★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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もののけ姫

 「紅の豚」以来5年ぶりとなる宮崎駿の監督作。アニメーションのレベルは上がったのもの、考えすぎで尻切れトンボに見えました。
 相変わらずアニメの質は高く、特に自然物中心の背景はため息もの。試験的に導入されたデジタル処理もそれほど違和感はありません。そして物語はいつになく重厚。過去の作品で自然を賛美しすぎたことへの反省があるせいで、この作品では特に真摯な問題提起を行っています。これらが上手くハマっていればよかったんでしょうが、監督の自問自答はあくまで現実的な結論に落ち着いてしまって、ここまで壮大なファンタジーを媒介させる必要は感じられませんでした。

 「ジブリ映画の観客」にこういう映画を見せたかったんだろうとは思いますが、こんな複雑なテーマの作品は他の映画に任せて、ジブリにはジブリにしか出来ない作品を撮って欲しいと思うだけに納得できません。少なくとも、子供が観て楽しむ作品じゃないよなあ、と。

監督:宮崎駿
出演:松田洋治、石田ゆり子、田中裕子、小林薫、西村雅彦、上條恒彦、島本須美、美輪明宏、森繁久彌、森光子
20060409 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

魔女の宅急便

 角野栄子による人気児童文学を、宮崎駿率いるスタジオジブリがアニメ映画化。これまでの宮崎作品に比べると対象年齢が高めの、おっとりとしたファンタジーに仕上がっています。
 最初に観たときは良さが分からなかったんですが、大学生のころだかに観て、なかなか深いドラマに驚かされました。多感な年頃の少女の葛藤と、魔女の修行とが巧みに絡められたドラマはなかなか説得力があります。ウジウジ悩む話は嫌いなんですが、画家ウルスラのエピソードなどで方向性を示す分かりやすい展開でむしろウィットを感じました。アニメとしての作画なども秀逸で、主にストックホルムをモデルにした街のデザインはジブリ作品のなかでも屈指の美しさ。あと、ユーミンの曲を主題歌に使ったのも印象的です。

 最後の飛行船のシーンだけは無理矢理エンタテイメントさせた観がありますが、それでも宮崎作品らしい飛行シーンが楽しめるのは嬉しいところ。胸躍る冒険譚というより、じわりと心に染みるドラマです。

監督:宮崎駿
原作:角野栄子
出演:高山みなみ、佐久間レイ、戸田恵子、山口勝平、加藤治子、関弘子、井上喜久子、山寺宏一、西村知道
20060408 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

となりのトトロ

 宮崎駿監督による大ヒット長編アニメ。この映画に関しては説明不要でしょう。ノスタルジックな風景と、健気な子供達が印象的な作品です。
 今まで架空の世界を舞台にしてきた宮崎監督が、初めてリアルな、それも昭和中期の田舎を舞台にして、しかもその空気を見事に再現しているというのに驚かされました。特に宮崎作品には初参加となる男鹿和雄による美術が、田園風景をみずみずしく描き出しています。キャラクターたちも元気で力がみなぎっているので、見ていて懐かしいような嬉しいような気持ちがこみ上げてきました。北林谷栄の味のある声や、糸井重里の棒読み声も良い。後半のドラマはなんかに不満は残るものの、その辺を指摘するのは野暮というものでしょう。子供が文句なしに楽しめて、大人も童心に帰ることのできる正真正銘のファンタジーです。

 とにかく何度見ても楽しめて、少しホロリとさせる名作でしょう。懐古主義だと言われようが美しいものは美しいんだー! という、“あの時代”に対するスタッフの思い入れが感じられました。

監督:宮崎駿
出演:日高のり子、坂本千夏、糸井重里、北林谷栄、島本須美、高木均
20060407 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

天空の城ラピュタ

 宮崎駿監督による長編劇場用アニメ第三弾にして、スタジオジブリ設立後初の作品。「ガリバー旅行記」の空中都市ラピュタをモチーフに、痛快なアクションと深みのある物語が繰り広げられる傑作です。

 「風の谷のナウシカ」の余韻が残る内に制作されたためか、テーマ性を極力排してエンタテイメントに徹した作りが小気味よくきまっています。主人公と軍と空賊の三つ巴の争奪戦、“冒険活劇”を地で行く怒濤の展開、「未来少年コナン」を思わせるパズーのコミカルなアクションなど、とにかく分かり易くかつ娯楽性の高い映像世界は、アニメならではの魅力が満載でした。
 最後まで一気に楽しめるのは、もちろん物語が良いのもあるんですが、同時にキャラクターの明快さも一役買っています。特に脇役の配し方が秀逸。ドーラおばさんやムスカ大佐は、他の宮崎作品にも見られるモチーフながら、この作品における彼らは白眉といえるでしょう。数々の名台詞は必見。相変わらず軍事マニアっぷりを見せてくれる宮崎監督の演出も見どころの一つです。

 子供のころに観たときは、エンドロールでのラピュタの姿を見ながら涙してしまいました。スタジオジブリならではの完成度の高いアニメーションと、宮崎監督の巧みなストーリーテリングが、最高のバランスで結実した一作です。

監督:宮崎駿
出演:田中真弓、横沢啓子、初井言榮、寺田農、永井一郎、常田富士男
20060406 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

風の谷のナウシカ

 宮崎駿が、自らの連載漫画を原作に制作したアニメ作品。この映画には言うことはありません。テーマ性もオリジナリティも一級品のエンタテイメントです。

 圧倒的な世界観と、その世界設定を充分に生かたナウシカのキャラクターが、特に魅力的。監督の中で世界観が充分に消化されているからこそ出てくる設定であり、ナウシカに限らず他のキャラクターやエピソードにしても、世界観と違和感ない絡み方で説得力があります。ラストに向けての盛り上がりやカタルシスも十分すぎるほど。何よりこれだけの作品をオリジナルで制作してしまった宮崎監督の才能に驚かされました。
 余談ですが、宮崎監督の軍事マニアっぷりが散見されるのもこの映画の見所の一つ。戦車や飛行機の操縦方法、武器の挙動や弾道などなど、細かいところですが執拗なこだわりが感じられます。また、“爆発マニア”庵野秀明が全カットを担当した巨神兵のシーンなども必見。

 原作漫画のような濃さはないものの、映画は映画でインパクトがあって好きです。これほど高い完成度でまとまった作品というのは、実写映画でも稀でしょう。まさに日本のアニメーションを代表する作品です。

監督・原作:宮崎駿
出演:島本須美、松田洋治、榊原良子、家弓家正、納谷悟朗、永井一郎、冨永みーな
20060405 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ルパン三世 カリオストロの城

 宮崎駿監督の長編アニメデビュー作。ルパンの服の色を変えたり、カリオストロ公国が妙にリアルだったりと、いつものルパン映画らしくない作り込みで、今でもファンの心を捉えて離さない名作です。
 キャラクタ造形にいまいち華が足りない宮崎監督が、原作モノという題材を得て印象の強い映画作りに成功した好例。とにかく登場人物全てが魅力的。ルパンはいつもより二枚目だし、次元や五右ヱ門も深みがあって、オリジナルの「ルパン三世」のハードボイルド風味も良いんですが、この作品でのルパンたちの方が好きだったりします。初期の宮崎アニメらしい畳み掛けるようなアクションといい、最後まで笑っちゃうぐらい印象的な台詞といい、間違いなく日本製アニメの代表作の一つに数えられる作品かと。

 バイオレンスもお色気もない世界観は、本来のルパン三世のファンには不満なようですが、単体のアニメ作品として観るとやはり秀逸。一度は観ておいて損のない作品です。

監督:宮崎駿
原作:モンキー・パンチ
出演:山田康雄、小林清志、井上真樹夫、増山江威子、納谷悟朗、島本須美、石田太郎
20060404 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

イノセンス

 押井守による「攻殻機動隊」の劇場版第2弾。重厚な映像と哲学的な対話は相変わらずながら、前作とは全く異なる雰囲気の、不思議な映画でした。

 今回は脚本が伊藤和典から押井監督本人に替わったせいか、厭世的で難解なロジックを多用したシナリオが印象的でした。ただ、台詞の殆どは何らかの書物の引用で、それほど深い意味はありません。ドラマの基本は主人公バトーのハードボイルド的な苦悩であり、台詞はそれに対する”格好いい言い訳”に過ぎないと感じました。
 3DCGを多用した映像は豪華ながら、過去の押井映画の雰囲気も充分に残しています。最初は、その映像や言葉の意味するものを探そうとしたんですが、おそらくその行為はナンセンスでしょう。贅をこらした映像や、複雑な台詞を無数に重ねることで、情報社会が持つ空虚さを浮き彫りにすることこそ、この映画のもう一つの目的なのかもしれません。

 色々考察してみましたが、置き去りにされた”男”が”女”の幻影を探し求める、というセンチメンタリズムの極致のようなお話がこの映画の基本ではないかと。ちょっとおふざけが過ぎますが、監督の表現力が成熟してきた証でしょう。といってもハードSFですし、前作を知らない人にはなおさら理解しにくい設定なので、見る際には注意が必要です。

監督:押井守
原作:士郎正宗
声の出演:大塚明夫、田中敦子、山寺宏一、大木民夫、竹中直人
20060105 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊

 押井守監督が士郎正宗の同名コミックを映画化し、世界中で話題となったSFアニメ作品。監督の世界観が存分に発揮された結果、哲学的で軍事要素の強い原作の雰囲気と同じベクトルながら、よりスリム化された毛色の違う作品に仕上がっています。

 原作の重厚な世界観をあえて大幅に手直しし、押井流にクリンナップされた映像やシナリオには原作ファンの間では賛否両論ありそうです。シナリオは原作のダイジェストに過ぎない内容で、台詞は殆ど原作ママですし。ただ、原作第1巻のラストにあたる部分に重点を置いたドラマ構成は、映像で観る価値はあると思わせる深みと説得力がありました。
 作り込みが激しい一方で、SFや兵器が苦手な人が混乱しそうなほど専門用語を連発したりと、明らかに観客を限定している作り。それでも初めてデジタルを本格的に取り入れた映像表現や、設定の緻密さ、そのストーリー上での昇華方法は見事。ハードSFが好きな人は必見です。

 ちなみに、この映画以降「ジャパニメーション」という言葉が日本国内で流行りましたが、あれは日本製アニメを蔑視して呼んだもので、あくまで誤用なので止めてほしいなあ、と。この作品のせいではないんですが。

監督:押井守
原作:士郎正宗
声の出演:田中敦子、大塚明夫、山寺宏一、大木民夫、千葉繁、家弓家正
20060105 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

機動警察パトレイバー2 The Movie

 カルト的な人気を誇るロボットアニメの劇場版第2弾。前作よりもアクションやギャグを極力削り、研ぎ澄まされた画面から描写される”消極的な平和”という現代日本に対する提言がショックでした。アニメ云々より、戦争映画として稀に見る傑作です。

 正直、観た当初はこの”消極的な平和”というテーマに実感が持てなかったんですが、公開2年後に映画を模倣したかのようなテロ事件が東京で起きたため、一気にそれがリアルなものとして感じられるようになりました。冒頭のベイブリッジ爆破は、9.11をも想起させます。この映画で描かれる”戦争状態”が、あえて殆どレイバー(ロボットの呼称)を用いずに作り上げられるのは、それが現実にすぐ起こりうるということを示唆したかったためでしょう。9.11の10年も前に、それを映画として世に出した制作陣の着眼点は、ただただ凄いとしか評しようがありません。
 前作とは打って変わって、昔の日本映画のような落ち着いたカメラワークと風景描写が印象的。登場人物も、今回はオヤジばかりが活躍するので渋すぎるぐらいですが、それだけに非常に重みのあるドラマになっています。その中で、ときに破壊的なギャグが炸裂するのもファンにとっては嬉しいところ。

 前作も今作も、直後の世相を見事に予言したかのようなシナリオで、その現実における再現率は怖くなるほど。アニメは子供向けだと軽視している人に、是非観て欲しい作品です。

監督:押井守
原作:ヘッドギア
出演:冨永みーな、古川登志夫、大森隆之介、池水通洋、二又一成、郷里大輔、榊原良子、千葉繁、阪脩、竹中直人、根津甚八
20060105 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

機動警察パトレイバー THE MOVIE

 まだOSという言葉すらマイナーだった時代に制作された、ハイテク犯罪映画の傑作。もともとは”サンマの香りがするロボットアニメ”をテーマに、漫画家ゆうきまさみや押井守、伊藤和典などによって企画・制作されたビデオアニメの映画化作品だったんですが、これが嬉しい誤算でした。

 今や世界的な名声を得たアニメ監督押井守と、後に日本アカデミー脚本賞を受賞する伊藤和典による、Windows時代を予言したかのような設定と周到な犯罪劇は、とても80年代のシナリオとは思えないほどリアルで今観ても唸ってしまうほど。同時に、これだけの秀逸なネタをコメディ仕立てのロボットアニメで消費しなければいけない日本映画の現状がつくづく悔やまれます。
 シリーズものですが、原作となったアニメや漫画の主人公達は脇役同然に描かれているので、オリジナルを知らない人でも楽しめます。もちろん、東京下町の民家を怪獣映画のように踏みつぶして歩くレイバー(ロボットの呼称)などアクション面でもツボを心得た出来ですし、コメディ部分でも大笑いさせられる、ファンにとっても十二分に楽しめる映画でした。

 ロボットアニメと侮る無かれ、当時はSFに過ぎなかったものが、今では現実的な犯罪映画として実感を持って観ることのできる見事な作品です。映画の前に制作されたビデオシリーズやコミック、後のTVシリーズにもシュールでリアルな世界観は健在ですので、気に入った方はそちらもぜひ。

監督:押井守
原作:ヘッドギア
声の出演:冨永みーな、古川登志夫、大森隆之介、池水通洋、二又一成、郷里大輔、榊原良子、千葉繁、阪脩、井上瑶
20060105 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -