★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード

 ロバート・ロドリゲス監督お得意のバイオレンスが満載の”エル・マリアッチ”シリーズ第三弾。今回は豪華キャストを揃え、アクションも多彩になって盛りだくさんの内容でした。

 バンデラスを始め、粋なラテンの男たちがギターを弾きながら華麗なガン・アクションを繰り広げる、というただそれだけの映画ですが、それが格好いいのです。クーデターやCIAや元FBIといった要素が凝縮された物語は、追いついていくのが大変なほどの密度。しかし後半乱戦になってからは立場よりも個人間の戦いになり、あとは粋なヤツしか生き残れないんだとばかりにバタバタと人が死んでいきます。その思い切り具合が最高!
 常連組のダニー・トレホが相変わらず不敵に活躍するのも嬉しいところですが、ミッキー・ロークやウィレム・デフォーといった新規参入組も嬉しい渋さ。そしてやっぱりジョニー・デップが凄かった。中盤までは「こんなもんか」というキャラクターでしたが、これが化ける化ける。もちろんバンデラスは撃っても弾いても嘘のような色っぽさ。とにかく見栄の切り方ひとつとっても画になる俳優ばかりで、ひたすら見とれているうちに映画が終わっていました。もっと観ていたかった〜。

 細かいところかもしれませんが、あくまで「メキシコ」に固執する台詞回しが印象的でした。子供に対する視線が優しかったり、タイトルに "Once upon a time in..." とあるあたりから察するに、これはロドリゲス流のヒーロー映画なのでしょう。こういう、愛のあるバイオレンスは好きです。

監督:ロバート・ロドリゲス
出演:アントニオ・バンデラス、サルマ・ハエック、ジョニー・デップ、ミッキー・ローク、ダニー・トレホ、ウィレム・デフォー
公式サイト
20051210 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

シン・シティ

 R・ロドリゲス監督がデビュー当時から映画化したかったというグラフィック・ノベルのカルト的作品を、その原作者を共同監督に迎えて制作した話題作。これでもかというバイオレンス映画を期待していたので大満足でした。

 これはパルプ・フィクション的な理想郷である「シン・シティ」で繰り広げられる、ある種のファンタジーですね。ハードボイルドの定番をふんだんに盛り込みつつ、映画的なケレンに溢れたストーリーが秀逸。出てくる男はロクデナシかサイコ野郎で、女はビッチ限定という世界観は、ハマれる人はとことん楽しめるのでは。コミックそのままの、コントラストの強いモノクロ映像も見事。バイオレンス描写もどこかユーモアがあって、言われているほど激しいとは思いませんでした。デートには向かないという感想をたまに読みますが、chako氏は大喜びだったので女性だからダメということはないと思います。
 そしてミッキー・ロークほか俳優陣が良い! 個人的にはクライヴ・オーウェンが期待以上の色気を振りまいていたのがツボでした。デル・トロやイライジャ・ウッドは、相変わらず気持ち悪い役が似合います。女性陣ではゲイル役のロザリオ・ドーソンがビジュアルも役回りも格好良かったかなと。

 ところで、ロドリゲスはタイトルロールにある通り"SHOOT AND CUT"がメインで、実質の監督はフランク・ミラー本人だったようですね。そのためか、他のロドリゲス作品とは一線を画す仕上がりでした。台詞も構図も原作そのままのようなので、これは「スクリーンで観るコミック」なのでしょう。コミックとか映画とかいう枠組みを無視して、こういう試みを実現してしまう才能は大事だと思います。というわけで続編にも期待。

監督:ロバート・ロドリゲス、フランク・ミラー
出演:ミッキー・ローク、ブルース・ウィリス、クライヴ・オーウェン、ジェシカ・アルバ、ベニチオ・デル・トロ、イライジャ・ウッド、デヴォン青木、ロザリオ・ドーソン、ジョシュ・ハートネット
公式サイト
20051030 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ファイト・クラブ

 デヴィッド・フィンチャー監督によるサスペンス映画の超問題作。テーマ自体は使い古されたものかもしれませんが、その提示方法があまりに暴力的で斬新でした。フィンチャー監督作品の中では、この作品が一番好きです。

 これはアメリカのX世代に対して向けられた映画で、その世代が持つ不満やストレスを直接的な物語にしたところが斬新だったのだと思います。だから感情移入の対象である主人公は名前を名乗らないし、地名すらこの映画からは極力排除されています。その中で「自分にも何か出来る」と勘違いさせるシナリオのパワーはかなりのもので、実際に世界各地でファイトクラブが設立されて問題になったことを見ても、そのメッセージ性の強さが分かります。
 とまあ語りたいこともありますが、単純にサスペンス映画として楽しめたのが高く評価する最大の理由です。二人の主人公が共に魅力的で、特にE・ノートンが優柔不断なダメ青年を巧みに演じているので物語の説得力が増していると感じました。フィンチャー監督作の「遊び」もこの作品では極まっていて、しかもストーリーと直結した演出は他で見られない快感です。

 生きる目標を失っている若い世代に向けた、フィンチャー流のメルヘン、というのがこの映画の本質ではないでしょうか。映画全編が暴力にまみれていますが、この映画をバイオレンス映画だと評する人はそもそも観客として想定されていないので、黙って立ち去るのが無難でしょう。

監督:デヴィッド・フィンチャー
原作:チャック・ポーラニック
出演:エドワード・ノートン、ブラッド・ピット、ヘレナ・ボナム・カーター、ジャレッド・レト、ミート・ローフ・アディ
20051027 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

カリフォルニア

 ブラッド・ピットの演技が光る無軌道ロード・ムービー。映像のセンスやショッキングな内容など面白い要素は詰まっていますが、どこか物足りないと感じました。
 犯罪映画というジャンルがイマイチ理解できていないだけかもしれませんが、二組のカップルに全く感情移入できませんでした。ブラッド・ピットとジュリエット・ルイスのカップルは暴力的で巧いのですが、共感とはほど遠い存在なので見て楽しむだけ。主役であるはずのもう片方のカップルは地味すぎて不満。まんまモルダーだし。ラストも結局それで終わりなの? と聞き返したくなる内容で、もうちょっとカリスマ的な要素があれば良くなりそうな内容なだけに、惜しいところでした。

 監督は、デヴィッド・フィンチャーなどとプロパガンダ・フィルムスで名を馳せたドミニク・セナ。MTV出身なだけに映像は綺麗でした。因みに、ビデオタイトルは「カリフォルニア/狂気の銃弾」。うわあ。

監督:ドミニク・セナ
出演:ブラッド・ピット、ジュリエット・ルイス、デヴィッド・ドゥカヴニー、ミシェル・フォーブス
20051020 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

テルマ&ルイーズ

 リドリー・スコット監督による、女性二人が主役のロードムービー。まんまアメリカン・ニューシネマな脚本は、アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞共に脚本賞を受賞しています。

 主役二人の暴走ぶりは開き直りが感じられて良いのですが、痛快と言い切れないシナリオなのが腑に落ちませんでした。リアリティなのかもしれませんが、だとするとこの展開は悲しすぎます。良くも悪くもアメリカらしい、焦燥感溢れる映画でした。
 主演のスーザン・サランドン、ジーナ・デイヴィスに加え、ハーヴェイ・カイテル、マイケル・マドセン、ブラッド・ピットなど、スター性の高い俳優を揃えていて、まず見応えがあります。それでいて、映画全体の世界観を見失わないあたりはさすがスコット監督と言うべきでしょう。撮影も、相変わらず90年代初頭の作品とは思えないほど美しく仕上がっています。

 128分とちょっと長めなのが気になりますが、それを我慢して観るのもまた一興かと。個人的にはこの映画でマイケル・マドセンに惚れました。ブラッド・ピットのヤンキーぶりも必見。

監督:リドリー・スコット
出演:スーザン・サランドン、ジーナ・デイヴィス、ハーヴェイ・カイテル、マイケル・マドセン、ブラッド・ピット
20051019 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ありふれた事件

 メインスタッフ3人が原案・監督・製作・脚本・撮影・主演・編集を兼ねるという超インディペンデントな、バイオレンス映画の問題作。「蝿を殺すように人間を殺す男」をカメラがひたすら追い続けるドキュメンタリー、という設定のフィクション。でも真に迫りすぎていて、本物のドキュメンタリーではないかと怖くなる瞬間すらありました。

 観ているものまで犯罪を犯したような気分にさせる、突拍子もない演出は見事。実験映画をたて続けに観ていた時期に観たので、かなりはまってしまいました。出演者が「本人」として登場していて、そのあたりも錯覚させる材料の一つになっています。特にブノワ・ポールヴールドの残虐性は凄い、というか酷い……。オチは上手くまとまりすぎでしたが、そうでもしないと救われない話なのでそれはそれで良いのかも。
 エンタテイメント重視の映画ではないので退屈なシーンもあるものの、実験的精神は抜群。見た目以上に精神的な残虐性が堪えるので、苦手な人にはお勧めできませんが、ハリウッド系の上品なバイオレンスが嫌いな人は是非。

監督・出演:レミー・ベルヴォー、アンドレ・ボンゼル、ブノワ・ポールヴールド
20051002 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -