★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ラ・ジュテ

 未だに揺るぎない評価を得ている実験的SF映画の傑作。学生時代に観まくった実験映画の中でも、特に印象に残っているものの一本です。

 ほぼ全編がモノクロのスチル写真とモノローグのみで構成されていて、およそ映画というものとはかけ離れていますが、実際に観てみるとあまり違和感を感じないのが不思議。逆に画面に動きが少ないだけ、観客の感情が主人公の内面に接近できるわけです。そのため、SFとしても、ある男女の物語としても魅力的なストーリーが、より効果的に表現されているのでしょう。30分に満たない上映時間といい、とても濃密で完成された作品だと感じました。
 あらゆる映画において大事な要素の一つは「観ている瞬間が心地良いこと」だというのが僕の持論ですが、この映画は突飛なアプローチながらそれを実現しているのに感動しました。こういうスタンスの映画に弱いんです。

 普通の映画とは全く違うジャンルのものなので注意が必要ですが、そんなに難解な作品ではありません。むしろ別種のエンタテイメントという感じ。物語が良いのは勿論ですが、ひたすら美しいカットの連続も、一見の価値有りです。

監督:クリス・マルケル
出演:エレーヌ・シャトラン、ジャック・ルドー、ダフォ・アニシ
20051018 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ラスベガスをやっつけろ

 原作者ハンター・S・トンプソンの実体験を元にした小説を、鬼才テリー・ギリアム監督が映画化。他のドラッグ系映画の追随を許さない、とことん下品で不条理で滅茶苦茶な作品でした。

 「トレインスポッティング」がドラッグ文化をあくまでスタイリッシュに描写していたのに対して、こちらは主観的に描写しているのが最大の特徴。つまりは麻薬でラリってる主人公2人の「見えているもの」を中心に物語が進むので、カメラは斜めに漂いっぱなし、何が現実に起こっているのかも判らない状態で、最後まで真実は明かされません。そういった主人公の、現実からの取り残され具合をテーマにした作品なので、それは必然でしょう。ヒッピーが70年代に入って終わりを告げ、ただの社会不適合者になった主人公たちがどういう価値観を持って生きているのか、それがこの映画の語りたいことであり、それは上手く表現できていると思いました。
 しかしそういう理論をぶつ以前に、映像としてこの映画は楽しめます。何よりナンセンスな演出にかけては当代一のギリアムですから、次から次へと繰り出される意表をついた映像に驚かされているだけで2時間が過ぎてしまいました。主演のジョニー・デップは、今までの出演作では決して見せなかったようなオヤジっぷり全開でキめてくれますし、この撮影のために(つまり無駄に)20kg増量したベニチオ・デル・トロも迫真の演技でした。T・マグワイヤ、C・ディアス、C・リッチは本当にチョイ役ですが、特にC・リッチの存在感は抜群。こういう勢いだけで良い映画って、そうそうありません。

 観終わって得られるものはゼロ、物語は何処にもない、ただただバッド・トリップの連続で焦燥感ばかりが募る映画です。でも、それこそ最重要テーマじゃないか、という吹っ切り方こそギリアム映画の最大の魅力ではないでしょうか。

監督:テリー・ギリアム
原作:ハンター・S・トンプソン
出演:ジョニー・デップ、ベニチオ・デル・トロ、トビー・マグワイア、キャメロン・ディアス、クリスティナ・リッチ
20051012 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ありふれた事件

 メインスタッフ3人が原案・監督・製作・脚本・撮影・主演・編集を兼ねるという超インディペンデントな、バイオレンス映画の問題作。「蝿を殺すように人間を殺す男」をカメラがひたすら追い続けるドキュメンタリー、という設定のフィクション。でも真に迫りすぎていて、本物のドキュメンタリーではないかと怖くなる瞬間すらありました。

 観ているものまで犯罪を犯したような気分にさせる、突拍子もない演出は見事。実験映画をたて続けに観ていた時期に観たので、かなりはまってしまいました。出演者が「本人」として登場していて、そのあたりも錯覚させる材料の一つになっています。特にブノワ・ポールヴールドの残虐性は凄い、というか酷い……。オチは上手くまとまりすぎでしたが、そうでもしないと救われない話なのでそれはそれで良いのかも。
 エンタテイメント重視の映画ではないので退屈なシーンもあるものの、実験的精神は抜群。見た目以上に精神的な残虐性が堪えるので、苦手な人にはお勧めできませんが、ハリウッド系の上品なバイオレンスが嫌いな人は是非。

監督・出演:レミー・ベルヴォー、アンドレ・ボンゼル、ブノワ・ポールヴールド
20051002 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -