★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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バーバレラ

 ジャン=クロード・フォレストによるコミックを元に、1967に制作された不条理SFの傑作。映画としては破綻しまくっているんですが、ここまで凄いとかえって全てが許せてしまいます。

 他人から勧められて観たんですが、最初は勧めた理由が全く分かりませんでした。チープなのか芸術なのか判断の付きかねる美術、無駄なエロス描写、そもそもこれはSFなのかと疑いたくなる展開など、全てが過剰で意味不明。わけが分からず頭の中をシェイクされたような気分になりました。テンポもダルダルで欠伸が出ること必至ですが、そのサイケデリックな世界観は60年代という時代を如実に表しています。しかしバカだなあ…。
 セックス・マシーンの拷問シーンは必見。真面目に観るより、ちょっと下品な内装のカフェとかで流したらハマりそうな映画です。

監督:ロジェ・ヴァディム
出演:ジェーン・フォンダ、ジョン・フィリップ・ロー、マルセル・マルソー、ミロ・オーシャ、デヴィッド・ヘミングス
20051103 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

バッドボーイズ

 マイケル・ベイ監督の長編デビュー作。マーティン・ローレンス、ウィル・スミスが主演コンビを組んだのも話題ですが、全体に違和感を感じました。
 ハリウッドのコメディとはチャンネルが合わないと常々思っていましたが、特にこの映画でそれを実感しました。そういうのを楽しめる人には良いんでしょうが、ダメな人だと割と前半から喋りっぱなしのこの映画は辛いと思います。悪役のチェッキー・カリョとか、警部役のジョー・パントリアーノあたりは見どころですが、出番は少ないし。さすがに終盤付近でのアクションの連続は盛り上がりますが……。

 以降のベイ監督の作風を象徴するような内容で、なかなか興味深いかもしれません。観たあとにストーリーを忘れてしまうほどの軽い映画で、アクションシーンは良いけどストーリー無視の演出は辛い、という。

監督:マイケル・ベイ
出演:マーティン・ローレンス、ウィル・スミス、チェッキー・カリョ、ティア・レオーニ、ジョー・パントリアーノ
20051101 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

フランケンウィニー

 ティム・バートンが初めてプロの俳優を起用して撮影した短編ファンタジー映画。非常に高い完成度ながら、ディズニー映画としてはあまりにダークすぎるためか「バットマン リターンズ」の公開直前までお蔵入りにされていたという、いわくつきの作品です。

 物語自体は「シザーハンズ」を彷彿とさせますが、モノクロで撮られているのとストレートなフランケンシュタインものということで、より怪奇映画に近い印象を受けました。ツギハギになって復活する愛犬スパーキーはグロテスクな外見ですが、不思議と愛らしさすら感じます。さらに墓地やゴルフ場のなどのセットに対するこだわり、郊外に暮らす排他的な人々など、後のバートン作品を彩る要素が既に登場していて、彼の才能を感じられる内容でした。
 主演の男の子は「ネバーエンディング・ストーリー」のバスチアン、さらにお母さんは「シャイニング」の奥さんと、キャストもなかなか面白い人を起用しています。30分足らずの短編ですが、バートン映画が好きな人なら、ぜひ。

監督:ティム・バートン
出演:バレット・オリヴァー、ダニエル・スターン、シェリー・デュヴァル
20051029 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ファイト・クラブ

 デヴィッド・フィンチャー監督によるサスペンス映画の超問題作。テーマ自体は使い古されたものかもしれませんが、その提示方法があまりに暴力的で斬新でした。フィンチャー監督作品の中では、この作品が一番好きです。

 これはアメリカのX世代に対して向けられた映画で、その世代が持つ不満やストレスを直接的な物語にしたところが斬新だったのだと思います。だから感情移入の対象である主人公は名前を名乗らないし、地名すらこの映画からは極力排除されています。その中で「自分にも何か出来る」と勘違いさせるシナリオのパワーはかなりのもので、実際に世界各地でファイトクラブが設立されて問題になったことを見ても、そのメッセージ性の強さが分かります。
 とまあ語りたいこともありますが、単純にサスペンス映画として楽しめたのが高く評価する最大の理由です。二人の主人公が共に魅力的で、特にE・ノートンが優柔不断なダメ青年を巧みに演じているので物語の説得力が増していると感じました。フィンチャー監督作の「遊び」もこの作品では極まっていて、しかもストーリーと直結した演出は他で見られない快感です。

 生きる目標を失っている若い世代に向けた、フィンチャー流のメルヘン、というのがこの映画の本質ではないでしょうか。映画全編が暴力にまみれていますが、この映画をバイオレンス映画だと評する人はそもそも観客として想定されていないので、黙って立ち去るのが無難でしょう。

監督:デヴィッド・フィンチャー
原作:チャック・ポーラニック
出演:エドワード・ノートン、ブラッド・ピット、ヘレナ・ボナム・カーター、ジャレッド・レト、ミート・ローフ・アディ
20051027 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

バッドデイズ

 ジャン=ピエール・メルヴィル監督の55年作品「賭博師ボブ」のリメイク。大御所ハーヴェイ・カイテルと、若手のスティーヴン・ドーフの共演ですが、それほど話題にはなりませんでした。確かに今ひとつ華に欠ける内容ではあるものの、アクション映画としての完成度は非常に高くて驚かされます。

 犯罪の手口や、暴力シーンなどの描き方に迫力があり、作品全体の説得力を高めています。最初誰が主人公か分からないので悩むところですが、一度ストーリーが回り始めればあとは手に汗握る展開の連続で飽きさせません。絵に描いたような復讐物語で、役者も良いし、編集も良いし、ラブシーンも殆どないし、とりあえずアクション映画を見たいというときには十分すぎるぐらいの一本でした。
 個人的にはスティーヴン・ドーフが格好良くてついつい見てしまいましたが、映画的にはむしろハーヴェイ・カイテルが見所でしょう。バイオレンス描写は比較的控えめですが、一部演出で濃いところがあるので、苦手な人は敬遠した方が良いかもしれません。

 監督は渋い映画が得意なジョン・アーヴィン。オリジナルもちょっと気になりました。機会があったら観てみたいです。

監督:ジョン・アーヴィン
出演:ハーヴェイ・カイテル、スティーヴン・ドーフ、ティモシー・ハットン、ファムケ・ヤンセン
20051004 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

プライベート・ソルジャー

 ジョン・アーヴィン監督による、渋い雰囲気の戦争映画。油断していましたが、よく出来たドラマに感動してしまいました。思い入れが強すぎて本質を見失ったり、プロパガンダと化している大作映画より現実的で、何より映画として楽しめます。

 戦争をただのシチュエーションに留め、その中でもがく普通の人々を描きながら嫌みがないのに好感が持てました。戦場描写や兵器描写は割と少ないんですが、確実にツボをついてきます。肝心の戦闘シーンも地味で、全体に物寂しい展開と、ビジュアル的に全く売りどころがありません。そもそも選んだ題材が二次大戦終了間際、ヒュルトゲンの森での第28歩兵師団の激戦、という時点でマニア向け。
 でもそういった知識がない人でも、充分楽しめるのではないかと。伏線の張り方と人物描写のさりげなさで、かなり感情移入してしまいました。確実な脚本と演出があれば、ここまで映画の質が上がるという良い見本。もちろん、知識がある人にはもっと楽しめる映画です。

 邦題は「プライベート・ライアン」にあやかったものでしょうが、これは全く性格の違う作品でした。こういう戦争映画もアリだなあ、と。他人に勧めたい佳作。

監督:ジョン・アーヴィン
出演:ロン・エルダード、ザック・オース、ティモシー・オリファント、フランク・ホエーリー
20051003 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ヒューマンネイチュア

 「マルコヴィッチの穴」で一躍有名になった脚本家チャーリー・カウフマンと、ビョークのPVやGAPのCFなどで独特の映像を創り続けているミシェル・ゴンドリーが組んだ話題作。あのゴンドリーが初監督ということで期待したんですが、内容がちぐはぐで楽しめませんでした。

 設定の奇抜さ、そこから展開される物語の意外性とテーマの堅牢さは今回の脚本でも健在。しかし前半の分かりやすいコメディ的内容に対して、後半の雰囲気は空回り気味に見えます。ミシェル・ゴンドリーらしい映像も部分的で、映画全体となるとまとまりがありません。リス・エヴァンスやティム・ロビンスの演技も良いのですが、いまいち感情移入出来ない……と、どこをとっても「もうひと息」な感じ。
 最大の原因は、おそらく物語も映像も単調なこと。展開に緩急がないので映画にイマイチ入り込めず、カウフマン脚本の非現実性が強調されてしまって違和感を覚えたのだと思います。俳優の演技とカメラワークが微妙にずれているなあ、と感じることもしばしば。発想や、物語の提示しているテーマは興味深いので残念でした。

 コメディ部分と意味深長なオチは良かったと思います。特にリス・エヴァンスのなりきりぶりは一見の価値あり。

監督:ミシェル・ゴンドリー
脚本:チャーリー・カウフマン
出演:リス・エヴァンス、パトリシア・アークエット、ティム・ロビンス
20050930 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ビッグ・フィッシュ

 ダニエル・ウォレスによるファンタジー小説を、メルヘンの名手ティム・バートン監督が映画化。独特の悪趣味な世界こそ出てこないものの、おかげで非常に真っ当な感動作になりました。

 ティム・バートンの映画は、その童話的な語り口を良しとするかどうかで評価が分かれると思いますが、この作品は特にそう。とにかく冒頭から現実離れしたお伽噺の連続でメルヘン好きには堪りませんが、辛い人には辛いかも。でも、おそらくバートンの目にも(程度の差はあると思いますが)世界はこう見えているに違いないと思わせるほど「現実感のある非現実」が画面に溢れるのは圧巻で……しかし、それだけかと思っていたら、ラストのドラマでやられました。いい話です。
 ユアン・マクレガーの、絵本の世界を体現したような演技が素晴らしい。この人あっての、この作品でしょう。アルバート・フィニーのふてぶてしい演技も物語に説得力を持たせています。あとは例によってブシェミのかわいそうな役どころと、”サーミアン”ミッシー・パイルが登場していたことに笑わされました。映像もバートン映画の中では最高級。でも、全てがあまりに綺麗すぎて、ファンには少し物足りないかもしれません。

 今でも最後のカットを思い出すと泣けてきます。でも悲しい涙ではなくて、嬉しい涙なのが良い。夢物語は現実から逃げる手段かもしれないけど、それを全力で肯定する人生は、なんて素敵なんだろう、と実感できる作品でした。

監督:ティム・バートン
出演:ユアン・マクレガー、アルバート・フィニー、ビリー・クラダップ、ジェシカ・ラング、ヘレナ・ボナム=カーター、スティーヴ・ブシェミ、ダニー・デヴィート
公式サイト
20050924 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

バッドサンタ

 テリー・ツワイゴフ監督によるブラック・コメディ映画。冒頭からサンタらしからぬ言動でトばしまくるビリー・ボブ・ソーントンを楽しんでいれば90分はあっという間に過ぎますが、終わってみると案外いい話だったなあと振り返ることの出来る気持ち良い映画でした。子供に見せるわけにはいかないと思いますが…。

 映画自体の構造は普通のファミリー映画と同じなのに、出てくる人々が全員ズレているだけでここまで印象が変わるというのが驚きでした。ツワイゴフ監督の持ち味である「リアルなのにどこか異世界感のある風景」がそれを引き立てていて、異色なクリスマス映画として見事に成立しています。でもやっぱり見所はソーントンのバッドサンタっぷり。酒に溺れてグデングデンになっているのが妙に可愛らしいあたりはこの人ならでは。
 特に感動する話でもないし、全体に悪趣味な映画ではありますが、ソーントンの色気を堪能したい人にはお勧めです。ちなみに、制作はジョエル&イーサン・コーエン兄弟。そういえばどことなくコーエン映画の雰囲気もありました。

監督:テリー・ツワイゴフ
出演:ビリー・ボブ・ソーントン、トニー・コックス、バーニー・マック、ローレン・グレアム、ジョン・リッター
公式サイト
20050921 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ベルヴィル・ランデブー

 ヨーロッパの俊英、シルヴァン・ショメ監督による初の長編アニメーション作品。独特のブラックなセンスあふれるストーリーと、ノスタルジックで可愛らしい美術が、日本のアニメにはない魅力を感じさせます。テンポというか映画文法がアニメ離れしていて最初は戸惑いましたが、つまりは一本の映画作品として十分に観賞に耐えうるものであるということでしょう。

 ヨーロッパ風にデフォルメされたキャラクター表現が見事。動作もメリハリがあって、細かいところでクスクス笑わされました。自動車や建物などに効果的にCGを取り入れて、でも手描きアニメの魅力を損なわないところは、やはり芸術の国フランスらしい拘りだなあと感心しました。世界は広い。
 そうそう、ジャズ全開で印象的な主題歌を始め、戦後フランスのノスタルジックな雰囲気満載のサウンドトラックも必聴です。

監督:シルヴァン・ショメ
声の出演:ジャン=クロード・ドンダ、ミシェル・ロバン、モニカ・ヴィエガ
公式サイト
20050918 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -