★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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スプリガン

 たかしげ宙&皆川亮二による人気コミックを、川崎博嗣監督で映画化した劇場アニメ。ツカミは良かったものの、今ひとつパッとしない内容でした。
 案の定というか、原作の持つ世界観は再現できていません。アニメらしい重量感のない絵のせいで、どことなく空々しい雰囲気でした。アクションも、デジタルアニメならではの大胆なカメラワークが気持ち良いかと思ったらそうでもなく、むしろ昔からの動画技術をきっちりやっているシーンのほうが、安定していて楽しめました。あと脚本が最悪。掛け合いすら成立していない台詞の連続で、しかも単語が仰々しいだけの幼稚な会話に白けるばかり。ちゃんと原作を理解して作ってるのかすら疑問です。

 伝奇SFらしさもどこへやら。派手さを重視したカタルシスのない題材選択も失敗でしょう。アクションだけ見て下さい、という映画。

監督:川崎博嗣
原作:たかしげ宙、皆川亮二
出演:森久保祥太郎、子安武人、城山堅、相ケ瀬龍史
20060502 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

AKIRA

 大友克洋が、自らの漫画を長編映画化し、その名を世界に知らしめた大作SFアニメ。日本製アニメーションといえば、まずこれを想起する人も多いのでは。
 何よりその高い作画レベルに、まずは圧倒されます。ジブリともディズニーとも違うリアルな動作や、遠景まで書き込まれた背景は一見の価値あり。残像を伴って走るバイク、吹っ飛ぶ人物のスローモーション、それに芸能山城組による音楽など、あまりアニメらしくない表現も秀逸。物語も、当時まだ完結していなかった原作を大胆にカットして、映画用に分かりやすく作り替えられています。原作を知っている人には物足りなくもありますが、もともと原作の後半だってアクションとスペクタクルがメインなので、ストーリーの点では原作とそれほど相違ありません。特に、かなりの時間を費やして描かれる大破壊のシーンは、アニメ映画史上最高のカタルシスといっても過言ではないでしょう。

 小学生の頃に劇場で観て、かなり驚いた記憶があります。アニメでここまで表現できるんだ、ということに何より驚愕。ここまで先鋭的で、かつ娯楽性の高い作品というのは、これ以降も殆ど作られていないのではないでしょうか。

監督・原作:大友克洋
出演:岩田光央、佐々木望、小山茉美、玄田哲章
20060428 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

カスケーダー

 スタントマン出身のハーディ・マーティンスが製作、監督、原案、主演そしてもちろんスタントもやったというバカアクション映画、だと思って観たんですが、実際はアクションもドラマも中途半端な内容でした。

 ドラマにかける時間が思ったより長くて、しかもありがちな話なので全体に冗長になってしまいました。主人公と敵役が不自然なほど不死身なのに、真面目に財宝探しをやられると引いてしまいます。これがやりたかったんだろうなーと思えるような無茶なアクションは幾つかあるものの、それだけで100分以上ある映画が面白くなるわけでもなく。いっそこの映画のドキュメンタリーがあったら、そちらの方が面白いんじゃないかと思えるほどでした。
 本国ドイツでは受けたかもしれませんが、世界的なレベルかというと微妙。方向性は悪くないだけに、惜しい。

監督:ハーディ・マーティンス
出演:ハーディ・マーティンス、レグラ・グラウヴィラー、ハイナー・ラウターバッハ、アンドレアス・ホッペ
20060426 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

スピード

 撮影監督として数多の作品を手がけてきたヤン・デ・ボンの監督デビュー作にして、純粋アクション映画ブームの火付け役になった爽快アクション。分かりやすい娯楽作、の一言に尽きます。
 車が高速で疾走するというのは、動的メディアである映画の長所を上手く捉えたテーマの一つで、その魅力を巧みに引き出している点でこの映画は高く評価できます。サスペンスの現場が高速で移動しているというのは、否応なく緊迫感が沸きますね。個々のアイデアは過去の名作映画に見られるものですし、物語的な目新しさも皆無ですが、組み立て方が巧みなので気になりません。あとデニス・ホッパーの、ふてぶてしい悪役ぶりも良かった。あまりに行儀の良い話なのが気になりますが、まあ万人向けのアクション映画としては妥当なのかなーと。

 マーク・マンシーナによるメイン・テーマも絶妙。単純にドカンと景気のつく映画が観たい、分刻みで畳み掛けてくるアクションを楽しみたい、という要求に見事に答えた作品でした。

監督:ヤン・デ・ボン
出演:キアヌ・リーヴス、サンドラ・ブロック、デニス・ホッパー、ジェフ・ダニエルズ、ジョー・モートン
20060425 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ソードフィッシュ

 映像美にこだわるドミニク・セナ監督の長編第三作。今回は前二作の長所を集めたような、完成度の高いエンタテイメント作品に仕上がっています。
 明らかに「狼たちの午後」を意識した単純な展開も、速いテンポで全く飽きません。過去の映画を引き合いに出しながら、映画論や犯罪論やらをぶつ悪役ガブリエルはかなり魅力的。悪漢小説ばりの掛け合いで物語を引っ張るのも、なかなか楽しめます。アクションを期待した人には物足りないところでしょうが、先入観を持たずに観れば大満足の娯楽作でした。あまり細かいことを突っ込まずに観られる人にお勧めです。ただ、冒頭の5分間の出来が最高だっただけに、本編でそのテンションを持続できなかったのは残念。ラストのどんでん返しも、むしろ蛇足かなあ。

 俳優陣もなかなか豪華。まだ名前が売れ始めたばかりで、演技に定評のある俳優ばかり選んでます。あとヴィニー・ジョーンズが、ちょっとしか見せ場はないんですが良かった。セナ監督には、この調子でカタいアクション映画を撮り続けてもらいたいところです。

監督:ドミニク・セナ
出演:ジョン・トラヴォルタ、ヒュー・ジャックマン、ハル・ベリー、ドン・チードル、ヴィニー・ジョーンズ、サム・シェパード
20060422 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

TAXi 2

 リュック・ベッソンが製作・脚本を担当する人気カーアクション映画の続編。目的が明確な映画作法で、続編なのに前作よりも楽しめたような。
 上映時間は前作と同じなのに、登場人物の紹介を割愛できただけチェイスシーンが増えて、前作の不満が一気に解消しました。ストーリーのうっちゃりかたも前作以上。特に今回は敵役が日本のヤクザで、主人公たちも慣れない日本語を披露してくれてなおさら笑えます。これが本当に日本を勘違いしているだけなら辛いんですが、劇中ではちゃんと「イタい外国人」として描かれていて凄いなあ、と。それに、パリ市内を暴走する千葉ナンバーのランエボがもう…!

 俳優陣も前作のまま。主演の二人も良いんですが、ここはやはりジベール署長役のベルナール・ファルシの(前作同様の)活躍こそが、この映画の肝と言ってもいいかもしれません。チョイ役の人々が、前作にも登場した人だったりするのがまた楽しかったり。
 監督のジェラール・クラヴジックは、前作でも臨時で監督を体験していたせいか撮り方が様になっていました。むしろ前作より迫力があって、しかも笑いをどこかに残したチェイスシーンは見物。何はともあれ日本人必見。観たあとで「ニンジャー!」と叫びたくなる秀作です。

監督:ジェラール・クラヴジック
出演:サミー・ナセリ、フレデリック・ディフェンタール、マリオン・コティヤール、ベルナール・ファルシ、エマ・シェーベルイ
20060419 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

もののけ姫

 「紅の豚」以来5年ぶりとなる宮崎駿の監督作。アニメーションのレベルは上がったのもの、考えすぎで尻切れトンボに見えました。
 相変わらずアニメの質は高く、特に自然物中心の背景はため息もの。試験的に導入されたデジタル処理もそれほど違和感はありません。そして物語はいつになく重厚。過去の作品で自然を賛美しすぎたことへの反省があるせいで、この作品では特に真摯な問題提起を行っています。これらが上手くハマっていればよかったんでしょうが、監督の自問自答はあくまで現実的な結論に落ち着いてしまって、ここまで壮大なファンタジーを媒介させる必要は感じられませんでした。

 「ジブリ映画の観客」にこういう映画を見せたかったんだろうとは思いますが、こんな複雑なテーマの作品は他の映画に任せて、ジブリにはジブリにしか出来ない作品を撮って欲しいと思うだけに納得できません。少なくとも、子供が観て楽しむ作品じゃないよなあ、と。

監督:宮崎駿
出演:松田洋治、石田ゆり子、田中裕子、小林薫、西村雅彦、上條恒彦、島本須美、美輪明宏、森繁久彌、森光子
20060409 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

天空の城ラピュタ

 宮崎駿監督による長編劇場用アニメ第三弾にして、スタジオジブリ設立後初の作品。「ガリバー旅行記」の空中都市ラピュタをモチーフに、痛快なアクションと深みのある物語が繰り広げられる傑作です。

 「風の谷のナウシカ」の余韻が残る内に制作されたためか、テーマ性を極力排してエンタテイメントに徹した作りが小気味よくきまっています。主人公と軍と空賊の三つ巴の争奪戦、“冒険活劇”を地で行く怒濤の展開、「未来少年コナン」を思わせるパズーのコミカルなアクションなど、とにかく分かり易くかつ娯楽性の高い映像世界は、アニメならではの魅力が満載でした。
 最後まで一気に楽しめるのは、もちろん物語が良いのもあるんですが、同時にキャラクターの明快さも一役買っています。特に脇役の配し方が秀逸。ドーラおばさんやムスカ大佐は、他の宮崎作品にも見られるモチーフながら、この作品における彼らは白眉といえるでしょう。数々の名台詞は必見。相変わらず軍事マニアっぷりを見せてくれる宮崎監督の演出も見どころの一つです。

 子供のころに観たときは、エンドロールでのラピュタの姿を見ながら涙してしまいました。スタジオジブリならではの完成度の高いアニメーションと、宮崎監督の巧みなストーリーテリングが、最高のバランスで結実した一作です。

監督:宮崎駿
出演:田中真弓、横沢啓子、初井言榮、寺田農、永井一郎、常田富士男
20060406 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ルパン三世 カリオストロの城

 宮崎駿監督の長編アニメデビュー作。ルパンの服の色を変えたり、カリオストロ公国が妙にリアルだったりと、いつものルパン映画らしくない作り込みで、今でもファンの心を捉えて離さない名作です。
 キャラクタ造形にいまいち華が足りない宮崎監督が、原作モノという題材を得て印象の強い映画作りに成功した好例。とにかく登場人物全てが魅力的。ルパンはいつもより二枚目だし、次元や五右ヱ門も深みがあって、オリジナルの「ルパン三世」のハードボイルド風味も良いんですが、この作品でのルパンたちの方が好きだったりします。初期の宮崎アニメらしい畳み掛けるようなアクションといい、最後まで笑っちゃうぐらい印象的な台詞といい、間違いなく日本製アニメの代表作の一つに数えられる作品かと。

 バイオレンスもお色気もない世界観は、本来のルパン三世のファンには不満なようですが、単体のアニメ作品として観るとやはり秀逸。一度は観ておいて損のない作品です。

監督:宮崎駿
原作:モンキー・パンチ
出演:山田康雄、小林清志、井上真樹夫、増山江威子、納谷悟朗、島本須美、石田太郎
20060404 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ジュラシック・パークIII

 大ヒット恐竜映画シリーズ第三弾。監督は「ロケッティア」「ジュマンジ」などSFやファンタジーが妙に得意なジョー・ジョンストン。地味ながら質の高い映像が楽しめる秀作です。
 第一作の娯楽性と第二作のホラー性を掛け合わせたような内容で、悪く言えばどっちつかずなんですが、適度にハラハラ、でも暗くなりすぎずに楽しめるところは好感が持てました。登場する恐竜も少数精鋭。さすがに恐竜が出てくるだけでは驚かなくなったものの、スケールを実感させる巧みな見せ方で迫力を出しています。テーマ性を排して、娯楽に徹したシナリオも良い。コンパクトで何の気負いもなく楽しめるだけに、純粋な“恐竜映画”だと感じました。

 とにかくジョー・ジョンストンの作品を一つでも観たことのある人なら納得の出来でしょう。テーマはないと書きましたが、最後のラプトルとの対峙やプテラノドンの飛翔が、監督の恐竜への強い思い入れを示しているような気がしました。シリーズ中で最も、恐竜への愛に満ちた作品かもしれません。

監督:ジョー・ジョンストン
原作:マイケル・クライトン
出演:サム・ニール、ローラ・ダーン、ウィリアム・H・メイシー、ティア・レオーニ、ジョン・ディール、マイケル・ジェッター
20060403 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -