★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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PERFECT BLUE

 竹内義和の原作小説を今敏(こん さとし)監督が映画化した、アニメには珍しいサスペンス作品。意欲は買いますが、どうにも空振りでした。
 脚本は良い。二転三転させる展開は先が読めませんし、サスペンスらしさは非常に盛り上がるお話しだと思います。ただ、映像表現がどうにもクサくて、生理的に受け付けませんでした。冒頭のアイドルオタクの描写からして無駄に気持ち悪く、その後も無理矢理ショッキングさを引き立てるような演出で、逆に冷めてしまいます。オチも釈然としないし、犯人が判明した時点で超能力モノになるのも意味不明。や、表現したいことは分かるんですが、その手法がB級ホラーみたいだなあ、と…。

 実写でやればいいものを、アニメにしてしまった時点で“なんでもあり”になって、リアリティと緊迫感が薄れたのが最大の敗因でしょう。かといって、これの実写版(2002年制作)も観たくないですが…。

監督:今敏
原作:竹内義和
出演:岩男潤子、松本梨香、辻新八、大倉正章、秋元洋介、塩屋翼、堀秀行、篠原恵美
20060501 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ソードフィッシュ

 映像美にこだわるドミニク・セナ監督の長編第三作。今回は前二作の長所を集めたような、完成度の高いエンタテイメント作品に仕上がっています。
 明らかに「狼たちの午後」を意識した単純な展開も、速いテンポで全く飽きません。過去の映画を引き合いに出しながら、映画論や犯罪論やらをぶつ悪役ガブリエルはかなり魅力的。悪漢小説ばりの掛け合いで物語を引っ張るのも、なかなか楽しめます。アクションを期待した人には物足りないところでしょうが、先入観を持たずに観れば大満足の娯楽作でした。あまり細かいことを突っ込まずに観られる人にお勧めです。ただ、冒頭の5分間の出来が最高だっただけに、本編でそのテンションを持続できなかったのは残念。ラストのどんでん返しも、むしろ蛇足かなあ。

 俳優陣もなかなか豪華。まだ名前が売れ始めたばかりで、演技に定評のある俳優ばかり選んでます。あとヴィニー・ジョーンズが、ちょっとしか見せ場はないんですが良かった。セナ監督には、この調子でカタいアクション映画を撮り続けてもらいたいところです。

監督:ドミニク・セナ
出演:ジョン・トラヴォルタ、ヒュー・ジャックマン、ハル・ベリー、ドン・チードル、ヴィニー・ジョーンズ、サム・シェパード
20060422 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

バウンド

 「暗殺者」の脚本家であるウォシャウスキー兄弟の、衝撃的な監督デビュー作。ジャンル自体はありきたりなフィルム・ノワールなんですが、そう言い切ってしまうのが惜しいぐらい斬新な作品でした。
 相棒モノの主人公を女性に置き換えただけで、ここまで手に汗握る展開になるとは思いませんでした。相手がいつ裏切るか分からない緊迫感や、男性に対する体力的な弱さという女性ならではの要素を巧みに組み込んだシナリオが絶妙。かなりトリッキーなカメラワークも当を得た使われ方で、場面を盛り上げるのに一役買っています。特に“白ペンキ”の描き方は、よくぞそこにカメラを置いたと唸ってしまいました。主演二人の艶っぽい演技や、ジョー・パントリアーノのダメなマフィアっぷりなどもケレンたっぷり。あまりに各要素の出来が良いので、服のセンスが悪いのなんて気になりませんでした。

 スパッと切り上げるラストも鮮やかで、見終わってからの爽快感は極上です。エンディング以降を色々想像したくなる、典型的な良い映画ですね。サスペンス映画が好きなら、是非。

監督:アンディ・ウォシャウスキー、ラリー・ウォシャウスキー
出演:ジーナ・ガーション、ジェニファー・ティリー、ジョー・パントリアーノ
20060415 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

 僅か18歳の大学生による原作小説を映画化した、ニック・ハム監督によるサスペンス・ホラー。見終わった当初はラストに納得できずに困惑したのですが、考えるうちに侮れない物語なのだと思い直しました。

 とにかく主人公リズの屈折した思考が面白く、その微妙な心の動きを演じきるソーラ・バーチに驚かされます。シナリオはかなりブラックで、その中で最後まで現実感を持とうとしない主人公の“浮きっぷり”がやけにリアル。事件をショッキングに扱うことなく、それが起きてしまった状況を当事者の視点で綿密に描いているのも、リズが決して“異常者”ではなく、一般人である観客も何かのきっかけでリズのような行動を起こすかもしれない(もしくは、そういう行動を起こしてもリズのように平然としていられる)という主張なのでしょう。
 部分部分でおかしな演出があるので、そこまで監督が考えていたのかどうかは疑問ですが、少なくともリズを演じたソーラ・バーチからはそういう主張が汲み取れて、見終わってからゾッとしました。あのリズの笑顔が、今でも記憶の奥底にこびりついています。

 状況に応じてセットを作り替えるなど、美術もなかなかの凝りよう。映像的に格好付けすぎの印象もありますが、適度に刺激的で、映画の質には合ってるかと。特に最後の方の、闇を感じさせる「怖い」演出は絶妙。サスペンスとしてよりは、ダークな青春映画として楽しめるかと。

監督:ニック・ハム
原作:ガイ・バート
出演:ソーラ・バーチ、デズモンド・ハリントン、ダニエル・ブロックルバンク、エンベス・デイヴィッツ、キーラ・ナイトレイ
20060412 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

病院坂の首縊りの家

 市川崑監督による、石坂金田一シリーズ第五弾。もはやありきたりな怪奇ミステリになってしまった観があるものの、きっちり面白くする市川監督の手腕は流石です。
 冒頭からジャズバンドが登場してどうなることかと思いましたが、物語の進行に合わせて雰囲気も次第に重厚になり、美しくも悲しいラストでは思わずため息をついてしまうほどでした。前作とは打って変わって落ち着いたトーンの映像が、鬱々とした空気をさらに強烈にしています。桜田淳子の演技、佐久間良子の美しさなど、恒例ともいえる女優の見せ方も手慣れたもの。複雑なドラマは最初分かりにくいんですが、収束が見え始めてからの盛り上がり方はなかなかで、シリーズの最後にふさわしい納得の出来かと。

 当時はこれが最終章、ということで横溝夫妻も登場しての大団円がシリーズのファンには嬉しいところでした。石坂浩二を始め、レギュラー陣も相変わらずの活躍ぶりで楽しませてくれます。何はともあれ、時代を風靡した怪奇ミステリ・シリーズとして、必見の一本といえるでしょう。

監督:市川崑
原作:横溝正史
出演:石坂浩二、佐久間良子、桜田淳子、入江たか子、三条美紀、萩尾みどり、あおい輝彦、ピーター、草刈正雄、小沢栄太郎、清水紘治、加藤武、草笛光子、大滝秀治、三木のり平、小林昭二、中井貴恵、横溝正史
20060324 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

女王蜂

 市川崑監督による、石坂金田一シリーズ第四弾。さすがにマンネリですが、それでも見どころが残されているのがこのシリーズの凄いところです。
 三部作の予定が、あまりの人気ぶりに無理矢理続けたような企画を、逆にシリーズのオールスター的に仕上げるという開き直りぶりが良い。紅葉や茶の湯、土塀など日本らしい美を巧みにとらえた映像も、シリーズ中最高の色彩感で魅せてくれます。ただ、そのせいか前作までのおどろおどろしさが消えて、エンタテイメント色が強くなってしまったのが残念。犯人の止むに止まれぬ事情など、人間の暗さを暴き出すのが金田一シリーズの肝だと思うんですが、そういう切実さまで薄れてしまったような印象です。

 俳優では、とにかく仲代達矢が良いですね。こういう演技がきちんと生きる映画である、というのが嬉しいところです。あとは岸恵子がやっぱりキレイ。犯人当ての場面は無理矢理だなあと思いつつも、この出演陣に助けられました。シリーズのファンなら、ぜひ。

監督:市川崑
原作:横溝正史
出演:石坂浩二、中井貴恵、高峰三枝子、司葉子、岸恵子、仲代達矢、萩尾みどり、沖雅也、加藤武、草笛光子、大滝秀治、坂口良子、三木のり平、小林昭二、常田富士男
20060323 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

獄門島

 市川崑監督による、石坂金田一シリーズ第三弾。安心してみられる定番の構成ですが、返って新鮮さが薄れてしまったのがちょっと残念かも。
 前二作の良いところを合わせたような構成で、お家騒動も人情もきちんとこなしつつ、“呪われた島”での惨劇をショッキングに描写しています。市川監督のツボを心得た映像といい、相変わらずの石坂金田一といい、とても安定感のある内容でした。ただ、各要素に突出していた前二作に比べると精彩を欠く印象もあります。犯人が原作と違うというのも、とってつけたような感じで微妙。それでも十分インパクトのある内容なのは、やはり市川監督のセンスがそうさせているんでしょうか。

 加藤武、大滝秀治、坂口良子、三木のり平といった常連俳優の顔を拝むだけでも観る価値のある映画でした。池田秀一が出演していたというのも驚き。あと、犠牲者の殺され方がシリーズ中でも屈指の懲りようなので、そのあたりも注目です。

監督:市川崑
原作:横溝正史
出演:石坂浩二、司葉子、大原麗子、ピーター、東野英治郎、浅野ゆう子、上條恒彦、草笛光子、佐分利信、内藤武敏、池田秀一、加藤武、大滝秀治、坂口良子、三木のり平、小林昭二
20060322 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

悪魔の手毬唄

 市川崑監督による、石坂金田一シリーズ第二弾。前作と好対照を成す落ち着いた構成と、岡山の土俗的な空気が非常にマッチして、なんともいえない味のある暗さを作り出した、シリーズ中でも出色の作品です。

 エキセントリックさの目立つ前作に対して、今回はあくまでミステリの基本に忠実。犯人当てらしいギミックを盛り込みつつ、最後は横溝小説らしくお涙頂戴に持っていく定番の構成が効いています。手毬唄の不気味さや、犠牲者の陰惨な殺され方はトラウマものの怖さ。それでも落ち着いたトーンを保ち続ける映像と音楽が、映画全編を一つのカラーで貫く完成度の高い内容でした。
 俳優では、ひたすら岸恵子がキレイ! この人が出てくると画面が一気に華やかになります。ラストの展開などは説明的で辛いところもあるんですが、その華やかさのおかげで苦になりませんでした。相変わらずの石坂浩二や加藤武は安心して観られますし、大滝秀治、三木のり平、小林昭二といった常連組の出演も嬉しくなります。

 個人的には、僕の父親の地元である岡山の地名や言葉が多々出てくるので、こればかりはひいき目に見てしまいました。それでなくても、金田一ミステリの代名詞とも言えるもの悲しい空気が映画全編から感じられる、非常にオススメの一本です。ミステリファンならずとも、ぜひ。

監督:市川崑
原作:横溝正史
出演:石坂浩二、岸恵子、若山富三郎、仁科明子、北公次、渡辺美佐子、辰巳柳太郎、草笛光子、原ひさ子、川口節子、中村伸郎、加藤武、常田富士男、大滝秀治、三木のり平、小林昭二
20060321 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

犬神家の一族

 角川書店の映画進出第一作目。市川監督の独特のタッチが見事であり、探偵金田一耕助のキャラクタも人気を博すなどしてヒットを記録したミステリの秀作。

 横溝正史原作の金田一耕助シリーズは、日本ならではの因習とドロドロとした人間関係が魅力で、犯人当てよりドラマとしての面白さが強いのですが、市川監督はそこに可能な限りエキセントリックな演出を施し、キャラクターも分かり易く造形することで映画向きに仕立て上げています。76年の映画とは思えないほどキレのある編集や、後に数々の模倣を生み出す極太明朝体によるタイポグラフィなど、映画らしい手応えのある映像がとにかく見事。大野雄二の伸びのある音楽も手伝って、大衆性と作家性を兼ね備えた希有な作品になりました。
 金田一を演じた石坂浩二を始め、出演陣もかなり豪華。高峰三枝子の熱演は、一度この映画を見た人なら忘れ難いものです。後にシリーズ常連となる加藤武、地井武男、大滝秀治、草笛光子、三木のり平などの演技も、それぞれにツボを心得ていて平坦なシーンも飽きさせません。あと個人的に好きな岸田今日子の演じたお琴の先生が、やはり抜群の存在感で凄いと思いました。

 最初に観たときは、ここまでエネルギッシュな作品が日本にも作れることに驚かされました。傍観者としての探偵に歯がゆさを覚える人には向きませんが、ともかく記憶に残る作品なのは確かでしょう。日本映画史に残るミステリとして、未見の方はぜひ。

監督:市川崑
原作:横溝正史
出演:石坂浩二、高峰三枝子、三条美紀、草笛光子、あおい輝彦、島田陽子、地井武男、加藤武、大滝秀治、三木のり平、坂口良子、岸田今日子、角川春樹、横溝正史、三国連太郎
20060320 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

突破口!

 「ダーティーハリー」のドン・シーゲル監督が、「おかしな二人」のウォルター・マッソーを主演に迎えて放つ傑作犯罪アクション。顔に似合わずシリアスな活躍を見せたマッソーに惚れ惚れします。
 いきなり銀行強盗で登場し、その後もハードボイルド全開で活躍するウォルター・マッソーにただただ驚かされる二時間でした。典型的な逃避行タイプの物語ではありますが、女性との絡みや殺し屋の存在が絶妙。特にジョー・ドン・ベイカーの不敵な殺し屋モーリーの不気味さが、手に汗握る展開に拍車をかけています。70年代の映画なので映像自体は地味なんですが、それが全く気にならない、良くできたアクション映画だと感じました。

 ラストのひねり方はなるほどと頷いてしまう頭の良さで、そのためだけでもいいので観て欲しいと思えるほど。アクション映画に、派手さよりもシナリオの妙を期待するなら一押しの作品です。DVDもビデオも出てないのが残念な限り。

監督:ドン・シーゲル
出演:ウォルター・マッソー、ジョン・ヴァーノン、アンディ・ロビンソン、シェリー・ノース、フェリシア・ファー、ジョー・ドン・ベイカー
20060317 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -