★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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ベルベット・ゴールドマイン

 70年代のイギリス・グラムロックシーンを題材にした実話風ドラマ。俳優や映像は良いんですが、当時の事情を知らない人間にはピンと来ない内容でした。
 明らかにデヴィッド・ボウイをモチーフにしたブライアン・スレイドというキャラクターを中心に、当時の噂話を詰め込んだような物語、のようです。70年代当時の世相と、そこに生きた若者たちをあくまで本人たちの視点で描きつつ、ひたすら耽美な世界としてスクリーンに映し出したのは当時を知る人には感動モノなんでしょうが、何しろ僕はグラムロックなんて知らないし、「トレインスポッティング」で初めてイギー・ポップを意識したという完璧な門外漢なので、映画はそこそこ楽しめたという程度でした。ドラマのキモがどこにあるのか分からないので、スタイリッシュな映像がただ空回りしているという印象です。ただしユアンのイギー・ポップぶりは必見、特にお尻。

 ミュージッククリップもどきやライブシーンは充実していました。回顧主義的な排他性は否めませんが、当時を再現したファッションは純粋に格好良いし、映画自体、その耽美な世界観に浸らせるのが目的なので、思い入れがある人には楽しめるのでは。

監督:トッド・ヘインズ
出演:ユアン・マクレガー、ジョナサン・リス=マイヤーズ、クリスチャン・ベール、トニ・コレット
20060304 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

アイデン&ティティ

 みうらじゅんの同名コミックを、氏の盟友田口トモロヲが監督した青春バンド・ムービー。主演の峯田和伸の説得力ある演技のおかげで楽しめました。

 この手のジャンル映画としては非常に典型的な内容なものの、ボブ・ディラン風の”ロックの神様”がアクセントになっていて飽きさせません。反則くさいんですがディランの詞を引用したりして、ロックファンは堪らないのでは。そして主演の峯田和伸を始め、バンド経験者中心に選ばれた出演陣も良い。商業主義とポリシーとの板挟みになって悩むなんてあまりに定番な話であっても、実際にバンドやってる連中が演じるんだから説得力あるわけです。
 ストーリーがあまりに直球なのと、僕自身バンド経験者じゃないのもあってそれほど心には響かなかったんですが、バンドやってたらまた感想も違ったかも知れません。しかし宮藤官九郎の脚本は、相変わらず何か足りない感じがします。キレイに収まりすぎで。

 ちょっとずつ顔を出す(おそらく音楽関係の)有名人も見物。浅野忠信は相変わらずですが、ボカスカジャンの扱いはハラハラさせられました。とりあえず、青臭いロックに共感できる人と、ディランで無条件に泣ける人なら観て損はないかと。

監督:田口トモロヲ
原作:みうらじゅん
出演:峯田和伸、麻生久美子、中村獅童、大森南朋、マギー、コタニキンヤ、岸部四郎、大杉漣、あき竹城、塩見三省
20060223 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

カタクリ家の幸福

  韓国のホラー映画「クワイエット・ファミリー」を三池崇史監督が大胆に翻案したブラック・コメディ。分かってやっているとは思うんですが、とてもそうは思えない頭の悪さが最高です。

 舞台を日本に変えただけならともかく、明らかに勘違いぶり爆発の”ミュージカル化”だというから、さすがは三池監督。目の付け所がかなりあさってです。しかも昭和臭がプンプンする豪華なキャストまでついて、これを21世紀になってしまった今になってやるというのは明らかに自殺行為。実際、映画館はガラガラだったんですが、映画自体はとんでもない掘り出し物でした。
 で、物語はあってないようなもの。とにかくバンバン人が死に、明らかに怪しいムードが映画に漂いますが、一番シリアスにならなければいけないところで突然ミュージカルになるのです。最悪の状況では笑うしかない、という心境の強烈な比喩でしょうか。さりげなく家族愛というテーマを組み込んでいますが、それも荒唐無稽な展開とか、脇役として登場する忌野清志郎や竹中直人のおかげでぶち壊し。終盤、暴走しすぎで観客がついていけなさそうな場面もあるんですが、綺麗に完結しているところが、やはり監督の手腕のなせる技なのでしょう。

 とにかく映画全編を通して館内に笑いがこだまする、粋なミュージカル・ホラーでした。三池監督のキツい演出は観る人を選びそうですが、それだけに映画としてのエネルギーは十分すぎるほど。近年の日本映画は理屈ばかりで面白くない、突き抜けたバカが見たい、という人は必見。数々の”迷曲”が一生頭から離れなくなることは保証します。

監督:三池崇史
出演:沢田研二、松坂慶子、武田真治、西田尚美、宮崎瑶希、忌野清志郎、竹中直人、丹波哲郎
20060214 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

ガレージ・デイズ

 アレックス・プロヤス監督が、馴染みのあるオーストラリアで制作した青春映画。あるバンドに集まった若者たちの悲喜交々を丁寧に描いていて好感が持てます。

 バンドにまつわるトラブルが女性関係メインだったり、有名音楽プロデューサーとコネを作ろうと躍起になったりするイタい内容を、さらに本人達の目線で描いているので恥ずかしいぐらいですが、こういうのも初々しくて良いかも。相変わらず映像と音楽に対する作り込みは一級品で、かつ音楽映画という題材にマッチしています。主人公達のファッションも説得力がありました。主人公のオレ語りと、青春映画らしく他愛もないことで怒鳴りすぎるのには流石に辟易しましたが、どこかトボケた感じのキャラクターで救われているのでは。
 非常に他愛のない話で、最後にまとめすぎてしまった感もありますが、ハリウッド映画にはない色彩に溢れた青春映画でした。バンド経験者なら赤面してしまうぐらいの赤裸々さなので、そっち方面で思い出したくない過去がある人が観たら効果てきめんなのでは。あと、エンドロールが楽しいことになっているので、是非そちらもお楽しみに。

監督:アレックス・プロヤス
出演:キック・ガリー、マヤ・スタンジ、ピア・ミランダ、ブレット・スティラー、ラッセル・ダイクストラ、アンディ・アンダーソン、マートン・ソーカス
20060123 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ティム・バートンのコープスブライド

 ティム・バートンによるストップモーション・アニメの3作目(監督としてのクレジットは初)。ロシアの民話を原案にしているようで、ストーリーは独特で楽しめますが「それ以上の何か」が感じられなかったかなと。

 ストップモーション・アニメとしては非常に完成度が高く、キャラクターの動きは滑らかで、特に豊かな表情は驚嘆モノ。実写ならではの質感が映像に温かみを加えていて、ダークな物語もバートン作品らしい空気をよく醸し出しています。でも、観た印象としては「無理に面白くしようとしている」感じでした。最大の不満点は、主人公ビクターの心情が説明不足な点。そのため物語に対して客観的になってしまい、二人の花嫁の間を右往左往するのに少し腹が立ってしまったり。
 ハリーハウゼンを始めとした過去のホラー映画やストップモーション・アニメに対するオマージュがそこここにあるようです。それが分かれば面白いのかも知れませんが……うーん。過去のバートン映画は、それが分からなくても有無をいわせぬ雰囲気で押し切っているのが楽しかったんですが、今回は置いてけぼりを喰った感じでした。

 ともあれ過去のストップモーション・アニメのレベルを遙かに超越しているのは事実。デジタル加工を可能な限り無くした映像は、奇跡的なほどの完成度なのです。それと、観ていて気付いたのは、ディズニー映画風のキャラクターや演出が好意的に扱われていたこと。この映画の根底にあるのは、現在のバートン流ディズニー論なのかもしれません。

監督:ティム・バートン、マイク・ジョンソン
出演:ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、エミリー・ワトソン、クリストファー・リー、ダニー・エルフマン
公式サイト
20051028 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

ナイトメアー・ビフォア・クリスマス

 ティム・バートン制作・原案による人形アニメーション。微笑ましくも毒のある世界観やストーリーで、未だに根強い人気のある作品。子供が絵本を読み聞かせてもらって、終わったら「ねえ、それでどうなったの?」と聞くような、そんな気分になれる映画でした。

 過去のメルヘンの傑作にも匹敵する物語性は見事。ホリデータウンという設定から始まって、その特殊な世界で繰り広げられる物語にはただただ息をのむばかりで、何度観ても76分という上映時間は短かすぎると嘆かされます。本来なら怖いはずの怪物たちも、ハロウィンということもあってどこか愛らしく、かつ少し倒錯気味。フィンケルシュタイン博士の脳みそや、メイヤー町長の切り替わる顔など、おもちゃみたいなギミックも良い。その他画面に殆ど登場しないキャラクターにまで、クセのあるデザインが施されています。
 更に人形アニメとして見ても、過去にないほど高い完成度でした。特にその動きのなめらかさは、本当に人形たちが生きて演技しているかのよう。ミュージカルとしても魅力的なナンバーが揃っていますし、ここまで非の打ち所のない映画も珍しいのではないでしょうか。

 評価とはあまり関係ありませんが、先日TOHOシネマズの企画で上映されていたので慌てて観てきました。やはりスクリーンで観られるというのは良いですね。むしろ、この映画は毎年恒例で上映してほしいぐらいです。

制作・原案:ティム・バートン
監督:ヘンリー・セリック
声の出演:ダニー・エルフマン、クリス・サランドン、キャサリン・オハラ、ウィリアム・ヒッキー、ポール・ルーベンス
20051016 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -