公園、柄本明、内村光良、渡洋史
20060215 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ピンポン

 曽利文彦監督による、松本大洋の同名コミックの映画化作品。ストレートなスポ根もので、それだけに単純で楽しめる映画に仕上がっています。

 曽利監督はCG畑出身の方だそうですが、専門分野をあえて前面に出さない題材選びが大正解。もともと原作自体、松本大洋の芸術性をスポ根の隠れ蓑に包んでいたおかげで大衆性を獲得していたので、そういう意味では漫画も映画も同じ方向性と言えるのでは。ほぼ原作通りながら、ところどころ映画独自の演出をからめた脚本も効果的でした。
 窪塚洋介のキャスティングには半信半疑でしたが、観てみればそれほど違和感はありません。ARATAも、ちょっと格好良すぎるけどそれはそれで。中村獅童と大倉孝二は原作と互角。竹中直人と夏木マリはお遊びの観はありますが、原作のイメージはきっちり引き継いでいます。原作未読者にも希求できる明快なキャラクター分けと物語が健在なので、映画単体でも楽しめる、良質なエンタテイメントに仕上がったのでしょう。

 突き抜けた面白さではないんですが、このところ誰でも楽しめる日本映画が少ないので、分かりやすい映画は大歓迎。こういう嫌味のない日本映画がもっと増えてほしいなー、と。あとは、原作に頼らないオリジナルの企画がほしいところですね。映画にすると、どうしても原作の内容が薄まってしまうので…。

監督:曽利文彦
原作:松本大洋
出演:窪塚洋介、ARATA、中村獅童、サム・リー、大倉孝二、夏木マリ、竹中直人
20060212 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

鮫肌男と桃尻女

 望月峯太郎による同名コミックを、CF界出身でこれが長編デビューとなる石井克人監督が映画化。オフビートな演出は特徴的で楽しめますが、イマイチ吹っ切れていない印象です。

 ツカミは良い。次々登場するコミカルなキャラクターはしっかり描き分けられているので混乱しませんし、編集のテンポも良いので、まともなアクションシーンは殆どないのにダレません。そして、俳優陣の自己主張が凄い。浅野忠信はいきなりパンツ一丁で走ってるし、岸部一徳がヤクザだというのも笑えます。他にも我修院達也の”ドナドナ”とか、島田洋八の変態っぷりなどなど……ちょっと他では真似出来ない役者の使い方が目から鱗でした。
 ただ、最初にドカンと盛り上げた話が、それ以上加速しないままヒネリもなく終わってしまうのが残念でした。どうでもいい喋りを延々と描写するのも辛い。斬新なビジュアルもあって当時は新鮮だったんでしょうが、今観るとフツーに面白い”だけ”の映画ですね。

 ちなみに、原作はもっとネチネチしていてセクシーで、我修院達也演じる”殺し屋・山田”も登場しません。どちらが好きかは好みでしょうが、単行本1冊だけなので興味がある方はそちらも是非。

監督:石井克人
原作:望月峰太郎
出演:浅野忠信、小日向しえ、岸部一徳、我修院達也、島田洋八、鶴見辰吾、寺島進
20060209 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

姑獲鳥の夏

 京極夏彦による人気ミステリ小説を、奇才実相寺昭雄監督で映画化。原作既読者に向けた映画ではあるものの、オカルト的な長広舌や実相寺映像が好きな人には、なかなか楽しめる内容でした。

 長い原作の大半は京極堂の喋りだけなので、どう映像化するのかと危惧していましたが、さすが実相寺監督。あの長文をきっちり喋らせつつ、奇抜なカメラワークで巧みに場面を繋いでいて、飽きさせない構成になっています。展開が単調で盛り上がりに欠ける気もしますが、もともと原作がキャラ萌え中心のライトノベルのようなものなので、山場を期待するのは間違い。原作のキモはきっちり映像化しつつ、最後まで雰囲気を崩さないセンスは驚嘆ものでした。
 豪華なキャストも役の雰囲気に合っていて、かつ全体に漂う昭和臭さが堪りません。特に堤真一は想像以上にハマり役でした。もう少し脚本にまとまりがあれば最高だったんですが、それで変にお行儀良くなるのも嫌なので我慢します。

 あまりに凝りまくった映像は目が疲れそうですが、僕はこのぐらい凝ってくれた方が好みなので万々歳。ひたすら美学を追究した映像と、豪華なキャストに面白みを見いだせる人にはオススメです。次の「魍魎の匣」も、このメンバーで映像化してくれないかなあ。

監督:実相寺昭雄
原作:京極夏彦
出演:堤真一、永瀬正敏、原田知世、阿部寛、宮迫博之、田中麗奈、松尾スズキ、恵俊彰、荒川良々
公式サイト
20060207 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

パニック・ルーム

 現代ハリウッドのカリスマとなったデヴィッド・フィンチャー監督による、ヒッチコック映画を模したようなシチュエーション・スリラー。あまりにもオーソドックスな内容には拍子抜けしました。かといって駄作かというと、実はなかなか侮れない作品なんですが。
 過去に見せた実験的な映像センスが今回は少し落ち着いて、過剰にならない程度に物語を演出しています。しかし、このニュアンスが絶妙。今までのカルト的な要素をすべて取り払ったおかげで、むしろフィンチャー監督の確実な演出力が際だった作品となりました。テーマ性こそ薄いものの、最後まで緊張感の持続する、良質のスリラーに仕上がっています。ラストも色々捻ってあり、謎も多く残るのですが、そこに一応の答えが用意されているような気がするところも、仕掛け人フィンチャーの手腕なのでしょう。

 これまで一癖ある映画を撮り続けていたフィンチャー監督の、ちょっとした息抜きのようなシンプルな映画でした。ただ、やっぱりフィンチャー監督には、その実力を生かしたテーマ性の強い映画を撮って欲しいというのが本音なんですが。

監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:ジョディ・フォスター、フォレスト・ウィテカー、ジャレッド・レト、クリステン・スチュワート、ドワイト・ヨアカム
20060206 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ゲーム

 デヴィッド・フィンチャー監督が、ヒット作「セブン」に続いて手がけたサスペンス・スリラー。この映画に関しては、何を書いてもネタバレになりそうなのであまり書きません。まあ面白いと思います。こういうのもアリかなー。

 フィンチャー監督らしく、映像の作り込みは最高。脚本も、ちょっと予定調和的なものの、印象的な台詞も多々ありました。マイケル・ダグラスの、見事なほどのオロオロっぷりも手伝って、ラストまで仕掛けが満載で気が抜けない展開になっています。そこまでの流れが良かっただけに、最後のエピソードはちょっと余計かなあ、とは思いましたが。
 騙されないようにと緊張しながら観るより、次々と展開されるトリックを面白がって観るのが正解でしょう。

監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:マイケル・ダグラス、デボラ・カーラ・アンガー、ショーン・ペン
20060205 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -