★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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SURVIVE STYLE 5+

 広告業界で活躍する多田琢が、満を持して映画業界に殴り込みをかけたブラックな長編映画。特徴のあるキャラクターは笑えますし、映像のセンスは今までの日本映画界にない素晴らしいモノでしたが、微妙に不満点が…。

 俳優の使い方は良い。浅野と橋本の不条理な闘争は映画のテンポを良くしているし、良々クンとヴィニー・ジョーンズのコンビは出てくるだけで笑えて、岸辺一徳でオチをつけるやり方も上手い。他の登場人物もなかなか存在感があります。でも、それらが上手くかみ合っているかというと微妙。どれも一発ネタであって、物語としては魅力を感じません。
 美術や衣装や撮影といった、見てくれを構成する要素は最高でした。ここまで映像に力のある日本映画は少ないでしょう。カメラワークも優秀で、撮り方一つで真面目なシーンと笑えるシーンを明確に分けているあたりにプロの技を感じます。

 こういう映画がもっと沢山作られるようになって、画作りの方から日本映画を改革していって欲しいところ。その点では非常に意味のある作品だと思います。あと、★一つじゃないのは、多分ピエール瀧とか三浦友和のおかげだと思います。

監督:関口現
企画・原案・脚本:多田琢
出演:浅野忠信、橋本麗香、小泉今日子、阿部寛、岸部一徳、神木隆之介、荒川良々、ヴィニー・ジョーンズ、三浦友和、千葉真一
公式サイト

20051002 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

メルシィ!人生

 「奇人たちの晩餐会」のフランシス・ヴェベール監督による、軽妙なコメディ作品。コンドーム会社に勤める男が、ゲイだと偽ってリストラを回避しようとしたために起こる珍騒動を、あの手この手で笑い倒しています。一つ間違うと差別的にもなりかねないゲイという題材を、気持ちよく笑える映画に仕上げています。

 実際、映画館でこんなに笑わされたのは初めて。息ができなくなって、思わずスクリーンから目を逸らしたほどです。しかも力ずくの笑いではなく、俳優が黙っている瞬間が一番笑えるという、コメディとしても正当派的な内容。計算し尽くされたネタは、一つ一つは爆発的ではないんですが、小さな波をテンポよく続けることで高い効果をあげています。逆に、そのシーンだけ切り出しただけでは笑えないだろう、というネタも多くて、監督のセンスの良さに感動してしまいました。
 後半ちょっと失速気味ですが、それを怪優ドパルデューが何とか埋めて、無理矢理のラストもまあ良いか、という気持ちにさせるのは、物語の芯にしっかりとしたテーマがあるからでしょう。主人公のや周囲の人に感情移入できたので、短い上映時間がもったいないぐらいでした。

 ハマれば思い出すだけでいつまでも笑えるので、下ネタ・ホモネタに抵抗がない方は、ぜひ。

監督:フランシス・ヴェベール
出演:ダニエル・オートゥイユ、ジェラール・ドパルデュー、ティエリー・レルミット、ミシェル・ラロック、ジャン・ロシュフォール
20050928 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

遊びの時間は終らない

 「12人の優しい日本人」のプロデューサによる、なんとも日本映画らしいサスペンス・コメディの秀作。あまりに実直すぎる警官が銀行強盗役になったせいで、予行演習が一転して大事件に発展する様を巧みに描いています。

 冒頭からラストまで素早い展開で畳みかけつつ、細かい笑い一つ一つに必然性を持ってくるシナリオがとても魅力的。主人公対警察という構図が、次第にスケールを広げつつ周囲を巻き込んでいくあたりは、コメディ映画なのに感動的ですらありました。ここまでシナリオが秀逸な犯罪ドラマは、90年代の日本映画には少ないのでは。さりげなく豪華なキャストも見所。
 しかし何と言っても、この映画は主演の本木雅弘のための映画です。おそらく彼の魅力が最も良く引き出された映画ではないでしょうか。未見の方は、騙されたと思って是非。

監督:萩庭貞明
原作:都井邦彦
出演:本木雅弘、石橋蓮司、萩原流行、原田大二郎
20050926 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

バッドサンタ

 テリー・ツワイゴフ監督によるブラック・コメディ映画。冒頭からサンタらしからぬ言動でトばしまくるビリー・ボブ・ソーントンを楽しんでいれば90分はあっという間に過ぎますが、終わってみると案外いい話だったなあと振り返ることの出来る気持ち良い映画でした。子供に見せるわけにはいかないと思いますが…。

 映画自体の構造は普通のファミリー映画と同じなのに、出てくる人々が全員ズレているだけでここまで印象が変わるというのが驚きでした。ツワイゴフ監督の持ち味である「リアルなのにどこか異世界感のある風景」がそれを引き立てていて、異色なクリスマス映画として見事に成立しています。でもやっぱり見所はソーントンのバッドサンタっぷり。酒に溺れてグデングデンになっているのが妙に可愛らしいあたりはこの人ならでは。
 特に感動する話でもないし、全体に悪趣味な映画ではありますが、ソーントンの色気を堪能したい人にはお勧めです。ちなみに、制作はジョエル&イーサン・コーエン兄弟。そういえばどことなくコーエン映画の雰囲気もありました。

監督:テリー・ツワイゴフ
出演:ビリー・ボブ・ソーントン、トニー・コックス、バーニー・マック、ローレン・グレアム、ジョン・リッター
公式サイト
20050921 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ジャッカス・ザ・ムービー 日本特別版

 番組中のアクションを一般人が真似て大怪我をするなど色々と物議を醸した、MTVの人気番組の映画化。日本公開は絶望視していたんですが、なんとか実現したので狂喜乱舞して観てきました。

 もう、とにかく「頭悪いなあ」という感想しかありません。映画になってもやっている事はテレビ版と殆ど同じで、ただスケールが若干大きくなっているだけ。「レンタカーで激突レース」「スポーツ用品店でボクシング」「大雨の街中でサーフィン」「どこでも棒高跳び」のように、意味がない、やる前から結果が分かっているからこそ誰もやらない痛いアクションをひたすら繰り返すわけです。あと平気で嘔吐脱糞したり、わざと怪我して笑うネタがあるので、覚悟してから観てください。
 洗練された笑いではないんですが、モーニングスターで釘を打つような豪快さがたまりません。これぞアメリカ。テレビ版の総集編的なDVDが出てるので、そちらも併せてどうぞ。

監督:ジェフ・トレメイン
出演:ジョニー・ノックスヴィル、スティーヴォー、バム・マージェラ、クリス・ポンティアス、ライアン・ダン、デイヴ・イングランド
公式サイト
20050920 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

オーシャンズ12

 スティーヴン・ソダーバーグ監督による、大ヒット映画の続編。前作が典型的なハリウッド映画のスタイルだったので今回もそれほど期待していなかったんですが、おかげで見事にハマってしまいました。ここ数年のハリウッド大作映画系ではベスト。

 何が面白かったのかと聞かれて明確にコレと答えられるものはないんですが、強いて言うなら映画全体が「良い雰囲気」だったことでしょうか。キャストだけならスター映画なのに、どう見てもインディーズ映画みたいなノリで、シナリオは適度にご都合主義でも決して浮き足立たず、テンポが駆け足でも喰らい付いていけば最後まで楽しめるという、全てのさじ加減が絶妙にブレンドされて、前作とは比較できないほど粋で笑えて痛快な映画になっています。そして何より、人も風景も全てが華やか! でも、楽屋ネタも前作への皮肉もたっぷりなので、そういうので「雰囲気が台無し!」と怒ってしまう人向きではないですね。
 前作から共通の俳優は言わずもがなですが、中でもマット・デイモンはオイシイ役どころでした。この人はオトボケ役が一番似合うと思います。初登場組では、やはりヴァンサン・カッセルの貴族っぷりが目を惹きます。サウンドトラックも秀逸で、単体の音楽CDとしても充分楽しめるほどでした。なお、今回も前作と同じ8500万ドルという、このキャストからしたら破格の低予算で撮り上げているのも注目すべき点でしょう。

 とにかく全体のユルさが最高でした。全力で映画史に残る傑作を作ろうとして空回りしている大作映画が多い中で、肩の力を抜いて観られる最高のエンタテインメントに仕上がっています。俳優の表情が他のどんな映画より生き生きしているのが、その何よりの証拠ですね。

監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、ジュリア・ロバーツ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、アンディ・ガルシア、マット・デイモン、ヴァンサン・カッセル、ドン・チードル
20050919 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ベルヴィル・ランデブー

 ヨーロッパの俊英、シルヴァン・ショメ監督による初の長編アニメーション作品。独特のブラックなセンスあふれるストーリーと、ノスタルジックで可愛らしい美術が、日本のアニメにはない魅力を感じさせます。テンポというか映画文法がアニメ離れしていて最初は戸惑いましたが、つまりは一本の映画作品として十分に観賞に耐えうるものであるということでしょう。

 ヨーロッパ風にデフォルメされたキャラクター表現が見事。動作もメリハリがあって、細かいところでクスクス笑わされました。自動車や建物などに効果的にCGを取り入れて、でも手描きアニメの魅力を損なわないところは、やはり芸術の国フランスらしい拘りだなあと感心しました。世界は広い。
 そうそう、ジャズ全開で印象的な主題歌を始め、戦後フランスのノスタルジックな雰囲気満載のサウンドトラックも必聴です。

監督:シルヴァン・ショメ
声の出演:ジャン=クロード・ドンダ、ミシェル・ロバン、モニカ・ヴィエガ
公式サイト
20050918 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -