★★★★で満点、ネタバレは原則ありません。
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星をかった日

 三鷹の森 ジブリ美術館でのみ上映される、宮崎駿監督による16分の短編。高密度なアニメーションには流石の一言ですが、安定しすぎて目新しさはありません。

 僕は宮崎駿のファンタジー世界というのが肌に合わないようです。おそらく原因は、毒を抜かれたキャラクターしか登場しなせいでしょう。子供向けだからといって毒を抜くよりは、むしろ大人になって思い返して初めて理解できるぐらいが好きなので、絵に描いたような善人と申し訳程度の悪人しか登場しない物語は、白々しくてダメなのです。
 「耳をすませば」と同じ井上直久の「イバラード」を舞台にしていますが、今回は設定のみの拝借で外見は別物。筋書きは宮崎アニメの王道とも言うべき「救出モノ」で、どこかで見たようなキャラクターも相まって既視感ばかり。テーマ自体も紋切り型で、それが本当に監督の言いたいことなのか、と聞き返したくなるような内容でした。

 宮崎駿のイバラードへの愛が詰まった一作と言えば聞こえは良いですが、宮崎アニメを多く観てきた人には目新しいものが何一つない凡作。息抜きには良いかもしれませんが、わざわざ観に行くようなものではないなあ、というのが正直な感想です。

監督:宮崎駿
原作:井上直久
声の出演:神木隆之介、鈴木京香、若山弦蔵、大泉洋
公式サイト
20061004 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

ゲド戦記

 あまりにも偉大な父を持ってしまった宮崎吾朗監督の、これがアニメーション初監督となる長編作品。原作は「指輪物語」「ナルニア国物語」と並んで世界三大ファンタジーの一つに数えられる傑作小説。初監督にしては意欲的な内容に、まずは安心させられました。

 何しろ素人らしい演出が見ていて辛い。あまりの拙さに観賞中はハラハラしましたが、そのせいか監督の主張がストレートに伝わっててきて、後半なんかはかえって楽しめました。近年のジブリ映画と完全に決別した作画も凄い。クオリティにこだわりすぎて硬直化してしまったスタジオに対する、強烈なアンチテーゼでしょう。子供だましなら誰にでも出来る、それより大の大人が楽しめるエンタテイメントを、という監督の主張が感じられます。経験不足がつくづく悔やまれますが、次回作以降でのさらなる発展が期待できる良作だと感じました。
 技術的な面では、クロード・ロランそのままの背景美術が最高。描き込みすぎでクドくなりがちだった近年のジブリ作品の中では出色です。アニメーション部分が粗雑なのは惜しいところですが、部分部分で引き込まれるような演出が見られるあたりは、さすがジブリ。声の演技も相変わらず渋くまとまっていて、媚び媚びのアニメ声でないのは何よりでした。

 原作既読者としては、あの世界観を説明しきれていないのは悔しいところ。ただ、そもそもこの深遠な世界を、二時間という制限の中でエンタテイメント的に消化することの方が不可能なわけで。原作の良さを仄めかしつつ、分かり易い内容に徹するというのは正解でしょう。テーマを重視しすぎるあまりエンタテイメント性を失いつつあった近年のジブリ作品に対して、内部告発とも言える論陣を張ったことだけでも評価できると思います。

 ここまで堂々とラブコールされれば、お父さんも悪い気はしないのでは。父にしろ息子にしろ、次に期待、です。

監督:宮崎吾朗
原作:アーシュラ・K・ル=グウィン
声の出演:岡田准一、手嶌葵、菅原文太、田中裕子、小林薫、香川照之、風吹ジュン
公式サイト
20061003 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲

 爆発的な人気を誇るアニメシリーズの劇場版第9作。「大人も泣ける子供向けアニメ」であった同シリーズの決定版的な内容で、映画秘宝誌での年間ベスト1に輝くなど話題をさらった作品です。
 “20世紀博”という懐古主義丸出しの奇抜なアイデアもさることながら、それによって洗脳されてしまう大人達と、健気に立ち向かう子供達の対比が秀逸。一目見て性格の分かる敵役や、「クレしん」というベースがあるために人物の紹介が割愛でることもあってか、物語もテンポ良く展開されて飽きさせません。そして、懐古主義を笑いつつ一定の理解を示したシナリオは、「大人が号泣」の評判通り。子供アニメの体裁を取りつつ、完璧な大人向けエンタテイメント作品に仕上がっています。

 次作「嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」も良いものの、この作品に比べてしまうと見劣りします。何よりアニメとか家族向けという枠を逸脱した暴走ぶりが最高! これをオリジナル脚本でできない日本映画界には辟易しますが、それでも面白い映画を観られるのなら我慢しようという気にもなりました。一度は観ておいて欲しい作品です。

監督:原恵一
原作:臼井儀人
出演:矢島晶子、ならはしみき、藤原啓治、津嘉山正種、小林愛
20060507 | レビュー(評価別) > ★★★★ | - | -

王立宇宙軍 オネアミスの翼

 GAINAX設立第一弾の劇場用SFアニメ。80年代のSFアニメらしい特殊な世界観は、良く作り込んだなと感心はしますが共感はできません。
 なんというか、この世界観が無ければそのまま「ライトスタッフ」なヒネリのない物語が辛い。技術革新と、それに対する軋轢にドラマを感じるのは理解しますが、現実にいくらでもある題材をわざわざSFにしてしまう意図が分かりません。わざわざ架空の文化を創り上げた努力や、優秀なアニメータを多数起用しての緻密な作画にはさすがに圧倒されましたが、それも物語が平凡なら意味がないわけで。なんでそこで宗教かなあ、とか、共感できないことだらけでした。

 色々感想はあるんですが、結論としては主人公の声に森本レオをあてるのはおかしいだろう、と。坂本龍一によるメインテーマは良いですね。努力は認めますが、非常に居心地の悪い作品でした。

監督:山賀博之
出演:森本レオ、曽我部和恭、平野正人、鈴置洋孝、伊沢弘、大塚周夫、弥生みつき、内田稔
20060506 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

スプリガン

 たかしげ宙&皆川亮二による人気コミックを、川崎博嗣監督で映画化した劇場アニメ。ツカミは良かったものの、今ひとつパッとしない内容でした。
 案の定というか、原作の持つ世界観は再現できていません。アニメらしい重量感のない絵のせいで、どことなく空々しい雰囲気でした。アクションも、デジタルアニメならではの大胆なカメラワークが気持ち良いかと思ったらそうでもなく、むしろ昔からの動画技術をきっちりやっているシーンのほうが、安定していて楽しめました。あと脚本が最悪。掛け合いすら成立していない台詞の連続で、しかも単語が仰々しいだけの幼稚な会話に白けるばかり。ちゃんと原作を理解して作ってるのかすら疑問です。

 伝奇SFらしさもどこへやら。派手さを重視したカタルシスのない題材選択も失敗でしょう。アクションだけ見て下さい、という映画。

監督:川崎博嗣
原作:たかしげ宙、皆川亮二
出演:森久保祥太郎、子安武人、城山堅、相ケ瀬龍史
20060502 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

PERFECT BLUE

 竹内義和の原作小説を今敏(こん さとし)監督が映画化した、アニメには珍しいサスペンス作品。意欲は買いますが、どうにも空振りでした。
 脚本は良い。二転三転させる展開は先が読めませんし、サスペンスらしさは非常に盛り上がるお話しだと思います。ただ、映像表現がどうにもクサくて、生理的に受け付けませんでした。冒頭のアイドルオタクの描写からして無駄に気持ち悪く、その後も無理矢理ショッキングさを引き立てるような演出で、逆に冷めてしまいます。オチも釈然としないし、犯人が判明した時点で超能力モノになるのも意味不明。や、表現したいことは分かるんですが、その手法がB級ホラーみたいだなあ、と…。

 実写でやればいいものを、アニメにしてしまった時点で“なんでもあり”になって、リアリティと緊迫感が薄れたのが最大の敗因でしょう。かといって、これの実写版(2002年制作)も観たくないですが…。

監督:今敏
原作:竹内義和
出演:岩男潤子、松本梨香、辻新八、大倉正章、秋元洋介、塩屋翼、堀秀行、篠原恵美
20060501 | レビュー(評価別) > ★ | - | -

老人Z

 大友克洋原作、江口寿史キャラクター原案による、不条理な笑いと怒濤のアクションが魅力のアニメ。監督は、キレの良いアクションを得意とする北久保弘之。
 介護用ロボットの試作品に搭載されたコンピュータが暴走し、寝たきりのおじいちゃんを乗せたまま大暴走、といういかにも日本的なSFコメディぶりが最高。鎌倉を舞台に、モノレールやショッピングモールという見慣れた風景で繰り広げられるアクションは、緊迫感と爆笑の両極を備えていて、息つく暇もありません。最後はホロリとさせつつ、高齢化社会への提言も忘れなかったりして、コメディとはいえなかなか侮れない作品です。

 キャラクターでは、謎のハッカーお爺さんがツボでした。誰でも楽しめるドタバタコメディーアニメとして、非常にお薦めの作品。ぜひ。

監督:北久保弘之
原作:大友克洋
出演:松村彦次郎、横山智佐、小川真司、近石真介、辻谷耕史
20060430 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

MEMORIES

 大友克洋の総監督によるオムニバスの劇場アニメ。SFやギャグといった、大友漫画の持つ異なるテイストを抽出した3つの短編は、それぞれ個性的で見応えがあります。
 シリアスなSFホラーが楽しめる「彼女の想いで」、濃いギャグとナンセンスさの「最臭兵器」、そして大友の欧州アニメーションへの愛が炸裂した「大砲の街」の3本で、どれも圧倒的な表現力にめまいがするほどでした。特に「彼女の想いで」の的確な演出と豪華な美術は、何度観ても唖然とします。「最臭兵器」の馬鹿アクションと、山梨ローカルぶりも必見。ただ、「大砲の街」の感覚は、劇場公開時こそ新鮮でしたが、ヨーロッパのアニメを多数観てしまってからだと、どうしても見劣りしますね。その辺りが残念。

 大友克洋の短編集を読んだことがある人なら、見知った空気を劇場で観られるのはやはり嬉しいでしょう。菅野よう子、石野卓球などが参加した音楽も個性的で良い。映画として小さくまとまってるので、もう一工夫欲しかった気はしますが、日本アニメのポテンシャルの高さを実感できる秀作です。

監督:森本晃司、岡本天斎、大友克洋
原作:大友克洋
出演:磯部勉、山寺宏一、飯塚昭三、高島雅羅、堀秀行、羽佐間道夫、大塚周夫、林勇、キートン山田、山本圭子、仲木隆司
20060429 | レビュー(評価別) > ★★ | - | -

AKIRA

 大友克洋が、自らの漫画を長編映画化し、その名を世界に知らしめた大作SFアニメ。日本製アニメーションといえば、まずこれを想起する人も多いのでは。
 何よりその高い作画レベルに、まずは圧倒されます。ジブリともディズニーとも違うリアルな動作や、遠景まで書き込まれた背景は一見の価値あり。残像を伴って走るバイク、吹っ飛ぶ人物のスローモーション、それに芸能山城組による音楽など、あまりアニメらしくない表現も秀逸。物語も、当時まだ完結していなかった原作を大胆にカットして、映画用に分かりやすく作り替えられています。原作を知っている人には物足りなくもありますが、もともと原作の後半だってアクションとスペクタクルがメインなので、ストーリーの点では原作とそれほど相違ありません。特に、かなりの時間を費やして描かれる大破壊のシーンは、アニメ映画史上最高のカタルシスといっても過言ではないでしょう。

 小学生の頃に劇場で観て、かなり驚いた記憶があります。アニメでここまで表現できるんだ、ということに何より驚愕。ここまで先鋭的で、かつ娯楽性の高い作品というのは、これ以降も殆ど作られていないのではないでしょうか。

監督・原作:大友克洋
出演:岩田光央、佐々木望、小山茉美、玄田哲章
20060428 | レビュー(評価別) > ★★★ | - | -

千と千尋の神隠し

 宮崎駿監督による長編アニメ。画面いっぱいにお伽話の世界が展開されるものの、心の底から楽しめるわけではない、微妙な作品でした。

 ファンタジーとしてのギミックはそれぞれ面白い。純和風のアニミズム的神話世界を背景に、次々飛び出す異様なキャラクターはどれも愛嬌があって笑わせてくれます。ただ、その個々のキャラクターから監督の主張が滲み出ているのに気を取られて、物語に入り込めませんでした。実写のように余計なノイズが混ざる場合は構わないんでしょうが、アニメのしかも長編でやられると遊びが無くて疲れるだけ。テーマが伝わってくるかどうかより、それが映画を面白くしているかどうか大事だと思うので、この作品に関してはやっぱり「つまらない」の一言で片付けたいと思います。
 今作から本格導入されたデジタルペイントは、ムラが無いせいで深みもありません。背景美術も、男鹿和雄が手がけた冒頭と最後のパート以外は、どうしても見劣りがします。でも声は良かった。特に湯婆婆役の夏木マリは貫禄です。

 どうも、近年の宮崎アニメは子供ではなく「子供を連れて観に来ている親(監督にとっては“子供”世代)」を相手にしているようで、その辺がクドクドした語り口の原因なのでは。小言はなるべく堪えて小出しにしないと、伝わるものも伝わりません。

監督:宮崎駿
出演:柊瑠美、入野自由、夏木マリ、内藤剛志、沢口靖子、上條恒彦、小野武彦、我修院達也、菅原文太、神木隆之介
20060410 | レビュー(評価別) > ★ | - | -