★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ワイルド・ワイルド・ウエスト

 シュールな映像センスに定評のあるバリー・ソネンフェルド監督による、60年代アメリカの人気テレビシリーズの映画化作品。ありがちなハリウッド製アクションと思わせて、実はあなどれない内容でした。

 007シリーズをそのまんまパクったオープニングに始まって、相変わらずのブラックな内容はソネンフェルド監督らしい世界。分かり易いストーリーもケレンがありますし、ウィル・スミスの喋りだって今回はハマっていて、黒人の保安官というナンセンスさも素直に笑えます。脇を固めるケヴィン・クラインやケネス・ブラナーといった渋い男どもも、それぞれに芸達者で楽しめました。
 でも、この映画の主役はメカ! 蒸気機関で煙を吹き出しながら走る自転車や巨大蜘蛛を観るだけで料金分は回収できるというものです。何といっても拡声器とか、明らかに蒸気機関では不可能な仕掛けまでゴリ押しで通す、良い意味での常識の無さがスチームパンク好きにはたまりません。特撮的なレベルは低くても奇抜なビジュアルは期待以上だったので、その点では大満足でした。

 CG全盛で、ただ規模を大きくすればいいだろうという映画が多い中で、この映画はむしろCGで何を見せたいかがはっきりしていて好感が持てます。より効果的な演出ができればもっといいんですけど、大味な娯楽作品と、スチームパンクが好きな方はぜひ。

監督:バリー・ソネンフェルド
出演:ウィル・スミス、ケヴィン・クライン、ケネス・ブラナー、サルマ・ハエック、M・エメット・ウォルシュ
20060328 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

マイケル・コリンズ

 「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」のニール・ジョーダン監督が、アイルランド独立に奔走した実在の人物の物語を映画化。監督念願の企画ということもあって、かなりの力作に仕上がっています。

 寂寥感のあるアイルランドの風景の中、泥臭い革命運動に邁進する人々のエネルギーが画面から溢れんばかりに伝わってきて、最後まで緊張感が途切れません。登場人物ごとの思惑の違いを丁寧に描き分けているので、地味なドラマにも感情移入させられます。これからと言うときの幕切れは、事実とはいえ唐突すぎる気はしますが、民族を背負って戦うという重さ、歴史を動かしているという感慨などなど、色々と感じ取ることの出来る作品でした。
 主演のリーアム・ニーソンは、なんだかんだで指導者役がとても似合います。もう一人のリーダーであり、後にアイルランド初代大統領となるデ・ヴァレラにアラン・リックマンを配したのも絶妙。他にも印象的な配役が多く見られて、俳優的にはとても贅沢な印象でした。

 この映画を観てからは、すっかりアイルランドに肩入れしてしまいました。テロや民族紛争に関して当事者の視点から描かれていると共に、非常に示唆に富んだ内容なので、興味のある方にはぜひ観てもらいたい作品です。

監督:ニール・ジョーダン
出演:リーアム・ニーソン、アラン・リックマン、エイダン・クイン、ジュリア・ロバーツ、イアン・ハート、スティーヴン・レイ、ジョナサン・リス=マイヤーズ
20060313 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

ムーラン・ルージュ

 バズ・ラーマン監督の"レッド・カーテン三部作"の完結編となるミュージカル映画。期待をはるかに上回る内容に驚かされました。正統派ミュージカルのベクトルを現代的に発展させつつ、とことんまで極めたような印象です。
 まず何と言っても音楽が凄い。有名な曲ばかりなものの、それを映画の雰囲気に合わせてアレンジしてあって聴き応えがありました。そして、セットも衣装も豪華絢爛。そこにバズ・ラーマン監督の縦横無尽の演出が加わって、あまりの情報過多にクラクラしますが、それが観ているうちに不思議にトリップ感へと変わります。音楽シーンにこだわったためなのかシンプルすぎるほどの脚本も、それだけ純粋で分かり易く、かえって映画に骨太な印象を与えていました。

 俳優では、ユアン・マクレガーとニコール・キッドマンのカップルが、何より非常に画になっています。あとジョン・レグイザモがロートレックを演じているというのもツボ。現代ハリウッドらしい、映像も音楽も盛り沢山のミュージカル大作として、大満足の出来でした。DVDはもちろん、写真集もサウンドトラックも”買い”です。

監督:バズ・ラーマン
出演:ユアン・マクレガー、ニコール・キッドマン、ジョン・レグイザモ、ジム・ブロードベント、リチャード・ロクスバーグ
20060305 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

モータル・コンバット

 TVゲームの映画化モノとしては比較的ヒットした部類に入るSFXアクション。監督は”ハリウッド最強のゲームオタク”ポール・W・S・アンダーソン。

 全体としてみれば面白味に欠ける物語ではありますが、もともとB級アクション映画にそういうのは期待していないので予想の範囲内。むしろ原作ゲームの物語を生かした「燃えよドラゴン」的構成や、キャラクターの生かし方など所々にセンスを感じました。特にスコーピオンとサブ=ゼロの不気味さは見事。当時としてはSFXの使い方にセンスがあり、かつカンフーもそこそこにこなしてくれるのでアクションシーンも飽きさせません。盛り上がってきたところで突然終わるのもB級らしくてかえってソソられてしまいました。
 確かに俳優が地味だったりBGMがうるさすぎたりしますが、お馬鹿アクションと割り切って観るなら、それなりに楽しめる好作です。テレビで放映してるとついつい見てしまいますね。

監督:ポール・W・S・アンダーソン
出演:ロビン・ショウ、リンデン・アシュビー、クリストファー・ランバート、ケイリー=ヒロユキ・タガワ、トレヴァー・ゴダード
20060129 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

マイノリティ・リポート

 フィリップ・K・ディックのSF小説を、スティーヴン・スピルバーグが監督した話題作。SFアクション系大作映画の定番をわきまえた出来で、名前に期待しなければそれなりに楽しめる映画だと思います。
 無理矢理アクションを入れるような構成が目立つものの、もともとそれがメインなので割り切って観られました。サスペンス面でもきちんと引きがありますし、軽くなりすぎない演出のおかげでラストも好感が持てます。ディティールの描写が少ないのでSF的なトリック部分は台無しなんですが、撮影監督ヤヌス・カミンスキーによる暗い未来世界は雰囲気タップリで、SFサスペンスの気分は充分盛り上がりました。とてもスピルバーグとは思えないようなトリッキーなカメラワークも何度かあって目を惹きます。出番は少ないですがピーター・ストーメアも良い! もしかしたら彼の怪演こそ最大の収穫かも知れません。

 正直なところ、お気楽アクション映画にしては重いし、かといってサスペンス的には普通の出来で、どのあたりの層に希求したいのかいまいち不明な映画でしたが、そこそこ楽しめたのでまあいいか、という感じです。スピルバーグは何処へ行きたいんだろう……。

監督:スティーヴン・スピルバーグ
原作:フィリップ・K・ディック
出演:トム・クルーズ、コリン・ファレル、サマンサ・モートン、マックス・フォン・シドー、ピーター・ストーメア
20060104 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

メトロポリス

 映画黎明期の巨匠フリッツ・ラングによる、SF映画の金字塔。無声映画時代の作品なので、現代のエンタテイメント作品に比べれば見劣りはするものの、未だに様々な模倣を生み出すほど魅力的なビジュアルと世界観は、映画好きなら避けては通れないものです。
 資本家と労働者の対比がそのまま場所の違いとして描かれた世界設定が秀逸。高架が何本も渡された未来都市の清潔さと、地下の巨大機械の悪魔的なデザインの対比は印象的です。ロボットというSF的な要素が反乱の動機付けになる、現代に通じる感覚も凄い。それだけに、物語が終盤で失速するのが残念でした。まあ当時ドイツではナチスが台頭しつつあったので、仕方のないところではあります。どのみち落としどころの難しい話ですし、SFの可能性を広げただけでも功績といえるのでしょう。

 84年には、音楽を乗せ、フィルムに着色を施したバージョンが公開されていますが、やはりオリジナルのモノクロ・サイレントの方が趣があります。まさにSF映画の原点と言える作品。

監督:フリッツ・ラング
出演:アルフレート・アーベル、ブリギッテ・ヘルム、グスタフ・フレーリッヒ
20051227 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

未来世紀ブラジル

 テリー・ギリアム監督によるSF映画の傑作。ギリアム監督のシニカルな面が存分に発揮された物語で、夢と現実の交錯する構成が見事な、カルト映画の代名詞のような作品です。

 何処が良いかと聞かれても、あまりに荒唐無稽な内容なので、とにかく一度観てくれと言うしかありません。物語そのものも非常に魅力的ですが、それが映像を伴ったときに発揮される焦燥感はギリアム作品の中でもダントツ。随所に挿入されるブラックユーモアや、無機的で白が基調の都市と有機的で猥雑な夢の対比、あまりに衝撃的で救いのないラストも良い。
 それにしても豪華な映像には参りました。近未来の巨大なビルや、主人公の見る悪夢の世界を完璧に映像化したセンスには脱帽。どれも存在感があって、かつ「ありえない」感じが良く出ていました。中でも拷問室のセットは無言の圧迫感があり、映画の不気味さを引き立てています。物語がダークで混沌にまみれている中で、音楽だけが明るくポップなのも皮肉が効いていて良かった。

 シナリオを真面目に追って考え込むより、そこに秘められたブラックさに笑いつつ、カラフルな映像を楽しむのが目的でしょう。SFという世界観のファンタジーであり、チャンネルが合う人には最高のトリップ・ムービーかと。こういう映画を観てしまうと、普通の映画ではもう物足りなくなってしまいますね。

監督:テリー・ギリアム
出演:ジョナサン・プライス、キム・グライスト、ロバート・デ・ニーロ、イアン・ホルム、キャサリン・ヘルモンド、ボブ・ホスキンス
20051223 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

モンティ・パイソン・アンド・ホーリーグレイル

 イギリスを代表するブラックコメディ集団モンティ・パイソンによる、初の本格劇映画。本国イギリスの伝説的英雄である「アーサー王と円卓の騎士」をものの見事に皮肉った、まさにカルト・コメディの代表作と呼ぶにふさわしい作品です。

 この映画がただのトンデモ映画に終わっていないのは、時代考証をしっかりと行い、アーサー王伝説に沿って物語を進めながら、登場人物に時代錯誤な(しかし必要以上に論理的な)皮肉を言わせて、「英雄」であるはずの一行を一般人以下の存在におとしめているところです。この違和感こそパイソンズの売りですが、劇場作品ならではのスケールと上映時間でひたすら展開されるナンセンス・ギャグは、もはや神々しいほどでした。
 印象的なギャグは数え上げればきりがありませんが、「ニッの騎士」は観たあとに口癖になること請け合いです。ただ、予備知識ゼロで観ると理解できないところもあるので、まずはTVシリーズなどでパイソンズの空気に慣れて、更にアーサー王伝説を軽くさらってから観ることをお薦めします。

監督:テリー・ギリアム、テリー・ジョーンズ
出演:グレアム・チャップマン、ジョン・クリーズ、テリー・ギリアム、マイケル・ペイリン、エリック・アイドル、テリー・ジョーンズ
20051128 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ミミック

 メキシコ出身のギレルモ・デル・トロ監督による、異色のクリーチャー・ホラー。虫が苦手な人には悪夢のような映画ですが、映像が良いせいか宗教的な味付けのおかげか、同ジャンルの作品の中では突出している印象です。

 いわゆる「エイリアンもの」の流れに沿う作品。物語の発端が独特なうえ、キャラクターごとの動機付けも確かなので非常に新鮮でした。見た目より精神的にグロテスクな描写も良い。クリーチャーデザインとか、ニューヨーク地下の描写などにもセンスを感じます。ただ前半に期待させる要素が多いだけに、後半ありきたりな内容になってしまったのが残念。カメラワークなどは巧みで、なかなか怖がらせてくれるんですが……。
 地味に豪華なキャストも見物。ノーマン・リーダスとかF・マーレイ・エイブラハムとか、なんで出演してるんだろう。あとオトコノコも可愛いし、実はキャラ萌え映画として観ても楽しめるのかもしれません。それにしては怖すぎますが。

監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:ミラ・ソルヴィノ、ジェレミー・ノーサム、ジャンカルロ・ジャンニーニ、F・マーレイ・エイブラハム、ノーマン・リーダス
20051114 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

マウス・ハント

 「ザ・リング」「パイレーツ・オブ・カリビアン」など最近はヒット作を量産しているゴア・ヴァービンスキー監督のデビュー作。なかなか器用な作風が売りの人ですが、このころから既に芸達者ぶりを発揮しています。ただ、全体に中途半端な印象でした。

 クリストファー・ウォーケンの「掃除屋」は流石に笑わされましたが、それ以外はどれも微妙。ビジュアルや設定からブラックコメディを期待していたんですが、映画自体はファミリー向けだったので物足りなく感じたのかもしれません。まったりとしたテンポなのも一因です。アクションシーンの演出自体は目が覚めるほど良いのに、ドラマとの接続が強引と感じるところもありました。
 したたかなネズミの行動自体は、観ていてついつい応援したくなるほど。映画自体のアイデアは良いし、決してつまらない映画ではないだけに、もう少しテンポが良ければ、と惜しい感じです。

監督:ゴア・ヴァービンスキー
出演:ネイサン・レイン、リー・エヴァンス、ヴィッキー・ルイス、クリストファー・ウォーケン
20051005 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -