★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
詳細な評価基準についてはこちら

紅の豚

 宮崎駿監督が、自身の飛行機マンガを映画化したアニメーション作品。僕が初めて劇場で観た「ジブリ映画」で、当時は面白さがさっぱり分かりませんでしたが、大人になってから見直してみると評価が一変しました。これは大傑作です。
 「カッコイイとは、こういうことさ。」のコピー通り、出てくるオヤジ達がとにかく渋くて情けなくてカッコイイ。そもそも第一次大戦後、1920年代の不安定な情勢下のイタリア・アドリア海という設定自体が絶妙ですし、幾度となく繰り広げられる空中戦も、手描きアニメならではの臨場感に満ちています。物語中に何度も言及される「飛行艇乗りの誇り」もいちいちもっとも。そういう世界に憧れる人に、そして誰よりも監督自身に向けられた映画なのでしょう。

 森山周一郎の声だけでも観る価値は十分にありますが、加藤登紀子のせいでトドメを刺されてしまいました。人々も風景も歌も、全てが格好良くて単純に楽しめる、大人向けのメルヘンです。ジブリ映画なんてとっくに卒業した、と思っている人にこそ観て欲しい作品。

監督:宮崎駿
出演:森山周一郎、加藤登紀子、岡村明美、大塚明夫、上條恒彦、桂三枝
20051202 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ハウルの動く城

 日本アニメ界の代表者になってしまった宮崎駿監督による、初の正統派ファンタジー作品。原作は気に入らなかったので(翻訳のせいかも)、このお話を監督がどう料理しているのかと期待して観ましたが、見事に肩すかしを喰った印象です。

 機関車が出てきた時点でおかしいなとは思ったんですが、ここまで原作を無視しているとは思いませんでした。登場人物や前半のプロットは一緒でも、後半の展開は映画オリジナル。そもそもハウルの素性が明かされないなんて……「はてしない物語」にバスチアンが出てこないようなものです。
 原作の物語としてのカタルシスは、絵に描いたような”お伽話の世界”という極端な世界設定が、ハウルの正体判明で一気に説得力を持つところであって、荒れ地の魔女の正体もソフィーの存在意義も「オズの魔法使」になぞらえたその他の登場人物たちも、そこに全てかかってきていたはずです。ところが映画ではその設定自体が消えたために凡庸なファンタジーになり、更に「戦争」という唐突で物語にそぐわないテーマまでが挿入されているので、原作の意図が全てうやむやになってしまいました。

 すげ替えられた物語が単純に面白ければ我慢のしようもありますが、そういうこともなく。映画としても、目的の分からないアクションシーン、無粋な台詞、細かいだけで表現力に乏しい背景美術など、納得のいかない部分ばかりでした。唯一良かったのは冒頭、羊飼いをナメて城が歩くカット(背景は男鹿和雄!)。これで原作の説明不足な点が一気に解消したんですが……。
 ちなみに映画自体で説明不足な点の殆どは、原作には初めから存在しない要素なので原作を読んでも解決されません。悪しからず。

 もともと某監督作品として制作が進められていたものの頓挫し、再開後もカツカツのスケジュールで制作されたという経緯もありますが、それにしてもこの破綻ぶりは酷い。試行錯誤をしているのは分かりますし、新しい試みも大事だと思いますが、宮崎監督には肩の力を抜いて90分ぐらいの小規模な作品を作ってほしい、というのが本心です。

監督:宮崎駿
原作:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
声の出演:倍賞千恵子、木村拓哉、美輪明宏、神木隆之介、我修院達也
20051121 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ヴィンセント

 ティム・バートンがディズニー在籍時に撮影した短編ストップモーション・アニメ。ヴィンセント・プライスに憧れる怪奇映画マニアの主人公ヴィンセントを描いた内容は、そのまま監督であるティム・バートンの姿と重なります。
 以降のティム・バートン作品に登場するモチーフちりばめられているのも驚きですが、妄想だらけの生活を送る主人公の姿にいちいち笑ってしまいました。それらがたった約5分間の本編の中に押し込められているという濃い内容で、ナレーションをヴィンセント・プライス本人が務めているというあたりも見どころの一本。バートン映画のファンなら要チェックです。

監督:ティム・バートン
出演:ヴィンセント・プライス
20051029 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ティム・バートンのコープスブライド

 ティム・バートンによるストップモーション・アニメの3作目(監督としてのクレジットは初)。ロシアの民話を原案にしているようで、ストーリーは独特で楽しめますが「それ以上の何か」が感じられなかったかなと。

 ストップモーション・アニメとしては非常に完成度が高く、キャラクターの動きは滑らかで、特に豊かな表情は驚嘆モノ。実写ならではの質感が映像に温かみを加えていて、ダークな物語もバートン作品らしい空気をよく醸し出しています。でも、観た印象としては「無理に面白くしようとしている」感じでした。最大の不満点は、主人公ビクターの心情が説明不足な点。そのため物語に対して客観的になってしまい、二人の花嫁の間を右往左往するのに少し腹が立ってしまったり。
 ハリーハウゼンを始めとした過去のホラー映画やストップモーション・アニメに対するオマージュがそこここにあるようです。それが分かれば面白いのかも知れませんが……うーん。過去のバートン映画は、それが分からなくても有無をいわせぬ雰囲気で押し切っているのが楽しかったんですが、今回は置いてけぼりを喰った感じでした。

 ともあれ過去のストップモーション・アニメのレベルを遙かに超越しているのは事実。デジタル加工を可能な限り無くした映像は、奇跡的なほどの完成度なのです。それと、観ていて気付いたのは、ディズニー映画風のキャラクターや演出が好意的に扱われていたこと。この映画の根底にあるのは、現在のバートン流ディズニー論なのかもしれません。

監督:ティム・バートン、マイク・ジョンソン
出演:ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、エミリー・ワトソン、クリストファー・リー、ダニー・エルフマン
公式サイト
20051028 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ナイトメアー・ビフォア・クリスマス

 ティム・バートン制作・原案による人形アニメーション。微笑ましくも毒のある世界観やストーリーで、未だに根強い人気のある作品。子供が絵本を読み聞かせてもらって、終わったら「ねえ、それでどうなったの?」と聞くような、そんな気分になれる映画でした。

 過去のメルヘンの傑作にも匹敵する物語性は見事。ホリデータウンという設定から始まって、その特殊な世界で繰り広げられる物語にはただただ息をのむばかりで、何度観ても76分という上映時間は短かすぎると嘆かされます。本来なら怖いはずの怪物たちも、ハロウィンということもあってどこか愛らしく、かつ少し倒錯気味。フィンケルシュタイン博士の脳みそや、メイヤー町長の切り替わる顔など、おもちゃみたいなギミックも良い。その他画面に殆ど登場しないキャラクターにまで、クセのあるデザインが施されています。
 更に人形アニメとして見ても、過去にないほど高い完成度でした。特にその動きのなめらかさは、本当に人形たちが生きて演技しているかのよう。ミュージカルとしても魅力的なナンバーが揃っていますし、ここまで非の打ち所のない映画も珍しいのではないでしょうか。

 評価とはあまり関係ありませんが、先日TOHOシネマズの企画で上映されていたので慌てて観てきました。やはりスクリーンで観られるというのは良いですね。むしろ、この映画は毎年恒例で上映してほしいぐらいです。

制作・原案:ティム・バートン
監督:ヘンリー・セリック
声の出演:ダニー・エルフマン、クリス・サランドン、キャサリン・オハラ、ウィリアム・ヒッキー、ポール・ルーベンス
20051016 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ベルヴィル・ランデブー

 ヨーロッパの俊英、シルヴァン・ショメ監督による初の長編アニメーション作品。独特のブラックなセンスあふれるストーリーと、ノスタルジックで可愛らしい美術が、日本のアニメにはない魅力を感じさせます。テンポというか映画文法がアニメ離れしていて最初は戸惑いましたが、つまりは一本の映画作品として十分に観賞に耐えうるものであるということでしょう。

 ヨーロッパ風にデフォルメされたキャラクター表現が見事。動作もメリハリがあって、細かいところでクスクス笑わされました。自動車や建物などに効果的にCGを取り入れて、でも手描きアニメの魅力を損なわないところは、やはり芸術の国フランスらしい拘りだなあと感心しました。世界は広い。
 そうそう、ジャズ全開で印象的な主題歌を始め、戦後フランスのノスタルジックな雰囲気満載のサウンドトラックも必聴です。

監督:シルヴァン・ショメ
声の出演:ジャン=クロード・ドンダ、ミシェル・ロバン、モニカ・ヴィエガ
公式サイト
20050918 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -