★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ファイト・クラブ

 デヴィッド・フィンチャー監督によるサスペンス映画の超問題作。テーマ自体は使い古されたものかもしれませんが、その提示方法があまりに暴力的で斬新でした。フィンチャー監督作品の中では、この作品が一番好きです。

 これはアメリカのX世代に対して向けられた映画で、その世代が持つ不満やストレスを直接的な物語にしたところが斬新だったのだと思います。だから感情移入の対象である主人公は名前を名乗らないし、地名すらこの映画からは極力排除されています。その中で「自分にも何か出来る」と勘違いさせるシナリオのパワーはかなりのもので、実際に世界各地でファイトクラブが設立されて問題になったことを見ても、そのメッセージ性の強さが分かります。
 とまあ語りたいこともありますが、単純にサスペンス映画として楽しめたのが高く評価する最大の理由です。二人の主人公が共に魅力的で、特にE・ノートンが優柔不断なダメ青年を巧みに演じているので物語の説得力が増していると感じました。フィンチャー監督作の「遊び」もこの作品では極まっていて、しかもストーリーと直結した演出は他で見られない快感です。

 生きる目標を失っている若い世代に向けた、フィンチャー流のメルヘン、というのがこの映画の本質ではないでしょうか。映画全編が暴力にまみれていますが、この映画をバイオレンス映画だと評する人はそもそも観客として想定されていないので、黙って立ち去るのが無難でしょう。

監督:デヴィッド・フィンチャー
原作:チャック・ポーラニック
出演:エドワード・ノートン、ブラッド・ピット、ヘレナ・ボナム・カーター、ジャレッド・レト、ミート・ローフ・アディ
20051027 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

セブン

 デヴィッド・フィンチャーが新人らしからぬところを見せつけたサイコ・サスペンス映画の傑作。これは問答無用で惚れました。

 宗教的なテーゼに基づいて犯行が繰り返される様が、非情とも言える客観性と共に描かれています。それを傍観するしかない主人公達の無力感が、土壇場でいきなり観客自身にまで襲いかかってくるときの恐怖は、他のどの映画においても感じたことのないものでした。見終わって映画館から出てくるときにまだ身体が震えていたのを覚えています。
 降り続く雨の向こうに霞んでいる現実感のない町並み、精神を逆なでするノイズ混じりの音と映像、「人を殺したくなる」ほどエキセントリックな犯行、それを楽しんでいる自分に気付いたときの倒錯感、そういう全てを実現したフィンチャー監督の演出と、ダリウス・コンジによる撮影にただ圧倒されるばかりの映画でした。

 あまりの後味の悪さに、最初は「二度と観たくない」と思いましたが、時間が経つにつれてその魅力に身体が蝕まれていく心地よさを感じられた希有な作品です。カイル・クーパーによるタイトルバックが、それを端的に表現していて秀逸。なお、犯人役の俳優は映画の予告ではクレジットされていなかったので、ここでも敢えて書きませんでした。そのあたりは観てのお楽しみということで。

監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:ブラッド・ピット、モーガン・フリーマン、グウィネス・パルトロウ
20051023 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ナイトメアー・ビフォア・クリスマス

 ティム・バートン制作・原案による人形アニメーション。微笑ましくも毒のある世界観やストーリーで、未だに根強い人気のある作品。子供が絵本を読み聞かせてもらって、終わったら「ねえ、それでどうなったの?」と聞くような、そんな気分になれる映画でした。

 過去のメルヘンの傑作にも匹敵する物語性は見事。ホリデータウンという設定から始まって、その特殊な世界で繰り広げられる物語にはただただ息をのむばかりで、何度観ても76分という上映時間は短かすぎると嘆かされます。本来なら怖いはずの怪物たちも、ハロウィンということもあってどこか愛らしく、かつ少し倒錯気味。フィンケルシュタイン博士の脳みそや、メイヤー町長の切り替わる顔など、おもちゃみたいなギミックも良い。その他画面に殆ど登場しないキャラクターにまで、クセのあるデザインが施されています。
 更に人形アニメとして見ても、過去にないほど高い完成度でした。特にその動きのなめらかさは、本当に人形たちが生きて演技しているかのよう。ミュージカルとしても魅力的なナンバーが揃っていますし、ここまで非の打ち所のない映画も珍しいのではないでしょうか。

 評価とはあまり関係ありませんが、先日TOHOシネマズの企画で上映されていたので慌てて観てきました。やはりスクリーンで観られるというのは良いですね。むしろ、この映画は毎年恒例で上映してほしいぐらいです。

制作・原案:ティム・バートン
監督:ヘンリー・セリック
声の出演:ダニー・エルフマン、クリス・サランドン、キャサリン・オハラ、ウィリアム・ヒッキー、ポール・ルーベンス
20051016 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ラスベガスをやっつけろ

 原作者ハンター・S・トンプソンの実体験を元にした小説を、鬼才テリー・ギリアム監督が映画化。他のドラッグ系映画の追随を許さない、とことん下品で不条理で滅茶苦茶な作品でした。

 「トレインスポッティング」がドラッグ文化をあくまでスタイリッシュに描写していたのに対して、こちらは主観的に描写しているのが最大の特徴。つまりは麻薬でラリってる主人公2人の「見えているもの」を中心に物語が進むので、カメラは斜めに漂いっぱなし、何が現実に起こっているのかも判らない状態で、最後まで真実は明かされません。そういった主人公の、現実からの取り残され具合をテーマにした作品なので、それは必然でしょう。ヒッピーが70年代に入って終わりを告げ、ただの社会不適合者になった主人公たちがどういう価値観を持って生きているのか、それがこの映画の語りたいことであり、それは上手く表現できていると思いました。
 しかしそういう理論をぶつ以前に、映像としてこの映画は楽しめます。何よりナンセンスな演出にかけては当代一のギリアムですから、次から次へと繰り出される意表をついた映像に驚かされているだけで2時間が過ぎてしまいました。主演のジョニー・デップは、今までの出演作では決して見せなかったようなオヤジっぷり全開でキめてくれますし、この撮影のために(つまり無駄に)20kg増量したベニチオ・デル・トロも迫真の演技でした。T・マグワイヤ、C・ディアス、C・リッチは本当にチョイ役ですが、特にC・リッチの存在感は抜群。こういう勢いだけで良い映画って、そうそうありません。

 観終わって得られるものはゼロ、物語は何処にもない、ただただバッド・トリップの連続で焦燥感ばかりが募る映画です。でも、それこそ最重要テーマじゃないか、という吹っ切り方こそギリアム映画の最大の魅力ではないでしょうか。

監督:テリー・ギリアム
原作:ハンター・S・トンプソン
出演:ジョニー・デップ、ベニチオ・デル・トロ、トビー・マグワイア、キャメロン・ディアス、クリスティナ・リッチ
20051012 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

天国の口、終りの楽園。

 アルフォンソ・キュアロン監督によるロードムービー。モノローグを多用したごく普通のロードムービーと思わせておいて、計算されたシナリオであることが見終わって分かる構成になっています。

 全編ハンドカメラでの不安定な映像で、数多のインディーズ映画のように地味になりそうでいて、メジャーに負けない画面の強さがありました。一度メジャー作品を経験している監督の強みなのでしょうか。現代の若者像がリアリティを持って描かれているのが新鮮。言葉で言うと簡単ですが、それが出来ている映画というのは初めて観たような気がします。
 ただ、性描写がかなりきついので、そういうのが駄目な人は遠慮しましょう。その辺や、ドラッグ関係を手加減しないあたり、個人的には好感が持てましたが。特にこの主人公たちの年頃って、セックスに対して非常に貪欲な時期で、それを直接的に描いたことがこの映画の功績の一つだと思うのです。そういう時期を経て次第に大人になっていく少年二人と、それに深く関わることになった一人の女性の、とても切ない物語でした。

 ロードムービーを観たことのない人に、特に観てほしい良質の作品。見終わったあとはコロナビールが飲みたくなること請け合いです。

監督:アルフォンソ・キュアロン
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、ディエゴ・ルナ、マリベル・ヴェルドゥ
公式サイト
20051001 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ビッグ・フィッシュ

 ダニエル・ウォレスによるファンタジー小説を、メルヘンの名手ティム・バートン監督が映画化。独特の悪趣味な世界こそ出てこないものの、おかげで非常に真っ当な感動作になりました。

 ティム・バートンの映画は、その童話的な語り口を良しとするかどうかで評価が分かれると思いますが、この作品は特にそう。とにかく冒頭から現実離れしたお伽噺の連続でメルヘン好きには堪りませんが、辛い人には辛いかも。でも、おそらくバートンの目にも(程度の差はあると思いますが)世界はこう見えているに違いないと思わせるほど「現実感のある非現実」が画面に溢れるのは圧巻で……しかし、それだけかと思っていたら、ラストのドラマでやられました。いい話です。
 ユアン・マクレガーの、絵本の世界を体現したような演技が素晴らしい。この人あっての、この作品でしょう。アルバート・フィニーのふてぶてしい演技も物語に説得力を持たせています。あとは例によってブシェミのかわいそうな役どころと、”サーミアン”ミッシー・パイルが登場していたことに笑わされました。映像もバートン映画の中では最高級。でも、全てがあまりに綺麗すぎて、ファンには少し物足りないかもしれません。

 今でも最後のカットを思い出すと泣けてきます。でも悲しい涙ではなくて、嬉しい涙なのが良い。夢物語は現実から逃げる手段かもしれないけど、それを全力で肯定する人生は、なんて素敵なんだろう、と実感できる作品でした。

監督:ティム・バートン
出演:ユアン・マクレガー、アルバート・フィニー、ビリー・クラダップ、ジェシカ・ラング、ヘレナ・ボナム=カーター、スティーヴ・ブシェミ、ダニー・デヴィート
公式サイト
20050924 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

オーシャンズ12

 スティーヴン・ソダーバーグ監督による、大ヒット映画の続編。前作が典型的なハリウッド映画のスタイルだったので今回もそれほど期待していなかったんですが、おかげで見事にハマってしまいました。ここ数年のハリウッド大作映画系ではベスト。

 何が面白かったのかと聞かれて明確にコレと答えられるものはないんですが、強いて言うなら映画全体が「良い雰囲気」だったことでしょうか。キャストだけならスター映画なのに、どう見てもインディーズ映画みたいなノリで、シナリオは適度にご都合主義でも決して浮き足立たず、テンポが駆け足でも喰らい付いていけば最後まで楽しめるという、全てのさじ加減が絶妙にブレンドされて、前作とは比較できないほど粋で笑えて痛快な映画になっています。そして何より、人も風景も全てが華やか! でも、楽屋ネタも前作への皮肉もたっぷりなので、そういうので「雰囲気が台無し!」と怒ってしまう人向きではないですね。
 前作から共通の俳優は言わずもがなですが、中でもマット・デイモンはオイシイ役どころでした。この人はオトボケ役が一番似合うと思います。初登場組では、やはりヴァンサン・カッセルの貴族っぷりが目を惹きます。サウンドトラックも秀逸で、単体の音楽CDとしても充分楽しめるほどでした。なお、今回も前作と同じ8500万ドルという、このキャストからしたら破格の低予算で撮り上げているのも注目すべき点でしょう。

 とにかく全体のユルさが最高でした。全力で映画史に残る傑作を作ろうとして空回りしている大作映画が多い中で、肩の力を抜いて観られる最高のエンタテインメントに仕上がっています。俳優の表情が他のどんな映画より生き生きしているのが、その何よりの証拠ですね。

監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、ジュリア・ロバーツ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、アンディ・ガルシア、マット・デイモン、ヴァンサン・カッセル、ドン・チードル
20050919 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

チャーリーとチョコレート工場

 ロアルド・ダールによる児童文学の傑作を、ティム・バートンが見事なまでに映画化。「ビートルジュース」や「シザーハンズ」以来となる極彩色の世界観は更に魅力を増していて、その方面でのバートン映画としては、これが集大成と言っても過言ではないでしょう。最近のバートン映画には勢いが足りないと思っていたところだったので、久々に純粋な「ティム・バートン作品」を十分に堪能できて大満足でした。

 ストーリーは終盤までほぼ原作通りで、後半の味付けも原作の雰囲気を損なっていません。物語だけでなく、原作を読んだ方なら夢想したであろう風景がそのままスクリーンに現れるのは圧巻。あのウンパ・ルンパの曲も原作と同じぐらい長く続いて欲しいと思ったりもしますが、そうすると緩慢でしょうか。
 他にも、ジョニー・デップやフレディ・ハイモアの名演、定番のダニー・エルフマンによる音楽など、褒めるべき点が多すぎて書ききれません。大作系になるとどうしても軽薄な演出が目立つ近年のハリウッド映画界において、ここまで確固として自分の世界を貫けるティム・バートンに、ただただ感謝するばかりの2時間でした。

 何はともあれ、バートンならではの映像世界が自由奔放に繰り広げられる由緒正しいメルヘンでした。バートンと児童文学のファンならば必見、です。

監督:ティム・バートン
音楽:ダニー・エルフマン
出演:ジョニー・デップ、フレディ・ハイモア
公式サイト
20050912 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -