★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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鉄男 THE BULLET MAN

 あのカルト映画『鉄男』『鉄男 II BODY HAMMER』の、実に17年振りとなる続編。ひたすらパワフルな内容は、ただもう圧巻の一言です。

 今作でも感情ではなく肉体に直接訴えかける、ほとんど暴力のような映像が全編にわたって展開されます。上映時間は71分と短いのですが、観終わったときは3時間以上の大作を見させられたような満足感がありました。一番心配だった主演のエリック・ボシックも上手くはまっていて、初代にも引けを取らない作品に仕上がっています。
 塚本監督は、今回も監督・脚本・撮影・編集・美術・出演と映画全体に関わっています。だからなのか、破綻しそうな一歩手前でなんとか持ちこたえているようなギリギリのバランス感覚が映画からも感じられました。難を言うなら、オリジナルを体験した人には再体験にしかならないこと。しかし、初体験ならばこれほど衝撃的な映画は他にないでしょう。

 ちなみにシネマシティで観賞したんですが、特別にセッティングされた音響のおかげで映画の迫力はかなり増していたように思います。しかも、ただ音響が良いというだけの理由で、人の入りに関係なく大きなスクリーンで上映してくれたので迫力満点。一部のマニアにしか受けない映画であっても、こういう環境で上映してくれる映画館は有難いですね。

監督:塚本晋也
出演:エリック・ボシック、桃生亜希子、中村優子、ステファン・サラザン、塚本晋也
20110412 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

プラネット・テラーinグラインドハウス

 タランティーノ&ロドリゲスがかつての“グラインドハウス”映画にオマージュを捧げた二本立て作品のうち、ロドリゲスの監督したスプラッタ映画を、独立した作品として再編集した完全版。いつにも増してやりたい放題の作品でした。
 監督・脚本・撮影・編集、ついでに制作まで担当したロドリゲスのセンスが爆発。とても105分という尺に収まりそうにない盛り沢山のプロットを無理矢理押し込め、VSFXもふんだんに使ってぐちゃぐちゃのスプラッタ世界をこれでもかと展開しています。ストーリーはいかにもB級映画らしいいいかげんさが再現されており、突っ込みどころ満載。格好つけすぎて格好悪くなるあたりも最高で、こういう悪ふざけ映画は大好きです。

 頑張り過ぎちゃってとてもB級映画には見えないところが残念。息切れしない程度に気の抜けた感じが欲しかった。しかし単純バカ映画としては的を射た内容でした。こういう映画が増えて欲しいと本気で思います。

監督:ロバート・ロドリゲス
出演:ローズ・マッゴーワン、フレディ・ロドリゲス、ブルース・ウィリス、ジョシュ・ブローリン、マーリー・シェルトン、マイケル・ビーン、クエンティン・タランティーノ
20081025 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

スキヤキ・ウェスタン・ジャンゴ

 三池崇史監督が満を持して制作した、全編英語、オールスターキャストによる“スキヤキ・ウェスタン”。マカロニ・ウェスタンへの愛がごった煮にされた、まさにスキヤキのような作品でした。
 実は西部劇というものに造詣がないのでいつも困るんですが、この作品は珍しくそこそこ楽しめました。ドラマが中盤でダレるあたりは過去の三池作品通り。しかし単純にアクションを楽しませる力強さは流石です。村ひとつをまるまる作り出した美術も良い。そして、ジャンルに無知な人間から見ても、マカロニ・ウェスタンへの愛はひしひしと感じられました。タランティーノ映画のような精神性ですね。この何でもアリの世界観が楽しめるかどうかで評価が大きく分かれそうです。

 伊勢谷友介と木村佳乃の英語が上手いなあと思っていたら、二人とも海外生活経験があるとのこと。逆に佐藤浩市や香川照之は焦点を絞れずに苦労していた感じ。あと、いつもこの監督の音楽は素晴らしいと思うんですが、今作の主題歌も最高でした。北島三郎は日本最高のソウル・シンガーですね。

監督:三池崇史
出演:伊藤英明、伊勢谷友介、佐藤浩市、安藤政信、堺雅人、石橋貴明、木村佳乃、桃井かおり、香川照之、小栗旬、クエンティン・タランティーノ
20081022 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

漂流街 THE HAZARD CITY

 馳星周のバイオレンス小説を、日本映画界で最もパワフルな作風を誇る三池崇史監督で映画化した問題作。ブッ飛んだアレンジは流石ですが、ちょっと暴走しすぎかも。
 まず、どうみても国内には見えない(おそらくテキサス州あたりの)荒野を「埼玉県与野市」と言い切る勢いの良さに冒頭から笑わされました。それが本気なのか冗談なのか判断するヒマもなく、その後もマトリックス風の闘鶏や殺人卓球と、およそ平凡とはかけ離れた、しかも原作にない要素を絡めまくり。というか原作と大枠で同じ話なのに、ここまで印象が違うというのに驚かされました。それでも新宿歌舞伎町を中心としたトーキョーの混沌っぷりを、誇張しつつも実感たっぷりに描写しているあたりは三池監督のセンスを感じずにはいられないんですが、でも映画としては破綻しすぎかなあ、と。少なくとも、原作のようにシリアスなバイオレンスを期待すると大変なことになります。

 俳優では、チャイニーズ・マフィアのボスを演じた及川光博がピカイチ。とても日本人には見えません。吉川晃司もさすがの色気でした。そのあたりの遊び心を楽しみつつ、とんでもない展開にゲラゲラ笑える骨の髄からの三池ファンなら、観る価値はあると思います。

監督:三池崇史
原作:馳星周
出演:THEA、ミッシェル・リー、及川光博、吉川晃司、柄本明、テレンス・イン、野村祐人、麿赤兒
20060220 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

鉄男 TETSUO

 映画作家・塚本晋也の名前を世界に知らしめた作品。監督・脚本・撮影・美術・編集・出演の六役をこなした塚本監督の、まだ荒削りながらも力強い、映像に対するアプローチが感じられる問題作です。
 塚本監督の共通するテーマである”肉体”への表現が、既にこの映画の時点で明確に志向されています。67分という短い上映時間ながらも、長編映画以上のボリュームを感じさせる濃密な映像が凄い。モノクロであるが故にかえって力強さが増幅され、叙情とか感傷といった生半可な表現は、ことごとく金属化した”肉体”の下に叩き伏せられるのみ。言葉やプロットでどうこう言うより、完全に感覚で捉える映画でした。

 明らかに商業映画ではないし、暴力描写が嫌いな人も絶対に観てはいけない部類のものですが、くだらない精神論をぶって悦に浸るような映画よりよほど実のある内容だと感じました。しかし、体力的に余裕がないときには遠慮した方が良いのは確実なので、観る前は体調に気を付けましょう…。

監督:塚本晋也
出演:田口トモロヲ、塚本晋也、藤原京、叶岡伸、石橋蓮司
20060216 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

逆噴射家族

 小林よしのり原案、石井聰亙監督によるバイオレンス・コメディ。日本人的な笑いと石井聰亙の演出という、あまりにミスマッチな組み合わせが何もかも打ち砕く、非常にパワフルな秀作です。
 小林克也を家長とする見るからに平均的な家庭が、あっという間に崩壊していく様がとにかく気持ち悪くて楽しい。ナンセンス・コメディとしてはある意味スタンダードな脚本なんですが、そこを極端にデフォルメし、過剰すぎるほどの演出で印象づける石井聰亙監督の手腕は流石。それに俳優陣も良い演技をしています。日常生活と、ストレスが表面化した後の壊れっぷりとの対比が出来ているので、それぞれに鬼気迫るものがありました。

 それにしても小林克也のお父さんは、ハマり過で黙っていても笑えますね。現代の家族問題を皮肉った作品とも取れますが、そんな小難しいことは考えずとも楽しめる、良質のブラック・コメディでした。

監督:石井聰亙
原案:小林よしのり
出演:小林克也、倍賞美津子、植木等、工藤夕貴、有薗芳記
20060211 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

鮫肌男と桃尻女

 望月峯太郎による同名コミックを、CF界出身でこれが長編デビューとなる石井克人監督が映画化。オフビートな演出は特徴的で楽しめますが、イマイチ吹っ切れていない印象です。

 ツカミは良い。次々登場するコミカルなキャラクターはしっかり描き分けられているので混乱しませんし、編集のテンポも良いので、まともなアクションシーンは殆どないのにダレません。そして、俳優陣の自己主張が凄い。浅野忠信はいきなりパンツ一丁で走ってるし、岸部一徳がヤクザだというのも笑えます。他にも我修院達也の”ドナドナ”とか、島田洋八の変態っぷりなどなど……ちょっと他では真似出来ない役者の使い方が目から鱗でした。
 ただ、最初にドカンと盛り上げた話が、それ以上加速しないままヒネリもなく終わってしまうのが残念でした。どうでもいい喋りを延々と描写するのも辛い。斬新なビジュアルもあって当時は新鮮だったんでしょうが、今観るとフツーに面白い”だけ”の映画ですね。

 ちなみに、原作はもっとネチネチしていてセクシーで、我修院達也演じる”殺し屋・山田”も登場しません。どちらが好きかは好みでしょうが、単行本1冊だけなので興味がある方はそちらも是非。

監督:石井克人
原作:望月峰太郎
出演:浅野忠信、小日向しえ、岸部一徳、我修院達也、島田洋八、鶴見辰吾、寺島進
20060209 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

アモーレス・ペロス

 メキシコ発のオムニバス風バイオレンス・ドラマ。三つの異なるドラマが一つの事故で交錯する構成は秀逸ですが、淡々とした演出は返って逆効果だったかも。

 ハンディカメラによる撮影で観客に傍観者であることを意識させたり、登場人物を全て脇役として扱うなど、その達観した演出からは新人監督らしからぬ哲学性が感じられます。ただ、その”距離”を感じさせる演出のために、最後まで物語に感情移入出ません。激しいドラマに反して、TVニュースを見ているような淡々とした印象を受けました。これを良いという人もいるかもしれませんが、僕の好みとは違うな、と。
 三つのドラマの中では、最後のエル・チーボの話がやはり良いですね。終わらせ方も気が利いています。俳優では、これが長編デビューとなるガエル・ガルシア・ベルナルの魅力が凄い。人気が出るワケです。

監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、エミリオ・エチェバリア、ゴヤ・トレド、アルバロ・ゲレロ、バネッサ・バウチェ
20060131 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

殺し屋1

 山本英夫によるカルト・コミックを、多作で知られる三池崇史監督で映画化。とにかく映画全体に溢れるエネルギーが凄い。残酷描写が多いのに、それらをギリギリのところで制御しつつ笑いに変えているので、気持ち悪いとは感じませんでした。

 まず俳優の演技に唸らされます。主演の二人ももちろん素晴らしいんですが、それ以外の俳優のハマりっぷりも最高で、突飛な話に絶妙なリアリティを与えていました。ヤクザ映画出身の三池監督ならではの人選もニヤリとさせられます。それに原作と異なりつつも、映画的なインパクトと寂寥感に溢れたラストが圧巻。原作に対する三池監督なりの解釈の仕方なのでしょうか。原作にあるような切実なドラマはこの映画からは端折られていますが、このラストがあることで、また違った深みを物語から感じることが出来ました。
 実は映画を観てから原作を読んだんですが、これはどっちが先でもイメージを崩されることはなさそう。映画のアレンジの仕方が上手いのでしょう。ここまで原作のイメージを尊重した映画化作品というのは、初めて見たように思います。

 浅野忠信のキレっぷりは流石。 北村道子の衣装も必見です。それと、原作者と撮影監督は同姓同名の別人だとか。珍しいこともあるものです。ともあれ、原作ファンだけでなく、バイオレンス映画ファンには必見の一作です。

監督:三池崇史
原作:山本英夫
出演:大森南朋、浅野忠信、エイリアン・サン、SABU、松尾スズキ、塚本晋也、KEE、國村隼、寺島進
20060118 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ドーベルマン

 日本アニメのファンというヤン・クーネン監督による、バイオレンス・アクションの秀作。あまりに過激なアクションは好き嫌いが別れそうですが、映像的に非常にレベルの高い作品でした。

 コミックをそのまま映像化したような単純バイオレンス・アクションで、ストーリーなんて存在しないも同然。過去の映画に比べると言葉足らずとも思えるほど状況説明を欠き、キャラクターの魅力だけでひっぱるシナリオは強烈すぎます。しかも繰り広げられるアクションは、知らずに観た人なら途中退場してもおかしくないほど冷酷無比。銀行強盗の主人公もかなりの悪人ですが、対する刑事が輪をかけて極悪なので、その容赦の無さにクラクラしてしまいました。
 ただ、そこから生み出される映像が見事。冒頭の銃に関する演出など、観終わってから思わず人に話したくなるような映像の連続でした。粗の目立つ映像ではあるんですが、ここまでコミカルで斬新なカメラワークも珍しいのでは。映像の力が強すぎるせいか、物語の弱さが強調されてしまうのが惜しいんですが、それでも何度も観たくなるような魅力のある映画です。

 主演は「アパートメント」など多数の共演作があるヴァンサン・カッセルとモニカ・ベルッチ。”神父”ドミニク・ベテンフェルドや、刑事役のチェッキー・カリョの怪演も見所の一つ。過激な映像に堪える自信のある方はぜひ。

監督:ヤン・クーネン
原作:ジョエル・ホーサン
出演:ヴァンサン・カッセル、モニカ・ベルッチ、チェッキー・カリョ、ドミニク・ベテンフェルド
20060115 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -