★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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マルコヴィッチの穴

 MV界出身のスパイク・ジョーンズ監督の長編デビュー作にして、脚本家チャーリー・カウフマンの名を世に知らしめた秀作。飛び抜けたセンスは必見なんですが、理屈っぽくなってしまった物語が惜しい。

 実在の人物を題材に展開される奇想天外な物語が、観る前に想像していたものを遙かに凌駕する面白さで、特に中盤の悪夢のような展開には腹がよじれるほど笑わされました。ただ、どれも表層上だけの面白さで、通底するテーマがないので観終わってから残るものもありません。ひたすらナンセンスなのかと思いきや、SFっぽい理由付けがあるのも興ざめでした。
 主演のジョン・キューザックとキャメロン・ディアスは、それまでのイメージを払拭する好演。影の主役とも言えるジョン・マルコヴィッチは相変わらずキレた演技が見物です。ブラッド・ピットやウィノナ・ライダーなどのカメオ出演も驚きましたが、一番の見所はチャーリー・シーンかも…。

 一つのアイデアで通せばいいのに、補助的な要素を付け加えてしまって焦点がぼけたような印象。その“ごった煮”的な賑やかさを楽しめる人には良いんでしょうが、どこか空騒ぎめいていて素直に楽しめません。スパイク・ジョーンズの映像を楽しむために何度も観たくなるものの、物語としては一度で十分でしょう。

監督:スパイク・ジョーンズ
出演:ジョン・キューザック、キャメロン・ディアス、キャサリン・キーナー、オーソン・ビーン、チャーリー・シーン、ジョン・マルコヴィッチ
20060512 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲

 爆発的な人気を誇るアニメシリーズの劇場版第9作。「大人も泣ける子供向けアニメ」であった同シリーズの決定版的な内容で、映画秘宝誌での年間ベスト1に輝くなど話題をさらった作品です。
 “20世紀博”という懐古主義丸出しの奇抜なアイデアもさることながら、それによって洗脳されてしまう大人達と、健気に立ち向かう子供達の対比が秀逸。一目見て性格の分かる敵役や、「クレしん」というベースがあるために人物の紹介が割愛でることもあってか、物語もテンポ良く展開されて飽きさせません。そして、懐古主義を笑いつつ一定の理解を示したシナリオは、「大人が号泣」の評判通り。子供アニメの体裁を取りつつ、完璧な大人向けエンタテイメント作品に仕上がっています。

 次作「嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」も良いものの、この作品に比べてしまうと見劣りします。何よりアニメとか家族向けという枠を逸脱した暴走ぶりが最高! これをオリジナル脚本でできない日本映画界には辟易しますが、それでも面白い映画を観られるのなら我慢しようという気にもなりました。一度は観ておいて欲しい作品です。

監督:原恵一
原作:臼井儀人
出演:矢島晶子、ならはしみき、藤原啓治、津嘉山正種、小林愛
20060507 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

王立宇宙軍 オネアミスの翼

 GAINAX設立第一弾の劇場用SFアニメ。80年代のSFアニメらしい特殊な世界観は、良く作り込んだなと感心はしますが共感はできません。
 なんというか、この世界観が無ければそのまま「ライトスタッフ」なヒネリのない物語が辛い。技術革新と、それに対する軋轢にドラマを感じるのは理解しますが、現実にいくらでもある題材をわざわざSFにしてしまう意図が分かりません。わざわざ架空の文化を創り上げた努力や、優秀なアニメータを多数起用しての緻密な作画にはさすがに圧倒されましたが、それも物語が平凡なら意味がないわけで。なんでそこで宗教かなあ、とか、共感できないことだらけでした。

 色々感想はあるんですが、結論としては主人公の声に森本レオをあてるのはおかしいだろう、と。坂本龍一によるメインテーマは良いですね。努力は認めますが、非常に居心地の悪い作品でした。

監督:山賀博之
出演:森本レオ、曽我部和恭、平野正人、鈴置洋孝、伊沢弘、大塚周夫、弥生みつき、内田稔
20060506 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

老人Z

 大友克洋原作、江口寿史キャラクター原案による、不条理な笑いと怒濤のアクションが魅力のアニメ。監督は、キレの良いアクションを得意とする北久保弘之。
 介護用ロボットの試作品に搭載されたコンピュータが暴走し、寝たきりのおじいちゃんを乗せたまま大暴走、といういかにも日本的なSFコメディぶりが最高。鎌倉を舞台に、モノレールやショッピングモールという見慣れた風景で繰り広げられるアクションは、緊迫感と爆笑の両極を備えていて、息つく暇もありません。最後はホロリとさせつつ、高齢化社会への提言も忘れなかったりして、コメディとはいえなかなか侮れない作品です。

 キャラクターでは、謎のハッカーお爺さんがツボでした。誰でも楽しめるドタバタコメディーアニメとして、非常にお薦めの作品。ぜひ。

監督:北久保弘之
原作:大友克洋
出演:松村彦次郎、横山智佐、小川真司、近石真介、辻谷耕史
20060430 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

MEMORIES

 大友克洋の総監督によるオムニバスの劇場アニメ。SFやギャグといった、大友漫画の持つ異なるテイストを抽出した3つの短編は、それぞれ個性的で見応えがあります。
 シリアスなSFホラーが楽しめる「彼女の想いで」、濃いギャグとナンセンスさの「最臭兵器」、そして大友の欧州アニメーションへの愛が炸裂した「大砲の街」の3本で、どれも圧倒的な表現力にめまいがするほどでした。特に「彼女の想いで」の的確な演出と豪華な美術は、何度観ても唖然とします。「最臭兵器」の馬鹿アクションと、山梨ローカルぶりも必見。ただ、「大砲の街」の感覚は、劇場公開時こそ新鮮でしたが、ヨーロッパのアニメを多数観てしまってからだと、どうしても見劣りしますね。その辺りが残念。

 大友克洋の短編集を読んだことがある人なら、見知った空気を劇場で観られるのはやはり嬉しいでしょう。菅野よう子、石野卓球などが参加した音楽も個性的で良い。映画として小さくまとまってるので、もう一工夫欲しかった気はしますが、日本アニメのポテンシャルの高さを実感できる秀作です。

監督:森本晃司、岡本天斎、大友克洋
原作:大友克洋
出演:磯部勉、山寺宏一、飯塚昭三、高島雅羅、堀秀行、羽佐間道夫、大塚周夫、林勇、キートン山田、山本圭子、仲木隆司
20060429 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

AKIRA

 大友克洋が、自らの漫画を長編映画化し、その名を世界に知らしめた大作SFアニメ。日本製アニメーションといえば、まずこれを想起する人も多いのでは。
 何よりその高い作画レベルに、まずは圧倒されます。ジブリともディズニーとも違うリアルな動作や、遠景まで書き込まれた背景は一見の価値あり。残像を伴って走るバイク、吹っ飛ぶ人物のスローモーション、それに芸能山城組による音楽など、あまりアニメらしくない表現も秀逸。物語も、当時まだ完結していなかった原作を大胆にカットして、映画用に分かりやすく作り替えられています。原作を知っている人には物足りなくもありますが、もともと原作の後半だってアクションとスペクタクルがメインなので、ストーリーの点では原作とそれほど相違ありません。特に、かなりの時間を費やして描かれる大破壊のシーンは、アニメ映画史上最高のカタルシスといっても過言ではないでしょう。

 小学生の頃に劇場で観て、かなり驚いた記憶があります。アニメでここまで表現できるんだ、ということに何より驚愕。ここまで先鋭的で、かつ娯楽性の高い作品というのは、これ以降も殆ど作られていないのではないでしょうか。

監督・原作:大友克洋
出演:岩田光央、佐々木望、小山茉美、玄田哲章
20060428 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

インデペンデンス・デイ

 「スターゲイト」のローランド・エメリッヒ監督によるSFスペクタクル映画。相変わらず紋切り型の展開ながら、大迫力の映像を楽しめる娯楽大作です。

 冒頭から終盤まで、いわゆる「宇宙戦争もの」の定番そのままなお気楽ストーリーですが、ここまで新機軸が無いと逆に安心して観ることが出来ます。その代わり、あらゆる特殊効果を駆使して繰り広げられる爆発やドッグファイトは見事な出来映え。想像を上回る大迫力の映像は、映画館で映画を観る醍醐味を実感できること請け合いです。
 ウィル・スミス、ジェフ・ゴールドブラム、ビル・プルマンという三人の主演俳優が、それぞれ対等に活躍するのがまた大作映画っぽくてツボ。ビル・プルマンは大統領が本当によく似合いますね。妙に感傷に訴えようとする物語が気になりますが、彼らのコミカルな演技のおかげでカバー出来ているのでは。

 例の演説に拒絶感を覚える人もいたようですが、僕はあそこはギャグだと思いました。実はアメリカ中心主義に対する皮肉なのかも。ともあれ、こういう中身ゼロの娯楽大作をきっちり撮れるエメリッヒ監督の手腕には脱帽です。

監督:ローランド・エメリッヒ
出演:ウィル・スミス、ビル・プルマン、ジェフ・ゴールドブラム、メアリー・マクドネル、ジャド・ハーシュ、アダム・ボールドウィン
20060330 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

スターゲイト

 ドイツ出身のローランド・エメリッヒ監督が手がけたSF大作。笑っちゃうほどコテコテの展開を大真面目にやる手法には、感動すら覚えました。

 近年のハリウッドで乱発される“B級大作映画”とでも呼ぶべきジャンルは、この作品から始まったと言っても過言ではないでしょう。なかなかキャッチーな出だしで、物語のスケールが大きく、全てにおいて手も込んでいるのに、物語の根幹は過去のB級SF映画と何ら変わりません。底の浅いものを大仰にやるので、かえって安っぽさばかりが強調されてしまいました。
 ただB級SFとしての出来はなかなかのもの。何より神々の変身や戦闘機の爆撃など、見せ場の迫力はかなりのもので、特撮監督エメリッヒの手腕が伺えます。“スネーク”カート・ラッセルの出演も嬉しいところ。物語も必要以上に期待しなければ楽しめるレベルで、テレビでやってるとついつい観てしまう映画、といった印象です。

 ハリウッドが忘れていた大作映画の良さを思い出させてくれた、と言えば存在意義もあったのかも。ただ過去の焼き直しに過ぎないので、作品自体の新鮮さはゼロ。エメリッヒ監督はそれだけの人だ、ということをハリウッドは早く気づいてあげるべきだったのではないかなあ、と。

監督:ローランド・エメリッヒ
出演:ジェームズ・スペイダー、カート・ラッセル、ジェイ・デヴィッドソン、ヴィヴェカ・リンドフォース
20060329 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ユニバーサル・ソルジャー

 “ドイツのスピルバーグ”と評されたローランド・エメリッヒ監督の、ハリウッド・デビュー作。ヴァン・ダムとラングレンという二人のアクション・スターの共演が話題でしたが、エメリッヒの地味な作り込みとの食い合わせは悪いような。
 冒頭の超遠距離狙撃というあまりに地味な作戦や、SFアクション作品らしからぬ妙に凝った設定など、とにかくエメリッヒ監督独特のセンスが炸裂しています。ただB級止まりのセンスを大まじめに展開するという欠点は既に露呈していて、前半こそ盛り上がるものの後半は失速気味。確かに脚本は凝っているんですが、こういう単純アクション映画で脚本に凝られてもなぁ、と観ていて困ってしまいました。

 ラングレンの悪役ぶりは見物です。ヴァン・ダムは相変わらず時代遅れのヒーローそのもの。B級アクション好きなら楽しめるとは思いますが、エメリッヒのセンスが鼻につく点は否めません。

監督:ローランド・エメリッヒ
出演:ジャン=クロード・ヴァン・ダム、ドルフ・ラングレン、アリー・ウォーカー、エド・オロス、ジェリー・オーバック
20060328 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

メン・イン・ブラック2

 ブラックな笑いでヒットしたSFアクションの、同一監督による続編。前作から余分なものを削って勢いを増したおかげか、ノリの良い単純アクション・コメディとして好感の持てる内容でした。
 モンスターのデザインが控えめになり、荒唐無稽なアクションシーンが増えたのが何より良かった。ストーリーもあってないようなもので、ヒロインの扱いもぞんざいならボスのやられ方まであっけなく、何から何までテキトーB級映画のお手本のような作品。ボリューム不足は残念ですが、くだらないジョークを笑い飛ばすだけという開き直りが感じられて、最後まで楽しめました。

 前作で嫌々やっていた節のあるT・L・ジョーンズが、喜々として出演しているのに何より驚きました。ウィル・スミスは相変わらずというか、むしろ板に付いてきた感じ。あと今作のカメオ出演者にはビックリ…! ソネンフェルド監督には、このままジョン・カーペンターへの道を着実に歩んでいって欲しいところです。

監督:バリー・ソネンフェルド
原作:ローウェル・J・カニンガム
出演:ウィル・スミス、トミー・リー・ジョーンズ、 ララ・フリン・ボイル、ロザリオ・ドーソン、リップ・トーン
20060328 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -