★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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風の谷のナウシカ

 宮崎駿が、自らの連載漫画を原作に制作したアニメ作品。この映画には言うことはありません。テーマ性もオリジナリティも一級品のエンタテイメントです。

 圧倒的な世界観と、その世界設定を充分に生かたナウシカのキャラクターが、特に魅力的。監督の中で世界観が充分に消化されているからこそ出てくる設定であり、ナウシカに限らず他のキャラクターやエピソードにしても、世界観と違和感ない絡み方で説得力があります。ラストに向けての盛り上がりやカタルシスも十分すぎるほど。何よりこれだけの作品をオリジナルで制作してしまった宮崎監督の才能に驚かされました。
 余談ですが、宮崎監督の軍事マニアっぷりが散見されるのもこの映画の見所の一つ。戦車や飛行機の操縦方法、武器の挙動や弾道などなど、細かいところですが執拗なこだわりが感じられます。また、“爆発マニア”庵野秀明が全カットを担当した巨神兵のシーンなども必見。

 原作漫画のような濃さはないものの、映画は映画でインパクトがあって好きです。これほど高い完成度でまとまった作品というのは、実写映画でも稀でしょう。まさに日本のアニメーションを代表する作品です。

監督・原作:宮崎駿
出演:島本須美、松田洋治、榊原良子、家弓家正、納谷悟朗、永井一郎、冨永みーな
20060405 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

アマデウス

 モーツァルトの死を同時代の音楽家サリエリの視点から描いた舞台劇を、豪華に映画化した傑作。俳優も映像も文句なしのコスチュームプレイです。

 トム・ハルスの変則的なモーツァルトに初めは驚かされましたが、そのキャラクターと悲劇との対比が絶妙。”天才”モーツァルトに嫉妬しつつ憧れる”凡人”サリエリの葛藤は、分かり易いだけに観る者の心に強く響きます。当然ながら使われている楽曲もほとんどモーツァルトのもので、映画の評価と相まって、すっかりモーツァルトに傾倒してしまいました。
 トム・ハルスのエキセントリックな演技を正攻法で受け止めたF・マーレイ・エイブラハムは見事。プラハでオールロケしたという映像や、程よく生活感のある衣装なども美しい。ヨーゼフII世など貴族のいい加減さも物語に幅を持たせています。とにかく全てが豪華、かつリアリティを感じさせる納得の出来でした。

 2002年にはディレクターズ・カット版も公開されています。20分の追加映像は正直どこまで必要だったのか疑問ですが、この映画をドルビーの大スクリーンで観ることが出来たのは嬉しかった。定期的に上映して欲しい作品です。

監督:ミロス・フォアマン
原作:ピーター・シェイファー
出演:F・マーレイ・エイブラハム、トム・ハルス、エリザベス・ベリッジ、ロイ・ドートリス、サイモン・キャロウ、ジェフリー・ジョーンズ
20060312 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ

 本国アメリカでは記録的な大ヒットとなった舞台劇を、舞台と同様ジョン・キャメロン・ミッチェルの監督・脚本・主演で映画化し、2001年度のインディペンデント映画界において最も話題をさらった作品。予告編のビジュアルからはトリッキーな印象を受けたんですが、実際観ると非常に普遍的な物語で驚かされました。
 アウトサイダーに対する偏見や差別を切り口にしつつ、描かれているテーマは非常にスタンダードで、観れば誰にでも判る明快な主張というのが面白い。主人公ヘドウィグは、外見こそ一般性から外れていますが、その感性はむしろ繊細で、赤裸々に綴られる彼の人生観はダイレクトに観客自身の理性を突き刺します。見方によっては陳腐にも思えるのでしょうが、それをロックに乗せて堂々と語りきっているところが潔く、その真摯な歌詞に思わず涙することもしばしば。映画の構成としては、巷間に溢れる”プロモーションビデオ映画”と何ら変わらないんですが、そこに強烈なテーマを介在させることで一気に映画的にするという手法も斬新でした。

 ジョン・キャメロン・ミッチェルのヘドウィグは、それだけで映画史に残せそうなぐらいのカリスマ性で魅せてくれます。彼の生き様がひたすら美しく、辿り着いた観念的なラストも良い。「自分の片割れ探し」という題材で、この結論に行き着くのは僕の理想。文句なしの傑作です。

監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル
出演:ジョン・キャメロン・ミッチェル、マイケル・ピット、ミリアム・ショア、スティーヴン・トラスク、アルバータ・ワトソン
20060306 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

カタクリ家の幸福

  韓国のホラー映画「クワイエット・ファミリー」を三池崇史監督が大胆に翻案したブラック・コメディ。分かってやっているとは思うんですが、とてもそうは思えない頭の悪さが最高です。

 舞台を日本に変えただけならともかく、明らかに勘違いぶり爆発の”ミュージカル化”だというから、さすがは三池監督。目の付け所がかなりあさってです。しかも昭和臭がプンプンする豪華なキャストまでついて、これを21世紀になってしまった今になってやるというのは明らかに自殺行為。実際、映画館はガラガラだったんですが、映画自体はとんでもない掘り出し物でした。
 で、物語はあってないようなもの。とにかくバンバン人が死に、明らかに怪しいムードが映画に漂いますが、一番シリアスにならなければいけないところで突然ミュージカルになるのです。最悪の状況では笑うしかない、という心境の強烈な比喩でしょうか。さりげなく家族愛というテーマを組み込んでいますが、それも荒唐無稽な展開とか、脇役として登場する忌野清志郎や竹中直人のおかげでぶち壊し。終盤、暴走しすぎで観客がついていけなさそうな場面もあるんですが、綺麗に完結しているところが、やはり監督の手腕のなせる技なのでしょう。

 とにかく映画全編を通して館内に笑いがこだまする、粋なミュージカル・ホラーでした。三池監督のキツい演出は観る人を選びそうですが、それだけに映画としてのエネルギーは十分すぎるほど。近年の日本映画は理屈ばかりで面白くない、突き抜けたバカが見たい、という人は必見。数々の”迷曲”が一生頭から離れなくなることは保証します。

監督:三池崇史
出演:沢田研二、松坂慶子、武田真治、西田尚美、宮崎瑶希、忌野清志郎、竹中直人、丹波哲郎
20060214 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

太陽を盗んだ男

  長谷川和彦監督、沢田研二主演による、日本犯罪映画史上に輝く金字塔。まさにカルト映画と呼ぶにふさわしい、強烈なメッセージを含んだ傑作です。

 あまりの評判の良さに観たら落胆するのではと危惧していましたが、実際は感動ばかりで頭の中がぐるぐる回っていました。原爆を作ってしまうという突拍子もない展開も面白いんですが、”その後”の主人公の行動が、現代の日本人の心境を巧みに反映していて背筋が震えました。荒削りな演出もあってか、大作映画的な作りなのにテーマが全く薄れていないのにも驚かされます。
 沢田研二の無軌道っぷりは、まさに時代の主人公として様になっています。刑事役の菅原文太がちょっと濃ゆくて困ったのですが、それがあの後半は自然に消化されていたのには驚きました。コミカルな人物描写で、作品の雰囲気を深刻にし過ぎないバランス感覚が絶妙。アクションシーンなんかに昔っぽさをひしひしと感じてしまうのも、ここまで作品の出来が良いと気になりません。ビルを押すシーンとか、わけが分からないけど印象的なシーンの作り方も巧いですね。

 とにかく、日本映画が好きな人にも嫌いな人にもお薦めの作品。これだけパワーのある映画を昔の日本は撮れていたのだ、という事実に何より感心させられるのは確実です。

監督:長谷川和彦
出演:沢田研二、菅原文太、池上季実子、北村和夫、風間杜夫、伊藤雄之助
20060210 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

機動警察パトレイバー2 The Movie

 カルト的な人気を誇るロボットアニメの劇場版第2弾。前作よりもアクションやギャグを極力削り、研ぎ澄まされた画面から描写される”消極的な平和”という現代日本に対する提言がショックでした。アニメ云々より、戦争映画として稀に見る傑作です。

 正直、観た当初はこの”消極的な平和”というテーマに実感が持てなかったんですが、公開2年後に映画を模倣したかのようなテロ事件が東京で起きたため、一気にそれがリアルなものとして感じられるようになりました。冒頭のベイブリッジ爆破は、9.11をも想起させます。この映画で描かれる”戦争状態”が、あえて殆どレイバー(ロボットの呼称)を用いずに作り上げられるのは、それが現実にすぐ起こりうるということを示唆したかったためでしょう。9.11の10年も前に、それを映画として世に出した制作陣の着眼点は、ただただ凄いとしか評しようがありません。
 前作とは打って変わって、昔の日本映画のような落ち着いたカメラワークと風景描写が印象的。登場人物も、今回はオヤジばかりが活躍するので渋すぎるぐらいですが、それだけに非常に重みのあるドラマになっています。その中で、ときに破壊的なギャグが炸裂するのもファンにとっては嬉しいところ。

 前作も今作も、直後の世相を見事に予言したかのようなシナリオで、その現実における再現率は怖くなるほど。アニメは子供向けだと軽視している人に、是非観て欲しい作品です。

監督:押井守
原作:ヘッドギア
出演:冨永みーな、古川登志夫、大森隆之介、池水通洋、二又一成、郷里大輔、榊原良子、千葉繁、阪脩、竹中直人、根津甚八
20060105 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

機動警察パトレイバー THE MOVIE

 まだOSという言葉すらマイナーだった時代に制作された、ハイテク犯罪映画の傑作。もともとは”サンマの香りがするロボットアニメ”をテーマに、漫画家ゆうきまさみや押井守、伊藤和典などによって企画・制作されたビデオアニメの映画化作品だったんですが、これが嬉しい誤算でした。

 今や世界的な名声を得たアニメ監督押井守と、後に日本アカデミー脚本賞を受賞する伊藤和典による、Windows時代を予言したかのような設定と周到な犯罪劇は、とても80年代のシナリオとは思えないほどリアルで今観ても唸ってしまうほど。同時に、これだけの秀逸なネタをコメディ仕立てのロボットアニメで消費しなければいけない日本映画の現状がつくづく悔やまれます。
 シリーズものですが、原作となったアニメや漫画の主人公達は脇役同然に描かれているので、オリジナルを知らない人でも楽しめます。もちろん、東京下町の民家を怪獣映画のように踏みつぶして歩くレイバー(ロボットの呼称)などアクション面でもツボを心得た出来ですし、コメディ部分でも大笑いさせられる、ファンにとっても十二分に楽しめる映画でした。

 ロボットアニメと侮る無かれ、当時はSFに過ぎなかったものが、今では現実的な犯罪映画として実感を持って観ることのできる見事な作品です。映画の前に制作されたビデオシリーズやコミック、後のTVシリーズにもシュールでリアルな世界観は健在ですので、気に入った方はそちらもぜひ。

監督:押井守
原作:ヘッドギア
声の出演:冨永みーな、古川登志夫、大森隆之介、池水通洋、二又一成、郷里大輔、榊原良子、千葉繁、阪脩、井上瑶
20060105 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

不思議惑星キン・ザ・ザ

 グルジア共和国出身のゲオルギー・ダネリア監督が撮った、シュールなSFファンタジー。一見するとただ冗長でくだらない内容ですが、その不思議な世界観がツボにはまると最高に楽しめます。

 まず絶対に飛びそうにない飛行物体に始まって、マッチが高級品だったり、変な挨拶や不思議な人種間差別が横行などなど、ツッコミどころ満載の設定が続出で笑えます。B級映画の雰囲気を漂わせつつ、しっかり独自の世界観を実現しているところも凄い。宇宙船や地下都市などのデザインも欧米の映画とはまた違った方向性で目を惹きました。ちょっとした風刺やSF映画としての後味の良さもあって、ただのチープなSF映画と捨て置くことのできない、実に奇妙な映画です。
 上映時間134分というのが最初は長く感じたのですが、二度目に観たときはあっという間に終わってしまって驚きました。退屈と思っていましたが、実はちょっとスローテンポなだけで無駄なシーンは一つもありません。シナリオ的なカタルシスは真面目なSF映画も顔負けの出来。何より物語から感じられる世界の広がりが、文字通り宇宙的規模の作り込みで圧倒されてしまいました。

 良くも悪くも、一度観たら忘れられない映画であることは確実。このセンスを面白いと思うかどうかで評価が一変すると思います。ミニシアター系映画を好き人なら必見。

監督:ゲオルギー・ダネリア
出演:スタニスラフ・リュブシン、エフゲニー・レオーノフ
20060101 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ガタカ

 脚本家としても活躍するアンドリュー・ニコルの監督デビュー作にして、SF映画史に残る傑作と誰もが口を揃える名作中の名作。遺伝子工学というSF的なフィーチャーを物語に巧みに盛り込みつつ、あくまで感動的なドラマに仕上げています。

 ここまでSFっぽいSF作品は映画界では珍しいほどなのに、ある青年の友情を描いた青春映画という爽やかさまで兼ね備えた物語が最高。映像や音楽も綺麗ですが、それすらこの映画を構成する要素の一つに過ぎない、と思えるほど。脚本が良く、そして演出も落ち着いていて物語をじっくり楽しめる、というだけで十分です。事実だけをさりげなく画面の一部に覗かせて、観客に推理させる画面作りにはただ驚嘆させられました。デザイン面でも、アルマーニの衣装やバルセロナチェアといった有名どころを採用しつつ、全体にモダンな雰囲気でまとめられていて好感が持てます。
 ちなみに、宇宙センターのロケ現場となった建築は建築家フランク・ロイド・ライトの作品 "Marine County Civic Center" です。流線型が印象的な吹き抜けから見える宇宙船の船影が、どんな台詞よりもこの物語の本質を上手く表現していると思いました。

 イーサン・ホークやジュード・ロウといったインディーズ系の人気俳優が主演なので敬遠しがちですが、騙されたと思ってまずは観て下さい。もちろん二人のファンには絶対にお薦めの作品です。

監督:アンドリュー・ニコル
出演:イーサン・ホーク、ユマ・サーマン、ジュード・ロウ、アラン・アーキン、アーネスト・ボーグナイン
20051229 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ストーカー

 旧ソ連の巨匠、アンドレイ・タルコフスキーの代表作の一つ。突如出現した”ゾーン”と呼ばれる空間と、そこに忍び込む人々を描いたSFサスペンスの傑作です。

 プロット自体はシンプルですが、160分という時間をかけてじっくりと描き出されているために、物語はこれ以上ないほど厚みがあります。宗教的であったり観念的であったりする登場人物の思想も、最後には一つのテーマへと昇華していて、非常に手応えのある物語でした。モノクロとカラーの映像を場面によって切り替えたり、ゾーンの驚異を具体的な何かでなく自然現象の一つになぞらえて描くなど、表現技法にも独特の説得力があります。
 SFやファンタジーなど非現実を舞台にした物語は、その舞台設定に対する必然性がないと興ざめしがちです。この映画も、あらすじを聞いた時点では”ゾーン”という舞台設定からしてチープに思えましたが、観終わるころにはその哲学性に惚れ込んでしまいました。象徴主義や観念論などを駆使し、映像と台詞でテーマをこねくり回す様は圧巻です。

 極力エンタテイメント性を廃した作品なので注意。全力で映画の表現したいことを考えながら観ないと取り残されてしまいますが、それだけ哲学的SF映画の懐しみに満ちた名作でした。

監督:アンドレイ・タルコフスキー
原作:アルカージー・ストルガツキー、ボリス・ストルガツキー
出演:アレクサンドル・カイダノフスキー、アナトリー・ソロニーツィン、アリーサ・フレインドリフ
20051226 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -