★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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AKIRA

 大友克洋が、自らの漫画を長編映画化し、その名を世界に知らしめた大作SFアニメ。日本製アニメーションといえば、まずこれを想起する人も多いのでは。
 何よりその高い作画レベルに、まずは圧倒されます。ジブリともディズニーとも違うリアルな動作や、遠景まで書き込まれた背景は一見の価値あり。残像を伴って走るバイク、吹っ飛ぶ人物のスローモーション、それに芸能山城組による音楽など、あまりアニメらしくない表現も秀逸。物語も、当時まだ完結していなかった原作を大胆にカットして、映画用に分かりやすく作り替えられています。原作を知っている人には物足りなくもありますが、もともと原作の後半だってアクションとスペクタクルがメインなので、ストーリーの点では原作とそれほど相違ありません。特に、かなりの時間を費やして描かれる大破壊のシーンは、アニメ映画史上最高のカタルシスといっても過言ではないでしょう。

 小学生の頃に劇場で観て、かなり驚いた記憶があります。アニメでここまで表現できるんだ、ということに何より驚愕。ここまで先鋭的で、かつ娯楽性の高い作品というのは、これ以降も殆ど作られていないのではないでしょうか。

監督・原作:大友克洋
出演:岩田光央、佐々木望、小山茉美、玄田哲章
20060428 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ブルース・ブラザース

 今は亡きジョン・ベルーシの代表作にして、未だにカルトな人気を誇るB級コメディの伝説的傑作。映画全編を通して、どこにツッコめばいいのか分からないほどのナンセンスさは必見です。
 アクションもギャグも盛りだくさんの映画なんですが、それに輪をかけて豪華なミュージシャンの出演には驚かされます。ジェームズ・ブラウンのゴスペルで最初からノックダウンされ、あとは開いた口が塞がりませんでした。スタントマンが本気で逃げてるカーチェイスも凄い。100台以上のパトカーを惜しげもなく壊しまくり、あまつさえ軍隊を動員しての追走劇は、どんな派手なCGも敵わない非常識ぶり。もちろん細かいギャグもいちいち笑えるんですが、それ以上に映像の力でねじ伏せる笑いが最高に冴えていました。

 銀行員役で登場するスティーヴン・スピルバーグなんかも要チェックです。さすがに古い映画なので今の映画とは映像の質が違いますが、感心すら覚えるほどの破天荒さは何度観ても楽しめます。ぜひ。

監督:ジョン・ランディス
出演:ジョン・ベルーシ、ダン・エイクロイド、キャリー・フィッシャー、キャブ・キャロウェイ、ジョン・キャンディ、ジェフ・モリス、ヘンリー・ギブソン、ジェームズ・ブラウン、レイ・チャールズ、アレサ・フランクリン、ツイッギー、スティーヴン・スピルバーグ
20060423 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

天国の日々

 テレンス・マリック監督による、今世紀初頭のアメリカ農村地帯が舞台のドラマ。映画全体としては時代を感じさせるものですが、撮影がひたすら見事。
 演出も俳優もそれほどではなく、アメリカの原風景を活写するだけのこの映画が高い評価を得られたのは、やはり撮影監督ネストール・アルメンドロスに依るところが大きいでしょう。殆どのシーンを、わざわざ早朝と夕方の赤く焼けた光線だけを選んで撮影したという、前代未聞の映像に対するこだわりが映画全体の完成度を底上げしていて、何でもないシーンですら印象派の絵画のような美しさでした。ましてや四季折々の農場が見せる表情は、どんな脚本よりも感動的で説得力があります。「20世紀最高の映像」と評されるのも納得。

 リチャード・ギアのステレオタイプなダメ男っぷりが気に入らなかったので、夕陽とサム・シェパードばかり見ていました。すぐカッとなって相手に掴みかかっていくことが格好いいことだとでも思っているんだろうか…。ただ映像のためだけにでも、観る価値のある作品です。

監督:テレンス・マリック
出演:リチャード・ギア、リンダ・マンズ、サム・シェパード、ブルック・アダムス
20060414 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ルパン三世 カリオストロの城

 宮崎駿監督の長編アニメデビュー作。ルパンの服の色を変えたり、カリオストロ公国が妙にリアルだったりと、いつものルパン映画らしくない作り込みで、今でもファンの心を捉えて離さない名作です。
 キャラクタ造形にいまいち華が足りない宮崎監督が、原作モノという題材を得て印象の強い映画作りに成功した好例。とにかく登場人物全てが魅力的。ルパンはいつもより二枚目だし、次元や五右ヱ門も深みがあって、オリジナルの「ルパン三世」のハードボイルド風味も良いんですが、この作品でのルパンたちの方が好きだったりします。初期の宮崎アニメらしい畳み掛けるようなアクションといい、最後まで笑っちゃうぐらい印象的な台詞といい、間違いなく日本製アニメの代表作の一つに数えられる作品かと。

 バイオレンスもお色気もない世界観は、本来のルパン三世のファンには不満なようですが、単体のアニメ作品として観るとやはり秀逸。一度は観ておいて損のない作品です。

監督:宮崎駿
原作:モンキー・パンチ
出演:山田康雄、小林清志、井上真樹夫、増山江威子、納谷悟朗、島本須美、石田太郎
20060404 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

犬神家の一族

 角川書店の映画進出第一作目。市川監督の独特のタッチが見事であり、探偵金田一耕助のキャラクタも人気を博すなどしてヒットを記録したミステリの秀作。

 横溝正史原作の金田一耕助シリーズは、日本ならではの因習とドロドロとした人間関係が魅力で、犯人当てよりドラマとしての面白さが強いのですが、市川監督はそこに可能な限りエキセントリックな演出を施し、キャラクターも分かり易く造形することで映画向きに仕立て上げています。76年の映画とは思えないほどキレのある編集や、後に数々の模倣を生み出す極太明朝体によるタイポグラフィなど、映画らしい手応えのある映像がとにかく見事。大野雄二の伸びのある音楽も手伝って、大衆性と作家性を兼ね備えた希有な作品になりました。
 金田一を演じた石坂浩二を始め、出演陣もかなり豪華。高峰三枝子の熱演は、一度この映画を見た人なら忘れ難いものです。後にシリーズ常連となる加藤武、地井武男、大滝秀治、草笛光子、三木のり平などの演技も、それぞれにツボを心得ていて平坦なシーンも飽きさせません。あと個人的に好きな岸田今日子の演じたお琴の先生が、やはり抜群の存在感で凄いと思いました。

 最初に観たときは、ここまでエネルギッシュな作品が日本にも作れることに驚かされました。傍観者としての探偵に歯がゆさを覚える人には向きませんが、ともかく記憶に残る作品なのは確かでしょう。日本映画史に残るミステリとして、未見の方はぜひ。

監督:市川崑
原作:横溝正史
出演:石坂浩二、高峰三枝子、三条美紀、草笛光子、あおい輝彦、島田陽子、地井武男、加藤武、大滝秀治、三木のり平、坂口良子、岸田今日子、角川春樹、横溝正史、三国連太郎
20060320 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ

 本国アメリカでは記録的な大ヒットとなった舞台劇を、舞台と同様ジョン・キャメロン・ミッチェルの監督・脚本・主演で映画化し、2001年度のインディペンデント映画界において最も話題をさらった作品。予告編のビジュアルからはトリッキーな印象を受けたんですが、実際観ると非常に普遍的な物語で驚かされました。
 アウトサイダーに対する偏見や差別を切り口にしつつ、描かれているテーマは非常にスタンダードで、観れば誰にでも判る明快な主張というのが面白い。主人公ヘドウィグは、外見こそ一般性から外れていますが、その感性はむしろ繊細で、赤裸々に綴られる彼の人生観はダイレクトに観客自身の理性を突き刺します。見方によっては陳腐にも思えるのでしょうが、それをロックに乗せて堂々と語りきっているところが潔く、その真摯な歌詞に思わず涙することもしばしば。映画の構成としては、巷間に溢れる”プロモーションビデオ映画”と何ら変わらないんですが、そこに強烈なテーマを介在させることで一気に映画的にするという手法も斬新でした。

 ジョン・キャメロン・ミッチェルのヘドウィグは、それだけで映画史に残せそうなぐらいのカリスマ性で魅せてくれます。彼の生き様がひたすら美しく、辿り着いた観念的なラストも良い。「自分の片割れ探し」という題材で、この結論に行き着くのは僕の理想。文句なしの傑作です。

監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル
出演:ジョン・キャメロン・ミッチェル、マイケル・ピット、ミリアム・ショア、スティーヴン・トラスク、アルバータ・ワトソン
20060306 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ゴーストワールド

 ダニエル・クロウズの人気コミックを、「クラム」のテリー・ツワイゴフ監督で映画化。「ダメに生きる」というキャッチコピーからして僕のツボに響きまくりで、とても印象的な青春映画でした。

 主人公の、達観しているのかただの幼さなのか判別の付きにくい行動が、現代的でとても共感出来ます。登場人物の性格設定があまりにバラバラなのも妙にリアル。みんなどこかに実在していそうで、誰もが主役になりうるだけの重さがありました。しかし映画では、主人公イーニドの純粋で妥協しない性格に代表される”他人との距離”に絞ってエピソードが積み重ねられていて、そのさりげなさが絶妙でした。寓話的なラストも、作品のムードに合っています。
 とにかく、社会に出なきゃいけないのに、自分と社会との大きな溝を克服出来ずに悩んでしまう、その心境を痛々しいまでに描写していて、身につまされました。社会に溢れる「普通」という考え方を、子供の頃は嫌悪していたのに、どうしてそれに迎合してしまうんだろう、という問題提起があまりに切実。青いって良いなあ。

 主演のソーラ・バーチとスティーヴ・ブシェミの掛け合いが、楽しいのにもの悲しい。これぞまさにミニシアター系の醍醐味です。青春は美化されがちだけど、要するにアレはガキがはしゃいでるだけで、そのまま年だけ取るからバカな大人が増えるのよ(自分も含めて)、という映画です。そんなわけで、バカな大人必見。

監督:テリー・ツワイゴフ
原作:ダニエル・クロウズ
出演:ソーラ・バーチ、スカーレット・ヨハンセン、スティーヴ・ブシェミ、ブラッド・レンフロ
20060303 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

散歩する惑星

 カンヌ広告祭等で多くの賞を受賞しているロイ・アンダーソン監督による不条理芸術映画。ペルーの詩人セサル・バジェホの詩に影響されたという物語は、とにかく不条理で何が何だか、でした。
 壮大なるローテクで撮影された映像には独特の荒涼とした味わいがあり、頑張って生きている人々の姿は時に喜劇にすら見えてきます。そういう”普通の人々”に向けた”人生賛歌”のような映画、という点については理解出来るんですが、いかんせん僕のセンスには合いませんでした。きっちり決まった構図とか、漠々として虚無感だけが漂う風景とか、白塗りで計算された動きしかしない人々とか、表現的に惹かれる点は多いだけに残念。

 これを観て思ったのは、「最近人生を嘆かなくなったなあ」ということ。そのときの精神状態を映す鏡のような作品なのかもしれません。励まされたい人とか悩みたい人には打って付けの映画。

監督:ロイ・アンダーソン
出演:ラース・ノルド、シュテファン・ラーソン、ルチオ・ヴチーナ、ハッセ・ソーデルホルム、トルビョーン・ファルトロム
20060301 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

黒い十人の女

 '61年作品という古さを感じさせない、市川崑監督による傑作フィルム・ノワール。サスペンスとコメディという二つの要素を巧みに絡めた、軽妙なストーリーが秀逸です。

 まず船越英二の演じる浮気性のTVプロデューサーを、山本富士子や岸恵子といった十人の女性達が取り合う、という構図が面白い。ヤクザ社会が染みついている日本でノワールをやるとなんとも様にならないものですが、この”女性の陰謀”という題材は見事にハマっていました。TV局内の描写も説得力があって物語に深みを加えていますし、そこに佇む船越英二のいかにもな業界人っぷりは必見です。
 しかしこの映画の魅力は、やはり市川監督の映像センスに尽きるでしょう。カメラの置き方、光の当て方、音の乗せ方といったテクニックを駆使して画面の密度を上げ、場面に応じた緊張感をつくり上げる縦横無尽な演出は圧巻。余韻を残しつつバッサリ終わるラストといい、市川監督の独壇場と言える内容でした。

 総じて、洒落の効いたシナリオと市川監督の一流の演出が楽しめる、上質のサスペンスでした。それらを全てひっくり返すぐらいの個性に欠けるのが悲しいところですが、今でも全く色褪せないスタイリッシュな映像は必見です。

監督:市川崑
出演:船越英二、岸恵子、山本富士子、岸田今日子、宮城まり子、中村玉緒、ハナ肇とクレージーキャッツ
20060222 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

鉄男 TETSUO

 映画作家・塚本晋也の名前を世界に知らしめた作品。監督・脚本・撮影・美術・編集・出演の六役をこなした塚本監督の、まだ荒削りながらも力強い、映像に対するアプローチが感じられる問題作です。
 塚本監督の共通するテーマである”肉体”への表現が、既にこの映画の時点で明確に志向されています。67分という短い上映時間ながらも、長編映画以上のボリュームを感じさせる濃密な映像が凄い。モノクロであるが故にかえって力強さが増幅され、叙情とか感傷といった生半可な表現は、ことごとく金属化した”肉体”の下に叩き伏せられるのみ。言葉やプロットでどうこう言うより、完全に感覚で捉える映画でした。

 明らかに商業映画ではないし、暴力描写が嫌いな人も絶対に観てはいけない部類のものですが、くだらない精神論をぶって悦に浸るような映画よりよほど実のある内容だと感じました。しかし、体力的に余裕がないときには遠慮した方が良いのは確実なので、観る前は体調に気を付けましょう…。

監督:塚本晋也
出演:田口トモロヲ、塚本晋也、藤原京、叶岡伸、石橋蓮司
20060216 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -